『ねぇ、ごっちん今ほしいものある?』
『んぁ、どしたの急に?』
『いや、何かごっちんのほしいもの無いかなーって思って』
『まっつーがくれるんだったら何でも良いけどね。』
『だから〜。そういうんじゃなくって、ごっちんもうすぐ誕生日でしょ?』
『あ、そう言えばそうだ』
『だからー。誕生日プレゼント何がほしい?』
『んー、やっぱりまっつーがくれるんだったら何でも良いよ?』
『そういうんじゃつまんな〜い。』
『誕生日一緒に過ごそうねごっちん。』
『うん。』
まっつーはそんなことを言っていたのに、
今日はもう23日で夜の8時。
あたしの家にはいまだあたし一人。
-あなたが傍に居てくれること-
『ごめん、もう行けそうに無いや』
9時前、メールが一通だけ届いた。
たった一行のそのメールでうちで開くはずの二人だけの誕生日会は無くなったということが分かる。
あたしなんかより。ハローで一番人気のあるまっつーが忙しいのは分かってる。
でも、あたしが楽しみにしていたことを"たった一行のメール"で終わらせてしまうのはなんか嫌だった。
せめて電話でもあれば、「今度埋め合わせはするから」とか、そんなまっつーの声が聞ければ、あたしの心は少し晴れたと思う。
自分の誕生日を忘れてたほどだけど、まっつーに誕生日会やろうって言われてずっと楽しみにしてたんだよ?
「はぁ………」
あたしはため息をついてメールを見終わった携帯電話を閉じた。
リビングの椅子から立ち上がって寝室のドアを開けて中へ入るとドアを閉じた。
リビングのテーブルの上に白布がかぶった二人分の食事を置いたまま。
寝室に入ってあたしはベッドに倒れこんだ。
手に持っていた携帯を枕元の充電器に差し込む。
誕生日に休みをもらえたのは何年ぶりだろうか?
モーニングに入ってからは一度も無かった。4年ぶりぐらいか。
二人だけで誕生日祝おうっていったのはまっつーのくせに。
結局あたし一人。
枕に埋めていた顔を横に向けて、傍にあった写真立が目に映った。
そこに写っている二人は抱き合って笑っている二人。
「せっかくの誕生日なのに………」
せっかくの誕生日、とこの日を楽しみにしていた相乗効果かあたしはなんとなく淋しくなった。
何時ぐらいまでそうしていたか分からないけど、あたしはいつの間にか眠っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そんなに長い時間は寝てないと思う。
頭は少しボーっとしてるけど。
一度寝たら目が覚めないはずのあたしが目を覚ました理由。
それはキット唇に当たってる感触があたしを起こした。
何かが唇に当たってる感じがして。
ゆっくり目を開けると、
そこには居ないはずのその子が居て。
眠ってるあたしにキスをしていた。
「うわっ!!」
いきなり目の前に誰かが居たら、それどころかキスされてたら誰だってびっくりする。
あたしは飛び起きて後ろに後ずさった。
「あ、ごっちんおはよー。」
ベッドの上で壁に背をくっつけて驚いてるあたしに彼女は立った一言で挨拶を済ませた。
「な、な、なんでまっつーが、ここにいるのさ?」
驚きで心臓がバクバクいってるあたしの質問をかわして、まっつーはゆっくりベッドの上に上ってあたしの顔にゆっくり自分の顔を近づけてくる。
「泣いてたの?」
意外な言葉。
思いつきもしない言葉。
そういって彼女はあたしの左目の目じりをぬぐった。
涙がそんなところにあるなんて分からなかった。眠りながらあたしは泣いていたのだろうか?
「寂しかった?」
きっと、寂しかった。
絶対寂しかった。
でなきゃあたしが泣く訳ない。
「ごめんね、ごっちん。急いだけど、こんな時間になっちゃった。」
そういって彼女は少しうつむいた。
まっつーはそんなに悲しい顔しないでよ。
悪いのは仕事と、
まっつーが居ないだけで泣いちゃうあたしなんだから。
あたしは目の前にいるまっつーをベッドの上で座ったまま抱きしめた。
「ごっちん?」
「まだ30分残ってるよ。誕生日。」
また泣きそうなあたしだったけど。
たまにはカッコつけてもいいよね。
「やろ、誕生日会。亜弥。」
まっつーは気づくかな。あたし初めてまっつーのこと亜弥って呼んだんだけど。
「ごっちんが今からでも良いんだったら………」
「今からでも良いよ。今からが良いかも」
やっぱりあたしはまっつーが居ないとだめだよ。
まっつーが居てくれれば、
まっつーさえ居てくれれば、
キット他には何もいらないから。
誕生日プレゼントだって。
服だって、家だって、お金だって。
キットあなたが"傍に居てくれるだけ"で。
あたしは幸せな気持ちになれるから。
「ごっちん誕生日オメデトー」
「ありがとー」
あたしにとっての幸せとは。
あなたが傍に居てくれること。
end