最近後藤さんの様子がおかしい。
2人きりになると妙によそよそしくなったり、前までは普通に話してくれたのに、この頃あまり話しかけてくれない。

前にあたしの事を好きって言ってくれましたけど、
本当にあたしの事好きなんですか?

なんだか、不安です。



-ココと勘違い-






「後藤さーん。遊びに来ましたよー」
ハロモニの収録途中。
カッパの花道が今収録中であたしは暇だったから、笑わん姫の収録を待っている後藤さんの楽屋に遊びに来た。
「あ、紺野。丁度よかった。今からちょっと出てくるから留守番しててよ」
でも後藤さんはあたしに留守番を言い渡してすぐに楽屋を出て行ってしまった。

近頃こんな感じ。あたしが楽屋に行ってもいなかったりすぐに何処かに行ったり。
なんか、避けられてる感じ。
本当に、何か不安になる。
帰りも一緒になる事はないし、後藤さんと仕事中に会えるのはハロモニの収録とハロプロのコンサートの途中の少しの時間だけだし。
それにプライベートでは休みの日もあまり重ならないから一緒に居られない。
一緒に居る時間がドンドン少なくなっていく。

何で後藤さんはあたしを避けてるんだろう?



「ねぇねぇ理沙ちゃん。何でだと思う?」
「えー?そんな事あたしに聞かれてもねー」
後藤さんの事を理沙ちゃんに相談。でも理沙ちゃんは何も答えてくれない。

「愛ちゃん、何でだと思う?」
「んー。忙しいんじゃない?」
そんなわけ無いよ。後藤さん仕事が減ってるって嘆いてたもん。そんなに大げさじゃないけど。

「ねぇねえ。マコッちゃん。」
「ん、何?」
「この頃後藤さんがね」
「え?!後藤さんがどうかしたの?」
マコッちゃんは何故か大きなリアクション。何か知ってるのかな?
「後藤さんが最近冷たいんだけど。何でだと思う?」
「え?あ、っとー。なんだろ?わかんない。」
結局マコッちゃんも何も言わない。

ホントになんでかなー。



それから2週間ぐらい後。同じくハロモニの収録日。
あたしはまた後藤さんの楽屋に遊びに行った。

「ごとうさーん」
「あ、紺野。今から仕事なんだ。ごめんね遊べなくて」
また後藤さんはすぐに楽屋から抜け出して何処かへ行ってしまった。

また逃げられちゃった。でも今日は違う。どこへ行くか突き止めてやる。
あたしは後藤さんの後を尾行して行った。



「控え室ぅ?」
後藤さんが入っていったのはモーニングとか後藤さんの楽屋があるのと同じ階の控え室。
でも控え室って言ったって空き部屋も多いからここが誰かの控え室かどうかは分からないけど。
とりあえず張り込みだ。
近くの廊下の、座って扉が見える位置の椅子に座った。
扉のほうを食い入るように見つめて後藤さんが出てくるのを待つ。
何分ぐらいそこで居たかは分からない。
あたしは喉が渇いてすぐ側の販売機で牛乳のパックを買った。
でも、不良品なのかストローがついていなくてすぐに飲む事が出来なかった。
もうひとつの飲む方法で紙パックをあけようとしたけど鋏も何も無くて開けることができずにちょっといらいらしていたその時。
あたしがココで見張り始めて結構な時間がたっていたけど、後藤さんは出てきた。

あたしは自分の目を疑う。後藤さんと一緒に部屋から出てきたのは、マコッちゃん。
2人はものすごい笑顔で。声は聞こえないけどマコッちゃんが何かを言って。後藤さんは軽くマコッちゃんの頭を小突いた。
まるで恋人同士に見えた。




あたしの中にあった疑問が解決した。
この前マコッちゃんが「後藤さん」のキーワードを出しただけですごい反応した理由。
二人はあたしに隠れて会っていたんだ。
後藤さんも「仕事」とか「忙しいから」とか嘘までついて。
どこに嘘をつく理由がある?きっとあたしに隠さなきゃいけなかったからだ。

販売機から出てきて結構な時間がたっている牛乳パック。周りの湿気を冷やしてついた水滴のせいかあたしはパックをすべり落としてしまった。

「!………紺野」
後藤さんに気付かれてしまった。
マコッちゃんもあたしに気が付いたみたいだった。
後藤さんは慌てたような声であたしの名前を呼んでいた。
でも、あたしはショックだった。
好きって言ってくれたはずの後藤さんだったのに。こんな事で崩れてしまうなんて。



あたしはその場を走り去った。
もう信じられない。誰も信じられない。
嘘までついて会わなくたっていいのに。ホントの事言えばいいのに。
「ホントは小川のほうが好きだ」って言えばいいのに。隠すから余計に悲しくなって。
あたしは気が付くと、モーニング娘。の楽屋に戻ってきていた。

誰も居なかった。泣くのには丁度いいけれど泣かなかった。
泣けば後藤さんはあたしを好きじゃないと認めてしまう事になる。だから泣かない。泣きたくない。
でも、ホントに泣きそうだった。普段はあまりモーニングの楽屋は誰も居ないようになることは無い。
その静けさが余計に悲しかった。



トントン。

ドアをノックする音。
ガチャっと音を立てて扉が開いた。
「こん……の?」
後藤さんの声。息切れしたようにハァハァいいながら部屋に入ってきた。
「ハァ、びっくりさせないでよ。いきなり走って行ったらびっくりするじゃん。」
後藤さんは普段と変わらない声で喋っている。気が付いてないんだ。あたしが後藤さんとマコッちゃんのことに気が付いた事を。
「マコッちゃんは置いてきたんですか?駄目ですよ恋人を置いてきちゃ。」
自分で言ってなんだか悲しくなってきた。でも、中途半端な状態を引きずるよりは全然いい。これでいいんだきっと。初めから後藤さんはあたしを好きじゃなかったんだ。
「紺野?何言ってんの?」
でも、後藤さんはこれ見よがしに惚ける。ホントの事言えばいいのに………。
「知ってるんですよ!!後藤さんがマコッちゃんと遊んでた事!!仕事とか嘘ついて、嘘なんかつかなくてもホントの事言えばいいじゃないですか!!」
溜め込んでいた感情が一気に飛び出した。それと同時に我慢していた涙がドンドンと溢れてきた。
止めようと思っても全然涙は止まらなくて。後藤さんに涙を見られるのが嫌だったから後藤さんには背中を向けた。




「………こんの」
急に後藤さんが後ろから抱きしめてきた。
声はいつものような甘い声。回された手もいつもと同じように暖かかった。
「嘘ついててごめん。でも、紺野ちょっと勘違いしてるよ」
「勘……違い?」
「うん、この頃ね。ちょっと習い事しててさ。ずっと先生に教えてもらってたんだ。」
後藤さんが少しだけ抱きしめていた片手を放して何かを取り出してあたしの目の前に持ってきた。
緑色の葉っぱといろんな色の花がついた飾り。これって。
「『ココ』だよ。この前紺野がハワイヤーン娘で作ってたでしょ?」
そうだ、ココだ。レイを作るには大きすぎるからってココを作ったんだ。
「少し前からずっとあの先生からココの作り方を教えてもらってたんだ。小川もレイの作り方教えてもらいに来ててさ。この事は黙ってるように言ってたんだ。」
そうか、だからこの前後藤さんの名前を出したらマコッちゃん変なリアクションしてたんだ。
でも、なんで後藤さんがココを作ってたの?わざわざあたしに黙って。



「これね。紺野にあげようと思ってたんだ。」
「ふぇ?!あたしにですか?!」
びっくりした。だってあたしが物をもらう理由が無い。誕生日はとっくに過ぎたし後藤さんに何かあげたわけでもないし。
「なんとなくね。紺野に似合いそうだったから」
そういって後藤さんはココをあたしの髪の毛の左側につけてくれた。その後はまた暖かい手であたしを抱きしめてくれたんだ。

「あの………ごめんなさい。なんか、勘違いしてたみたいで。」
謝ると、また止まっていた涙が流れてきた。
「ちょっと!紺野が謝る事無いの!黙ってたあたしが悪いんだから。」
だって。何か後藤さんに嫌な事言ってないかな?
「でも、」
「泣かないでよ。これは紺野に喜んでもらおうと思って作ったんだから。」
後藤さんは更に力を込めてあたしを抱きしめる。
この前まで感じていた不安は一気に吹っ飛んだ。
後藤さんはこんなにもあたしの事を思っていてくれたのに。何を不安になってたんだろう。

あ。
そういえばココを左側につけたときの意味って。


END