LOVEマシーン―日常編―
日常編―後藤真希―
久しぶりのオフ、今日は高橋がウチに遊びに来る
あたしの家は高橋のマンションから二駅ほど離れた辺りにある
だいたい三年ぐらい前に事務所に用意してもらった物だ
本当は昨日の仕事が終わった後からウチに泊まりに来るはずだった
でも、「ちゃんとドラマ録れてるかどうか心配なんです」と言う高橋の一言でお泊まりはなくなった
『今から行きます』
さっきそんな電話があった
それからずっとあたしは玄関の所で高橋が来るのを待っている
自分でもよく分かっている、この頃自分がなんかオカシイというのを
1人でいると急に寂しくなったり、高橋といられるだけでなんかハイテンションになったり
機械が頭の中に在った頃には考えられなかった事だ
どうも上手く感情をコントロールできない
多分これがよっすぃの言ってた事だ
『機械が壊れた後ってね、感情表現とか行動とかが大袈裟になっちゃうんだよ』
よっすぃもそんな時期があってやぐっつぁんにかなり迷惑をかけたらしい
でもあたしは別にこれで構わない、メンバーのみんなにばれたって平気だし
感情表現が大袈裟な事だって考え様によってはどうって事ない
高橋への思いも大袈裟に伝えたほうがその分大きな思いを伝えられる
ピンポーン
インターホンがなった
あたしは即座に覗き穴から外を見る
この前あたしが買ってあげたジーパン、黒い文字で『DREAM』とかかれたオレンジのチューブトップ
その上に白いコートを羽織って彼女は立っていた
髪をポニーテールにして耳には小さなピアス、
周りから気づかれない様に黒い帽子を目深に被っていた彼女の名前は、あたしの恋人、高橋愛
あたしはドアを開けるとすぐに彼女に抱きついた、彼女の温もりで寂しさを吹き飛ばしたかった
日常編―高橋愛―
インターホンを押すとすぐに後藤さんが出てきていきなり抱きしめられた
「ど、どうしたんですか?」
驚いたあたしがそう聞くと後藤さんは一言
「寂しかった」と呟いた
「え?」
「1人で15時間と32分、寂しかった」
15時間と32分…今の時間から逆算すると昨日の丁度あたしが家に帰るぐらいの時間だった
つまり後藤さんは昨日あたしと別れてからずっと寂しかったというのだ
「ご、後藤さんなんかこの頃変ですよ、この前もメンバーの前なのに楽屋で急にに抱きついてきたりとか」
「いや?」
「や、いやじゃないですけど」
「じゃあ、いいじゃん」
「あの、後藤さん?」
「なに?」
「もう離してくれませんか?ホラここだと誰かに見られるかもしれないし」
「ヤだ……後藤寂しかったもん、もうちょっとこのままいさせてよ」
なんだか後藤さんはあたしと付き合うようになってからわがままというか「甘えた」になった気がする
まぁそんなあたしだけに甘えてくれる後藤さんもかわいくて好きなんだけど
「……中入ろっか」
後藤さんがそう言ってあたしを抱きしめていた腕を解いた
後藤さんが中に入っていったのであたしも中に続いた
「お昼食べた?」
「いえ、まだです」
「じゃあ、丁度いいや、あたしもまだなんだ、なんか作るから待っててよ」
「あ、手伝います」
「いいって、今日はあたしの手作り料理食べさせてあげるから」
部屋に戻った後藤さんはまたいつものクールな後藤さんに戻ってしまった
あたし的には甘えてくる後藤さんのほうがかわいくていいんだけど
日常編―後藤真希―
料理を作り始めて数分
「なんか自分で言ったけど意外だなー」
「え、なにがですか?」
ソファに座ってTVを見ていた高橋はTVを消してあたしに聞いた
「あたしって男っぽいからさ、絶対恋人できたら手作り料理?とか作ってもらうほうだと思ってた」
「あ、そうなんですか?」
「うん、だからさ、今度高橋の家行った時はあたしだけのために高橋の手作り料理食べさせてよ」
「はい、じゃあ練習しときます」
そして数分料理も完成に近づいた時もう一回高橋に話しかけた
「あのさぁ」
「なんですか?」
「仕事中とかさ、メンバーのみんなと一緒にいる時とかはいいんだけどさ、二人でいる時ぐらい敬語やめない?」
「え、でも」
「それに『後藤さん』もやめよ、それじゃあ全然付き合ってる感じしないもん」
「じゃ、じゃあなんて呼べば…」
「いっぱいあるじゃん『ごっちん』でも『ごっつぁん』でも『真希ちゃん』でも」
鍋から目を離して高橋のほうを見ると困ったような顔をしていた
「でないといつまで経っても高橋のこと『愛』って呼べないもん」
『愛』その呼び方を聞いた高橋の顔がボッと茹蛸みたく真っ赤になった
「いや、でも…」
まだ戸惑っている高橋に近づいて後ろからそっと抱きしめた
「じゃあ練習『真希ちゃん』…はい、」
「ま、…まきちゃん……」
そう口に出して言った高橋はさっきよりも顔が高潮していた
「愛、顔真赤だよ」
あたしは初めて高橋のことを『愛』と呼んでみた
「ま、真赤になんかなってませんよ…あと、その呼び方…」
「いいじゃん、『愛』って名前もカワイイよ、いつまでも高橋じゃあさ…」
あたしは少しの間高橋を抱きしめていた、そしてちょっとした悪戯を思いついた
「愛、今日一緒に寝ようか?」
「ん、別にいいですよ…」
高橋はあたしが言った悪戯言葉の意味をわかっていなさそうに答えた
「しようって言ってるんだよ?」
『しよう』その言葉を聞いた高橋はようやく『一緒に寝よう』の意味がわかったのか再び顔が紅潮し始めた
「え…ア…う……その……」
ハハハ、耳まで真赤になってる、これ以上いじめちゃ可哀想かな
「うそだよ〜ん」
「え?」
「高橋がどんな反応するかと思ってさ、アハ、さっきの高橋すごく可愛かったよ」
あたしは火に掛けっぱなしの鍋を見に立ちあがった
そしてキッチンのほうにゆっくり歩き出す
日常編―高橋愛―
意地悪くらい笑って受け流せる。でもちょっとお返しに意地悪がしたくなった
あたしはポケットから石川さんコントでご愛用『水の入った目薬ケース』を取り出して目の周りに数滴たらした
「本気にしたのに……」
後藤さんに聞えるように声を出す、後藤さんがゆっくり振り向く
振り向いた後藤さんの瞳には涙を流した(様に見える)あたしが映っている
「もう後藤さんなんか知らないもん!!後藤さんのバカァ!!」
バッと後藤さんに背を向けて泣き真似をする
「え、あ…ちょ……高橋?」
横目で後藤さんを見るとすごく慌てていた
「ちょ、ごめん高橋、あの、冗談とか本気とかじゃなくて、ほら、まだあれから2週間も経ってないし
高橋が恐がっちゃうかと思って、あの、したくないんじゃなくて、そりゃしたいけど、高橋は恐がるし、えっと、その……」
正直面白かった、普段はクールなあの後藤さんが慌てている
中々見られないと思って泣きまねを続けていた
すると後藤さんの少し低い声が響いた
「おい……」
あれ、もしかしてばれちゃったかな?
日常編―後藤真希―
高橋を泣かせちゃったと思って必死で言い訳をしてたんだけど
なんかオカシイ事に気づいたんだ
高橋の肩が小刻みに震えている、それを泣いているせいだと思ったんだけど違ったんだ
こいつ笑ってたんだ
「おい……」
あたしが高橋にそう言った
すると高橋は
「ごめんなさい…だって……真希ちゃん面白い」
肩を震わせて泣き笑い
まぁ『真希ちゃん』にも慣れたらしいのは分かったけど
「そういう悪戯するやつには…こうしてやる!」
ドサ!
あたしは高橋をソファに押し倒した
「「…………」」
数秒間あたし達は無言で見つめ合う
身体は20cmぐらい離れているのにそれだけ離れていても高橋の体温はちゃんと伝わってきて
心臓のドクドクと言う音も聞えてきそうだ
あたしは顔をゆっくり近づけて高橋の唇にキスをした
日常編―高橋愛―
十数秒のキス
唇にキスしてきた後、後藤さんは額、頬、とキスする場所を移していく
そして後藤さんの唇があたしの首元に触れた
「ん…」
すると後藤さんは舌をはわせてあたしを刺激する
その時あたしの視界に『ある物』が映った
別に今、こんな行為の途中に言う事ではない
でもそっちが気になってしかたがない
「真希ちゃん」
「ん?恐い?」
後藤さんは首元から顔を離してあたしの顔を見る
「ん、違う」
「なに?」
「う、うしろ」
「うしろぉ?」
「あの、鍋……」
後藤さんの見えないところでは鍋が大変な事になっていた
日常編―後藤真希―
指摘されて気がついた
さっきまで自分が何をしていたか
あたしはお昼ご飯を作っていた
料理中、鍋、そのキーワードから連想できる事は……
あたしは恐る恐る後ろを見た
案の定コンロの上で鍋は蒸気をモクモク吹き上げていた
「あ〜あ」
あたしは高橋を置いてキッチンに向かった、火を止めて鍋の中を見る
火に掛けっぱなしだったみそ汁はさっきよりも水位が3cmほど低くなっていた
「大丈夫?」
高橋も立ち上がってこちらにやって来る
「だめ、すっごいしょっぱい、作り直し」
結局その後はそんな雰囲気にもっていけず二人で作り直したお昼ご飯を食べた
まぁ、焦る事はない、二人で過ごす時間はこれからたっぷりとある
敬語を止めて、呼び方を変えただけでも、一歩前進…………かな?
end