2000年九月上旬 新曲I
wishを発売
後藤と新メンバーの吉澤・石川・加護・辻をメインにしたその曲は
オリコン初登場一位を獲得した……
異変に気づいたのは数日前のことだった…………
メンバーのみんなに話しかけても素っ気無い返事しか返ってこない
「加護、今日一緒に帰らない?」
「あ、今日はののと約束があるんですいません」
「ねぇ、よっすぃ、一緒に帰んない?」
「あ〜今日梨華ちゃんと一緒に帰るから、ごめんね」
「なっち、一緒に帰ろ」
「いやーごめん、今日矢口と約束あるんだ」
以前なら誰かと約束があっても3人で行こうって言ってくれたメンバー
何かが前と変わっている…………
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
新曲発売後 初めてのテレビ出演
「お前ら本当に仲良いのか?」
「めっちゃくちゃ仲良いですよ。この前もみんなで焼き肉食べに行きましたよ」
あたしは誘われてもいない
あたし以外のメンバーだけで行ったのだろうか
異変に気づいていなければテレビ向けの答え方だと思っていただろう
でも今となってはどうでもいいことだ……
メンバーと一緒にいて楽しい事など何一つない
もうメンバーといる時が嫌としか思わなくなってしまった
9月12日
メンバーと口も聞かなくなって数日後のこと
いきなり、やぐっつぁんが話しかけてきた
「ごっつぁん!」
その声に驚いたあたしは慌てて振りかえった
「ごっつぁん、明日から3日オフでしょ」
「うん、そうだけど」
「何か予定ある?」
「いや別にないよ」
ずっと話しっていなかったからか 無意識の内に返事が素っ気無くなる
「じゃあさ、みんなで旅行行かない?」
「旅行?!」
「そう、一泊二日でさ、旅館とかは裕ちゃんが全部やってくれるみたいだし」
少し迷った…
でもみんなとの仲直りをするいい機会かもしれないと思った
「面白そう、行きたい」
「あ〜よかった、もう10人で予約してたから
ごっつぁんが来ないって行ったらどうしようかと思ったよ
じゃあ明日朝7時に家の前で待ってて、迎えに行くから」
そう言ってやぐっつぁんは去って行った
夢じゃないだろうか…あたしは頬をつねってみる
……痛い……
夢じゃない…本当にあたしを誘ってくれた…
その日はいつもと違って家までの足取りが軽く感じた
家に帰ってからもハイテンションのまま明日の準備をしていた
―――どんな所だろう―――
―――ホテルかな、旅館かな―――
―――部屋は広いのかな―――
―――わくわくするなぁ―――
色んな思いが頭の中を巡る
みんなとどこかに行くのっていつ以来だろう
前に行った時は7人メンバーだった頃だよねぇ
あたしは色々な事を考えながら眠りについた
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
9月13日
午前6時 起床
「ふぁ〜あ〜」
大きな欠伸をしてベットから起きあがる
「よかった寝坊しなくて」
こんな日に寝坊したらメンバーに何言われるかわかんないよ
そんな事を考えつつ朝ご飯の用意を始めた
「今日はトーストで良いか」
時間をあまり使いたくなかった私は普段は食べない食パンでトーストを作った
ご飯を食べ終わり、身支度を整えている時にふと思った
―――あたしだけ浮いてたらどうしよう…―――
このごろメンバーと話していない…そのことがあたしを不安にさせた
でも、元々深く考えない性格なので『なんとかなる』と思い55分に家を出た
家の前で待っていると家の右側からワゴンがやってきた
ワゴンが家の前で止まり、ゆっくりとスライドドアが開いた
そしてみんなの声でさっきまでのあたしの不安は一気に吹き飛んだ
「「「「「「「「「おはよー!!」」」」」」」」」
その声に驚いたが、あたしも負けじと「おはよ!!」と言い返した
運転席には裕ちゃん、助手席には圭ちゃん、
2列目の席には左からカオリ、辻、梨華ちゃん、なっちの順に座っていて
3列目の席には左からよっすぃ、やぐっつぁん、加護の順に座っていた
そしてあたしはやぐっつぁんと加護の間に座ることになった
本当に昨日まで何も話していなかったのが嘘のようにあたしはみんなと打ち解けていた
「裕ちゃんどこのほうに行くの?」と、聞いてみた
「近場や、近場、しなびた旅館やけど、ごっちんにはそういうところの方が良いやろ?」
確かにあたしは旅館が好きだ ホテルと違ってる、あの日本な感じや、木の優しい香りがすごく好きなんだ
「2,3個山越えたらすぐや」裕ちゃんが付け加えた
もう二時間ぐらいが経った。いつの間にやら雨も降っている
まだ旅館には着かない
みんなとトランプとかゲームをしながら来たけど
「中澤さーん、まだですかぁ?」と、不満の声を上げるヒトもいた
「もうちょっと、この山降りたらすぐや、あと10分、15分ぐらいで着く」
その言葉に安心したみんなは再びゲームを始めた
「どんな旅館かな、温泉とかあるのかな?」
加護に話しかけてみた
「加護も楽しみですぅ〜」と答えが帰ってきた
ドン!!
突然車がゆれた!
「何?!」
あっという間に車内がパニックになる
「土砂崩れみたいや!!」
何が起こったのかまったく掴めなかった
そのあと車のタイヤが滑り車は山の壁にぶつかった
そこであたしは頭を打って意識を失った
―――楽しい旅行のはずだった―――
―――旅館でワイワイ騒ぐはずだった―――
―――帰る時には『もう一泊!』って、誰かが言ったりするはずだった―――
―――それで、裕ちゃんも『もう一泊して行こか!』って、言うはずだった―――
あたし達が楽しみにしていた旅行は不慮の事故により中断された
一度意識が戻った時
「おーい!!!まだ生きてるぞーー!!」
と言う声が聞こえた
助かると思った、そしてまた意識を失った
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
9月20日
次に目覚めた時は病院のベッドの上だった
「お、やっと起きたか」
裕ちゃんの声が聞こえ、パッと起きあがった
するとメンバーのみんながベッドの回りを囲んでいた
「ごっちんが一番起きるの遅かったべ」となっちが言った
「え、あたしどれくらい寝てた?」
どれくらい寝ていたかわからないあたしは聞いてみた
「1週間ぐらい寝てたよ」圭ちゃんが言う
「まぁ、ごとぉはいつも寝坊すけだし」カオリが言う
「寝坊すけはひどいんじゃない」
「ごっちん寝坊すけだよね、梨華ちゃん?」
「うん、ごっちん寝坊すけだよ」
「二人ともひどーい」
「でもごとうさんの寝顔かわいかったですよ」と加護が言った
加護に言われちゃおしまいだよ、と思った
「たしかに、ごとうさんのねがおはかわいかったれすよ」
辻までもがそう言った
でもみんなが来てくれたのが嬉しかった
「じゃあごっちんも起きた事やし、ウチらは帰るで」
「うん、ありがとみんな」
「ばいばいごっちん」
「ばいばい」
「またね、」
すぐに帰ってしまったのは悲しかったけどみんなと仲直りが出来たのは嬉しかった
ガラッ!と音がしてドアが開いてた
「ユウキ…」
「姉ちゃん?」
するとユウキは驚いて部屋を飛び出して行った
「ちょっと、どうしたの?」
話しかけたがもういない
そしてすぐにお母さんを連れて戻ってきた
「ほら!姉ちゃん起きてるだろ!!」
するとお母さんがあたしに抱きついてきた
「真希!!よかった目が覚めて!このまま寝たきりだったらどうしようかと思ったわよ」
「あれそこでみんなに会わなかった?」
「何いってんの姉ちゃん?」
その時何か違和感を感じた、何かがオカシイ…何かが違う…しかし違和感の正体を掴めなかった
――――――――――――――――――――――――
「もうダイジョウブです、念のために今日まで入院して明日退院としましょう」
ここの先生らしい人がそう言って部屋から出ていった
「ここってどこの病院?」
ここがどこかわからないので聞いてみた
「土砂崩れのあったそばの病院…ここ来るのも大変だったんだぞ」
ユウキが言った
「どこ行くつもりだったんだよ、こんな所にしかも車で」
「旅行」
「旅行?!」
「うんメンバーのみんなといっしょに」
「13日の8時ごろに姉ちゃん家行ったんだぞ、まだ寝てると思って、
そしたらいなくてテレビ見たら土砂崩れのニュースやっててびっくりしたんだぞ」
「ごめん」
「へ?」
「どうしたの?」
「いや、姉ちゃんが素直に謝るなんて変だなと思って」
「今機嫌良いから…」
あれから違和感の正体を掴もうとしているがさっぱりわからない
何かがあるはずなのにそれすらもわからない一体なんなんだろう
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
9月22日
ようやくの事ながらあたしは実家のほうに帰ってきた
何故1人暮らしのマンションに戻らなかったかというと
母さんが心配だからと言う理由でだ
家に戻ったあたしはすぐに自分の部屋に入りベッドにねっころがった
病院のベッドは堅くてなんだか眠りにくかったから
家のベッドは余計に気持ちよく感じた
「姉ちゃん」
ベッドに横になって数秒
ユウキがノックもせずに部屋に入ってきた
「何よ、部屋に入る時はノックしてって言ってるでしょ」
「あ、ごめん。母さんが無理はするなよって。まだ完璧じゃないんだからって」
「なんだ、そんなことか、わかってるよ」
それだけ言うとユウキは部屋から出ていった
実はあたしはまだ包帯がとれていない
昨日退院だったはずなのが今日に伸びたり
包帯巻きっぱなしになっているのも
結構不便な物だ
「ふ〜、これからどうしようかな」
マネージャーから仕事の連絡もない
当分暇になるだろう
マンガでも読むかな」
あたしは机の上においてあったやぐっつぁんから借りっぱなしになっているマンガを取った
「うる星やつら第20巻……」
マンガを読み出したものの、一度読んだ事のあるその本は15分ほどで読み終わってしまった
「のどかわいたな…」
あたしは飲み物を取りにリビングに行った
リビングに誰もいなかったので自分でジュースを探す
冷蔵庫を開けて1,5リットルのペットボトルを取り出す
更に戸棚を空けてコップを取り出しオレンジジュースをコップに注いだ
ゴクゴクとジュースを飲み干す
そこにユウキがやってきた
「あ、ユウキ、母さん知らない?」
「知り合いの葬式って言ってたよ」
そういうユウキもカバンを背負っている
「あんたもどこか行くの?」
「うん、事務所、誰かとユニット組むんだってもしか歌手デビューかもよ
あ、あと今日泊まりだから」
「あ、そ。行ってらっしゃい」
あたしはジュースを飲み干したあと特にする事もなく
ソファーに寝そべっていた
ピンポーン
インターホンが鳴った
「誰だよ、こんな時間に」
時計を見てみるともう12時を廻っていた
仕方ないのでソファーから起き上がり玄関へ歩いていく
覗き穴から外を見る
するとそこには誰も見えなかった
「ん?」
もう一度覗きこむとギリギリで金髪が見えた
「やぐっつぁん?」
ドアを開けるとやぐっつぁんが立っていた
「あ、よかった……いなかったらどうしようかと思った」
いきなり現れたやぐっつぁんはいつもより少し暗い表情をしていた
「どうしたの?!こんな時間に?!あ、とりあえず上がって?」
あたしはやぐっつぁんを部屋へはいるよう促した
やぐっつぁんはさっきまであたしが座っていたソファに座り
あたしはやぐっつぁんの正面のソファに座った
「なんで…」
“こんな時間に?”と聞こうとしたら
あたしの携帯電話が鳴り出した
こんな時だから無視しようとも思ったが携帯の画面を見て気が変わった
【裕ちゃん】
やぐっつぁんに「ちょっとまって」と言い携帯に出る
「もしもし」
『もしもし、ごっちんか?』
「うん」
『ごめんなこんな時間に、矢口来てないか?』
予想どうり、おそらくやぐっつぁんがここに来たのは裕ちゃんが原因だろう
「うん、来てるよ。…なんかあった?」
『今そばにおるんか?ちょっと矢口に聞かれたくない話しやねん、2階に上がってくれへんか?』
「…わかった、やぐっつぁんちょっとまってて」
やぐっつぁんはコクンとうなずいた
携帯をもったまま2階に上がる。一応やぐっつぁんがついてこない事を確認する
「もしもし?裕ちゃん、2階にあがったよ」
『………』
「もしもし、裕ちゃん?」
『………』
あたしは声を少し大きくして言う
「もしもし!裕ちゃん?!」
『ツーツーツー』
切れた………………
2階に上がって電波が弱くなったのかと思った
窓際に行き今度はこっちからかけてみる
『おかけになった電話は電波の届かない所におらおれるか、電源が入っていないため………』
カチン!
音はしなかったがちょっと頭に来た。
おちょくられてんのかな………
あたしはしぶしぶ1階に戻ってリビングのドアを開けた
パン!パン!パン!
するとリビングから大きな音がした
「「「「「「「「「ごっちん!おめでと―!!!!!」」」」」」」」」
「え?!何?どうしたのみんな?!」
なんとそこにはやぐっつぁん裕ちゃんを初めとするメンバー全員が揃っていた
「ごめんねごっつぁん、こんな大勢で押しかけちゃって」
やぐっつぁんが一歩前に出て代表の様に挨拶した
「って言うか、さっきの電話とかはなんなの?」
「あれはごっちんを驚かすための芝居……」
「そ、それは良いけどみんな何しに来たの?」
「今日は何月何日?」逆によっすぃがあたしに聞いてきた
「え?今日は…9月22日?」
「もう12時廻ったよ?」
「じゃあ23日……あ!」
やぐっつぁんはニヤリと笑った
「今日はごっつぁんの誕生日だよ」
「え?じゃあみんなあたしのために来てくれたの?」
「そうだよ〜じゃなきゃこんな時間に来るわけないじゃん〜」
正直…嬉しかった
ついこの間までクチを聞いていなかったメンバーがあたしの誕生日を祝ってくれる
一年前はあたしが加入したばかりで祝ってもらえなかった誕生日…
たった一年しか付き合っていないメンバーから誕生日を祝ってもらえるなんて
あたしの目にはうっすらと涙が浮かんでいた
「ごっつぁん!泣くのは早いぞ!」
やぐっつぁんが冷やかしてくる
「な、泣いてないよ!」
泣き顔を見せるのが恥ずかしくて、意地を張ってそう言い
目頭をおさえて涙をぬぐう
すると加護がハンカチを差し出してきた
あたしは加護からハンカチを受け取った
「泣いてないけど…もらっとくよ」
「意地っ張りやな、ごっちんは…」
裕ちゃんにそう言われた
なんだか心はみんなに見透かされている気がした
「ほらごっちん、こっち来て!」
よっすぃがあたしをソファに座らせる
そして辻加護コンビが白い箱ををもってきた
「「開けてー!!」」
ステレオで二人はそう言った
「開けるよ…」
フタを開けて見ると、中には立派なバースデイケーキが入っていた
中心のチョコプレートには『ごっちん15歳オメデトー!』と言う文字も入っている
裕ちゃんがライターでロウソクに火を点けていく
火を点け終えると 梨華ちゃんが部屋の電気を消した
「歌うぞー」そして圭織が合図をみんなに送った
「「「「「「「「「
ハッピーバースディ トゥーユー♪
ハッピーバースディ トゥーユー♪
ハッピーバースディ ディア ごっちんー♪
ハッピーバースディ トゥーユー♪
」」」」」」」」」
みんなは近所迷惑になるぐらいの大きな声で歌ってくれた
あたしは大きく息を吸い込んでロウソクに点されている火を吹き消した
ロウソクの火は一吹きで消えた、そして
パチパチパチパチ
みんなが拍手をした
「みんなプレゼント渡すでー!!」
裕ちゃんがみんなに呼びかけた
―――裕ちゃん
「裕ちゃんからはこれや、中身はウチがはじめて作ったガラスのコップ。大切にしてな」
「ありがと、大切にするよ」
―――圭織
「カオからは目覚し時計二個、ほら、後藤あんまり早起きじゃないし」
「なんかすごい現実的、でもありがと」
―――なっち
「なっちからはサングラス、この前ごっちん欲しいっていってたでしょ」
「あー、ありがと、なっちって人の話しよく聞いてるよね」
―――やぐっつぁん
「オイラからはこれ!ごっつぁんと前に行ったアクセサリーショップの指輪、ごっつぁんこれずっと見てたでしょ」
「ありがとーこれ本当に欲しかったんだ!」
―――圭ちゃん
「あたしからはカメラ、ごっちん写真撮るの好きだし、お古で悪いんだけどさ」
「ありがと、あとはフィルムがあれば完璧だね(笑)」
―――よっすぃ
「あたしからはバングル、ほらごっちんってこう言うのあんまり着けないでしょ」
「そう言えばそうだね、じゃあこの機会に着けるようにするよ」
―――梨華ちゃん
「あたしからは、あたしの好きなピンクの服!!」
「えー!!梨華ちゃんとおそろいになっちゃうー!………ってうそうそ、ありがと梨華ちゃん」
―――辻
「つじからは『おるごーる』なのれす、なかに『あい うぃっしゅ』がはいっているのれす」
「ありがとね、辻」
―――加護
「加護からは〜、後藤さんは髪を後ろで束ねる事が多いから、バレッタって言う髪飾りです」
「へぇ〜、変わった髪止めだね、ありがとう加護」
みんなからもらったプレゼントは、今までで一番嬉しい気がした
「じゃあ、ケーキでも食べよか、ごっちん一人でも食べきられへんやろうし」
裕ちゃんがそう言うと、やぐっつぁんが包丁をもってきてケーキを切り始めた
「あたし、今日は今までで一番楽しい誕生日だよ……みんなありがとう」
あたしは下を向きながらしゃべっていたのでみんなの顔は見えない
「そんなの、あらためて言われたら照れちゃうじゃん…」
「そうだね、おかしいね、あたし」
そのあとみんなでケーキを食べてバカ騒ぎして、楽しかった
そして遊びつかれて…あたしはいつしか眠りについた
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――よくわからない…うまく説明出来ない
『あたし達、ずっとごっちんのそばにいるから』
―――よくわからないけど…うまく説明出来ないけど
『ごっちんはごっちんらしくいれば、それでいいから』
―――……………悲しい気がした
――――――――――――――――――――――
9月23日 正午
「おい!姉ちゃん!大丈夫かよ!起きろよ!おい!」
ユウキが何か叫んでいた、その声であたしは目覚めた
「ん……ユウキ?」
「もー、びっくりさせんなよ、こんなところで寝てるから頭痛か何かで気失ったかと思うだろ」
「あ……ごめん」
………あれ…あたしいつの間に寝ちゃったんだろう
いつ寝たか、まったく記憶にない
周りを見てもみんなが家にいた感じがない
ユウキの様子を見てもみんなとは会ってはいないようだ
……夢だったのかな……
「あ…」
机の上にある物を見てあたしは安心した
机の上にはみんなからもらったプレゼントが置いてあった
それを見てあたしは微笑んだ
―――夢じゃなかった…夢な訳ないか…
昨日の事で確認できた、あたしはみんなと繋がっている
みんなはあたしの事をわかっていてくれる そう思った
あたしはみんなにもらった物を持って自分の部屋へと戻った
部屋に戻ったあたしはまず鏡の前に立った
梨華ちゃんにもらったピンクの服を着てみたり
―――――(あたしピンクの服は似合わないな……)
なっちにもらったサングラスをかけてみたり
―――――(うわ〜これじゃ、怪しい人だよ…)
よっすぃにもらったバングルを着けたり
―――――(お、これは結構…イケテル?)
やぐっつぁんにもらった指輪にチェーンを通してネックレスにしてみたり
―――――(これはこうやった方が良いかも)
加護にもらったバレッタで髪を止めてみたり
―――――(自分で言うのもなんだけど可愛い…)
そのあとは
机の上に裕ちゃんからもらったコップを飾ったり
―――――(なんか使うのもったいないし)
圭織にもらった目覚しをセットしたり
―――――(って言うかこの部屋目覚し時計多すぎ!8個もあるし)
辻にもらったオルゴールを鳴らしてみたり
―――――(これ、……結構綺麗な音)
圭ちゃんにもらったカメラでベランダからの風景を撮ったり
―――――(一眼レフって結構難しいな…)
色んな事をしてみた
カメラであたりの風景を撮っていると突然携帯が鳴った
画面を見て相手を確認を確認する、マネージャーだ
「もしもし、……はい後藤です…2時からですか?…はい、わかりました」
あたしは2時に仕事の事で事務所に呼ばれた
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今あたしが立っているのはさっき電話で呼ばれた事務所の部屋の前
「後藤真希様………?」
部屋の前の白い紙にはそうかかれてあった
部屋へと続く無機質な白い扉を開ける
部屋の中央には真四角の机があり、それを隔てて向かい合う様に椅子が2つ置いてある
そして1つの椅子には既に人が座っていた
「よう、後藤…来たか」
「え…つんくさん?……あ、おはようございます」
いきなり現われたつんくさんに驚いた
仕事の話とはいえ、つんくさんが出ると言う事はかなり大きい仕事なんだろう
こう見えてもモーニング娘とつんくさんはなかなか会う機会がないのだ
「まぁ、座りぃな」
「あ、はい、失礼します」
つんくさんに促されあたしは椅子に腰掛けた
「あの、もしかしてソロデビューですか?」
「ん、なんでや?」
「外に『後藤真希様』って書いてあったし、つんくさんが出てくるぐらいだから、そうかなーと思って」
「ええとこ、ついてるけど少し違うな……」
ソロデビューではない……
それでもなんだかあたしはホッとした
メンバーのみんなはあたしのソロデビューを反対はしないだろうけど
あたし一人だけがはみ出すようなまねはしたくない
ソロデビューだってなっちの方が先だ、そう思った
「もしかしたら、そうなるかも知らん……」
もしかしたら?……どう言う意味なんだろう?
「身体は大丈夫なんか?この前なんか事故に遭ってんて?大変やったな……」
「ア…身体の方は大丈夫です……」
なんだか、つんくさんは話しを引き伸ばしているような感じに見えた
話の内容が全然見えてこない…
「あの!………今日どうしてあたしは呼ばれたんですか?」
話の確信をつく質問をしてみた
つんくさんは長い沈黙の後、話し始めた
「………あのな、おれも本当は話しにくいんや……でもこんな事話せるのは俺だけしかおれへん」
つんくさんの様子を察するにかなり話しにくい内容らしい
そしてこの話しを聞いてあたしは今までにないほど………………驚いた
「この前の9月13日やったかな……お前達が事故に遭ったんは
……その時にな、後藤以外のみんなも怪我して、重傷やったんや
正直…後藤が一番傷が浅かったんや」
みんなが怪我をしていたという事実をあたしは知らなかった
「みんな……数日は意識不明のままでも、まだ生きとったんや…
でも……みんな揃って……19日の朝に……」
つんくさんは一呼吸置いた
そして最後の一言をしゃべった
「亡くなった」
その言葉があたしの中の時間を止めた
―――『みんな亡くなった』―――
その言葉があたしの頭の中を何度もリフレインする
―――ミンナナクナッタ?ナニガナクナッタノ?ミンナハドコニイッタノ?
「みんな、亡くなった?…」
嘘だよ…昨日ウチに来てみんなでパーティーしたよ?
プレゼントだってもらったし、嘘に決まってるじゃん……
「あの、、嘘ですよね?みんなが死んだって?」
あたしの問いかけにつんくさんは答えない
「あ!ドッキリでしょ?!
ほら、壁の向こうにビデオカメラがあってそれであたしの反応を撮るんですよね?そうですよね?」
「すまん、今まで黙ってて、医者には精神状態安定するまで言うなって言われてたから
しかたなかったんや、ほんまにすまん」
つんくさんは初めてあたしに頭を下げた
「つんくさん、嘘ですよね?……嘘だって言ってくださいよ!!」
「これからの事は後藤、お前が決めたら良い、ソロになるのもモーニング続けるのもお前が決めたらいい
誰もお前の事なんか責めへん、」
つんくさんはこれからの事を淡々と説明し続けた
「モーニング続けるならまた新メンバーが入る…ソロになるなら、モーニング娘。は事実上の解散や」
つんくさんはそれだけ言うと部屋から出ていった
嘘だ!!!!!嘘に決まってる!!!!
あたしは部屋を出て事務所を飛び出した
―――嘘だって確かめてやる!ここから一番近いのはやぐっつぁんの家だ!
あたしは駅から電車に乗ってやぐっつぁんの家を目指した
生きている事を確かめる、でも正直恐い、もし……もしみんな死んでいたら…………
いや、そうじゃない事を確かめに行くんだ、絶対みんな生きている!!
もう何時間経ったのだろうか当たりはもう真っ暗……電車を何度も乗り換えバスと徒歩を繰り返し
今はやぐっつぁんの実家の前にいる
あたしは初めにやぐっつぁんが1人暮らしをしているマンションに向った、でも留守だった
携帯にかけても繋がらない……
だからこうして実家まで来た
家族なら何があったか知っているはずだ、そう思った
ピンポーン、インターホンを押した
「ハーイ、あ、真希ちゃん真里に会いに来て来てくれたの?」
「あ、はい」
やぐっつぁんのお母さんの様子は前に会った時と何ら変わりはなかった
「さ、あがって」
「おじゃまします」
あたしはやぐっつぁんのお母さんに案内されて廊下を進んで行く
「真里、真希ちゃんが会いに来てくれたわよ」
やぐっつぁんのお母さんが入った部屋にあるものがあたしの目に飛び込んできた
あたしに見えたのは仏壇の中にあるやぐっつぁんの写真……そして
祭壇の前にある……骨壷が入っている木の箱だった
予想していた事が現実となってあたしに襲いかかってきた
みんな本当に死んじゃったんだ……
それからどうやって家に帰ったのかは覚えていない
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
気が付くと天井が見えた
………………ここは自分の部屋
あたしはベッドに横になっていた
メンバーが死んだ事に気が付かなかった自分が不思議に思う
テレビでも週刊誌でも「モーニング娘死亡」の特集をやっているし
あたしにも気づく節はあったのだ
事故に遭ったあとの病院で感じた違和感
あの正体がついさっきわかった
あたしは事故に遭って瀕死の怪我を負っていた
母さんはあたしがずっと目覚めないのではないかと言う事も考えていた
あたしがいた病室は「ICU」
中にはいるにはあの時のユウキや母さんの様に
白い割烹着のような抗菌の物を身に付けてからでないと部屋にはいる許可が下りないはずだ
でもみんなは旅行の時の服装のまま
白い服を身に付けていなかったのだ
あの時感じた違和感はまさに“それ”だったのだ
もう本当にみんなはいない、あたしはこれからどうしたら良いのかわからない
今のあたしにはモーニング続ける事もソロになる事だって出来やしない
もう本当にどうしたらいいかわからない
これからの事考える……それ以上に難しい事は今のあたしにはないだろう
ピリリリリリリリリ
携帯電話が鳴った
今は電話に出るほど元気じゃない
無視しようと思った
でもその電話はずっとなりつづける
2分……3分……うるさくて仕方なかったので携帯電話に出た
「もしもし」
『あ、後藤?』
相手の声は何度も聞いたことのある声だった
「……市井ちゃん?」
『あ、ウン、市井だけど、いや〜ずっと電話に出ないからどうかしたかと思ったよ』
市井ちゃんの声は、今までに聞いたことがないほど
そう、市井ちゃんが卒業を告白したとき以上に
緊張した声だった
『あの、……もう聞いてんのかな?みんなのこと』
「うん、今日聞いたよ」
きっと市井ちゃんは……落ち込んでるであろうはずのあたしを元気づけるための電話をかけたんだろう
『そっか、…………』
でも、それきり市井ちゃんは黙ってしまった
「ねぇ、市井ちゃん?あたし、これからどうすればいいのかな……」
あたしは、かつてのモーニング娘。の教育係である市井ちゃんに自分が悩んでいた問題を聞いてみた
『市井にはわからないよ……あたしは5ヶ月前に辞めちゃったけど
みんなのために出来る事とか考えても……全然わかんないんだ』
市井ちゃんも……あたしと同じ事を悩んでいた
「みんなのために出来る事なんてあるのかな?」
もう一つの質問をしてみた
『多分あるよ……どっかから絶対見つかると思うよ』
みんなのために出来る事……
あたしはそれが見つかるまできっと復帰できない
『多分後藤の好きにしたらいいと思う……
みんなだって、後藤の事を一番に考えてたと思うし
あんまり考えないほうが良いかもしれない、
じゃあ、またなんかあったら電話してよ』
あたしは市井ちゃんが最後に言った言葉がよくわからなかった
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
気づくとそこには1枚の扉があった
ここは夢の中だ、あたしにはそれがわかった
この場所は現実には存在しないから
その扉の横にはモーニング娘。様と書かれた張り紙がある
みんなはもういないのだからこの空間は夢にしか存在しない、そう思った
扉を開けるとそこからは「みんな」の笑い声や話し声が聞えてくる
その空間はまるで楽屋、みんなが休み時間にくつろいでいるそんな感じだった
あたしがその空間に入って行ってもみんなは各々の話しに夢中であたしに気が付かない
多分あたしはこの空間にいる人物じゃないのだ
あたしはみんなに聞きたいあたしはこれからどうすればいいのかを
あたしはみんなのために何が出来るのかを
あたしだけ生き残ってしまってよかったのかを
「あたし!どうすれば言いかわかんないよ!!!」
あたしの心の声はその空間に響きわたった、
そしてあたしが叫んだ声に気づいてみんながあたしに方に振り返った
『あたし達を思う事はないんだよ』
『ごっちんがしたい事をすればいい』
『モーニング辞めたって』
『ソロになったって』
『ごっちんが変わらずにいれば』
『それで良いよ』
みんなの声が聞こえた
それだけでみんなの気持ちがあたしの中に流れ込んできた
さっきまで悩んでいた事がまるでちっぽけに思えた
あたしがみんなに微笑み返すとみんなはこの空間から出ていった
あたしの心にはもう迷いもなく、気持ちも晴れ晴れとしていた
あたしはその空間からの扉をくぐり、そして、目が覚めた
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「トゥルルルルル、トゥルルルルル、トゥルルルルル、ガチャ
…もしもし、市井ちゃん?……あたしね…みんなのために出来る事……見つけたよ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「アンコール!アンコール!」
2002年9月23日――横浜アリーナ
ここでは、あるアーティストのライブが行なわれていた
客の歓声がひときわ大きくなった時、舞台そでから5人の人影が飛び出してきた
「みんなーアンコールありがとうー!!」
その中にはあたし…後藤真希の姿もある
「1度モーニング娘が半壊してから丸二年、新メンバーが入ってから約1年が経ちました
あたしは今日モーニング娘を卒業するけれど
もう今はモーニングの意志を次いでくれる4人がいます。
来月、小川はハロプロキッズとプッチモニを再結成し
紺野と新垣はタンポポを再結成し
高橋はやぐっつぁん、加護、辻が考えていた新ユニットミニモニを発足させます
後はみんなに任せてあたしは今日卒業します
今日のこの日の思いで I WISH……」
あたしが言い終えると 四人はそでのほうに帰り
I WISHの曲が流れ始めた
歌が流れ始めても
あたしはまだ歌い始めない
このパートはあたしの歌うパートじゃないから
「退屈な夜〜♪あたしだけが寂しいの?」
自分のパートだけを歌う
あたしがこんな行動をとったのは 2年前生放送中の歌番組
音楽活動に復帰したあたしは
歌番組でI WISHのソロヴァージョンを歌うはずだった
でもあたしにはみんなのパートを歌う事が出来なかった
歌う時だけはみんなの死を認める事が出来なかったから
でも、その時、みんなの声が聞えた
あたしの周りで踊っているみんな、歌っているみんなが見えたんだ
だからあたしは今日までみんなと一緒に踊り続けてきた
今日もあたしの周りにはみんながいる
吉澤『くだらなくて』
辻 『笑える』
石川『メール』
後藤「届いたyeah」
中澤・保田『何故か涙止まらない』
安倍・飯田・矢口『Ahありがとう』
あたしにしか見えないみんな
あたしにしか聞えないみんなの声
あたしはまだみんなと一緒に歌いたかった
後藤「誰よりもわたしが〜私を知ってるから〜」
全員『「誰よりも信じてあげなくちゃ〜」』
みんなはあたしのしたい事をしろって言ってくれた
あたしがしたかったのはソロになる事でも辞める事でもない
“モーニングの意志を継ぐ事”
メンバーのみんなのためにしてるわけじゃないんだ
あたしがしたいからしている
………でも、このみんなと一緒に歌うI WISHも今日で終わりだよ
全員『「人生って素晴らしい ホラいつもと
同じ道だってなんか見つけよう
Ah素晴らしい Ah誰かと めぐりあう道となれ!!」』
今日であたしはみんなに甘える事は終わりにするよ?
いつまでもみんなに頼ってたら5期メンに示しが付かないでしょ?
加護『でも笑顔は大切にしたい♪』
後藤「yeah愛する人のために〜♪」
ねぇ……みんな? あたしは今日モーニング娘から……
みんなの思いでから……卒業するよ……
「みんなー!!今までありがとうー!!」
あたしが最後に見た、みんなの笑顔はずっと心に残っているから……
2002年 9月23日 横浜アリーナ 後藤真希 モーニング娘。卒業……
fin