「真希ちゃん」
「んぁ?」
「ミカン何個目や?」
「さぁ?」
「真希ちゃん」
「んぁ?」
「もうすぐ紅白終わるで」
「そーだね」
「真希ちゃん」
「んぁ?」
「ヒマやよ」
「そーやよ〜」
12月31日。
自宅で二人で過ごしていた。
二人でコタツに入ってミカンを食べながら歌番組を見る。
テレビから一瞬視線をそらして正面を見ると、テレビに視線釘付けの愛が居る。
あたしはなんとなく心が温かくなってまたテレビに視線を戻した。
『来年またお会いしましょう。それではよいお年を〜』
テレビ画面。
エヌエッチケーの毎年放送する高視聴率だった歌番組が終了して、
年をまたぐ放送。行く年来る年が放送され始めた。
「つまんなかったね」
「ええ?面白かったって〜」
「コレならボンバイエ見たほうが良かったって」
「だって、格闘技なんか見たって面白くないやよ〜」
既に赤い網袋に入ったミカンは無くなっていた。
コタツにうつ伏して前を見るとつまらなさそうな顔をした愛。
「なに?」
「なんもないわい」
あたしが聞くとそう言って拗ねたみたいなかわいい顔をしてコタツの向こう側に消えた。
あたしも愛の真似をして寝転がった。
テレビから流れる雑音と部屋に充満する蜜柑の香りとコタツの暖かさで、
心地よい環境が作られてそのまま眠ってしまいそうだった。
「真希ちゃん」
「んぁ?」
愛から声が掛かる。
「ヒマやよ〜」
「そうやよ〜」
愛の口真似をして喋ると愛は怒ったような声で「真似しんといて〜」って言った。
「愛〜」
あたしが名前を呼ぶとまだ怒ってるような声で「なんやよ〜」と答えた。
「初詣行こっか?」
「え?」
あたしが起き上がると愛も同じタイミングで起き上がった。
「初詣………行かない?」
「行く!」
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「はぁ〜、寒いやよ〜」
「そりゃこんな時間だしね」
あたしは長いコートとマフラーを、愛は帽子とジャンパーを着て外へ出た。
「はい」
「んぁ。なに?」
「手」
「手がなに?」
「繋ご♪」
あたしの方に手を差し出して何を言うのかと思えば、
愛の顔を見ると可愛く首を傾げてあたしの顔を見る。
"可愛い………"
あたしは渋々、手袋をしてない愛の手を取って手を繋いだ。
「んふふ」
「なに?気持ち悪い笑い方して」
「なんでもなーい」
愛は嬉しそうな顔をしてあたしの手を引っ張る。
「ほら、早く行こ」なんて言いながら。
あたしは何もない振りをして彼女に溺れている。
時には彼女を引き寄せ、時には彼女に引き寄せられ。
あたしは彼女が居なくなった時の自分の保ち方を知らない。
きっと壊れてしまう。
彼女があたしの生きる道であって。あたしは彼女無しでは生きていけない。
それはあたしが彼女と言う大きな海に溺れているから。
「真希ちゃん」
「んぁ?」
「さっきからボーっとしてなん考え事しとんな〜」
「……なんでもないやよ〜」
あたしはまたフザケテ彼女の口真似をした。
あたしは彼女が居なくなるのが怖くて、
だからこうして自分は彼女にそっけない態度を取る。
あたしが彼女から距離を置けば。彼女はあたしを追いかけて来てくれるはず。
追われれば逃げたくなる。逃げられれば追いたくなる。
そう信じて、あたしは彼女に本当の気持ちを伝えられない。
「あ、真希ちゃん熊手!!」
「あぁ、この縁起物毎年売ってるね」
「買お、真希ちゃん」
「うん、いいよ」
あたしが彼女にこの想いを伝えて何かが変わるのだろうか?
何も変わらないのだろうか?
あたしが彼女を想い、あたしが彼女に想われ、そしてあたしたちがそれを知って何かが変わるのだろうか?
「真希ちゃん。お参りお参り」
「あぁ、賽銭ね」
愛に言われるままにあたしは賽銭箱にお金を放って大きな鈴を揺らした。
愛と一緒に手を叩いて黙祷する。
「真希ちゃんはなんか願ったん?」
「うーん。なんだろうな。愛は?」
「あたしは〜。真希ちゃんとずっと一緒に居られますようにって………あは♪」
あたしはこの先ずっと。
彼女に溺れ続ける。そんな未来が見える。
小悪魔のような笑いであたしを奴隷にして。
彼女の心の中を泳ぐことが出来ないあたしに向かって激流を作り出す。
そしてあたしが彼女に想いを伝える頃には。
あたしはどうなって居るのだろうか?
「真希ちゃん」
「んぁ?」
「好きやで」
でも、
それはあたしの考える架空の愛なのかもしれない。
自分が泳げないと思い込んでその海に飛び込まない臆病者。
泳げなかったらということを考えて、泳げた時のことを考えない。
あたしは彼女に溺れる魚にはなりたくない。
かと言って泳がない魚にもなりたくない。
「あたしも好きだよ」
これからあたしはどう変わるのかは解らない。
それでもあたしは本当の彼女を解ろうとする。
『真希ちゃんとずっと一緒に居られますように』
あたしは今の愛の言葉を信じる。
自分の作った幻影よりも。今目の前に居る愛を大切にする。
あたしが好きになった愛は幻影なんかじゃない。
幻なんかじゃない。
ココに居る。
「はい」
「なんね?」
「手」
「手がなに?」
「手繋がないの?」
あたしは左手にさっき買った熊手を下げて、彼女に右手を差し出した。
ヤッパリ彼女は笑ってあたしの右手に自分の左手を繋いだ。
「あたしもね、愛とずっと一緒に居たいよ」
きっとあたしが想いを伝えて変わった事があるとすれば、
あたしが溺れる魚じゃなくなったって事。
「大好きだよ」
「うちも好きやで」
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今年最後の短編です(ぉ
ってかσ(゚д゚ )オイラはごまたか推しなので(核爆
パスワードのこと聞きに来た人少ないっす(マテ
σ(゚д゚
)オイラのページは需要が少ないですか?ww(とりあえずマテ
いや、冗談っす(水爆ww