「愛。どっちが生き残っても恨みっこ無しだよ」
「亜弥。当たり前の事言わないでよ」
「いよいよ一週間後か」
「二人とも助かるといいのにね」
「そうも行かないよね。こればっかりは」
「ねぇ。考えがあるんだけど聞いてくれない?」
「ん。なに?」
二人は俗に言う双生児、双子だった。
ただそれは“普通”の双子では無かった。
生まれた時から病院での暮らしを余儀なくされ。
16年、その病院の中だけで生きて来た。
二人の体に一人分の内臓器。
このままでは二人とも長くは生きられない。
手遅れになる前にと両親と双子は手術の話しをした。
手術を受けたとしても一人は確実に助からない。
それでもどちらか一人だけでも助かる。
双子にとっては苦渋の選択。
今まで一緒にいた姉妹が消えてしまう。
二人で一緒に死ぬ事すら考えた。
でもどちらか一人でも助かるなら、自分の大好きな姉妹が助かるのなら。
二人は手術を受ける事を決意した。
「きっと、そんな事になるなら。いっそ死んだほうが楽なのかもしれない」
「うん。多分あたしでもそう思う」
「だから。もし亜弥が生き残ったら」
「もし、愛が生き残ったら」
二人で見る。病院の屋上から見える最後の夕日。
明日は手術の日だった。
「ねぇ。あたしは愛のこと大好きだよ」
「・・・いまさらこんな事言うのも恥ずかしいけど。あたしも亜弥のこと大好き」
二人は最後の沈み行く太陽を眺めた。
きっと妙に清清しい気持ちで居られるのは。
死を目の前にしているせいでもあるのだろう。
2分の1の確立以下で自分は死ぬ。
手術の失敗だって在り得る。
それでもふたりはもう迷いも何も無かった。
「「明日。がんばろうね。」」
次の日。
大き目のストレッチャーに乗せられて二人は手術室へと運ばれた。
この時間が終わればもう二人のどちらかが居なくなる。もしかしたら二人とも。
「亜弥、がんばれ」
「愛も、がんばってよ」
手術室の扉は閉じられた。
麻酔を打たれて、躰の感覚がどんどんと無くなっていく。
意識も薄れ始めて、次に目が覚めることがあるとしたら今まで一緒に居た姉妹が消えるのだと察して。
ゆっくりと、
まどろんだ世界に意識をゆだねた。
手術は20時間にも及ぶ大手術だったらしい。
とは言ってもそれを聞いたのは1週間後。
一週間の間眠っていた。
実際ベッドから起き上がるのには2ヶ月の時間を要した。
自分の姉妹の話は両親や医者ともしなかった。
話を出さない以上想像は付いた。
話を出さないように他の人が心がけているのだから自分からもそんな話はしなかった。
それから3ヶ月ほどリハビリをして。一人で院内を散歩できるようになった。
そして。自らの半身。いつも一緒だった姉妹との約束を思い出した。
忘れていたわけではない。
今なら約束を果たせる。
自由に動ける今なら。あの時屋上でした約束を果たす事が出来る。
「すいません。」
「おや、君は………」
私の分離手術をした先生の元を訪れた。
「聞きたいことがあるんです。あの子は・・・いったいどうなったんですか?」
先生はもちろんすぐには話さなかった。
「大体わかってるつもりです。みんなあの子のことを話さないから。ただ、どうなったかを知りたいだけです」
でもあたしの覚悟を話せばすぐに話してくれた。
「あの子は……まだこの院内には居る。だがあの子から摘出できた“あの子の”臓器は脳だけだ」
この病院の中に居てよかった。
他の研究所とかに移されていたとしても絶対に会うつもりではいたけど。
「会わせてくれませんか?」
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結構大きな病院である事は散歩の許可を貰ってから解ってはいた。
でもまさか地下まであるとは思わなかった。
「ここだ」
扉の横のプレートには「Deformed
Child
003」と書かれていた。
英語の意味が良くわからなかったけど。この病院で分離手術を受けた3人目だということはわかった。
暗い部屋ではなかった。
電気も明るいし。空調も聞いてるようでじめじめした感じもなかった。
壁は一面真っ白。タイルを貼り付けたような壁だった。
それでもどこか気持ちを暗くする。そんな部屋。
5m×5mぐらいの部屋の中に。
一つだけポッドというかカプセルのような円柱型の物が立っていた。
中は緑色の液体で満たされてボコボコと泡が立ち上っていた。
「これが・・・あの子の・・・?」
「そう、これが君の兄弟のものだ。」
中に入ってる液体は培養液と言うらしい。
その中に浮かんでいたのは。一つの臓器。
脳だった。
『移植手術が出来れば助かる見込みはある。』
そんなことを分離手術を受ける前に聞いた。
だからあたし達二人は調べた。
分離手術後。脳移植を受けた人が居るのかどうか。成功した人は居るのか。成功するのは何%ぐらいなのか。
すべては皆無に等しかった。
―――だから………もし………。
―――だからもし。中途半端に生きてるなら。
「あの、先生。“二人に”してもらえませんか?」
医者を追い払って。その部屋の中には“二人っきり”になった。
あたしはそっとカプセルの表面のガラスに触れた。
「これで、いいんだよね?」
目を閉じればすぐ目の前で微笑む姉妹の顔が浮かんだ。
あたしは部屋の中を見渡した。
扉の近くには大きな机と数個のパイプ椅子。
机の上には英語の筆記体で書かれたわけの解らない論文のようなものが数枚散らばっていた。
“あたし達”は。研究材料になんかなりはしないよ?
一番やり易そうなパイプ椅子をたたんで持ち上げ、カプセルの近くに戻った。
「これできっと、楽になれるんだよね?」
あたしはゆっくりパイプ椅子を持ち上げて。横に振りかぶる。
ガシャン!!
ガラスの割れる音がして、培養液が外へ流れ始めた。
「ばいばい。」
『ねぇ。考えがあるんだけど聞いてくれない?』
『ん。なに?』
『もし、あなたが生き残って。あたしが中途半端な状態で生きてるとしたら。』
―――殺して欲しい。
「これで………よかったんだよね?」
培養液が流れ出す音が聞こえて。
リアルに自分の姉妹の死を認識し始めた。
『調べた時の奴覚えてる?生き残った人じゃない方は脳だけカプセルの中に入れられてずっと移植者を待つ』
『覚えてる。でも結局移植者は現れなかった。現れないうちに脳は腐敗して移植の無理な状態になった』
『きっと、そんな事になるなら。いっそ死んだほうが楽なのかもしれない』
『うん。多分あたしでもそう思う』
『だから。もし亜弥が生き残ったら』
『もし、愛が生き残ったら』
「あたし………あなたの分まで生きるから……だから、安らかに眠って」
培養液に浸された床の上に落ちた臓器に向かって喋りかけた。
世間にはあたしのこの行動はどう映るのだろうか?
気の狂った少女とされるのか?
それとも研究材料になるのを止めるためにやったと崇められるのだろうか?
そんなことはもうどうでも良かった。
あたしはあの子の分まで生きるだけ。
既にスタート時点から“普通”とは違う道を歩んでいたんだ。
これから少し違う道にそれても今までとは違う。
あの子の分まであたしは生きなければならない。
隣を見て映るその子の姿はなくても。
「これでよかったんだよ………」
二人にだけ解る魔法の言葉を唱えればあの子の笑顔だけはあたしの眼に映るから。
だから………またね。
END
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なんか100のお題全部暗めな話かいてるような(汗
一部の名前を入れなければ誰と誰かもわからないと言う罠w
実際生き残ったほうがどっちなのか解らないように書いてます。
この二人を選んだのは特に理由はなくて(オイ
ただ二人の年齢が一緒だったから(マテ
次は………もっと明るい目な話を書きたいです。