「真希ちゃん…もうやめた方が良いと………薬かていっぱい飲んだら体に毒やと・・・」

それは五分ほど前から。
いつもの薬を、幾つもの錠剤やカプセルを。
500mlの水のペットボトルをそばに置いて服用し始めた。

「一回分じゃ効かないよ…」

あたしの忠告も聞かないまま真希ちゃんは水を含んで、また薬を口に入れる。
4畳半の狭い部屋の中には薬のにおいが充満していた。
真希ちゃんがオカしくなったのは2ヶ月ほど前に絵里と言う恋人を亡くしたからだった。

真希ちゃんに誕生日プレゼントを届けるために急いでいた絵里は車に撥ねられた。
家に居た真希ちゃんに電話をしたのはあたしだった。
絵里が車に撥ねられた時にすぐ傍に居たあたしは救急車を呼んだあとに真希ちゃんに電話をした。

病院について絵里はすぐに手術室に運ばれた。
そして少し後に真希ちゃんが来た。まだ絵里は手術室から出てこなくって、でももう助からないような気もしていた。
撥ねられた後の絵里を見て。そんな気がしていた。


数十分後に医者の人が出てきて。
ドラマなんかで聞くような定番の台詞をあたしと真希ちゃんに告げた。
『全力を尽くしましたが…』

あたしは一人頭に血が上っていた。医者に掴み掛かって何で絵里を助けられなかったのか色々暴言を吐いた覚えがある。
『何で助けられんと!!あんた医者やろうが!!医者やったらなんで絵里助けんと!!』

そんな風に医者に言い寄るあたしに真希ちゃんは何故か冷静に、
『れいな。もういいよ。』

そういってあたしを諭した。
真希ちゃんはその後医者に『絵里に・・・会って良いですか?』と、聞いた。
『はい…』
と。看護婦の人が答えると真希ちゃんはあたしの肩をたたいて看護婦さんの後を追いかけていった。。

手術室から移された絵里に霊安室で1時間ぶりの再会をした。
絵里はまるで死んでるようには見えなくて………本当に。
寝てるだけに見えた。

『もう起きないんだね。絵里』
真希ちゃんが現実を認識するように、自分で確認をするようにつぶやいた。
『せっかくの誕生日なのにね、絵里。』
やけに静かに言う真希ちゃんは泣きながら、涙を流しながら呟いていた。
『れいな。二人にして』

真希ちゃんの言葉を聞いてあたしは霊安室から出た。
廊下で真希ちゃんを待って。
数分後に聞こえてきたのは真希ちゃんの笑い声だった。
何があったのかと思って中に入ると。

真希ちゃんは涙を流しながら壊れた笑いを霊安室に響かせていた。

あたしは真希ちゃんを見て、呆然として、何も出来なかった。
あの時。

真希ちゃんが壊れてしまった。




「真希ちゃん、ホントにもうやめた方がいいと………」
6回分の薬を飲んだところであたしは真希ちゃんの手から薬をぶん取った。
真希ちゃんはあたしを睨んで、視線を床に向けた。

「薬に頼っとったらもうホントに戻れなくなると…」

そう言った時だった。
急に真希ちゃんがあたしの両手首をつかんでたたみの床にあたしを押し倒した。
手に持っていた薬が何錠も畳の上にばら撒かれて、
机の上に乗っていたペットボトルが倒れる音がした。

「あ……あたしは…絵里じゃ無かと…」
「………落ち着かせてくれるんだったら誰でも良い……」

重なる唇。

薬を常用しているせいか、真希ちゃんの唇はすごく冷たかった。
倒れたペットボトルから水がこぼれてたたみに滴る音がする。
真希ちゃんの唇が離れる。

「真希ちゃん……止めると………」
「止めない………」

再び重なる唇。
真希ちゃんの舌が入り込んできて。苦い薬の味がした。




きっと二人とももう元には戻れない。

絵里を失って、

あたしたち二人はもう戻れない道を進み始めていた。

もう、こんな事を続けても意味が無い。

死ぬための薬が欲しかった………………。

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「精神安定剤」
この言葉を聞いて一時間にて完成。
オチは微妙。痛いのかなこれww

きっと大切な誰か「友達」「恋人」を失って何かが狂ったらもう元には戻れないと。
とりあえず作者にもよく分から〜〜〜ん!!(マテ