私は「運命」と言う言葉は信じない
もしもこの世界が運命付けられているのだとしたら
私はそんな世界生きようとは思わない
もしも私の生きてきたこの世界の全て物の運命が決まっているのだとしたら
私は恋なんてしなかった
そんな、別れるのも、うまくイクのも決まっているような恋愛は面白くない
運命はきっと自分で切り開くもの、
だから私は………恋をした
Forever
kiss〜天使になった少女〜
――――――――――――――――――――――――
私は4年前本当の家族を二人失った
原因は夜遊び…
あたしがその時の1番の親友と夜遊びに出かけた
その時父さんと弟があたしを探しに夜の街へと向った
そこで不良の抗争に巻き込まれた
あたしが家に帰った頃には二人は病院に運び込まれていた
母さんからその事を聞いて二人で病院に向ったが“時既に遅し”
あたしが夜遊びになんかに行かなければ二人は死ぬ事はなかった
あたしはその事を悔やみ続けていた
そして1年前母さんが再婚した
相手の男性にはあたしより2つ年下の女の子が一人いた
あたしは義父さんとも妹とも打ち解けて本当の家族みたいだった
何より妹が出来たのが嬉しかった…
そして半年前………
義父さんとお母さんが交通事故に遭った
あたしは悲しかった…
家族の温かみを知った時に
家族がいなくなった…
そして私の家族は妹たった1人になった
二人暮らしでも幸せだった
このままこの暮しが続けばよかった
しかし……
悲劇は起こってしまうのだった……
Forever Kiss〜天使になった少女〜
―2001年5月上旬
あたしの名前は後藤真希
もう少しで16歳になる高校1年生
あたしには血は繋がっていないが妹がいる
中学二年生の13歳
名前は加護亜依
何故苗字が違うかというと
両親が夫婦別姓を条件に結婚したからだ
二人共、都心近くにある
中高一貫の私立学校に通っている
妹と二人でだけでも楽しく暮していた…
でも悲劇は起こった
なんだかこの時は 全ての事が悲劇に関連しているように思えた
「ねぇ〜、お姉ちゃ〜ん」
「ん〜、どしたー?」
テレビを見ていたはずの亜依はテレビを消して、台所で洗い物をしている真希に声をかけた
「あ〜の〜さ〜、お願いがあるんだけど〜」
「お小遣いならこれ以上あげられないよ」
「えっと〜、そうじゃなくて〜」
洗い物を終えた真希は居間にいる亜依のそばに座った
「じゃあ、何?」
「あの〜ビデオを借りてきて欲しいなーって」
真希はあきれた様子で「何のビデオ?」と聞いた
「あのねー、アイドルの娘が出てるやつで『マリア』って言うんだけど」
真希は「ああ、あれか」と言った様子で頷いた
「さっき同じグループのメンバーがドラマ出てたから、久しぶりに見たいなーと思って」
真希はそのドラマを1話だけ見た事があった
“白血病の少女と異母の4人姉妹と医者”と言うよくわからない話だったと思う
真希はとりあえずいやがる振りをして見せた
「お姉ちゃん、最初の1巻だけでいいから、お願い、一生のお願い!」
そう涙目で真希に訴えかける
亜依の『一生のお願い』は今まで何回使われたかわからない
「あ゙あ゙ー、もうわかったわかった、借りてくれば良いんでしょ」
真希はとうとう根負けして承諾してしまった
自分の頼みを断れるわけがないと、妹は勝ち誇ったような笑みを浮かべている
真希自身も自分が妹に甘い事はよくわかっていた
それは今まで自分が妹の頼みを断った事がない事からもわかる
“可愛い妹の頼みを断れるワケがない”それは二人が思っている事だった
「九時までには帰るから」
真希は亜依にそういって家を出た
少し人通りの多いストリートを真希は人ごみをかき分ける様に進んで行った
よくよく考えれば、わざわざこんな人通りの多い時間に来る事はなかったのだ
今更ながら真希は反省した
しかし出て来てしまったものはしかたがない
真希は気を取り直して、レンタルビデオショップに急いだ
レンタルショップに着いた真希は、わき目も振らずドラマのコーナーに進んで行く
アイウエオ順に並べられた棚の中から『マリア』のビデオを探す
そしてマ行の中から『マリア』のビデオを見つけた
しかしその棚の前には人が立っていた
その人の手が『マリア』にのびようしているのを見て
真希は『取られちゃマズイ』と思い、
同じように、その人より早く手を伸ばし『マリア』のビデオを掴んだ
その人と目が合わないように、サッサとレジのほうへ向うと
聞いた事のある声で呼びとめられた
「あれ?真希じゃない」
「なっち」
振りむきそこにいた真希と同じように『マリア』を借りようとしていたのは
真希の学校の友達 安倍なつみ だった
彼女は真希と同じ高校に通う 高校三年生
真希がなつみと知り合ったのは
中学生の時
屋上で昼寝をしていた時に出会った
「そっか、亜依ちゃんに頼まれてたのか」
「うん、亜依ったらさぁ『最初の1巻だけでいいから〜』とかいってさぁ、まいるよ」
「でも可愛くてしょうがないんでしょ?」
「いや、まぁ……そうだけどね」
レンタルショップを出た真希達は、自販機で買ったジュースを片手に
歩きながらの雑談をしていた
「あ、忘れてた、なっちコンビニで買わなきゃ行けない物あったんだ」
「そうなの?付き合おうか?」
「いいよいいよ、亜依ちゃんビデオ待ってるんでしょ?早く帰ってあげなよ」
「そうだね、わかった、じゃあまた明日バイバイ」
「うん、また明日!」
コンビニへ行くなつみと別れて真希は再び帰路につく
心なしかさっきよりも早足で
真希は『最初の1巻だけでいい』と言われながら
全巻借りてきていた
真希は妹の喜ぶ顔がみたかったから、なけなしの小遣いをこのために使ったのだ
段々と家が近づいてきた
あとはこの大きな道路をわたって二分もかからないだろう
だがあいにく今は赤信号 真希は持っていたジュースを飲み干し空き缶をごみ箱に放った
一回目はゴミ箱へ当たり外に転がって行った
真希は今放った空き缶を拾いもう一度投げて見る
今度は見事ゴミ箱の中に入っていった
そうこうしてる内に信号が青へと変わった
再び早足で歩きだす
後たった二分で家に着くはずだった
家でよろこんでいる妹と一緒にビデオを見るはずだった
だがそれは叶わなかった
コンボイホーンのようなクラクションの音が真希の聴覚を一気に引き裂いていった次の瞬間
真希のからだが宙を舞った
―1話終わり―
―2話―
「も〜、なんでこのコンビニ『よっちゃんいか』売ってないんだよー」
なつみは、誰にいう訳でもなく苦情を言いながらコンビニを出てきた
「(こうなったらちょっと遠回りだけど向こうのコンビニに行こうかな)」
なつみがそんな事を考えていると、いつもより人だかりをつくっている交差点が見えてきた
「ん……なんだろ、なんかあったのかな」
なつみは人だかりに近づいていくと
あたりの人に事情を聞いてみた
「あの、何かあったんですか?」
「事故だよ、事故、酔っ払い運転で若い子がはねられたんだ」
なつみはそれを聞いて妙な胸騒ぎがした
「まさか……真希……」
なつみはさっき別れたばかりの真希ではないかと思った
「すいません!通してください!友達かもしれないんです!通してください!!」
なつみは半ば強引に人を押しのけて野次馬の中を進んで行った
そしてなつみは凄惨な光景を目にした
頭から血を流し倒れている真希、すっかり酔いの覚めたドライバー
それを見て、なつみの頭の中は真っ白に染まっていった
倒れている親友も、半分狂った様に叫んでいるドライバーの声も
周りで騒いでいる野次馬も、全てが、
なつみの中からフェードアウトしていった
「安倍さん!安倍さん!」
なつみはようやく意識を取り戻した
「あ……亜依ちゃん」
気づいた場所は病院の手術室の前
何故か目の前には真希の妹の亜依がいた
「ナ…なんで亜依ちゃんがここにいるの?」
「何言ってるんですか、安倍さんが呼んだんじゃないですか」
正確に言えば、なつみは気を失っていたわけではない
あの凄惨な光景を目の当たりにして極度にぼーっとしていただけなのだ
しかもその精神状態で妹まで呼び出していた
「あ…真希はどうなった?」
「まだ手術室から出てこないんです」
再びなつみの頭にあの光景がフラッシュバックした
頭から血を流す真希を見て、なつみは
“もう二度と真希に会えない”
そんな予感がしたのだ
「大丈夫です、お姉ちゃんはこんな事で死んだりしませんから」
亜依がなつみを勇気付ける
はたから見たら、その年下が年上を勇気付ける光景は明らかにおかしかっただろう
『手術中』のランプが消えた
手術室の扉が開いて中からは執刀医が出てきた
「あの…真希は……」
「大丈夫です、思った以上に傷が浅く、内臓等へのダメージを少なかったので
命に別状はありません、今は麻酔で眠っていますが、直に目も覚めるでしょう」
そういうと医者はスタスタと立ち去って行った
「はぁ…よかったぁ……」
なつみは安堵の声をもらした
「よかったね、真希助かったって」
なつみは亜依に話しかけたが、亜依は俯いたまま答えなかった
「亜依ちゃん?どうしたの……」
なつみは亜依のそばにしゃがみこんで顔を覗きこんだ
するとなつみが見た少女は泣いていた
姉が死なない事に安心して涙腺が緩んでしまったのか
少女の頬を大粒の涙がつたっていく
それを見て、なつみはそっと亜依を抱きしめた
「もう安心して良いよ、真希はどこにも行かないから、ずっと亜依ちゃんのそばにいるから」
その言葉は自分自身にも言い聞かせる様に言った
亜依は十数分なつみの胸の中で泣いた
亜依はまるで母親に抱かれているような安心感を感じた
少女は涙を吹くと「もう大丈夫」と言い
手術室から出ていった真希をのせたベッドを追いかけていった
なつみも亜依に続いて病室へと向った
「もう夜だから今日はおきないかもね」
「そうですね、お姉ちゃんいつもネボスケだから」
真希は二人の心配をよそにスースーと寝息を立てていた
「亜依ちゃん帰らないの?帰るんだったら送って行くけど」
「いえ、今日は看護婦さんにお願いして、泊めてもらいます」
「そう、じゃあなっちは帰るよ」
「はい、今日は色々ありがとうございました」
「いいよ、いいよ、じゃあね」
亜依に別れを告げてなつみは病室を後にした
そしてなつみは初めて知ったある事を考えていた
それは、失うかもしれないと思って初めて気づいた恋心
きっと実らない恋……でもこの愛しいと思う気持ちは止められない
―――なっち、真希のことが好きだったんだぁ
―――なっち初めて気がついたよ
なつみは初めて知ったその思いに苦しめられていた
第3話―定められた運命―
―――急にクラクションの音が頭の中に響いてきて
ふっと横を見るとトラックのライトが眩しくて
自分の身体の感覚がどんどん無くなっていった
―――あぁ、これが「死ぬ」って言う事なんだ
直感的にそう感じた
今まで遠くにあった「死」のイメージが頭の中に浮かんできて
もう駄目なんだな……生きられないんだと…実感した
「オマエハマダ死ヌ運命にナイ、オマエハマダ死ンデハイケナイ」
―――本当に死ぬと思ったとき、そんな声が聞えてきた
その声が、
あたしから「死」のイメージを遠ざけてくれた
真希が目を覚まして起き上がると
何故かベッドのそばの椅子に亜依が座りながら
真希の膝元に寝そべっていた
「亜依、亜依、ちょっと、起きてよ」
真希が起こそうとしても一向に目を覚まさない
「…もう…」
真希はそっと微笑み、自分のかぶっていた毛布を肩にかけてやるとベッドから降りた
部屋の窓から外を見る、その風景の中には公園があった
この病院の入院患者らしい人達も見受けられる
「あの公園行ってもいいのかな」
真希は病室を出ると、その公園に向った
まるで吸い寄せられる様に
真希自身その場所に呼ばれているような気がしたのだ
正確には、その場所にいる誰かに
公園には入院患者やその人たちに付き添っている看護婦の人たちがいた
そして1人…場違いではないが、浮いている女性がいた
―――きっとあたしを呼んだのはこの人だ
真希はそう直感した
真希はゆっくりとその人に歩み寄った
「やっと会えたな」
それがその人の第一声
どこかイントネーションの違う声
真希がはじめて亜依とあった時のような発音
真希も不思議と違和感を感じなかった
「あなたは誰ですか?」
真希は思った事を口にする
「ウチは中澤裕子っちゅう者や」
「……後藤真希です」
真希も名前を名乗った
「まぁ、わかってると思うけど、あんたを呼んだんはウチや
理由は、あんたがまだ死ぬ運命に無いからや」
普通の人には到底理解できない言葉だろう
しかし、何故か真希は素直にその言葉を受けとめる事が出来た
「この夢も直に覚める、それでもあんたの運命は決まってる
また近いうちに「ホントウ」に会うやろ」
真希は最後に思った疑問を聞いて見た
「あなたは何者なんですか」
「ウチか…幽霊や……」
その人がそう言った途端、急に目の前が真っ暗になった
バッと真希が起き上がると、そこは夢の中で見た光景だった
そばに亜依が眠っている、夢と同じように真希は毛布をかけてやる
ベッドから降りて窓から外を見てみた
夢と違うのはその人がそこにいない事だった
「あたしが……まだ死ぬ運命に無い…?」
まきはふだん使わない頭をフル回転させて考えた
―――まだ死ぬ運命に無いから生きている?
って事は既に決まった運命にしたがってあたしが生きているって事だ
もしこれからあたしが恋をしたり、好きな人と結ばれたりしても
それは決められた人で、決められた人生を歩むわけ?
「わかんないなぁ」
真希はもう一度ベッドに横になった
―――じゃあ、今私が亜依を好きだっていうのも決められたことなのかな
そんなのやだ……
突然現われた幽霊、知らされた事実
真希は起きあがり、
亜依の頭をなでてこれからの事を考えてみた
―――あたしはこれから、どこに行くのだろう
第4話―届かない、届けたい思い―
亜依は誰かが頭を触っている感触で目が覚めた
「お…姉ちゃん?」
「ありゃ、起こしちゃったか…」
頭に触れていたのは、亜依の頭を撫でていた真希の手だった
「お姉ちゃん!!」
亜依は眠りから覚めていた真希を見ると、バッと抱きついた
「ど…どうしたの亜依?」
「心配やったんやから!!事故に遭うたって聞いて
あのやぶ医者はすぐに目ぇ覚ますって言うたのに、
何日も眠ってるから心配したんやから」
「ごめん……」
真希はそう言い、自分に抱きついている亜依を抱きしめた
「許さへん……」
亜依が関西弁を使うのは、本当に感情が昂ぶった時だけだ
その話し方を聞いて、真希は本当に心配をかけたと反省した
「どうしたら許してくれる?」
真希はそう問いかけた
亜依は、
「もう少しこのままおらして」
と、答えた
それを聞いて真希はより一層力をこめて亜依を抱きしめた
どのくらいそうしていただろうか
亜依がゆっくり身体を離して「許してあげる」と笑顔でそう言った
その言葉に真希も自然と口元が緩んだ
「あ!」
真希が突然声を上げた
「どうしたの?」
亜依の口調も、もう元に戻っていた
「亜依!今日で事故の日から何日経った?!」
「え…えっと丁度1週間かな…」
「ビデオは?!マリアのビデオテープ!」
「あ、あれ確か安倍さんが……」
「じゃあ早く返さないと!延滞料金って物凄いお金かかるんだから!」
「あ〜あ〜そうだ、安倍さんに連絡しないと!」
さっきまでの雰囲気は一気に吹っ飛んだ
亜依は病室を出てすぐに公衆電話に向かった
―――本当にお姉ちゃんが死ななくてよかった…
きっとお姉ちゃんがいなくなったら、あたしは生きていけない
お姉ちゃんは気づいていないだろうけど
あたしはお姉ちゃんが大好き…
初めてあった時からずっと好き…
姉妹としてではなく、多分恋愛対象として
あたし…このまま思いつづけていいのかな…?
数日後の午前
亜依は検査室の前で姉の検査が終わるのを待っていた
待っている時の時間は長く感じる物だが、以外と早く姉は出てきた
「あ…お姉ちゃん、どうだった?」
真希に問い掛ける
「明日、退院していいって」
「本当に?」
「本当に…」
「やったー!!」
亜依がよろこんではしゃいでいると辺りの人がこちらをにらんだ
「院内は静かにお願いします」と看護婦の人に注意された
「「あ…すいません……」」
「おーす、真希、元気?」
時間が正午を示した辺り、亜依と真希が暇を持て余している時になつみは突然やってきた
「おう、なっち来てくれたんだ?」
「うん、これお見舞い」
なつみの持ってきた籠にはりんごやメロンなどのフルーツ系統がどっさりと入っていた
「ありがとー、って言うかあたし明日退院なんだよね」
「そうなの?じゃあこれ持って帰ろうか?」
「えー、置いて行って下さいよ〜」
冗談で言ったなつみに対して亜依は本気で抗議した
「冗談だよ、冗談」
「なんだ冗談か」
それを聞いて亜依はホッとしたような顔を見せた
「真希、なんか食べる?切ってあげようか?」
「あ、じゃありんご切って、そっちの冷蔵庫の所に包丁とかあるから」
「OK」
なつみは包丁を握るとスイスイなれた手つきでりんごの皮をむき始めた
そして一分とかからぬうちに4分の1に切られたりんごが姿をあらわした
「へぇーなっちって以外と料理上手なんだね」
「そうだよ、ほら、亜依ちゃんも食べれば?」
「は〜い、いただきまーす」
亜依は待ってましたとばかりにりんごに飛びつき
真希と亜依は二人で仲良くりんごを食べていた
「……なっち、どうかした?あたしの顔になんかついてる?さっきからじろじろ見てるけど」
「へ?え、ああ、うん、なっちにはくれないのかなぁって思って」
「あ、ごめん忘れてた」
「いやいいんだけどね」
なつみは小さな嘘をついていた
ただ好きな人の顔に見とれていただけだった
それを隠そうと、些細な嘘をついた
第5話―「生」と「死」―
『あなたは一体何者なんですか?』
『何であたしの夢の中に入ってくるんですか?』
『一体何がしたいのですか?』
―――あれから何度と無く見た夢、何度もその人はあらわれた、あの公園で……
それでもあの人は答えなかった
『時が満ちれば分かる』
―――その人が唯一発した言葉、それだけが目覚めたあたしの頭に残っている言葉だった
退院の日
「あー、やっと家に帰れるね」
亜依が真希に向って話しかけた、でも真希はぼーっとしたまま答えなかった
「?…お姉ちゃん?どうかした?」
「え、いや、なんでもないよ」
「本当になんでもない?」
「なんでもないって」
「…ならいいけど」
「……ねぇ、亜依先に帰っててよ、あたしよる所があるんだ」
「え?どこ?お買い物?何でもいいけど亜依もついていくよ」
「いいから、先帰ってて」
真希は少し語調を強めて言った
「早く帰ってきてよ……」
亜依は寂しそうにそう言うと一人で帰っていった
真希は亜依が帰るのを見送ると、すぐさまあの公園に歩き出した
―――今日現実にその人に会える
なんの根拠もなく真希はそう確信していた
きっと本能的に何かを感じているのだろう
夢で見るいつもの場所にやはりその人はいた
金髪に青いカラーコンタクトに銀色の派手なピアス
夢であった“中澤さん”そのままだった
「やっと会えました」
「ああ、待っとったで」
夢では何度も会ったが、本当にする初めての会話
「教えてもらえますか、夢で言ったこと全部」
「ああ、ええで」
中澤は一呼吸置くと説明し始めた
「あんたは事故に遭うた、でもそれはこの世界からしたら予想外の事なんや、
あんたはあそこで事故に遭うはずやなかった」
「それって、あたしがどう生きてどう死ぬか決まってるって事?」
「そうや、人の生き死にはウチらの天使界では決まってる事や」
「…………………」
「次にまだあんたは生きてるけど長くはもたん、魂が抜けかけてるんや」
「魂……」
「ええか?人の死には二種類ある1つが『肉体の死』や
文字通り肉体を傷つける事でなる死に方や」
「……」
「もう1つが魂の死、これは主に寿命やけど、
あんたは事故に遭ったせいで仮死状態になった、
その時一回魂が抜けたんや、つまり事実上あんたは一回死んでるんや」
「なんや、普通はもっと取り乱すもんやケドな、あんたは話やすいわ、
えー、つまりやな、その時ももう一回抜けた魂を吹き込んだんやけど、
魂が相当なダメージを受けてる、だからあんたはもうすぐ死んでまうんや」
「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど、」
「なんや?」
「どう生きてどう死ぬか決まってるって言ってたけど
それは誰が決めてるの?」
「誰が決めたのかはウチには分からん下っぱやからな」
「じゃあ、あたしはいつ死ぬの?」
真希は自分の死にも驚きの表情を見せず、そのままを受けとめていた
「だいたい後二ヶ月って所やな、その間のあんたの行動にもよるけど」
「あたし、もう生きられないの…?」
「…………後二ヶ月やて」
「生きられないんだ………………」
真希は初めて表情を変えた、さっきまでの無表情とは違う
「ただ、まだ助かる方法があるんや、奇跡に近い事やケドな」
中澤のその言葉に、真希は中澤の顔を見た
「これができたらホンマに奇跡や……
ええか、今あんたの周りにおる近しい人物で今あんたに惚れてる人、
その人を幸せにしてみる事が条件や、それで、大天使様が新しい命を与えてくださる」
―――大天使……そんな人がいるのか…でも…なんであたしはそんなチャンスをもらえたのだろう
「ちょっと聞かせて欲しいんだ、なんであたしにそんなチャンスがあるの?
あたしの死が予想外の事だったから?」
「違う、あんたの周りにおる人のためや、今あんたが死ねば、周りの人全員が不幸になる
だからあんたの死は作られへんかったんや」
「……分かった、教えてくれてありがとう」
「なんか困った事があったらあたしのところに来ィ、できる事なら、力になるから」
―――15年と八ヶ月、あたしは「生」に対してなんの疑問も持たずに生きてきた
きっとこれまでも「幽霊、天使」と名乗る人たちの施しを受けてきたのだろう
それはきっと『運命』の名の元に行なわれてきた事なんだ
あたしは生きなければならないの?
『死にたくない』……普通の人が当たり前に思うことだ
でも今のあたしは『生きたい』とも思わない
『運命』なんて言葉に支配された人生、生きたいと思う人はいるのかな
「ただいま」
「「おかえりー」」
真希が家に帰ると、何故かなつみと亜依の二人が出迎えた
「あれ?なんでなっちがいんの?」
真希が当然思った事に対してなつみは笑いながら
「マリアのテープ借りてきたから一緒に見ようと思って」
と答えた
真希はその言葉に憎まれ口を叩きながら二人の間に座った
「なっちも子供じゃないんだからさ、ビデオぐらい一人で見れないのー?」
「べつにいいべさ!みんなで見る方がたのしいっしょ?」
「なっち、訛ってるよ」「安倍さん訛ってますよ」
なつみは二人の的確なツッコミにもめげず、
「さぁ!早く見よ!」
と強引に会話を戻した
―――やっぱり生きたい
例え決まっている人生でも、こんな楽しい事、生きてなきゃ味わえないから
ねぇ、なっち、もしあたしが死んだら、亜依の事面倒見てくれる?
ねぇ、亜依、もしあたしが死んだら1人で生きていける?
無理だよね……
あたし、生きて見せるよ、絶対に……絶対に……
6話―束の間の日常―
翌日、
戻ってきた日常は騒々しく始まった
「お姉ちゃーん!早く起きろー!今日から学校だー!!」
布団に入って眠っている真希にまたがって亜依はそう叫んだ
「お姉ちゃん今日も休むよ……一日二日休み増えたって変わんないし」
寝ぼけ眼の姉はそう言った
真希はあの幽霊に言われた事を考えていたせいで眠れなかった
つまりは睡眠不足なのだ
「お姉ちゃんが学校休むのは勝手だけど、亜依の朝ご飯とお弁当!作ってもらわないと困るんだけど」
―――そうだった、いつも朝ご飯はあたしが作ってたんだった……入院中はよかったのに……
「ほら!早く起きてよ!」
妹に急かされしぶしぶ起き上がった真希は「顔洗ってくる」と言って洗面所に向った
亜依はというと、その間に制服に着替え、学校の準備をしていた
「まだ戻ってきてない……?」
姉がいつまでたっても戻ってこないので亜依は洗面所に向った
「……zzzzz」
器用にも、姉は立ったまま壁に寄りかかって眠っていた
「お姉ちゃん!!眠ってる場合じゃないでしょ!!」
真希はビクッ!として眠りから覚めた
「うわー、びっくりさせないでよー」
「お姉ちゃんが寝てるからでしょ!」
……正論……
「いやー、顔洗ってたら水泳選手が襲ってきてさ……」
「すいえいせんしゅうぅ?」
「水泳選手が……スイマーが……睡魔が…zzzzz」
「こら!寝るなって言うてるやろ!」
・
・
・
その後真希はすっかり目を覚まし、朝ご飯を作っていた
「まだぁ?」
「はいはい、もうできたよ」
真希は亜依の朝ご飯を机の上に置くと、今度は二人分の弁当を作り始めた
亜依は朝ご飯を食べながらTVを見ていた
「お姉ちゃん!今日みずがめ座一位だよ!うわーなんかいい事あるかも」
「あたしのは?」
「うーん、おとめ座は九位だって」
「うわ、微妙だね、こりゃまた」
・
・
・
弁当を作り終えた真希はサッサとご飯を済ませ、
適当に教科書と弁当箱をリュックに詰めると亜依と一緒に部屋を出た
部屋に鍵をかけスタスタと歩き出す
と、アパートの廊下で隣の部屋の人と出くわした
「おはよう」
「あ、おはようございます石黒さん」
「昨日退院したんだっけ?大変だねぇ」
「ええ、入院中は部屋の留守番ありがとうございました」
「いいのよ、今から学校でしょ?いってらっしゃい」
「はい、いってきます」
真希達二人の住んでいるアパートは親戚経営の物で隣近所に住んでいる人たちも
よく真希たちの面倒を見てくれた、
特に隣の部屋の石黒はよく食べ物や着る物など色々世話を焼いてくれるのだ
真希も石黒には感謝をしていた
カンカンカン
歩くと音のする階段を降りて行き
自転車置き場へ歩いていく
そこには去年亜依にせがまれて真希が買ったマウンテンバイクが置いてある
真希が自転車にまたがると亜依は後輪に取り付けてある六角に飛び乗った
「行くぞ、亜依!」
「おう!」
真希が力強くペダルをこぎだすとマウンテンバイクは発進した
細い道を颯爽と自転車が駆けぬけていくと大通りに飛び出した
大通りに出ると北上し始めたが再び細い裏通りに入った
二人は通学時、いつもこの道を通った、理由は人通りが少なくスピードを出せるからだ
「お姉ちゃん2分オーバーだよ」
「うそ、やばいじゃん」
亜依は携帯電話の時計を見て予定より二分遅れている事を姉に報告する
「飛ばすよ、亜依!」
遅刻の危険を感じた真希はさっきよりも更に力をこめてペダルを漕ぎ出す
長いストレートやS字コーナー、
急なカーブも通りぬけて通学最後の難関がやってきた
それは学校の裏手にある大きく急な上り坂
「亜依、降りて!」
「OK!」
亜依と真希は自転車を一時的に降りてその急な坂を走って登り始める
亜依はともかく真希は自転車を支えながら走りにくそうに走る
50m程の坂を登り終えると再び自転車にまたがる
何も言わずに亜依も六角に飛び乗る
今度はさっきと同じぐらい急で同じぐらいの長さの下り坂
「「ィィィィィイヤッホー!!!」」
大声を出して坂を猛スピードで下って行く
坂を下り終えても、その勢いを残したまま裏通りを抜けた
ようやく二人の通う学園の門が見えた
「亜依、時間は?」
「ギリギリセーフかな」
途中の道を飛ばしたおかげでどうにか遅刻せずに済んだ二人
門の前で自転車を止めると亜依が六角から飛び降りる
「じゃあね」
亜依はそういうと中等部の校舎へ歩いて行った
一人になった真希は自転車置き場へ自転車を置きに行く
遅刻せずに済んだ安心感からか再び眠たくなってきた
昨日の睡眠時間は約3時間、眠たくもなるはずだ
真希はとりあえず高等部の自分の教室に向った
「おはよーごっちん、久しぶり」
教室に入って、自分の席に座ると隣にいる吉澤ひとみが話しかけてくる
「なんか今日はいつもに増して眠そうだね」
「分かる?あんま寝てないんだよね」
ひとみは真希が入院していた事を知らないのか普通に対応していた
「あたしこれから寝るからさ、ちょっとの間寝かしといてよ」
「うん、いいよ」
真希は机にうつ伏せると、眠りの世界におちて行った
七話―束の間の日常2―後藤真希―
―――1時間目は先生が気付いていなかったのか
気付いていて無視したのか知らないが起こされる事はなかった
しかし2時間目は先生に気付かれ起こされてしまった
その先生というのが……あの、恐怖のイングリッシュケメコだったんだ
「こら!後藤!起きろ!」
保田は持っていた黒い出席簿で真希の頭を叩いた
「んぁ?」
「んぁ?……じゃない!授業中に眠る奴がいるか!」
「いるじゃん…ここに…zzzzz」
「だから寝るな!!」
保田は再び出席簿で真希の頭を叩いた
「うっさいな!なに?後藤になんか用?!」
真希は安眠を妨げられ逆ギレ状態で保田に怒鳴った
「だから授業中に寝るな!そもそも夜ちゃんと寝ていれば学校で眠たくなるはずないでしょ!それに後藤……」
保田先生お得意の長説教
―――このままじゃ寝れない
真希はそう感じ、大きな行動に出た
バン!!
真希は机を叩いて大きな音を出して立ち上がった
驚いたのか保田は2歩程後ずさる
「な……なんだ後藤?……」
「気分悪いので保健室で寝てきます」
「は…はぁ?」
真希はリュックを背負うと教室の出入り口に向かって歩き出した
「待て!まだ話しは終ってない!」
ガラガラ…バン!!
真希は教室の外へ出ていった
「ったく、しかたない、じゃあ授業始めます」
保田は出て行った真希を諦め授業を始めた
「ふぇー、うるさいよあの先生」
独り言を呟きながら真希は廊下を進んで行った
目的地は真希がいつも昼寝に使う保健室
あそこほど眠れる場所はないと真希は思っている
ガラララ
保健室には、丁度よくベッドも空いており保健の先生もいなかった
真希はリュックを置いてベッドに滑りこむと即座に眠る態勢に入った
〜♪
メールの着信音が静かな保健室に流れる
ポケットから携帯を取り出し、今届いたメールの内容を画面に表示させる
メールの差し出し人はなつみだった
『おっす、真希起きてる?なっちは今日寝坊しちゃった。
てへはあとはあと。でさ、今日もマリア持ってくから一緒に見よ』
なつみにしては短い文章だと真希は思った
メールを打ち返そうと真希はいろいろボタンを押していくが
再び強烈な睡魔が襲いかかってきて、真希はメールを打つのを途中で止めて携帯をしまってしまった
「…………zzzzzzz」
真希は既に眠りに入っていた
・
・
・
熟睡して目を覚ましたのは12時半頃だった
真希が起きてまずしたのはメールの返信
『マリア……別にいいよ、って言うか今からお昼休みじゃん?一緒に屋上でお弁当食べない?』
メールを送ってから数分、なつみからの返事が届いた
『わかった屋上で待っててよ』
なつみからの返事をもらい、真希はリュックを背負うと保健室を出ていく
眠気が完全に飛んで、真希は普段の調子を取り戻し始めていた
屋上に着いた真希は日陰になっているところを陣取りなつみを待った
束の間の日常2―加護亜依―
教室で自分の席についた亜依は普段通りに一時間目の授業の準備をはじめていた
「あいぼん、あいぼん」
「ん、なんや?のの」
後ろの席の辻希美が話し掛けてきたので亜依は身体を後ろに向けた
「今日転校生が来るらしいれすよ」
「え?そうなん?」
初耳だった亜依は驚きの表情を見せた
「あいぼん、やすんでたからしらないのれす」
「ふ〜ん、転校生なぁ……」
亜依はいつも家にいる時は標準語で話す
でも学校にいる時、特に仲のいい友達と話すときは関西弁である
だから家で関西弁を使う事があるとすればかなりてんパっている時と考えてもよい
「あいぼん、がっこうやすんでなにしてたんれすか?」
「ん、ああ、ちょっとな……まぁ、大した事ちゃうんやけど、ええやんそんなこと」
「あ、せんせいきたのれす」
辻の言葉でバッと前を向く
「えー、みんなおはよう、今日は前から言っていた転校生を紹介する、松浦さん、入って」
先生の言葉に“松浦さん”と呼ばれた人が教室に入ってくる
「初めまして、松浦亜弥です、えっと、あたしはこの間まで入院していて学校にこれませんでした
一年ぐらい入院してやっと学校に来れるようになりました
そのせいで本当はみんなよりもひとつ年上なんですが
気軽にタメ口で話してください、よろしくお願いします」
その少女は亜依が思うには“すごくカワイイ”子だった
茶色に染めた髪、パッチリ開いた目、その全てが印象的で亜依はしばらく彼女に見とれていた
「じゃあ、あそこの後ろから2番目の席に座って」
「はい」
亜依はその子の席が自分の隣になった事にも気付かず、その子が席についた後も彼女を見つめていた
ふと、彼女と目が合った、ずっと見ていた亜依の視線を感じ、彼女が亜依のほうを振り向いたのだ
亜依は慌てて視線をそらす、すると彼女が「よろしく」といってきたので
亜依も「よ、よろしく」と返した
・
・
・
・
「へぇ、あいぼん関西弁しゃべれるんだね」
「うん、小さい頃は奈良に住んどったから」
一時間目終了後、最初にしゃべった事もあって二人は仲良くなっていた
「でも亜弥ちゃんでないね、関西弁」
「でしょ?こっちの暮らしが長くて忘れちゃった」
亜依と亜弥は気が合った
元々同じ関西人だし、年もひとつしか違わなかったのがその理由だろう
「なんか初めて会った気がしないね」
「そうやな、いい友達になれそうやな」
授業の間の休み時間はずっと二人で他愛のない話をしていた
何ともない会話だが、今日会った二人とは思えないほど話しは弾んだ
「あ、お昼一緒に食べよっか?」
「うん、いいよ」
昼休みのお弁当の時間
二人は正面に向かい合う様に机をくっつける
「あいぼんって、自分でお弁当作るの?」
「ううん、お姉ちゃんが作ってくれる」
「あ、お姉ちゃんいるんだ」
「うん、めっちゃ優しいで」
「ふーん、今度会ってみたいな」
・
・
・
「ねぇ、その卵焼きちょうだい」
「じゃあ、そっちのから揚げくれる?」
「いいよいいよ、交換交換♪」
・
・
・
お弁当を食べ終わり、また二人でしゃべり始める
「あたしさー、ここへの編入いきなり決まったからこの辺りの事よく知らないんだよね」
「そうなん?」
「うん、だからこの辺り色々案内してもらえるとうれしいなー」
「ええで、案内するぐらい」
「本当?!じゃあ行こう!」
「え?まだ学校終わってへんやんか」
「そんなのいいじゃん、一日二日サボったって大した事ないよ」
「あるよ!成績下がったらお姉ちゃんに叱られるんだから!」
「えー?つまんなーい……あ、そうだ、じゃあ手をお腹に当ててちょっとかがんで」
「え?こう?」
亜依は言われたままの姿勢をとる
「え?あいぼんお腹痛いの?!大変だ!すぐ帰ったほうがいいよ!あ、あたしついて行ってあげるから!」
「え?え?え?」
亜依は大声でしゃべる亜弥の行動が理解できずに疑問符をあげる
「(ほら、早く鞄持って)」
亜弥が小声で話す
―――あ、芝居か……筋書きは多分あたしがお腹痛いから帰る、で亜弥ちゃんはあたしに付き添ってくれると
亜依は亜弥に背中を押され教室を出る、そしてそのまま学校を出ていった
「亜弥ちゃん!言うてくれんと分からへんやんか!」
「まぁまぁ、でもこれで"成績"は下がらないでしょ、ちゃんとみんなに聞こえるように言ったから」
―――はぁ、亜弥ちゃんってよう分からへん
「ほら、早く行こ!なんか楽しい場所!案内してくれるんでしょ?」
「あ、うん……よし!乗りかかった船や!どっか行こ!」
「おう!行こう!!」
半ば亜弥の強制で二人はお昼の街に遊びに出かけた
束の間の日常2―安倍なつみ―
ピピピピ!ピピピピ!ピピピピ!
ジリリリリ!ジリリリリ!ジリリリリ!
ピリリリリ!ピリリリリ!ピリリリリ!
ジリリン!ジリリン!ジリリン!ジリリン!
マンションの一室で十数個の目覚しが鳴り響いていた
枕元でそれだけの騒音が鳴っているにもかかわらずその部屋の主は眠りこけていた
ピピピピ!ピピピピ!ピピピ……
だん!だん!だん!だん!だん!だん!だん!だん!だん!だん!だん!だん!
時計が鳴り始めて5分後、ようやくその部屋の主である少女が
時計の頭についている、ボタンをだんだんと叩いて音を止めていく
彼女がやっと目を覚ました、
そう、この少女の名は、安倍なつみ
「はぁー眠たいよー、なんで学校なんかあるんだろう」
当たり前の事ながら、昨日早く眠っていれば気分爽快で目覚められるのだ
眠くてしかたがないのは、マリアを真希の家で見た後、帰ってすぐ寝なかったからだ
ベッドに入ったままのなつみは、丁度良い感じにまどろんできて再びうとうとし始めた
〜♪
枕元の携帯がなっている
まどろみの中から引きずり出され、なつみは携帯を取ってディスプレイも見ず通話ボタンを押した
「もしもし、だれ?」
「ん?矢口だよ、なっち何してんの?」
「別に……特に何もしてないよ……」
「あたし今日なっちと一緒に学校行こうと思ってなっちのマンションの下で待ってるんだけど」
「……別に一緒に行くのはいいけどさ、早過ぎない?まだ7時じゃん……」
「はぁ?何いってんの?もう8時じゃん」
「へー、あ、そうなんだ、もう8時なんだ……」
「……」
「……………8時?!」
なつみはバッと置き上がり時計を見た、確かに短針は8を指していた
「うそぉ!?」
なつみは矢口と時計を疑った、矢口が嘘をついているだけなら時計が8時になっているのはオカシイ
時計が電池の消耗か何かで時間がずれたにしても十数個もある時計がいっせいに狂うはずがない
なつみは本当に8時だと認識した
「なんで8時なんだよぉ!時間セットしまちがえたかなー?」
なつみは勘違いをしていた
一度目覚しがなったのは7時、そのままベッドの中で数分しか経っていないと考えているが
本当は二度寝をしてしまい矢口からの電話の着信音で再び目を覚ましたのだった
「ちょっ、矢口待ってて!すぐ仕度するから!」
「え?今から仕度すんの?!」
プツッ
電話を切った
顔を洗い、服を着替え、メイクをして、冷蔵庫の中からコンビニのおにぎりとお茶のペットボトルを取り出す
鮭おにぎりを口につめこんでお茶で流し込む
ドンドン!
喉に詰まったのか胸をドンドンと叩いて、もう一度お茶を飲む
準備が完了して鞄を持って外に出る
「あ、携帯忘れた」
携帯電話をさっき枕元に置きっぱなしだったので一度取りに戻る
「あったあった、」
携帯をポケットにしまって外に出る
鍵を閉めようとポケットをあさるが鍵が出てこない
「あ、鍵忘れた」
今度は鍵を忘れ、再び部屋の中に戻る
「よし、今度こそOK」
やっと完璧に準備ができ、家を出てエレベータを使って下に下りる
「矢口ごめーん」
「あ、ねぇ、もしかしてなっち寝てた?」
「うん、矢口からの電話なかったらヤバかったよ」
「どーでもいいけどさ、なっち5分で準備できるの?」
「まぁね」
学校へは歩いて20分程、たった5分で準備した事もあって授業開始時刻には余裕だった
「なっち、なんか良い事でもあった?」
「え?なんで?」
「この前と全然顔違うよ、何日か前まで世界の終わりみたいな顔してたよ」
「え?そう?」
「そうだよ、なんかあったでしょ?」
「別に大した事じゃないんだけどさ、真希がね、昨日やっと退院したの」
「……え?そんだけ?」
「うん、それだけ」
マンションの下でなつみを待っていたのはなつみのクラスメイト、矢口真里
真希よりは付き合いが長いのだが、なつみにとっては真希の次に大事な親友だ
教室についたなつみは、自分の席についた後、携帯をポケットから取り出す
メールの着信はなかったのでポケットにしまうが、
―――真希にメールでも打とうか……
そう考え、もう一度携帯を取りだした
慣れた手つきで1〜0のボタンを押して文章を作っていく
―――明後日日曜日だし、遊びにでも誘おうかな
「おーい、なっち」
「ん?なに?」
矢口が話し掛けてきたので文章を保存して一度携帯を閉じる
「今度の日曜遊びに行かない?」
「へ?!」
「何?あ、もうなんか予定入ってる?」
「ううん、今は何も……」
―――今から入るところだったけど
「矢口見たい映画あるんだよね、なんだっけ、あの魔法学校のやつ」
「ハリーポッター?」
「そうそう、それ、あ、言っとくけど、秘密の部屋じゃなくて、賢者の石の方ね」
「ん?まだやってんの?そっち」
「普通にはやってないんだけど、矢口の知ってる映画館でリバイバルやってるんだ」
「ふーん」
ガラガラ
話の途中だったのだが先生がやってきてしまった
「あ、じゃあまた後でね」
側に来ていた矢口は自分の席に戻った
―――1時間目が終わった後も矢口は話しかけてきた
「ねぇねぇ、映画見終わったらさ、お昼食べてどっか遊びに行こう?
でさ、矢口この前面白い店見つけたんだけど―――」
なんだか矢口がすごいはしゃいでる様に見えた
いつもよりテンションの高い矢口に合わせて「うん」「OK」等と相槌をうってこの休み時間も終わった
二時間目の授業が始まり、すっかり出し忘れたメールを送った
その日は珍しく真希からの返事が遅かった
なつみの携帯が振動でメールの着信を知らせたのはお昼休みまで後数分というところだった
お昼の誘いがあったのでOKの返事をした
―――あ、そうだ、今日お弁当作る時間なかったから、
購買部でパン買って来なきゃ……
8話―午後の日常―後藤真希―安倍なつみ―
「まだかなー」
なつみを待っていた真希は既にリュックからお弁当も取りだし準備万端、しかしなつみはまだ来ない
「先食っちゃうぞー」
真希が来てそれから15分ほど後、ようやくなつみがやってきた
「あれー、真希どこだー?」
―――はぁ?こんな時に見えないフリとか止めてよ…今完璧に視界に入ったじゃない…
正面にいる真希になつみはまるで気付かない、それこそ視界には入ったものの真希に焦点は合わなかった
“ちょっと、いい加減に”、真希はそう発しようとした、が、声は出なかった
その瞬間、真希の体を激痛がを襲った
―――何…これ?…
急に全身を駈け巡る痛み、真希は全身をコンクリートに打ちつけたような痛みを覚える
痛みは特に頭が酷く、真希は片手で頭を抑えた
(二日酔い+インフルエンザ)×100
そんな公式が真希の頭の中には浮かんだ
激痛に体の自由を奪われ真希の膝に上に乗っていたお弁当箱が屋上の床に落ちる
真希はあまりの痛さに気を失いそうにもなる、しかし
「あれ、真希さっきからココにいた?」
なつみに声を掛けられた瞬間、今までのそれが嘘の様に急に痛みは飛んだ
―――なんなんだろ…今の感覚……
「真希、何か顔青いけど大丈夫?」
「え?ああ、大丈夫」
近づいてきていたなつみに気付き、とりあえず返事をした
―――今の感覚って…まさかあの幽霊の人が言ってた……
・
・
・
なつみとのお弁当タイムが始まり、なつみは楽しくお弁当を食べながら話をしていたが真希は一人考えこんでいた
―――魂が抜ける感じってあんな感じなのかな…それとも違うのかな……
一人考えこむ真希をよそになつみは1人で話しを進めて行く
「今日さ、メールでも書いたけど寝坊しちゃってさ、お弁当作る時間なかったんだ」
―――でも、さっきのは痛いだけで、魂が抜けるって言うのとは違う感じがするんだよな……
「真希、なっちの話ちゃんと聞いてるべか?」
「んぁ?ああ、ちゃんと聞いてるよ」
「ホントに?」
「ホントだって、寝坊しちゃってお弁当作れなかったんでしょ?」
「…ちゃんと聞いてるか…でさ、購買部混んでてさー、中々パン買えなかったの」
真希はとりあえず考え事は後回しにして、会話に専念することにした
別に話しは聞いていなかったわけじゃないので、すぐに会話には入っていけた
そしてお弁当も食べ終わった頃、なつみが新たな話しを振ってきた
「真希、明日に遊びに行かない?」
「ふぇ?」
いきなり振られた話しに真希は素っ頓狂な声をあげる
「いや、ホントは明後日の日曜にしようと思ったんだけど、
矢口が『なっち、明日映画見よ!』とか言うからさ、明後日しか空いてなくて、」
なつみは真希が聞いてもいないことをせせこましく話す
真希は別に断る理由もないのですぐにOKの返事をする
「うん、別に良いよ」
「ホントに?じゃあ、明日どこに行くとか考えとくよ」
キーンコーンカーンコーン
学校のチャイムのおとが学校中に鳴り響く、昼休み終了の合図
「鳴っちゃった…あ、後今日もマリア見に行くから」
「わかった」
―――なっちなんか変…
真希は少しなつみの様子がおかしいとは思ったが特に突っ込みはしなかった
「じゃあまた夜に真希の家に行くよ」
「うんOK」
昼休みの終わりに、二人はそう言って別れた
「さて、昼からは真面目に授業受けようかな」
真希は独り言を呟くと、リュックを背負って校舎の中に戻って行った
・
・
・
下校時間になり、真希は特にする事もなくいつもと同じように帰ろうとした
いつもは、自転車置き場で待っている亜依と一緒に帰るのだが、今日は少し違った
真希が高等部校舎の玄関にある自分の靴箱を開けると自分の靴以外に封筒が入っているの事に気が付いた
「何だこれ?」
真希は不思議に思い宛名を見る
『後藤真希様』
「あたし宛てか、何だろう?」
真希はその場で封筒を空け中身を確認する
「なんか、剃刀とか入ってたら嫌だな……お、手紙だ…何々……
『今日の放課後、午後4時に高等部校舎裏でお待ちしてます…中等部3年、高橋愛』誰だよ?」
聞き覚えのない差し出し人、無視するわけにも行かず、とりあえず校舎裏に向かう事にした
「あ、そうだ」
真希はポケットから携帯を取り出すとどこかへ電話を掛ける
「もしもし、亜依」
『ん、何?』
「あたしさ、誰かから呼び出されちゃってさ、すぐ帰れるかどうかわからないんだ」
『いいよ、今友達の家だし、帰れるんだったら電話して?』
「OK、じゃあ、ちょっと待っててね」
プツ
真希は電話を切った後携帯のディスプレイに表示される時間を見てみた
3:48
「そろそろ行くか」
真希は呼び出された時間が近いので校舎裏へ向かう事にした
その場所に向かうと1人の少女がいた
サラサラのショートヘア、パッチリと開いた目
真希とは違う中等部の制服に身を包んでいた
「あなたが……っと、……高橋愛ちゃん?」
真希は手紙の中の差し出し人の名前を確認して聞いた
「はい、そうです、いきなり呼び出したりしてすいません」
「いいよ別に…で、何かな?」
「えっと、あたし前から、後藤先輩の事が好きでした!付き合ってください!」
真希は驚いた
校舎裏に呼び出された時点でまさかとは思っていたが本当にそうとは思わなかった
「あの……駄目ですか?」
真希がずっと黙っているので愛は返答を尋ねた
「あ、ああ……」
真希は驚きのあまり声もまともに出なかった
「……やっぱり、女同士とか、気持ち悪いですよね?……すいません」
愛はそのまま帰ろうとしたので真希は慌ててひきとめる
「あ!違う!そうじゃないの!」
愛が立ち止まって話を聞いてくれる態勢に入ったので
まずは愛の言っていた事で間違っていた事を否定する
「あの、あたしそういう事には偏見ないんだ。どっちかって言うとあたしも…そう、同性……愛者、だし」
真希は何を言おうか考えながら言葉を並べていく
「それじゃあ…」
「でも!」
真希は愛に出来るだけ期待を抱かせない様に喋る
「あたし、今好きな人がいるんだ。愛ちゃん以外に」
「……そう、ですか……」
そのがっかりした様子を見た真希は予定に入っていない言葉を喋り出す
真希は優しく、ただその子を悲しませたくなかった
「愛ちゃんはあたしの事よく知ってるかもしれないけど、あたしは愛ちゃんの事全然知らないんだ。
……でも、もし愛ちゃんがあたしを今あたしの好きな人から振り向かせて見せるって言うなら…別に良いよ」
愛はそれを聞くとパッと花が咲いた様な笑顔になった
「ホントですか?」
「自信ある?」
「あります!絶対、後藤先輩を今好きな人から振り向かせて見せます」
「そう、じゃあ、頑張ってみなよ」
―――優しさから…彼女の悲しい顔を見たくないから、あたしはそう言った
でもこれが原因で、あたしはより酷く壊れる事になる
きっかけは別の事、でもこれがなければ、未来はもっと別の形を迎えていたのかも知れない
もっと違った…未来が……
加護亜依
「桃色の片思うぃ♪恋してる♪」
「Yeah!メッチャホリディ♪」
「ハシャイじゃぁってよいのかな♪」
「亜弥ちゃん、そろそろ代わってーやー」
今二人がいるのは真昼間から営業している近所のカラオケ屋。
「えー、あと3曲待ってよ、あと少しじゃん」
「イヤや、さっきから何曲連続で歌ってんの?ウチまだ2、3曲しか歌ってへんで」
カラオケでは亜弥はほとんどマイクを離さず、自分のレパートリーを歌い上げていた
「だってもう予約入っちゃってるもん」
「じゃあ、それだけ歌ったら代わってや」
「OK」
・
・
・
「はぁー……」
カラオケを出た後、亜依は大きなため息をついた
結局亜弥はあの後1曲だけ代わったものの、その後すぐに復帰してその後はマイクを離さなかった
「ごめんねー、あたしマイクとか鏡とかあると性格変わっちゃうらしいんだ」
亜依は“なるほど”とは言えなかった、あまりにも似合いすぎて
「もうええよ、次はどこ行く?」
ゲーセン、カラオケ、近くにある娯楽の場所へはもう行った
亜依は次はどこが言いか亜弥に聞いてみた
「うーん、もう良いかな、そうだあたしの家この近くなんだ、良かったら来ない?お茶ぐらい出すよ」
亜依も次に行く場所が特に思いかばなかったのでお邪魔することにした
「さぁ、入って入って」
「はーい、お邪魔しまーす」
「じゃますんのやったら帰ってー」
「あいよー、ってなんでやねん」
近畿地方ではまだ通じる吉本ギャグをかわしながら二人は家に入った
「うわー、広っ!ココ1人で住んでんの?」
ザッと3LDK、亜依は自分の部屋と比べるのも馬鹿馬鹿しく思った
「うん、このマンションの持主さんがね、えと、お母さんの従姉妹の夫の母親のはとこかなんかなんだって」
「遠っ!」
あまり近くない親戚だと亜依は思った
「そこ座ってて」
そう言われ、亜依はリビングのソファに座る
そして数分、紅茶をもって亜弥がキッチンから戻ってきた
「はい」
そう言って亜弥が紅茶とクッキーをすすめる
「あ、ありがと、いただきます」
亜依はクッキーを食べて紅茶を飲む
何か話そうとしたが話題が見つからずそのままクッキーを食べ「おいしいよ」等と言っていた
亜依は何か違和感を感じた
ふと亜弥の顔を見ると目が合った
ずっと亜弥が亜依の事を見ていたからだ
「ん、どうかした?」
不思議に思って問いかけて見た
「亜依ちゃんってカワイイよね」
「へ?」
亜依はいきなり何を言い出すんだばかりに素っ頓狂な声を出した
「亜依ちゃんって好きな子とかいるの?」
「んぇ?いないよ」
何が聞きたいのか分からないまま亜依は質問に答える
「あたし亜依ちゃんの事好きなんだ」
「はぁ?!」
亜依は驚きの声を出した
「今日初めてあった時にビリビリって来た、ヒトメボレかな」
「……」
亜依はもう驚きで声も出なくなっていた
そして次の瞬間、亜依はソファに押し倒された
「ちょ…!」
それを拒む様に声を出したが聞く耳を持たなかった
だんだんと亜依の顔に亜弥の顔が近づいてくる
「キスしたい……」
そう言って亜弥はドンドン顔を近づけてくる
亜依は逃げようとしても肩を抑えられているので逃げられない
そして唇が振れるまで後2、3cm
〜♪
その唇が触れるか否かの瞬間に亜依の携帯の着メロが鳴った
その音に我に返ったのか亜弥の動きが止まる
亜弥はゆっくり抑えていた亜依の肩から手をどけて亜依の上から自分の身体をどけると「出れば?」と言った
亜依は急いでポケットから携帯を取り出すと通話ボタンを押した
『もしもし、亜依』
「ん、何?」
『あたしさ、誰かから呼び出されちゃってさ、すぐ帰れるかどうかわからないんだ』
「いいよ、今友達の家だし、帰れるんだったら電話して?」
『OK、じゃあ、ちょっと待っててね』
プツ
姉からの電話はすぐに切れた
亜依はさっきキスされかけた事を考えて、何も言い出せなかった
数十秒ほどその部屋には沈黙が流れた
外は「物干し竿売り」の車が通っているらしく、その部屋の沈黙をほんの少しだけ和らげていた
「ごめん」
ようやく亜弥が口を開き、その場の沈黙が消えた
「いや、別に…」
亜依はどう返して言いか分からず口篭もってしまう
「あの…さっきも言ったけど、あたし亜依ちゃんの事好きなんだ。だからキスしたいとか思うし、
色んな所遊びに行きたいとか思うんだけど……あたし感情表現ってどうやれば良いのか分からないんだ
好きな子が目の前にいても何話して良いかわかんなくて…」
亜弥はほぼ一年入院していた。そのせいで同じ年頃の友達をなくしてしまって、どうや他人と接して良いか分からなくなってしまったのだ
亜依は自分には好きな人がいる事などとうの昔に理解している
真希が好きだと、でも真希は自分に気があるとは気付いていない。このまま亜弥と付き合ってしまえば丁度姉の事も忘れられて良いのかもしれない
そう亜依は考えた
「……ウチ、今は亜弥ちゃんの事なんとも思ってへん、ただの友達と思ってる。だからさっきみたくキスされても拒むし
……でも、これからは好きになれるかも知らん」
―――この言葉は亜弥ちゃんに失礼なのかもしれない
あたしは好きな人を忘れるために亜弥ちゃんを利用してるだけかもしれない
もしかしたら可哀想と思ったのかもしれない
感情を、スキという感情を持っているにもかかわらず、上手く伝える事が出来ない亜弥ちゃんを……
ウチ、このままでええんやろうか?
「ホントに?」
「亜弥ちゃんのこと好きになるかどうかはわからんで」
「あたしの魅力に気づかせてあげる!絶対に好きになってもらうんだから!」
子供のような笑顔を浮かべる亜弥を見て亜依はひとまず安心した
それから数分後、亜依の携帯に真希から電話がかかってきた
そして、亜依は亜弥に「また、遊ぼう」と言い真希が待っている学校へ向かった
to
be
continued
ForeverKiss
9話―午後の日常2―後藤真希―加護亜依―
真希は愛と別れた後、校門の前で亜依を待っていた
「お姉ちゃーん!」
遠くから亜依が走ってくるのが見えて真希はマウンテンバイクのスタンドを上げる
「お待たせ」
「いや、そんなに待ってないよ、早かったじゃん、辻ん所行ってたにしては」
「ん、今日はののの所じゃないよ」
「え?違うの?」
亜依が友達の家に遊びに行くイコール辻のところへ遊びに行く、と真希は思っていたのでその亜依の言葉は以外だった
「うん、今日は亜弥ちゃんの所」
「アヤちゃん?誰それ?聞いた事ない」
「それはそうだよ、今日転校してきた子だもん」
「ふぅーん、まぁいいや、帰るよ」
真希がそう言って自転車にまたがったので亜依も話を止めて六角に飛び乗った
「んじゃ、行くよ」
「オッケー」
二人を乗せた自転車は朝の様に走り出した
「そうだ、お姉ちゃんは誰に呼び出されたの?」
「え?あぁ……なんかね、人違いだった。あたしの靴箱に手紙が入ってたんだけど、隣の人の靴箱にいれようとしてたみたい」
「人違い?じゃあ、宛名とか書いてなかったの?」
「あ、うん、書いてたらすぐに人違いって分かるのにね」
真希は嘘をついた。とくに理由はなかったが、何か亜依にはなそうとは思わなかった
真希自身、何故ウソをついてまで隠した理由がわからないのだ
「お、そうだ、ちょっと寄り道していい?」
「どこに?」
「スーパー。冷蔵庫何も入ってないんだ」
真希が十字路を曲がり商店街通りに入ると晩御飯の買い出しの主婦で賑わうスーパーが見えてきた
真希は普段行くスーパーの前の駐輪場に自転車を止める
「亜依はココで待ってる?」
「ん、ついてく」
中学高校生と言う、スーパーには不似合いの二人が中へと入っていく
真希は灰色のスーパーのカゴを持って陳列棚を物色する
「亜依は晩御飯は何食べたい?」
「から揚げ」
「そんなの今から作れるわけないじゃん。それに太るぞ」
「ふーんだ。太らないもん」
スーパーの中を進みながら会話をする二人
「じゃあ、ハンバーグ」
肉コーナーを通っている時に亜依がそう口にする
「肉しか思い浮かばないね、じゃあ、それでいい?」
「いい」
とりあえずメニューはハンバーグに決まり、真希は材料をカゴに放り込んで行く
「そうだ。卵もなかったな」
真希は卵もなかった事を思いだし、卵コーナーにも進んで行く
そのとき真希の目にダンボールの切れ端に太いサインペンで書かれた文字が写った
『卵L寸1パック69円−お一人様1パック限り』
それを見て真希の目がキラリと光る
「やった、今日は亜依がいるから2つ一度に買える」
真希は積まれている卵のパックを2つとってカゴの中にいれた
「よし、亜依行くよ」
色々入ったカゴを持ってレジへと向かう
「2052円になります」
真希は財布から千円札1枚、十円玉5枚、一円玉2枚を取り出して青い受け皿のような勘定皿に置く
「丁度お預かりします、ありがとうございました」
レジと出入り口の間にある机の上で白いスーパーのビニール袋に買ったものを詰めると足早に店を出る
「亜依、ちょっと荷物見ててよ」
「んぇ?また入るの?」
「うん、卵安いからね」
真希はポケットからヘアゴムを取り出すと、髪の毛を後ろで一つにまとめた
そして違うポケットから伊達眼鏡を取り出し、その眼鏡をかけると再び中へ入っていった
その光景を見て亜依は一言呟く
「なんで変装道具持ってんねん……」
真希が店から出てくると亜依に卵を預けまた変装を始める
ポケットからもう一つヘアゴムを取り出し、さっきのヘアゴムをはずし、今度は左右で一つずつまとめる
そしてさっき伊達眼鏡を出したポケットに眼鏡を戻し、今度はサングラスを取り出して掛けると再び中へ入っていった
再び亜依が一言呟く
「それやったらただの怪しい人やん……」
・
・
・
「「ただいまー」」
帰った二人は自分たちの部屋に鞄を置きに行く
真希は冷蔵庫に買ってきたばかりの食材を入れていき、亜依は普段着に着替えた
「亜依ー、お風呂にお湯はってきて?」
「うん、わかった」
着替え終わった亜依はお風呂場へ行き、言われた通りお湯を張り始める
その間に真希も普段着に着替え夜御飯を作り始める
「お姉ちゃん、お風呂の準備できたよー」
「じゃあ、先入っちゃってー、まだ御飯出来てないからー」
「はーい」
真希はハンバーグのタネをこねながらお風呂場にいる亜依にそう言った
両手でタネをキャッチボールし上手く形を整えていく
「こんなもんでいいか」
後は焼くだけ、そのとき真希達の部屋から着信メロディが聞こえてきた
「うお!電話だ!」
真希は部屋にもどると制服のポケットに入れっぱなしだった携帯を取り出すとディスプレイを見た
そこに表示されていた名前は、ついさっき登録したばかりの物だった
「もしもし」
『もしもし、後藤先輩ですか?』
「うん、そうだけど」
『あの…えっと……明後日の日曜、お暇ですか?』
「明後日?暇だけど」
『あの、よろしければ……一緒に、遊びに…とか……』
「ああ、別にいいよ」
『いいですか?じゃあ、えっと…お昼の1時に…どこで待ち合わせしましょう?』
「どこでもいいけど……あたし達が知ってる共通の場所って学校ぐらいしかないじゃない?」
『じゃあ、1時に学校でいいですか?』
「うん。いいよ」
「じゃあ、明後日楽しみにしてます。」
愛から真希へのデートの誘い
真希は始め一緒に遊びに行くぐらいならと軽い気持ちで考えていた
「…おお、そうだ、ハンバーグハンバーグ」
携帯をしまうとまた料理に戻る
ジュー♪
熱されたフライパンでハンバーグが音を立てる
このまま両面焼き色をつけてフタを閉じて蒸し焼きにして中までじっくり火を通す
明日はなつみと、明後日は愛と遊びに行く
なつみはいいとして問題は愛だ
真希は今までデートなどした事がない。待ち合わせの後どこに行けばいいか分からないし、何をする物なのかも分かっていない
―――どうしよう…あたしデートなんかした事ないし
って言うかデートって何さ?
どうする物なの?
真希が考えに入っていると亜依がピンクのチェックのパジャマで風呂から戻ってきた
「お姉ちゃん」
「わぁ!」
考えに没頭していた真希は亜依が風呂から上がってきた事に築かずに驚いた
「何?そんなに驚かなくてもいいじゃん」
白いバスタオルを頭に載せたまま亜依は言う
「あ、うん。なに?」
「御飯まだ?」
「あ、もう出来るよ」
真希はフライパンのフタを開けてハンバーグの様子を見る
「お、オッケー」
火を止めて焼けたハンバーグを皿に移す
食器棚から茶碗を取り出してご飯をよそる
亜依はというとテーブルについてご飯が出てくるのを今か今かと待っている
真希がテーブルの上に完成した晩御飯を並べていく
「お待たせー」
「お、おいしそー」
亜依がハンバーグを見て待ちきれないように声を出す
「まって、サラダもあるから」
真希は冷蔵庫から大きなボウルを取り出すとその中には大量のマカロニサラダが入っていた
「じゃ、食べよっか」
そう言って真希もテーブルについた
「「いただきまーす」」
亜依が出来立てのハンバーグに齧り付く
「熱っ…」
「急いで食べるからだよ」
熱がってる亜依に冷蔵庫から飲み物を取りだしコップに注いで渡した
亜依はすぐ飲み物を飲まず、口の中で熱いハンバーグハフハフとして飲みこんでから「美味しい!」と言った
「あは、美味しい?」
「うん、すっごい美味しい!」
そう言って火傷しない様に亜依は飲み物を飲んだ
食事が進む中亜依が喋り出した
「あのさー、さっき話した亜弥ちゃんの事なんだけど」
「ん、転校生?」
「うん」
真希もご飯を食べながら話を聞く
「今日転校してきたんだけど…で、友達になってお家いって……」
「それで?」
真希は中々話が進まないので急かす様に聞く
「告白された……」
「……何を?」
「亜依ちゃんがスキだって…」
「……ふぅーん」
「……」
「……はぁ?!」
ワンテンポ遅れての突っ込み
「好、告白って、ちょっ、どう言う事?!」
「お、お姉ちゃん、落ちついて……」
「あ……」
真希は一度落ちついてから「それで、亜依はどう思ってるの?」と聞く
「別に特別好きって訳でもないけど……」
「で、なんて返事したの?」
「亜弥ちゃんの事なんとも思ってないって、これから好きになる可能性はあるけどって……」
―――ははは、あたしの高橋への返事とそっくり……
真希は心の中で苦笑する
「どうしたらいいと思う?」
「どうすればいいって…亜依が亜弥ちゃんの事嫌いじゃないなら、付き合ってもいいんじゃない?これから好きになるかも、だし」
―――はぁ、あたしなんでその子の肩持ってるんだろう…
「別に嫌いじゃないけど……そうなんかな……」
亜依も亜依でなんとなく納得してしまった様だ
「……マツウラアヤって……どっかで聞いた事あるような気がするんだけどな……」
真希はどこかで聞いたことあるような気がする名前で悩んでいた
「「ご馳走様」」
恋?の相談も終わり、食事も終了した
「亜依、あたしお風呂入るから食器片付けといてよ」
「ん、いいよ」
真希が着替えとバスタオルを持ってお風呂場へ向かう
亜依は真希が風呂に入っている間に言われた通りに食器を洗う
「これでよし」
食器を洗った後のお皿を水切り台に置いて一段落、そのとき
『トントン』
ドアをノックする音が聞こえた
「はーい」
『あ、亜依ちゃん?』
「安倍さん?」
亜依がドアを開けるとそこにはビデオテープを持ったなつみが立っていた
「おっす、今日もみんなでマリア見ようって、真希に言ってたんだけど」
なつみはマリアのビデオテープ亜依に見せて言う
「あれ?真希は?」
「今お風呂入ってます」
「上がっていい?」
「いいですよ」
真希がお風呂に入っている間、二人はまだビデオを見ずに真希が出てくるのを待っていた
「亜依ー、今日なっちがマリア見に来るんだけど…ってもう来てるの?」
お風呂場の方からブルーのチェックのパジャマに身を包んで現れた真希
「お邪魔してるよ」
「お姉ちゃんも来たし、じゃあ、マリア見ようー」
亜依はビデオデッキにテープをセットする
「そうだ、ねぇなっち。あした亜依もつれて行かない?」
「亜依ちゃんも?」
「んー、なんの話しー?」
急な提案をする真希、それに躊躇うなつみ、なんの事か分からない亜依
「なっちがいいならつれて行こうと思ってさ」
「別になっちはいいけど」
「あのね、亜依、明日なっちと遊びに行こうって言っててさ、亜依も行きたい?」
なつみの了解を得た真希は亜依にも聞いてみる
「うん、行きたい」
亜依は即答
「よし、じゃあ明日は3人で遊びに行こう!」
―――あたしにとって日常だった“普通”の日々
もう戻ってこれないかも知れない日々
あたしの身体には、徐々に変化が起こり始めていた
To
be
continued
ForeverKiss
―ForeverKiss―10話―土曜日―
『で、どこ行こっか?』
『なっち買物とかしたいな』
『でさ、ゲーセンとか行ってさ』
『その前にマックよってさ、』
金曜日の夜、真希はマリアを見た後なつみと二人で今日遊びに行く予定を立てていた
本当は十時に待ち合わせの予定だったのだが…
「お姉ちゃん、そろそろ起きなくていいの?」
「んぁー、今何時ー?」
真希は寝ぼけ眼のまま亜依に問いかける
いつもの光景、いつもの事
姉を起こす妹
「もう9時半だよ?」
「……9時半?!」
バッと起き上がって亜依の顔を見る真希
「何時に約束してたの?」
「やばいよ!!」
起きあがってタンスを開けるとすぐに着替え始める
「もしかしてすぐ着替えなきゃヤバい?」
「やばいよ!!早く亜依も着替えて!」
数分後、真希は赤いTシャツにGパンに白いジャケット、亜依はデニムのスカートにピンクにグレイの入ったシャツと言う格好で待ち合わせの場所へ向かった
待ち合わせの場所についた二人は辺りを見まわすが、なつみらしき人物は見当たらない
真希は携帯電話の時間を確認する
『10:03』
「なっちいないよね?」
辺りを見まわしてもなつみを発見できない真希は亜依にも確認を取る
「うん、いない」
真希はなつみがどこにいるのかを確認する為に電話を掛けてみる
『…留守番電話サービスセンターに接続します…プツッ』
「どこいんだよ……」
「お姉ちゃんここであってるの?待ち合わせの場所」
「あってるよ、あたしとなっちが日曜とかに遊びに行くときはいつもココだもん、マックの前……」
待ち合わせの場所に来ない、電話も繋がらない、二人は数分その場で待ちぼうけ……
グゥゥゥ……
寝坊したので朝ご飯を抜いてきた二人の腹の音が鳴る
「まだ来ないね……」
「だね……」
「なっちが遅刻するのが悪いんだから先何か食べとこうか?」
「そうしよう、もうお腹ペッコペコ」
・
・
・
30分後、昼のご飯を食べるかどうかが分からないのでハンバーガー一つだけを食べて二人がマックから出てくる
「まだ来てないみたいだね」
「だね」
・
・
・
「「じゃんけんホイ!」」
「あっち向いてホイ!」
「「じゃんけんホイ!」」
「あっち向いてホイ!」
「「じゃんけんホイ!」」
「あっち向いてホイ!やった、またお姉ちゃんの負けー!」
・
・
・
「「いっせのーで」2!」
「「いっせのーで」0!」
「「いっせのーで」1!」
「「いっせのーで」2!」
「やったー!お姉ちゃんの負けー!」
・
・
・
「じゃあ次マックはいるのどっちだと思う?」
「次こそ女!」
「……あはは!また男の人だ!お姉ちゃん弱ーい!」
・
・
・
「もうやる事ないね……」
「だね……」
・
・
・
「ごめん!寝坊した!」
「「遅いよ!!!」」
二人が暇つぶしにしていた遊びもなくなり更に数分が経った頃ようやくなつみがやってきた
「今何時?何?11時半って?どう言う事!」
「ほんっと申し訳ない!」
なつみは顔の前で手を合わせて頭を下げて何度も謝る
「どうしても許して欲しかったら……昼、なっちのおごり」
「え〜!それはちょっと……」
「ふーん……」
真希は妖しげな笑みを浮かべる
「亜依、帰ろうか?」
「え?帰るの?」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!帰らないでよ!今日遊ぼって言ってたじゃん!」
「……おごり……」
慌てるなつみに真希は一言だけ呟く
「分かったよ」
なつみは観念して昼をおごる事にした
「亜依、よかったね、昼いっぱい好きな物食べなよ」
「酷っ……」
1時間前に食べたにもかかわらず
真希の胃にはビックマック二個、ダブルチーズバーガー二個、ポテピリチーズバーガー1個、
亜依の胃には、フィレオフィッシュ二個、ビックマック二個が消えて行った
「ううう、今月のお小遣い……」
なつみは今にも泣きそうな顔をしてハンバーガをかじる
「なっちが寝坊するから悪いんだよ」
「そりゃそうだけど……」
なつみが泣いてる横でポテトをパクパク食べる真希とマックシェイクをかき混ぜる亜依
「でもさ、前見たときなっちの部屋にいっぱい目覚しあったじゃない?なんで起きれないの?」
「起きるんだけどすぐ寝ちゃったり、寝たまま止めちゃったりして……」
「今日はどっち?」
「寝たまま止めた」
真希は10数個の目覚しを寝ながら止めるなつみの姿を想像して思わず吹きだす
「なに笑ってんの?」
「ん、なんでもない。さて、これからどうしようか?」
笑った事をごまかしつつ次の予定を考える
なつみの大遅刻のせいで昨日の予定通りには行かなくなってしまったのだ
「アクセサリーショップでも行く?なっち新しいお店見つけたんだけど」
「じゃあそこ行こっか?」
「賛成ー」
二人の会話にシェイクを飲み干した亜依が返事をする
3人はマックを出ると、なつみの案内でアクセサリーショップに向かう事にした
「確かに外観はいい感じだよね」
案内されたアクセサリーショップを見て真希が一言
そのショップは表に面さない、少し裏道にそれた場所にあった
「亜依、入るよ」
なつみと真希が店に入っていって、店を見たまま固まっていた亜依に向かって真希が言った
「あ、うん」
ウィーン
自動ドアが開いて3人が入店、外観とは裏腹に中は以外と広くてオシャレな作りになっている
「ちょっ、真希見て、これカワイー!」
カウンターのそばにある透明なケースに入ったリングを見てなつみが騒ぐ
「どれ?…まぁなっちには似合うかもね……後、値段を見てから考えようね」
なつみが選んだリングは婚約結婚用とも言いたげな『0』が6つ並ぶ高価な指輪だった
「あ……ホントだ……」
「……」
「ん、亜依どうかした?」
「んーん、何でもない」
明らかに気分の乗っていない亜依を見てなつみが言う
「真希、なんか亜依ちゃんに合うようなの一緒に探してあげなよ、なっちは1人で見てるからさ」
「え、あ、うん」
なつみは亜依の思いに気付いていた。
自分が真希を好きというのと同じ感情を亜依が持っていると言うことに
―――亜依ちゃんは真希の事が好きなんだろうなぁ、
一緒にピアス選んで笑ってる姿なんか見てるとすぐ分かる
本々義姉妹なんだし、好きになって当たり前な気がする
毎日一緒にいるんだし、それだけ真希の事を知る事が出来るんだ
正直、羨ましい……
「お、これなんかいいんじゃない?」
「……」
「どしたの、さっきから」
「……だってさ、ピアスつけるって事はさ、耳に穴あけるじゃない?……痛くないかなって思って……」
「あぁ、そんな事考えてたのか。大丈夫だよそんな痛くないし。恐いんなら今開けなくてもさ、もう少し経ってから開けてもいいんだし、今は持ってるだけでさ」
「うん、そうだね」
真希の言葉を聞いて再びピアスを選び始める
「じゃぁ、これとかどうかな?」
亜依が一つのピアスを指差す
亜依が選んだのは星型で金メッキの施された小さいピアス
「ん、似合いそうじゃん。それじゃ、ピアスデビューって事であたしが買ってあげよう」
「え?ホントに?いつもケチケチしてる姉ちゃんが?」
「買うのヤメヨっか?」
“ケチケチしてる”の言葉に怒った振りをする真希
「嘘!冗談冗談!ありがとう」
「よし、素直でよろしい。……って言うかさ、あたしこの前の誕生日亜依になにも買ってなかったじゃない?だから言っちゃなんだけどその代りって事で。遅れたけど誕生日プレゼント」
「やったー」
ホンの偶然で買ったピアス
なんでもない気持ちであげたピアス
これが生きている内に亜依に渡す最後の誕生日プレゼントになる
そんな事を夢にも思わない真希だった
その後、真希はシルバーリングを、なつみは写真の入るロケットを購入した
「なっち、そろそろゲーセン行こっか?」
「お、いいね、行こうか」
「行こ行こ」
3人はゲームセンターがある繁華街の方へと足を伸ばした
「なっちさ、新しいゲームセンター見つけたのー、だからそこ行こうよ」
「じゃあ、そこでいいよ」
二人がなつみについていくと、二人は初めて見るゲームセンターが見えてきた
確かに新しいっぽくて中にもみた事のないゲームも沢山並んでいる、結構大きな所だった
「あ、あれ……」
真希がUFOキャチャーを指差す
二人もそれに気がついて三人でそのUFOキャッチャーに近づく
「あれ、ミニモちゃんカメラかなんかだよね?」
「うん、そうだと思う。あれホントにカメラなんだね」
UFOキャッチャーの中に入っていたのは
数ヶ月前に、アイドルグループ『ミニモニ』が2ndシングルで使った『ミニモちゃんカメラ』
「よし、亜依100円あげるから、行け!」
「おっし、取ったるでー!」
亜依は真希からの100円を受け取ると投入口から受け取った百円玉を放りこむ
亜依はゲーム系統に強く、とくにお金が掛かると実力以上の力を発揮しすごく強くなる。
真希が見ている限りではUFOキャッチャーなどでははずした事がないという
カチ、カチ、
2本足のキャッチャーが右から左、手前から奥へと移動する
ガーッ
キャッチャーが下に下がり正方形に近い箱を左右から挟みこむ
ガーッ
箱を挟んだままキャッチャーが上に上がった、だがまだ油断は出来ない
ウィーン
奥から手前、左から右へとキャッチャーが移動するのを3人は真剣な表情で見つめる
ゴトン!
四角い箱は見事、透明な丸筒の中に落ちた
「よっしゃー!」
亜依が声をあげ小さくガッツポーズを取る
「よかったねー、えらいえらい」
真希は亜依の頭を撫でながら言う
なつみは丸筒の下の部分にある受け取り口からカメラの入った箱を取り出す
「あ、これフィルムも入ってるからそのまま使えるみたい」
「ホント?撮ろ撮ろ!」
3人はゲームセンターの中で10数枚の写真を撮った
真希が撮った亜依となつみのツーショット
亜依が撮った真希となつみのツーショット
なつみが撮った真希と亜依のツーショット
真希が手を伸ばして自分達の方を向けて撮った3人のスリーショット
ふざけながら撮っているとあっという間にフィルムは尽きてしまった
「じゃあ、これしまっとくね。今度現像しよ」
真希がそう言って鞄の中にしまった
「姉ちゃん、あれ勝負しよ」
亜依が指差す先にはレースゲーム
「おう、いいぞ」
「真希頑張れ」
二人並んで100円投入
“『AT』か『MT』を選択してください”
二人はなにも言わずに『MT』を選択する、まるで示し合わせた様に
“ready?”
画面に文字が表示された
青ランプが一つ、赤ランプが三つ画面に表示されている
その下には自分の選んだ車が見える
赤ランプが一つづつ灯って行く
三つ目の赤ランプが点灯した後、青ランプが点灯すると共に画面に“GO!”と表示された
・
・
・
数分後
「えっへっへー、お姉ちゃんの負けー!」
「うっさい!今日は調子が悪かったんだよ」
真希が負けた言い訳をしていた
「真希カッコ悪ー」
なつみにまでそう言われる始末
悔しがる真希はリベンジをしかける
「よし、じゃあアレで勝負だ!」
真希が新たにゲームを選んで亜依に勝負を仕掛けた
・
・
・
…………将棋、バイクレース、格闘アクション、スクロールシューティング、ありとあらゆるゲームで勝負をした真希だったが見事全敗
「なんで勝てないんだよー……」
「やっぱりココの違いかなー」
亜依は自分の頭を指しながら挑発的な口調で喋る
「真希カッコワルーい……」
なつみは負けつづける真希に同じ事しか言わなくなった
「なんかないかな、勝てそうなの……」
なんとか亜依に一泡ふかせようと勝てそうなゲームを探す
「おーい。そこの標準語と関西弁と室蘭弁の三人。」
「ん?」
真希たちが声のしたほうを振り向く。
そこにはGパン姿に紫の「闘」とロゴの入ったTシャツに身を包んだ男前の少女がいた。
「おっす。」
「ああ、よっすぃ」
「お、よっすぃ」
「よっすぃ」
真希と同じクラスの吉澤ひとみ。
ポケットに両手を突っ込みながら3人のほうに近づいてくる。
「3人そろってるなんて珍しいね。なにしてんの?」
「今日はさ、3人でどっか遊びに行こうって、でここに来た」
「ふぅーん」
ひとみは暇そうな様子で、一人だった。
「よっすぃは?なにしてんの?」
なつみがひとみに問いかける。
「や、ここらへんに新しいゲーセンが出来たって聞いたから来てみただけ…………。
ってそうだ。ちょうどいいや。ちょっと来てよ。3人とも」
ひとみは何かを思い出したように歩き出した。
“ついて来て”と言われたのでとりあえずついていく3人。
さっきいた場所から数m先にくるとなにやら人だかりが出来ていた。
「ほら、あれ見て」
ひとみが3人にそう言ってゲームを指差す。
『Dance!step!revorution!』
ゲーム機からデジタルな声が響いた
明らかにパクりのようなダンスゲーム。
8方向の足もとのパネル。
音に合わせてそのパネルを足で押さえると言うゲームだった。
「アレの事?おもいっきしパクリじゃん」
なつみがゲームを見てそう言った。
「パクリじゃないよ。元々ダンレボよりこっちの方が先に作られてたし、これ結構難しくて人気なんだよ?」
なつみの発言にひとみが返す。
「ごっちん。対決してみたら?あいぼんと。ごっちんダンレボ得意だから勝てると思うよ」
「よし!亜依勝負だ!」
「望む所だー」
二人の前にプレーしていた人が去って行き二人が台に上る。
二人揃って百円玉を投入した。
真希が画面から音楽を選んで行く。
「なんだ。曲目は一緒じゃん」
真希は自分がダンレボで慣れた曲を選択する。
「よし。」
最後の決定ボタンを押し音楽が流れ始めた。
画面下のほうから流れてくる8種類の矢印にタイミングを合わせて足元のパネルを踏む。
真希も亜依も画面を凝視しながら足を動かしている。
『CREAR!!』
数分後。二人は同得点のままクリアをした。
「あれ?お姉ちゃんには勝ったと思ったのにー」
「甘いよ。あたしがどれだけダンレボやってると思ってんの?」
スコアが画面に表示されている。二人はそんなことを話していた。
「ごっちん、あいぼん、二人そろって↑のパネル3回踏んでみて?」
「うえ?」
真希と亜依が顔を見合わせる。
「んじゃ、踏んでみよっか……せーの、」
ピンピンピン……ピロリン!
ひとみに言われたとおりに↑のパネルを3回踏むと何やらゲーム機から効果音。
画面の表示が変わり『HARD MORD』という表示が出ていた。
「なにこれ?」
判りきっているのにも関わらず真希はトーンの落ちた口調で呟いた。
「はーどもーど、って画面に書いてあるじゃん」
ひとみは悪びれる様子もなく一言返す。
「こんなん出来るわけ無いやろ!よっすぃアホちゃうか!」
亜依が起こった様子で喚いた。
「べつにいいじゃん。そのほうが見てる側としては面白いし、」
ひとみは笑いながら言う。
画面では『セレクト ミュージック』という表示と、その右に数字がカウントされていた。
「ほら、早く選ばないと曲勝手に決まっちゃうよ」
ひとみは二人にそう言い、二人はあわてて曲を選択した。
再び音楽が流れ始める。
画面にはさっきとは比べ物にならないぐらいの矢印が画面下の方から流れてくる。
「「うわっ!多っ」」
画面を見て真希と亜依は同じ言葉を発した。
さっきの華麗なステップとは違い、忙しなく足を動かしていく。
「うわー、こんなの無理ー!」
亜依が途中で叫ぶ。そう言いながらも必死でパネルを踏んでいく。
『FIRED!!』
亜依の画面に急にそんな文字が出た。
「うわ!なんやこれ!」
いきなり画面が切り替わって亜依が驚く。
「ああ、歌に追いつけなかったから、つまりクリアできなかったんだよ」
状況がわかっていないであろう亜依にひとみが説明する。
「お姉ちゃんは?」
亜依は真希の方をむき様子を見る。すると真希はまだステップを続けていた。
『CREAR!』
数十秒後、真希の画面にはそう表示された。
「ふぅー…」
二曲目が終了して真希がため息をつく。
「負けた……」
亜依もため息をついた。
「あれ、あたし亜依に勝ったの?」
真希が亜依の画面を覗き込んで、対決を見ていたはずのひとみとなつみに問いかける。
「うん、勝ったね」
「すげぇ、ごっちん。あいぼんに勝っちゃったね」
ひとみとなつみからはそういう返事が返ってくる。
「やったー!!亜依に勝った!!」
真希はうれしさからか、沢山のギャラリーが見ている前で飛び跳ねる。
「どーよ、亜依。これでも自分がゲームの天才?」
真希はさっき自分もされたように挑発的な言葉を亜依にかける。
「うわっ!すっごい腹立つ!……なんか違うもんやって来る!」
亜依はその場を離れてどこかへ行こうとする。
「あ、なっちごめん。亜依についていってあげて?まだゲーム続くみたいだし…」
「あ、うんオッケー」
なつみは立ち去る亜依についていった。
「よし!ごっちん。今度はこのよっすぃ様と勝負だ!」
ひとみはそう言いながらさっきまで亜依が乗っていた2P側の台に上る。
「いいよー!メッチャくちゃに負かしてやる!」
「亜依ちゃん、ちょっと待ってよ。」
すたすたと歩いて行く亜依に、それを追うなつみ。
「なんやねん!あのお姉ちゃんの言い方!もうちょっと普通な言い方ないんかい!」
なつみはまだ関西弁でしゃべっている亜依をみてそれ以上話しかけるのをやめた。
亜依は1つのゲームの前で立ち止まって100円玉を投入した。
『アリゲーターアリゲーターパニック』と言う名前のゲーム。
飛び出してくるアリゲーターをハンマーで叩くという簡単なゲーム。
音楽が鳴り始めて亜依はハンマーを握る。
ダン!
ダンダン!!
ダダンダン!!!
亜依はアリゲーターが穴から少し出ただけでそれを見抜き、5cmと出てこない間にアリゲーターの頭を叩いて引っ込ませる。
「………早」
なつみはその様子を見てそう呟いた。
「あほ!あほ!あほ!」
アリゲーターの頭を叩きながらそう言う亜依。
「あ、なんだろあれ?」
なつみは自分のすぐ傍にあった新しいゲームに気づく。
「面白そー。ちょっとやってみよっかな」
なつみは百円玉を投入してゲームをし始める。
なつみは亜依の後ろにいる亜依に近づいてくる一人の影に気がつかなかった。
『アノ子かわいなぁ。トイレにでも入れてヤッチまうか?』
「ねぇー、そこのアリパニやってるお嬢さん?」
「んぁ!何やねん!今やってるとこやからもう少し待ちや!」
亜依は後ろも見ずにそう言葉を返した。
なつみもゲームに熱中しているせいか傍にいてもその声には気がつかない
「そんな口のききかたはないんじゃない?年上のお兄さんに向かってさぁ!」
男が亜依の背後に回りいきなり口に手を当てて声を出せないようにする。
亜依は驚いて暴れようとしたが男に両手を片手でつかまれ身動きも取れない。
「ん!なんやねん!」
一瞬男が口をふさぐのが遅れて声が出た。
「おい、こいつ関西弁喋ってるぞ。関西のやつはどんな声で喘ぐんだろうな?」
周りを通りすがって行く人。
なつみさえも亜依を押さえつけている男には誰も気づかない。
絶体絶命。
Forever
Kiss
to be continued