求める心






俺はガムシャラに走っていた・・・・走って・・・・走って・・・・


どれぐらい走り回っただろう・・

乾先輩が行きそうな場所はすべて探した・・・・



「クソッ!! どこに行ったんだよ!!!」



焦りと怒りで叫んだ。

携帯にも何度か連絡を入れてみたが、電源が入ってないのか、充電が切れたのか・・・全く携帯の意味もねぇ

チッと今度は舌打ちをして

このまま2度と会えねぇ・・なんて事はないだろうが・・・



「俺は今! 会いたいんだ!!!!」



不安な気持ちを打ち消すように、更に大きな声で叫ぶ。

何処に行ったんだよ・・・乾先輩・・・

その時だった、土手の下に自分以外の別の奴が居る事に気が付いのは・・



「あっアイツ!!!」



俺は全速力でそこまで走り、そいつの腕をグッと掴みながら



「お前こんな所で何やってんだ!! 乾先輩は一緒じゃねーのかよ!!!!」



ハァハァと息を切らし、しかしこの男 柳蓮二の腕は離さず

どうなんだ?と言わんばかりに睨みつけてやった。

すると、冷静に俺の姿を見ていたこの男がフッと笑ったような気がした。

馬鹿にしやがって・・・



「オイ!! どうなんだよ!!!」

「・・・お前・・・アツイな・・・」



ハァ?

今度はあからさまにクックックッと声を漏らして笑いやがった・・・

コノヤロー!! 俺の怒りは頂点に達した。



「てめぇ 俺にケンカうってんのか!!!」



掴んでいた柳の腕を放し、今度は両腕で胸ぐらを掴み、グイッと上に持ち上げた・・・

すると柳はそのままの姿勢で少し頭を横に傾けて、目を開き・・・

どこか淋しそうな・・でも穏やかで優しい笑顔を見せた。



なんて顔しやがるんだ・・・



「お前・・本当にアツイ奴だな・・・貞治の言ってた通りだ・・・・」



そう言いながら、胸ぐらを掴んでいる俺の手の上に手をのせて呟いた。



「俺には無いものだな・・・」

「それって どうゆう事だよ・・・」



さっきまでの怒りも、複雑な笑顔のせいで引いてしまい、胸ぐらを掴むのもやめ、柳の話に耳を傾ける事にした。



「そのままだ・・・お前が・・羨ましいという事だ」

「何なんだソレ!」



柳の言っていることがさっぱりわからなかった・・・どうゆう事だ・・・?

羨ましい?俺が?

少し困惑しながら、いやそんな事より・・と少しずれてしまった 本題を思い出していた。



今は乾先輩の事の方が先だ!乾先輩はどうしたんだ?



「おい!お前!乾先輩とは会えたのか?」

「ああ・・そうだな・・先ほどまで一緒にいた・・・」

「じゃあ今は何処へ行ったんだよ」



少しイラつきながら聞いた。

朝探しに出て、今まで一緒だったのか?

乾先輩と柳は 今まで一体何を話してたんだ?

一体何を・・・・・



「不安か?」

「・・・うるせぇ 黙ってろ・・」

「貞治がそんなに好きか・・・」



俺の心を見透かすように、柳は話かけてくる。



「ああ・・・そんなの当たり前だ!!!」

「当たり前か・・・まぁそじゃないと・・・俺が困るがな・・・少しでも貞治を手放すような事があれば、いつでも俺がさらうぞ・・・」

「そんな事ありえねぇ!! 絶対に手放したりしねぇ!!!」



自分でもよくここまで言い切ったもんだと思ったが、考えるよりも先に言葉がでていた。



そうなんだ・・俺はもう迷ったりしねぇ・・この気持ちは誰にも負けねぇ・・



柳は少し驚いた顔をしていたが・・



「そうか・・・ではいいことを教えてやろう。貞治はお前に会いに学校へ向かった。 今から追いかければ、途中で捕まる可能性は100%だ」

「えっ?」

「早く行け!」



その言葉に押し出されるように俺は走り出した・・乾先輩・・・















どれだけ走っただろう・・・今だに姿もみつからねぇ

途中で捕まる確立100%・・・本当か?

心臓が破裂しそうだ・・・けど走る事を止める訳にはいかねぇ

必ず捕まえると決めたんだ・・・

そう思った時に俺はようやく捜し求めた姿を見つけた!

今一番会いたい人。   乾先輩・・・



「乾先輩!!!!」



俺は疲れた体を奮い立たせ、今出せるありったけの声を出して名前を呼んだ。

その声に気付いたのか、乾先輩の歩みは止まり俺の方へ振り返った。

そしてこちらへ駆け寄って来る・・俺も最後の力を振り絞り駆け寄った。



「海堂・・・」



その声にやっと会えた安堵感と、自分の溢れる気持ちとが合わさり、泣きそうになった。



「乾先輩・・・俺・・」



俺達は向かい合わせに立ってお互いを見つめた。

俺は少しづつ呼吸を整えながら、今までの想いを伝えようと言葉を探す。



乾先輩から告白される前から、自分も好きになっていた事・・・

柳蓮二の事で悩み先輩を避けた事・・・

それがきっかけで本当に乾先輩の事が好きだと思い知らされたこと・・・

いっぱいありすぎて・・伝えたい気持ちだけがどんどん溢れてくる。



うまく言葉を見つけられねぇ・・・



俺があれこれ考えているうちに乾先輩の方が先に話し始めた。



「海堂 俺を探してここまで来てくれたのか?」

「ええ・・あっハイ・・・」

「そうか・・・ありがとう・・・それで・・それでこんな時にアレなんだけど・・・ お前に一つ聞きたい事があるんだが・・聞いてもいいか?」



乾先輩は少し嬉そうな顔をして、すぐにグッと歯をくいしばり辛そうな顔をした。俺はそれを見逃さなかった・・・

一体何の話だ?そう思いながら頷いた。



「その・・実は今朝の桃の件なんだけど・・・2人はその・・どうゆう関係なのかな・・?

イヤ違うな・・・俺が本当に聞きたいのは・・2人がそのキッ・・キスしているように 見えたのだが・・・・・」



キッ・・・・キス・・・?

ええっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!

俺は今朝の出来事を思い出しながら、たっ確かにあの角度からならそう見えなくもないが と変に納得した・・

がしかし・・しかしだな・・・乾先輩そんな事考えていたのか・・・!? とあからさまに動揺した。

ありえねぇ・・・・

俺と桃城がキス・・・?

キスという響きに今度は自分の顔がみるみる赤くなるのがわかった。

なんだか耳まで痛いぐらいだ。

それを見た乾先輩が納得したようにボソッと呟く



「やはりそうなのか・・・・」



ちょっちょっと待ったー!!何一人で納得してんだよ!!

せっかく会えたのに何でこんな展開になるんだ!

俺は焦って答えた。



「ちっ・・・違うっス!!!!」

「いや・・いいよ海堂・・・俺に気を使わなくても・・あの時の桃の様子と今のお前の顔を見たら間違いないだろう・・・」



だから何勝手に決め付けていやがるんだ!!!違うって言ってんだろ・・・・

確かに桃城は俺の事、気にかけてくれてて・・・けど俺は・・・

チッ!何でこんな風になるんだよ!!

俺はこんな風になる為に乾先輩を追いかけて来たわけじゃない!!

今までの自分の気持ちを伝える為に来たんだ!!

そう思った時に俺の体は自然に動いて乾先輩に抱きついていた。



「先輩頼むから・・・俺の話を聞いてくれ!!」



乾先輩は少し戸惑ったように見えたが俺はそのまま話を続けた。



「俺が好きなのは乾先輩あんただけだ!それもずっと前からで、どう説明したらいいか わからねぇけど・・

俺も色々柳の事で悩んだり・・それを桃城に知られたり・・・・ とにかくだ!俺がキスしたいと思うのは乾先輩だけだ!!!」



そう叫んだ後に急に恥ずかしくなった・・俺・・今何を言った・・・・・?

おそるおそる乾先輩の顔を見ると満面の笑みを浮かべて俺を見てる。



「そうか・・・本当にそうなんだな・・・?」



そう念を押すように囁くと、スッと腰に右手を回し力を入れてグッと上に持ち上げた。

そして俺の唇に自分の唇を近づける・・・

え〜〜〜?キっキス!?

俺は思わず両手で自分の口を押さえてしまった。



「これはどうゆう事かな 海堂・・? 今しがた俺がキスしたいのは乾先輩だけだ!! と言われたと思ったのだが・・・・」

「いや・・その・・」



確かにそうなんだが・・・

言ったそばからするのか・・・?そういうものなのか・・・?

こういうものは心の準備が必要じゃないのか・・・?

頭の中が真っ白になった・・・

こんな急展開ありえねぇ・・・恥ずかしすぎる・・・

そんな俺の姿を見て、もう耐え切れないとばかりに乾先輩がふきだした。



「すっすまない海堂・・コレは軽い冗談だ・・・お前があまり可愛い事を言うのでな ・ ・・つい・・・」



つい・・・?

ついってなんなんだよ!!ついって!!

思わず心の中で叫んだ。



「いや・・だから本当はお前が蓮二の事を気にかけているのも知っていたし、

俺の事を想ってくれているのも実は何となくわかっていたんだが、待つと言った手前 俺から行動を起こす訳にはいかんのでな・・・

そこへ今日の桃の件だ・・・ 正直焦ったよ。

俺と蓮二の事でお前の事を傷つけたとわかっていたのに、 その事をお前に説明するよりも先に、お前と桃の事が知りたいと思った。

蓮二がいなくなったと聞いて、探している最中もきがきじゃなかったよ・・・ だからお前の口からこんな嬉しい言葉が聞けて、

お前がどんな反応をするかは だいたい予想してはいたが・・・つい調子に乗ってしまったという訳だ。 だから・・すまない」



一通り話終えると、乾先輩は俺の体から手を離した。

なんだよ・・嬉しいんなんて言うんじゃねーよ

すまないなんてあやまんなよ・・・

拒んだ俺が情けなくなるじゃねぇか・・・

心の準備とか考えてしまった俺が嫌になるだろが・・・

どうしたらいいんだ? どうしたら俺達は上手くいくんだ・・・?

俺だって本当にキスしたいと思えるのは乾先輩だけだ・・・

それは本当なんだ。 だけど・・・

あ〜クソッ!やっぱりこのままじゃ駄目だ!!

俺は覚悟を決めてもう一度言うことにした。



「あの・・俺。乾先輩の事が好きです・・その・・良かったらキスして下さい・・・」



突然の言葉に乾先輩はあからさまに動揺して固まってしまった。

そして気持ちを立て直すように眼鏡を直しながら、しかし声は少しうわずっていた。



「よっ予想外の発言だな・・海堂いいのか?いや・・その・・無理する事はないんだぞ。

俺はお前の気持ちが聞けただけでも十分すぎるほどに満足している・・・ だから・・その・・・」



乾先輩の動揺をよそに俺はそのまま目を閉じた。

このままじゃ駄目なんだ・・

一歩踏み出さなければ・・・

覚悟は決めた。



「海堂・・・お前・・・」



小さくかすれるような乾先輩の声が聞こえた。

静寂の中で心臓の鼓動だけがやけに響きどんどん速度を増していく、あまりの緊張に呼吸さえまともに出来ない・・

そんな息苦しさを感じた時にそっと抱き寄せられた。



乾先輩・・・



抱き寄せられた体は全身で乾先輩を感じて、さらに鼓動が速くなり緊張している。

それを見透かすように乾先輩が耳元で優しく囁く



「海堂・・俺もお前が好きだ・・・」



そしてそっと唇を重ねた・・・なんだか不思議な気持ちだった・・・

あんなに恥ずかしいと思っていたのに、今はなんだか嬉しい・・・

それにさっきまで悩んでいた柳の事や、桃城との出来事も嘘のように消えていく・・・

俺達はそのまま少し抱き合っていた・・・

ひょっとしてこれが素直になるという事なのか?と思いながら・・・

しばらくして顔を上げると、真っ赤な顔をした乾先輩が優しく微笑んでいた。



「そろそろ帰ろうか海堂・・・俺の予想では大石と菊丸が俺達の事を心配しながら まだ学校で待っている・・・」



俺も笑顔で頷く。



「そうですね」



そして俺達はゆっくりと学校へ向かって歩き出した。

 


                                                                        END



やっと終わりました(笑)もし待っていた方がいたら、ホントすいません☆何とか2人をハッピーエンドに・・・


と思いながら書いたのですが、どうでしたでしょうか?またゆっくりこの2人の話は追加していきたいと思います。