Happy Birthday Dear Oishi 3+






「くそっ!!」


ずっと・・ずっと考えていた大石のサプライズBirthday

毎日忙しそうにしてる大石をあっと驚かせたいと計画した作戦は大成功だった。

夜中抜け出して・・・プレゼント渡して・・・チューして・・

今日はその続きで水族館に行くって約束したのに・・・



「菊丸集中しろ!」

「わかってるよ!」



今日に限っていつもより練習量が多い。

乾の奴・・・

都大会の予選が近いってわかってるけどさ、何で今日なんだよ!

今日はまだ大石の誕生日なんだぞ・・・

水族館に行かなきゃいけないんだぞ・・・

このままじゃ・・・絶対間に合わないじゃんっ!!
















「荒れてるね」



コートから出ると、コートの外で待機をしていた不二がタオルを渡してくれた。



「仕方ないじゃん・・・今日は練習の気分じゃないんだもん」



タオルを受け取って顔に乗せると、俺はフェンスにもたれた。



「それでも、もう少し集中しないと手塚に罰走させられるよ」

「わかってるよ・・でもさ・」

「さらに帰りが遅くなるよ」



遅く・・・・それは困る。


不二の言葉にギクリとした。


今でさえ営業時間内にギリギリ間に合うかどうか?

なのに・・これ以上長引けば確実にアウトだ。

それだけは避けたい。

だって今日は・・・



「わかった。頑張る」



タオルを取って不二を見ると、不二も同じようにフェンスにもたれて微笑んだ。



「うん。僕も英二達が早く帰れるように協力するからさ」

「・・・不二」



ホント不二は、何でもお見通しだな。

俺が困ってる時にいつもふらっと現れて、俺をフォローしてくれる。

俺の気持ちを酌んで、的確に・・・それが凄く嬉しい。

ホント不二が親友で良かった。



それにひきかえ・・・


俺は二つ向こうのコートで話す大石を見た。

大石・・・覚えてんのかな?

数時間前の話・・・



『練習が終わったら、一緒に水族館へ行って俺の誕生日一緒に祝ってくれる?』



そう言ったのは大石、お前自身なんだよ?

それなのに全然焦っている様子ないし・・・

それどころか手塚と話しこんじゃってるし・・・


何やってんだよ!



「英二?」

「あっ・・ごめん不二。大丈夫だから」



ったく・・・

俺ばっかり焦って何だか嫌になるけど、でもそんな大石だからこそ俺がしっかりしなきゃな。

水族館に行くために・・・少しでも練習早く終わらさなきゃ。






「桃っ!おチビっ!だらだらしない!」

「うぃースっ」



コートから歩いて出てくる二人を急かす。

いつもなら俺も同じような感じだけど、少しでも時間短縮する為にここはあえて鬼に徹した。

おチビが小声で『今日の英二先輩どうしたんっスか?』って桃に言っているのが聞こえたけど、ここは我慢。

1分1秒でも大事なんだ。

それになんてったって、もうすぐ練習も終わる。

このまま行けば・・・ギリギリだけど間に合いそうだ。

たくさんの魚をゆっくり見る事は出来ないだろうけど・・・

それでも2人で、大石の誕生日に水族館に行けるそのことに意味があるんだもんね。

大石の好きな場所

一緒にお祝いの続きをしようって約束した場所

そこでもう一度おめでとうを言ってあげれる喜び・・・

それを早く噛みしめたい。
















「みんな!集まってくれ!」



大石の声がコートに響いた。

それが練習の終りの合図とばかりに、みんなが集まる。


やっと終わった!


俺も嬉しさのあまり、大石のもとへ駆けだした。


大石っ・・・


わくわくしながらみんなの輪に入ると

手塚、大石、乾がフェンスを背にみんなが集まるのを待っていた。

揃ったのを見計らって大石が告げる。



「今日の練習はここまで。各自担当の片づけをして出来たものから解散してくれ」

「お疲れっした!!!」



みんなの声が揃って、それぞれバラバラに散っていく。

それを引きとめる様に大石が続けた。



「ああレギュラーは、この場に残ってくれ!」



えっ?

俺は部室に向いた体を大石へと向けた。



「何かあるんっスか?」



桃が大石に聞く。



「あぁ。今からダブルスの相性をみようと思うんだ」

「相性っスか?」



桃が首を傾げる。

乾がそれを見て一歩前に出た。



「ここからは俺が説明しよう」



みんなの視線が乾に集まる。

俺も乾を見た。



「みんなも知っているように俺達青学には固定のダブルス2が存在しない。

 その為いつもダブルス1の大石、菊丸に頼る事になる。

 それを解消する為に、ダブルスを強化したいと思っているんだ」



ダブルスを強化・・・それはいいけどさ・・・・



「それで大石と菊丸のダブルス1対俺達で試合をしようと思う」



そんな事を今からしてたら・・・



「ちょっ!ちょっと待ってよ!それ今日しなきゃいけない?」



俺は思わず乾の説明を遮った。


1分1秒を争ってる時なのに、今から試合なんて・・・



「なんだ菊丸?用事でもあるのか?」



乾が俺を見る。



「えっ?あ・・・」



俺は言葉に詰まって俯いた。



あるんだけど・・・どういえばいいんだろ?

大石の誕生日だから・・・水族館に行きたいから・・・・

でもその当の本人の大石は、乾の横で俺を見ている。

何も言わずに・・ただ黙って・・・大石・・・


大石はもう水族館の約束なんてどうでもいいと思っているのかも知れない。

練習の方が大切だって・・

ダブルスの強化の方が大切だって・・・

じゃなきゃ、この話が出た時点で別の日にしようって断ってる筈だよな。

それが無いのは、今日はもう行かない・・・きっとそう判断したんだ。

なのに俺だけが必死になって・・・こだわって・・・



「今日は大石の誕生日なんだよね」



俺が何も言えないでいると、俺の横にいた不二が口を開いた。

一斉にみんなの視線が不二に集まる。



「そうか・・今日は4月30日だったな。それは悪かった。

 大石も一言言ってくれれば・・・では、この話は明日にしよう」



乾がそう言ってノートを閉じると、大石が乾の腕を掴んだ。



「乾。別に俺の誕生日は気にしなくていいよ。

 それよりももうすぐ予選が始まる。ダブルスの強化が必要ならそっちを優先してくれ」



真剣な眼差しで乾を見る大石。

俺はじっと大石を見ていた。



やっぱり・・・そう思ってるんだ。

自分の誕生日より・・・チームの方が大切

大石らしいといえばそれまでだけど・・・ショックだ。

凄く・・ショックだ。

今日ぐらいは、俺を選んで欲しかった。

一緒に誕生日を過ごしたいと・・・思って欲しかった。



俺は大石から目線を外すと、自分の足元を見つめた。



「大石。お前の気持ちもわかるが・・今日はやめておこう。

黄金ペアが健在だからこその、練習方法だからな。

一人かけては・・・意味がない」

「えっ?」



大石の驚く声が聞こえる。



「手塚、そういう訳だから練習は明日からにしよう。

 今日が明日になっても、データ上は何も問題ない」

「そうか。わかった。では、みんな今日は解散!」



手塚の声でみんなの足が動く。

だけど俺の足は鉛を付けられたように重くなっていた。



あんなに早く帰りたいと思っていたのに・・・

1分1秒を争うんだって思っていたのに・・・

もう何だかどうでもいい。

今更急いでも間に合わないし・・・それよりも大石が・・・

大石がどうでもいいと思っているのに俺が動いたって・・・



「英二。行こう」



不二が俺の背中を押した。



「・・・うん」



俺はゆっくりと部室へ向けて歩き出した。
















「お疲れっス!」

「お疲れ」



部室に入ると着替える人でごったがえしていた。

話しながら着替える奴。

早々と着替えて帰る奴。

騒がしい筈なのに、何故かみんなの声が遠くで聞こえる気がする。

俺はぼんやりと自分のロッカーまで移動した。


このまま着替えて俺はどうすればいいのだろう?

いつもなら大石が部誌を書き終えるまで待ってるけど・・今日は・・・

ホントだったら急いで着替えて水族館に行く筈だった。

だけどそれはもうどんなに急いでも間に合わない。

それ以前に大石が行くことを諦めている。

大石は俺より練習を選んだんだ。


それなら・・・俺が待つ意味ってあんの?

まだ今日は大石の誕生日だけど、既にサプライズBirthdayはしてるし・・

プレゼントだって渡しているし・・・

こんな状態で一緒にいても気まずいだけなんじゃないかな?

大石も・・・俺も・・・

きっと一緒にいても、何を話していいかわかんない。

それならいっそ今日はこのまま帰った方が・・・・


迷いながら着替えていると、最後まで打ち合わせをしていた大石と手塚と乾が部室に入ってきた。

大石が真っ直ぐ俺の横に来る。



「英二」



・・・大石・・



「・・何?」

「俺が着替え終わるまで待っててくれないか?」



えっ?待つ?

・・でも・・・待ってても・・・



「今日は・・・帰る」



そんな事言われても、素直に喜べないよ。

こんな気分でどうしていいかわかんないじゃん。



「どうして?約束したじゃないか」



大石が眉を寄せた。


は?何言ってんの?

どうして大石がそんな顔するのさ?

約束を最初に破ったの大石じゃん・・・

俺はお前との約束を守ろうと必死だったのに・・・それなのに・・・



「そんな約束忘れた」



今更約束を口にするなんて・・・ずるいよ。


俺は大石から目線を外して着替えを再開した。



「待ってて欲しいんだ」



それなのに大石は俺の腕を掴んで、強引に俺を大石の方へ向ける。


なんだよ・・・何なんだよ!



「手ぇ離してよ大石っ!着替えられないじゃん!」

「英二っ!」



そんな目で見ないでよ。

まるで俺が悪いみたいじゃん・・・

俺が約束破ってるみたいじゃん・・・


俺達は睨みあうように見つめあった。

不穏な空気が部室を包む。

それに耐えられなくなった部員が急ぎ足で帰って行く。

レギュラーも・・・



「お先!」

「お先っス!」



そう言いながら次々と帰って、いつの間にか俺達二人だけが部室に取り残された。



「・・・英二」



大石が俺の腕を掴む手を緩めた。



「何だよ」

「頼むから待っててくれないか」



大石が困った顔で俺を見る。



「すぐ着替えるから、待ってて欲しいんだ」



・・・大石・・

なんでだよ。

なんでそんなに頼むんだよ。

それなら最初から俺を選んでくれれば良かったじゃん。

俺凄く楽しみにしてたのに・・・大石の誕生日の続き祝うの・・・

大石も同じ気持ちだって思ってたのに・・・・

それなのに・・・・お前が・・・



「・・わかった。わかったから手を離してよ」



大石が何考えてんのかわかんない。

俺より練習を選んだくせに・・・待てだなんて・・・

でも・・・そんなに言うなら待っててやるよ。



「ホントに待っててくれるのか?」



大石がどうしたいのか?

俺を待たせて・・何か考えがあるのか・・・



「ああ。だから早く大石も着替えてよね」

「わかったすぐ着替えるよ」



大石は俺の手を離すと、自分のロッカーを開けて言葉通り素早く着替え始めた。


今頃行っても、開いてる水族館なんてこの近くには無いのに・・・

大石・・・



俺はロッカーを閉めると部室の椅子に腰かけた。

大石もあと少しで着替え終わる。

俺は大石の背中を見つめた。



だいたい・・早く着替え終えても、部誌が残ってる。

それを書いていたら・・・今よりもっと遅くなるのわかってるのかな?

一緒にいる時間だってどんどん減って・・・



「英二お待たせ。じゃあ行こうか」

「えっ・・?」



俺はいつの間にか俺の方を向いていた大石へと視線を上げた。

大石は肩に鞄をさげて俺に手を差し出している。



「行くって・・・部誌は?」

「部誌は明日書くから。今日はいいよ」

「ホントにいいの?」

「ああ・・最初から今日はそのつもりだったから」



そのつもり・・・?

ますますよくわかんない。

だいたい行くって・・・

今頃急いでも、何処行くあてなんてない筈なのに・・・・?



「・・・わかった」



俺は大石の手を握って立ち上がった。


よくわかんないけど・・・もういいや・・・

大石が俺じゃなく・・練習選んだのも・・・

今の青学を考えれば当然といえば・・・当然だもんな・・・

それになんて言っても今日は大石の誕生日。

大石が少しでも俺といたいと思ってくれるなら・・・

応えてやらなきゃな

水族館に行けなくても我慢だ。



「英二?」



大石だってきっと後ろめたさを感じてるから、俺をこうして引きとめてくれたんだろうし

いつまでも拗ねてちゃいけないよな・・・



「大石・・・ごめんね」



1年に1回しかない特別な日なのに・・・

こんな事で・・・拗ねて・・



「どうして英二が謝るんだ?」

「えっ?だって・・・」



大石が肩にかけていた鞄を床に置いて俺を見る。

俺は大石の学ランの袖を掴んだ。



「青学の事を考えれば、誕生日の約束なんて優先できない事わかってんのに・・

 俺・・でもショックで・・・拗ねて・・・・

 兎に角今日は大石の誕生日なのに・・・こんな態度とってごめん・・」



大石を見上げると、大石の学ランを掴んでいる俺の手を大石が握った。



「英二・・謝らないでくれ。俺も反省しているんだ。

 英二に相談なしでダブルス強化の話を進めた事。

 決して英二との約束を忘れていた訳じゃないのに・・・乾に・・・

『黄金ペアが健在だからこその、練習方法だからな。一人かけては・・・意味がない』

そう言われるまで、こんなに英二を傷つけてる事に気付けなかった」

「・・・大石」



そっか・・・そうなんだ・・・

ちゃんと考えてくれてたんだ・・



「水族館は無理だけど、今からついてきて欲しい所があるんだ」


大石が優しく微笑む。


俺はさっきまでのわだかまりも忘れて尋ねた。



「何処へ?」

「ペットショップ」

「ペットショップ?」

「水族館まではさすがにいかないけど、あそこならたくさんの魚が見れるし

練習が終わったら改めて誘うつもりだったんだ」

「大石・・・」

「だから英二・・改めて言うよ。

ペットショップへ行って俺の誕生日一緒に祝ってくれる?」

「うん!」



嬉しい!嬉しい!嬉しい!

何だかさっきまでの自分が馬鹿みたいだ。

大石は、ちゃんと俺を選んでくれてるじゃん!

あっでも・・・俺は嬉しいけど・・・・



「ペットショップって・・ホントにそれでいいの?

また日を改めて水族館に行ってもいいよ?」



俺、自分の事ばかり考えていたけど・・・

大石だってホントは、水族館に行きたかった筈だよな?



「いいよ英二。本音を言えば水族館でもペットショップでも何処でもいいんだから」



ホントに?

爽やかに言い切る大石に、俺は疑問を投げかけた。



「そんな事はないだろ?大石の一番好きな場所って水族館じゃん」



大石の好きな場所ぐらいちゃんとわかってんだぞ

大石を見上げると、大石が俺の頭を撫でた。



「いや一緒だよ。英二が俺の横にいてくれたら・・・

俺にとっては、どこだって一番の場所だよ」



・・・・・・・大石・・

もう何だよ・・・何でそんな事さらっと言うんだよ・・・・



あーもうっ!

あーもうっ!

あーもうっっっ!!!




「大好きっ!!!」



俺は大石の首に手を回して抱きついた。



いっぱいいっぱい祝ってやるよ!

大石の誕生日!

帰りたいって言っても、帰してやんないからな!

覚悟しててよね!





                                                                                         

                                                                                                               END








大石お誕生日おめでとうvvvvv


今年で4回目!!

無事に今年もお祝い出来ましたvvv

今回は1回目に書いた、大誕の続きの話だった訳ですが・・・

わかりました?

兎に角・・・今年もめでたいという事でvvv

2010.4.30