2020年4月1日 第255話
             
春は花

    いつも只 我が古里の 花なれば 色もかわらず 過ぎし春かな
                                   道元禅師

寒風の中に、凛として咲く椿

 寒い時期には植物は動きを止めているかのようですが、植物はさかんに根から水や栄養分を地中より吸い上げて、やがて来る春を待っています。そして春になると芽吹き、花を咲かす。芽や蕾みが膨らんでくる様子を”はる”といいますが、この”はる”が春の語源であるともいわれています。

 木へんに春と書く椿という字は、新しい季節の訪れを予感させる漢字です。椿にはさまざまな種類があります。椿は春に咲く花ですが、早咲きの椿は秋の終わりから、そして遅咲きのものは初夏のおとずれまで咲いています。
 ツバキの語源には諸説あり、葉に光沢があることを示す古語「ツバ」からという説や、艶のある葉の木「ツヤハキ」、強い葉「ツヨハキ」、厚い葉「アツバキ」などから名付けられたようです。

 サザンカはツバキの花とよく似ているが、ツバキ科ではありません。花の散り方も異なります。ヤブツバキはツバキ科の常緑高木で、ツバキ属全体を指して、ヤブツバキと呼ばれる。ユキツバキはツバキ科ツバキ属の常緑低木です。ツバキには江戸時代から品種改良によりつくりだされた数々の園芸品種があります。

 寒い冬から暖かくなる春まで、凛として咲く椿は美しい。「今を生きる」ということを語りかけているかのようです。また、春爛漫を演出する桜は、人々に新しい季節の到来の喜びをあたえてくれる花です。出会いと別れの時節に、そして、震災の傷跡が消えない被災地に咲く桜は、人々に希望をあたえてくれます。桜と椿は、その種類の多さもさることながら、いずれも日本人に好まれる春の花です。

桜花爛漫

 新型コロナウイルスの世界的な蔓延が、今だ終息せず、不安な世情であるが、今年も桜が咲きました。暖冬であったことから桜の開花が例年より早いようです。
 桜は前年の夏に花芽を形成し、夏には葉が青々と繁り、秋には落葉して、冬の一定期間低温にさらされると、花芽は眠りから覚めて開花の準備を始めます。そして春に気温が上昇すると、だいたい15℃といわれていますが、花芽が一気に生長し、開花に至るそうです。

 ソメイヨシノ(染井吉野)は江戸時代の末期に江戸の染井村の植木屋が売り出したと伝えられています。日本中のいたるところにソメイヨシノが植えられている。ソメイヨシノは、エドヒガン系のサクラと、日本固有種のオオシマザクラの交配で生まれた日本産のサクラです。遺伝子検査によって、1995年にソメイヨシノはエドヒガンとオオシマザクラの雑種が交雑してできた単一の樹を始原とするクローンであることが明らかにされました。

 京都・嵯峨野の造園業「植藤」の16代目佐野藤右衛門は、桜守とあだなされている御年90歳になられる庭師です。ソメイヨシノについて、「制服着た整形美人みたいなもんや。それを人間の都合で、あちこちに植えただけです。そやから九州の桜も、東北の桜も、染井吉野はおんなじ顔してるんです。」佐野藤右衛門さんはこう話された。それで、桜の時節になると山野にでかけて、今まで見たことのない桜を見つけるのが楽しみだそうです。

 佐野藤右衛門さんは「日本古来の山桜というのは、もともと自分が育ちやすいところに根をおろしてるから放っておいても育つ。けど植樹した染井吉野は人間が関わらんと生きていけん。もうちょっと説明すると、接ぎ木や挿し木でしか増えん染井吉野には「幹」がない。太い木に見えても、あれみんな「枝」で、年輪もないんですわ。桜は枝枯れをしながら成長するもんやから、枝しかない染井吉野は寿命が短い。自力で跡継ぎも残せん。」
とこのように話された。
 実生で育った山桜はどれも個性があり、それぞれにちがった美しさがあるから、ほんとうに美しいと感じられるサクラは山桜かもしれません。

日本ミツバチの分封

 四月は日本ミツバチの繁殖する時期です。巣に蜜を蓄え越冬した日本ミツバチはソメイヨシノの開花の時期になると、分封すなわち、女王蜂を中心にしたミツバチの大群が古い巣から新しい営巣地をもとめて飛び出します。越冬した日本ミツバチの女王蜂は子孫である新しい女王蜂となる子を産み、その子が成長すると、親蜂である女王蜂は群れの半分近いと思われる働蜂と、繁殖時期のみに生まれる雄蜂を引き連れて、巣から出て新しい営巣地に移動します。

 また、長女の女王蜂は次女の女王蜂が成長すると、親蜂と同じように新しい営巣地を求めて、群れをなし飛び出す。次女から三女へとミツバチの群れが飛び出していきます。春の一時期にのみおこる日本ミツバチ特有のこの群れ別れの動きが分封です。花々が咲く春は日本ミツバチのみならず、多くの生きものの繁殖
の季節でもある。

 近年日本ミツバチが激減しています。その原因の一つにネオニコチノイド系農薬の影響があるといわれています。またアカリンダニがミツバチの気管に寄生すると窒息死してしまう。養蜂されているセイヨウミツバチに付着する外来種であるアカリンダニが、日本ミツバチにも寄生するようになり、日本ミツバチが群れごと死滅する現象が近年多くみられ、日本ミツバチが急激に減少しています。

 今、人間社会においては、新型コロナウイルスの蔓延が世界的に大きな問題になっています。新型のウイルスであるからワクチンも治療薬もないので、人々はいつ終息するのだろうか、不安が消えません。自然界においてはもっと深刻な事態が進行しています。人間の環境破壊によって、地球全域において、あらゆる生命が危険にさらされているのです。共生きのこの世において、生きとし生けるもののすべての生存にかかわることであり、共生きという生命存続の大原則が壊れていくから深刻な課題です。

いつも只 我が古里の 花なれば 色もかわらず 過ぎし春かな

 浅き春、寒気の中に凛として咲く椿は美しい。ツバキの種類は多いけれど、たっぷりと蜜をもつヤブツバキにはミツバチや鳥が蜜を求めてやってくるから実を結ぶ。ヤブツバキは実生で繁殖するから、よく観察してみると同じように見えるヤブツバキでも、個々に花の大きさや花弁、色にちがいがある。それぞれが個性を持っているのがヤブツバキです。まさに共生の世界に咲く花です。

 里山には太い幹から大きく枝を広げた山桜がある。花の咲く時期になると山桜の存在が認められる。自然生えの山桜はそれぞれがとても個性的です。開花時期も、樹形も花弁の形も色もさまざまです。山桜は実生であるから、一本として同じものがない。それに比べるとソメイヨシノは、どれもみな均一で個性というものがない。そして花を食べる鳥は来るが、実を結ばないから蜜が無く、したがって蜜を求めてミツバチも来ないから、ソメイヨシノは共生きの世界には不似合いな花だということです。

 山里に咲く山桜は美しい。寒風をついて凛として咲く椿も美しい。それは人知れず咲いているからであり、時節になれば天地の恵みを受けて、自然が咲かせているからでしょう。
 「敷島の大和心を人問はば、朝日ににおう山桜花」と本居宣長が読んでいます。山桜は虚勢を張って、自己顕示もしていないのに、雄々しく優雅です。古来より人々は、山桜の枯木に花が咲くと、山の神が出現したと見なしました。また、先祖や亡き人の魂が宿っていると崇めました。そして春の到来を喜び、共生きのありがたさを共感し合うのです。

 
「いつも只 我が古里の 花なれば 色もかわらず 過ぎし春かな」と道元禅師が詠まれました。四季それぞれに、その時節になればそれぞれの花が咲く、そして散っていく。咲く花のこころは、今も昔も変わることはない。咲く花はなんの疑いもなく、ただひたすらに咲き、そして散っていくから美しいのでしょう。春は共生き世界のあらゆる生命の歓喜あふれる季節です。
 幾星霜、艱難辛苦を乗り越えてきた山桜の枯木に今年も花が咲きました。その雄々しき姿は人々に勇気と希望をあたえてくれる。新型コロナウイルスの蔓延が人々に精神的にも経済的にも暗い影を投げかけています。混沌とした世情であるけれど、時節因縁のもとに変わることなく花々は咲いています。

 
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