会社での取引先のメーカの課長さんK本さんと商談の折り、脱線した話題の中でK本さんと上司の方が休日に職場のメンバー達と 『手打ち蕎麦』 を楽しんでいることを聞きました。私も旅先の北海道でそば粉を買ってきて、我流(適当に水でこねてお菓子用の短い麺棒で伸ばし三得包丁で切ったもの)で蕎麦を作ったことがあるけれど、蕎麦とは程遠い 『粉臭くて太くまずいモノ』 になっただけで嫌な思い出しか無いです。
K本さんは普段手打ち蕎麦を打つのに 『信濃屋製粉』 から粉を仕入れていて、その粉を使って市の文化センターでも蕎麦打ち講習会を開いていると話していた。 『信濃屋製粉』 と言えば、我が家から徒歩で数分のところにある製粉工場である。子供の頃には店先に大きな水車が回っていたのを覚えているけどそれが蕎麦製粉工場とは最近になるまで知りませんでした。
早速、インターネットで調べてみるとホームページを立ち上げていて 『蕎麦打ち講習会』 も月に4回ほど開催している。参加費用も値ごろで地理的条件も良いので2002年の10月に初めて会社の友人を誘い参加しました。
いざ参加してみれば、どこにでも有りそうな 『××文化センターお料理教室』 の様な 『♪さあ皆さん楽しくやりましょうね〜ェ♪』 って感じでは無くて男性が参加者の半分強でみな真剣である。服装も 『ピシッ』 と決めて、個人の麺棒やら包丁持参で本格手打ち蕎麦屋さんの集会場みたいである。(あとで思えばボランティアの講師の方でした)
現在もふた月に1回くらいの頻度で蕎麦打ち講習会に通っています。家でも時々打っています。
手打ち蕎麦を覚えてからは、外では蕎麦を食べなくなりスーパーなどでも乾麺や袋麺の蕎麦を買うことは全く無くなりました。
手打ち蕎麦にはつなぎを入れない『生粉打ち』(十割蕎麦)とつなぎの小麦粉を2割入れた二八蕎麦があります。市販の袋入りの蕎麦では蕎麦粉の配合をもっと減らしたものがあるようですが、私はもっぱら二八蕎麦を続けています。生粉打ちは最初は熱湯で練るなど多少加水の仕方も異なるので、二八が会得出来ればいづれやってみるつもりです。
【準備の前に】
手を良く洗うのは当然ですが、爪は短く切りそろえて、指輪や腕時計を外しておいた方が賢明です。
【材料】(5〜6人前)
蕎麦粉8割、つなぎ(中力粉)2割、水(蕎麦粉とつなぎを合わせた重量の半分前後)
※蕎麦粉400gr、つなぎ100grの場合に水は250gr前後=この場合は加水率50%と言います(粉の種類や乾燥度合、天候によって数%は変わります)
【基本の道具】(代用できるものなら何でも可)
・のし棒(麺棒)・・・私はホームセンターの木材コーナーでφ30のラミン棒やφ40の塗装していない木製の階段の手すりで始めました
・打ち台・・・当初は学生時代の製図板を紙ヤスリで磨いて使っていました。現在は120×90センチ21ミリ厚シナ合板をヒノキ角材で縁どりした自作品です
何も無ければ、調理台や食卓テーブルでも出来なくは無いです。少量でしたらお菓子づくりの麺台でも間に合います
・こね鉢(樹脂製の尺八 [ 直径54センチ ] でこの位有れば2キロ近くまで打てます)・・・大き目のステンレスやガラスボールで代用出来ます
・そば切り包丁・・・中華包丁でも代用できるかも?刃が真直ぐであれば良し!
・こま板(麺を切る時に使う包丁ガイドの役目)・・・中元で戴く素麺が入った木箱で代用可能です
・その他 計量カップ、調理用ハカリ、まな板(出来るだけ大きくて反りの無いもの)
【つくり方】
1.蕎麦粉を8割、つなぎを2割こね鉢に入れます。(粉に異物や著しい不揃いがあれば#40〜60程度のふるいに掛ける)
2.蕎麦粉とつなぎをよく混ぜます。つなぎの小麦粉がうまく蕎麦粉に均一に混ざっていないと、水を入れたときにそこだけ固まってしまいます。手元の粉など手薄になりがちな場所もしっかりと!
3.粉を鉢になるべく平坦にして水を約半分程入れる(1箇所に集中せずまんべんなく)
4.水を粉と混ぜていきます(一次加水)この時、指先を立てて指先で混ぜるようにすると粉が手の平に付きにくく温度も上がりにくいようです。まんべんなく撹拌します(水回し)感覚的には軟らかい生のパン粉の感じです。粉自身が湿っぽくなるだけでまだまだ生地の固まりには程遠い状態です。
5.全体的に水分が行き渡ったら更に水を残りのうち半分(合計3/4)だけ入れます(2次加水)。この時も一部分に入れずに全体的に行き渡る様に振り掛けます。
6.再び撹拌します。粉となって残っている部分が一切無いように手前の部分や、鉢の底の粉もしっかり上下返しておきます。蕎麦打ち通の方からは 『蕎麦粉の温度は出来るだけ上げない方がよい』 との事で勧められないそうですが、手の平の間に粉を取って拝むようにして混ぜる 『拝みもみ』 が私には非常にラクです。私自身、手の温度が低く、結局混ぜる時間が短く済むのでかまわないのではないか?と思っています。
7.更に加水しますがこの辺りからは慎重にします。残りの半分入れるかもう少し多めにするか、勘と経験になってきます。
8.再び撹拌していくと少しずつ小さなかたまりになってきます。かたまりにならないようならもう少し水をパラパラと足します。だんだんと粒が出来てまた粒どうしがくっついて大きな粒になってくる筈です。
9.大きな粒になって自然にそれぞれがまとまろうとしてきたらひとつにしてしまいます。
10.こねに入ります。力ずくで無くて良いのでかたまりを半分程に潰すつもりで押しながらこねます。私は半分に折り畳んでそれを押し延ばす繰り返しでやっています。
11.鉢に接する面が徐々に生地の表面が滑らかになってきます。
12.こねた生地の中には空気が入っていますので空気を抜く作業(菊練りとか菊揉み)に入ります。鉢の湾曲を利用して外側の生地を中の方に練り込んで行きます。生地を回しながら続けて行くと真ん中が菊の花の様に見える事からそう呼ぶそうですが、作業自体なかなか難しく花も菊と言うよりアサガオです。私自身もこれが苦手でなかなかうまくいきません。
13.空気抜きの最終工程へそ出しです。菊の花が円錐形の先になるように鉢の内面か麺打ち台の上で斜めに転がしていきます。感覚的には中の空気を円錐形の先に押し出す感じです。これで生地は出来上がりです。
14.延ばしの作業に入ります。麺打ち台に打ち粉を少し振り、先程の円錐形の先を下にして丸くなるように押し付けます。
15.回しながら手の平で押し広げていきます。この時も真円を意識します。
16.厚みが1センチくらいになったら次は麺棒を使います。
17.麺棒で伸ばすには何種類もあるようですが、私が1番最初に教わったテクニックの要らない方法は丸くなった生地(麺体)に真上から麺棒を2センチ程度ずらしながら平行に押し付けていきます。(荒い洗濯板みたいな感じ→今の人は見たこと無いかも?)
90度回して同じ事の繰り返し。次に45度回して同じ様に、済んだら次は90度と言うように...これで随分薄くなりますし、更に追加で押しながらこねているようなものです。麺棒が転がすだけでなくこんな使い方も有るとは教わらないと気がつかないですね。
18.厚みが均一に5〜7ミリくらいになれば麺体の表面に打ち粉を少し振ります。いよいよ麺棒で伸ばしていきます。棒の持ち方は『ニャンコの手』と言いますが手の平ではなく爪で転がす要領です。奥に押しながら伸ばします。
19.一回ずつ麺体を時計で言う5分位ずつ回して伸ばします。12回で一周ですがあまり回数や角度には神経質にならなくてもとにかく麺体が真円になるように気をつけます。
《延ばすのに必死で、ここからはしばらく画像がありません》 (v_v)
20.麺棒に巻き取れるくらいの厚み(5ミリ以下)になったら、麺体の中程に縦に打ち粉を振ります。そして麺体を手前から麺棒に巻き取ります。
21.巻き取った状態で手前から奥に手の平で転がしていきます。力を入れ過ぎると中でシワになったり切れるので慎重に伸ばします。延ばす回数は3回とか4回とか覚えておいて下さい。
22.麺体を巻き取ってある麺棒を左右反転させて麺打ち台の奥に置き、手前に向かってほどいていきます。変形した菱形に伸びている筈です。
23.再び手前から麺体を巻き直し、先程の回数転がして伸ばします。
24.今度は麺体を巻き取った麺棒を縦にして麺打ち台の左右どちらかから横にほどいていきます。うまくいけば左右対象の菱形かくちびるの様な形になっていると思います。
25.今度は先程伸ばした直角方向に麺棒に巻き取りますが、その前にまた縦方向に打ち粉を振っておきます。麺体を麺棒で巻き取り伸ばして、巻き換えて伸ばすのは先程と同じです。
26.伸ばし終えたら麺打ち台の奥の左右どちらかからほどいて麺体を広げます。ほぼ四角ならあなたは超天才!
27.今の伸ばした作業では対角線方向だけに伸びて薄くなっているので辺の周辺の二等辺三角形の部分を伸ばします。形にこだわるより厚みを均一に。好みや粉の種類にも寄りますが1.5〜2ミリの厚みになるようにしてください。また麺体が大きい場合はもう1本の麺棒で手前から少し巻き取っておくと作業しやすいです。
28.厚みの確認は伸ばした麺体を折り返す(自然に任せて)と曲がりの曲率(半径)で一目瞭然です。奥に延ばし広げた麺体に手前に手繰り巻き寄せた麺棒を上から重ねるようにすれば左右方向がわかりますし、重ね合わせを手前から奥に移動させれば前後長手方向の厚みが見れます。
29.切りに備えて麺体を畳みます。麺体の広さにも寄りますが右利きの場合は一旦麺棒に巻き取った麺体を打ち台の左側から右にほどいていき、中ほどで広げた麺体にしっかり打ち粉をしてから折り返して二つ折りに重ね合わせます。
30.次に前後方向に折り畳みます。麺体が重なる部分にはここも打ち粉をしっかり振ります。折り方は包丁の大きさにあわせた長さ(包丁より短く)するために2つ折りから4つ折りにします。この時折り目は手前に来る様に!(でないと切る時に心持ち奥に押し切りますので折った麺体がズレてしまいます)
31.前後方向に2つ折りで包丁の幅よりも長くなりそうなら3つ折りにする、或いは2つ折りの後にもう一度折って4つ折りにします。この時、一番外側にあたる折り返しの部分が手前側にしておくと麺として切るときに麺体がずれません。(包丁で少し少し押し気味に切るので重なっている部分がどんどん奥の方に押されてずれて行ってしまう)
◎畳みが出来たらいよいよ蕎麦切りです。
蕎麦切り包丁で切るに越したこと無いですが、刃先が真っ直ぐであれば何とか使えると思います(中華包丁や菜切り包丁など)最近では手打ち蕎麦ブームのおかげでホームセンターの調理器具売場に入門用の安い物も有ったりします。ちなみに私は初めに包丁と駒板、こね鉢を揃えました。
最近TVで見かけたのですが麺体を畳まず、平たい一枚のまま蕎麦切りを定規を使って刺身包丁で一気に切ってしまう方法です。確かに切った麺の角は鋭く、試してみる価値は有るかも知れません。けれど大きな切り板がないとダメですね。
32.とりあえず普通の麺切りです。
折り畳んだ麺体をまな板に乗せる前にまずまな板に打ち粉を一面に振ります。これをタマに忘れて麺体を持ってアタフタする事があります。何故打ち粉を敷くかと言えば、まな板の反りで麺が下まで完全に切れない事の防止策と切れた蕎麦のくっつき防止です。次に畳んだ麺体を打ち粉を振ったまな板に真っ直ぐ乗せます。右利きならさっき畳んだ縦方向の折り目が右側です。麺体の上にも少し打ち粉を振っておくと駒板の滑りが良いです。
駒板は1000円くらいからありますが、例えば進物用のそうめんが入っている桐等の木箱でも代用出来ます。
麺体に平行に駒板を置き、人差し指と親指で駒板の立ち上がりの根本を押さえ小指で板の中程を押さえる3点支持の形をとります。あまり力を入れ過ぎると駒板が動かしにくいですから包丁を押し当てて動かない程度にそっと手を添えるくらいです。
包丁を駒板の立ち上がりに添えて、やや前に押しながら切ります。押し切る感じです。この時麺体と駒板と包丁は全て真ん中が合っている様にします。
次に駒板を進めますが今切り降ろした包丁を上げる前に包丁を左側に僅かに倒します。この時駒板が包丁の左側にくっついてる筈ですから駒板も包丁に押されて一緒に左に動きます。この動いた分の長さが蕎麦の麺1本分の太さになります。麺体の厚みと同じだけ動かせば断面が真四角の蕎麦になりますが、慣れるまでは気にせず同じ太さになるようにします。太くても手づくりの良さです。田舎蕎麦ではきしめんの様なものも有りますからそれはそれでオリジナリティです。
33.20本位から数十本まで切れたら包丁を降ろしたままでまな板の上を右に少しずらすと切った麺が取りやすいです。麺は切れやすくデリケートなのでそっとまとめ取って打ち粉をはらいます。これで断面の打ち粉が着いていなかった部分にも粉が着いて麺どうしがくっつく事を防げます。決まった本数ごとに取りまとめて置けば次に茹でる時に一定量がわかって便利です。
切りも後半になると気合いが抜けて太くなりがちですが一定の太さになるよう心がけます。
すぐ茹でないのであれば、切った蕎麦は乾燥しないようにラップをかけるか密閉できるような平たいタッパー等に入れて茹でるまで冷蔵庫に保管しておきます。
あとは食べる直前に茹でですが、当たり前の事ですが茹でる鍋は出来るだけ大きくたくさんのお湯で茹でる事です。(また別途説明したいと思います)
そうしないと、
@麺を入れると湯温が大きく下がってしまい茹で時間が長くなってしまう
A面どうしがくっついて茹で上がりが固まりになってしまう
B打ち粉や麺から溶け出たデンプン質が湯に混ざってすぐに糊状のドロドロになってしまう
C湯が多いと放っておいても勝手にお湯の対流で麺がまんべんなくゆだる
D何よりもお湯が多いと美味しくなる
デメリットとして水代、ガス代を多く使いますが趣味、美味しさとして割り切りましょう。
私は直径30センチのステンレス製で蓋付きの大鍋を使っていますが、最低でも25センチくらいのサイズは必要です。最近は中国製の安いものが出まわっていてホームセンターで1000円もあれば購入できます。予算のある方は、底が比較的丸い 『アルミ打ち目つき料理鍋』 などは対流し易く良いようです(価格は同じサイズで7〜10倍しますが・・・)
茹で時間は麺の太さにも寄りますが、おおよそ1分前後(太さ1.5ミリで)、うどんサイズの様に余程太くなければ長くても3分と言ったところでしょうか?お湯の中で麺が対流に乗って回りだしたら茹で上がりと言えます。
茹で上がったらすぐに冷たい水を入れた大きなボウルかオケで洗います。夏であれば氷は必須です。2〜3回洗って表面のヌメリが無くなったらザルで良く水を切って出来上がりです。
1回に茹でる量は今回の500gの粉で出来た麺で、30センチの鍋を使って最低でも3回くらいに分けて茹でて下さい。
あと、蕎麦は 『挽きたて・打ちたて・茹でたて』 の 『3たて』 と言われる食べ物です。茹でたてをたくさんの人に食べてもらおうとすると、残念ですが茹でている人は一緒に食べられない運命なのです。