くらクラしちゃう報告書/番外編3


報告書No.823 “蹴球源流4より”

金子勝彦×倉敷保雄

金子:えー、倉敷保雄さんをお迎えしております。
   倉敷さんねぇ、お名前が倉敷っていうのは、山陽路の倉敷じゃないんですが、
   たいへんお珍しいなと思ったんですが、ご出身は倉敷ですか?
倉敷:いえ。遡って行ってどこまで行くとどうなるかっていうのはわからないんですが、
   そういうことではありません。僕は出身は大阪、天王寺なんですね。
金子:あー、そうですか。
倉敷:はい。ただ、倉敷という名前で、ありがたいなとちょっと思っているのは、
   まぁ、こういうこと自分で言うのはちょっと恐縮だし僭越なんですが、
   あだ名が、ニッックネームが、倉敷から「クラッキー」と呼んでいただくことが多くて、
   クラッキーというのはブラジルで「テクニシャン」のことを言うんです。
金子:そうなんですか!
倉敷:スペイン圏では「クラック」という言い方をしますが、
   そういうようなニックネームをいただけるような名字であったことを、
   ここ数年ありがたいなと思っております。とても実力に見合うものではないんですが。
金子:いえいえ。
   あの、フーズフーではないんですが、お生まれは何年ですか?
倉敷:1961年3月です。
金子:あーそうですか、まだまだお若いし、いいですねぇ。。。前途洋々として。
倉敷:いえいえ。もう68年から見ておりました、ダイヤモンドサッカーを。
金子:何をおっしゃいますか!(笑)幼稚園のときですね。
倉敷:いやぁ〜、でも、そこから長く、20年なさってらっしゃったんですよね?
金子:うーん、そうですねぇ。。。
倉敷:で、僕、ひとつ伺いたいのは、サッカーの中にもいろんな実況者の方がいらっしゃって、
   たとえばNHKの山本浩さんとか、もう「メキシコの空は〜」とか数々の名台詞がありますよね。
   東京オリンピックの開会式のとき、それから74年のワールドカップの決勝のとき、
   どうですか? はじめの一行っていうのはどんな風に考えられました?
金子:最初のひと言っていうのは、僕、ぜんぜん決めません。
倉敷:決めない。
金子:ええ。その日、その時によって、状況は変わってくるわけですから、
倉敷:そうですよね。
金子:ええ。あまりつくらないですよねぇ。
倉敷:全身を研ぎ澄ます感じですか? この大気から自分が感じるものは何だろう、とか。
金子:うーん、やっぱり、そこにあるイベントとマイクロフォンと自分
   その距離がなくて同化できる・・・のが、いちばんいいんじゃないでしょうかねぇ。
倉敷;ぱっと空を見て「鈍色(にびいろ)の空」ってやられるわけですね?
金子:あのね、鈍色っていうのはね、僕、色の表現っていうのは、たとえば英語の中でもそうですが、
   赤の表現でもブルーの表現でもたくさんあると思うんですよ。
倉敷:群青とか紺碧とかいろいろありますよね。
金子:ええ。それは英語も日本語も同じなんですね。ですから、できるだけ、そうした色を使いたい。
   灰色の空から雨がポツリと言うよりも、やっぱり「鈍色ってどういう色?」という風に、
   もし聴いてお分かりにならなかったら辞書を片手に見てくださる、と僕思うんですよ。
   だから音の明瞭度をハッキリして、そこは聴いてください、と。
   日本語の中でもこういう色はあります、という、こだわりですよね。
   あの、宮中の言葉の中では、宮内庁関係ではものすごい色の表現がありますよね。
倉敷:そうですね。ほんと色々ありますよね。
   空の色も色々あるし、たとえば雨ひとつにしたって相当あるじゃないですか。
金子:そう、そうそうそう。
倉敷:「しのつく雨」って言われたら、どういうって・・・
金子:川中美幸さんまでありますよ、「やらずの雨」まで。
倉敷:そうですよね、ありますよね。
金子:ね。雨ってのは天然自然現象ですが、やはり感性、情緒的なもののフィルターを通ると
   ぜんぜん違った感じで表現ができるじゃないですか。
   そういうものを発見しながら、競技場とサッカーとブラウン管をマイクロフォンを通じて
   リンクできるというのは自分等のすごい楽しみで。
   でも「お前うるせえよ」ってね、自分で思うんですよ、自分で。
   あの、当然、私達は自分が担当したものを、
あとになって聴くじゃないですか。
倉敷:はい、そうですね。
金子:で、復習してるときに、
   「うるせぇなぁ、お前。ちょっと違う表現した方がいいんじゃないのかな」って
   思い悩むことってあるんですよ。
倉敷:そうですか、金子さんでもありますか
金子:ありますよ。これは生涯ありますよ
倉敷:そうですね。
金子:ええ。
倉敷:消しゴムのない商売をしてますから。で、誰よりも先に口に出すという商売ですからね。
金子:そうですよ。それは苦しんで当然、悩んで当然。で、次のものが出てくると思います。
倉敷:サッカーの言葉を探すという旅は今もなさっていると思うんですが。
金子:はい。これは大変ですねぇ。。。共通の基盤がたくさんあると思うんですよね。
倉敷:僕は新しい言葉が生まれてくるということに対しては肯定的にはとらえているつもりなんですが、
   たとえば「すらす」という言葉がよく使われます。
金子:あぁ、はい、おもしろいですねぇ。これはTVをご覧のみなさんの中でも
   古くから言語を研究なさっている方は「日本語に、すらすという言葉はないよ」と。
倉敷:ないですよね。
金子:ないです。ありません。
倉敷:「そらす」と「スライドさせる」なのかな?という風に僕は想像しているんですが。
   これ、たとえばBBCのアナウンサーだったら簡単に「フリック・オン」っていう言葉を
   つかうと思うんですよ。
金子:あぁ、はいはい。ですから、私はね、「すらす」ってほとんどつかいません。
倉敷:僕はまったくつかいませんねぇ。
金子:あぁ、そうですか。あの、ずいぶん悩みましてね、どうしようかな、と。
   で、サッカー界でも、その言葉が命を得てるとは僕は思ってないんですよ。
   ただ、加藤久さんなんかは実際によくつかってらっしゃるんですよね。
倉敷:そうなんですよね。
金子:ねぇ。久さん、多いですよ、すらすって。原さんも多いでしょ。
倉敷:えぇ。柔軟なのかもしれませんね、アナウンサーよりも。
   ただアナウンサーでもつかってらっしゃる方は多いですが。
金子:ええ。私は一回だけ、かな。
倉敷:それはちょっとドキドキしながらおつかいになったんですか?
金子:いや、違うかな、って思いながら。思わず出てしまってね、言葉拾えるならね拾いたい。
倉敷:あーなるほど。取り消してしまいたいとか。うんうん。
金子:あ、違うな、って。
   でも言葉っていうのは揺れ動いて、ひょっとしたら、そういう側面があるのかな。
   だから造語であってね、それはサッカー界独特の造語であるならば、それはそれでいいのかな。
   でね、先ほど倉敷さんがおっしゃってたのと違って、私は「する」って手ヘンに、
倉敷:あぁ、擦過するの、擦ですね。
金子:ええ。そういう文字をあてるのかなと思ったんですよ。
倉敷:なるほど、なるほど。こする。
金子:はい。こする。すらす。
倉敷:なるほど、なるほど。あぁ、そうかもしれませんね。
金子:えぇ、それから出た造語で、ひょっとしたら、どこかの地方では
   つかっている言葉かもしれないんですが、少なくとも広辞苑の中にはないですよ。
倉敷:そうですね。あと迷ってしまうのは「放り込む」という言い方。
金子:あぁ、はいはい。
倉敷:たとえば前線に集まってるから、そこに、矢のようなクロスではないけれども、
   ボールをとにかく入れる。ただ「放り込む」という言葉は、厳密に言えば、
   手をつかって投げるものではないのか
金子:そういうことです。えぇ、まったく、おっしゃる通りです。
倉敷:ここは難しいところなんですよね。ただ、あれは「放り込む」だと思う。
金子:でもね、私も「放り込む」ってあまりつかいませんよ。
倉敷:そうですか。ネガティブな印象があるからですか? それとも本来は手を使うものだからですか?
金子:あのね、放り込んでいるのは見てるとわかるものなんで、あまり必要ないんで、
   むしろ距離のあるクロスパスを出すならば、スワーブをかけてどのくらいの高さに出してるのか、
   あるいはグラウンダーなのか、ということを画面がフォローできないとすれば、
   瞬間、自分が気づけば、どういう性質のクロスを入れてるのか、っていう風に思うんですね。
   で、僕は「クロス」って言ったら、そこでたぶんやめてると思うんですよ。
倉敷:あとは見せるんですね。
金子:はい。複合動詞を、あまりつかうのは、僕は嫌いなんですね。
倉敷:なるほど。
金子:「入れて来た」とか。
倉敷:あー、そうですね。
金子:「狙って来た」とか。
倉敷:はいはい。
金子:これは狙わないキックってないんですよ。倉敷さんと僕がワンツーやっても狙ってるんですよ。
   右か左かどちらの足へ出すかってとこまで狙って出しているんですよ。
   だから、そういうものはね、夾雑物をきちっと整理して、いちばん簡潔に言った方が(いい)。
   瞬間的に絵を追って、耳も働かせて実況を聴いてる視聴者の方は短い方がいいんだもん。
   私は、そう思ってますが、いかがでしょう。
倉敷:それでいて、一方では興味深いサッカー用語っていうのは提供して
   見る人の興味を喚起したいというような欲望はあるんですよ。
金子:ありますよ。ね。
倉敷:はい。
金子:ですから、それぞれ何の言葉をつかってもよろしいかと存じますが、
   ただやっぱりセンターリング、クロスからはじまって、
   そのふたつのテクニカルタームをおつかいにならないで、
   「放り込む」あるいは「入れて来た」「狙って来た」って言うのはね。
   私はやっぱりもっと技術用語に置き換えて、
倉敷:ですよね。
金子:うんうん。蹴り出しのときの性質と、受け手の側のその瞬間のプレイぶり。
   で、胸のあげ方でも当て方でも、やっぱり違うじゃないですか。
倉敷:そうですね。
金子:ね。だから、ロナウジーニョのあの足をどう表現するかっていうのは、
   今度の大会の世界中のアナウンサーの、僕は非常に興味ある焦点なんですよ。
倉敷:なるほど。世界中がそれをどう表現するのか、という表現の仕方ですね。
金子:だって、考えられないことやってるじゃないですか。
倉敷:ほんとに。
   あの、金子さんも世界のサッカーの実況をお聴きになった機会があると思うのですが、
   僕も数少ない経験の中で言うと、なんと世界のサッカー実況者の詩的であることか
   リリックなのかポエミーなのかわかりませんが。もう、たとえば
   「海を銀色に光らせて、いまポルトガルの船が旅立ちのときを迎えています」とか
   アナウンサーが平気で言うじゃないですか。
金子:(笑)
倉敷:フランスのアナウンサーに至っては泣いてしまったりとか、そうかと思うと、
   ゴダールのフレーズを急に持ち出してみたりとか。そういう遊びって、おもしろいですよね。
金子:ありますね。
倉敷:やり過ぎはよくないと思いますが、そういう遊び心ってありますよね。
金子:ありますね。それはね、私もありますよ。ジョゼ・モウリーニョがね、
   エンリケ王子勲章をもらったっていうことについて、僕とても興味があるわけですね。
   で、それをポルトガル本国では、どういう表現で言われたんだろう、と。
倉敷:ポルトガルは特に詩的ですね。
金子:詩的ですよ。そういうものを日本の視聴者の方にフィードする場合に、
   「お前そんなことはとっくに知っているよ」と。
倉敷:あはは。
金子:いや、知ってらっしゃってもご一緒しましょう、と。聴いてください、と。
   ですから、そのときに何を感ずるかっていうのは、
   ひとり一人の語り部の感性の問題だし、どういう引き出しをその人が持っているかですよ。
   で、日本の中では、倉敷さんがいちばん外来語を、ポルトガル語でもスペイン語でも、
   英語でも、入れるのがお好きじゃないですか。
倉敷:好きですね。僕、よくたとえに出すのがカメルーンの選手のことなんですけど。
   (僕は)カメルーンには行ったことないです。カメルーンに行った経験がおありの方って、
   たぶんざっと見渡してそんなにいらっしゃらないと思うんですよね。だけど、
   カメルーンに行って、エムボマとつぶやいたとする、あるいはエトーとつぶやいたとする、
   友達がすぐにできると思いませんか。ここがサッカーのすごいところだと僕は思うんですね。
   その魔法の言葉を、できれば現地の音に近づけて紹介してあげたら、
   そういう友達がつくりやすいのかもしれないな、と。
金子:あーなるほど。そういうこだわり。
倉敷:はい。で、サッカー用語も日本語の中にたくさん取り込みたい
   さっきの話に戻るのですが、サッカーを語る言葉、サッカーの中継につかえる言葉って
   僕はまだとっても不足しているんです。だから、これは違った表現でできないものか、
   違った文化だったらこういうニュアンスがあるんじゃないのかな、ということに興味があるので
   語学に堪能であるわけでもない男が40を越えてからいろんな辞書を買い込んで、
   いろんな「ポルトガル語入門」とかいう本をしこたま買い込んで。
   ほとんどが「積ん読」です、恥ずかしい話ですが。それでも、ひとつでもふたつでも覚えて、
   それがその国のサッカーを知るきっかけになるのであれば楽しいことだし、
   アナウンサーは一生勉強だと思ってこの仕事に就いたわけですから
   そういう仕事をしていきたいなと思っているんですが。
金子:なるほど。
   岡野俊一郎さんがね、サインを求められると「あらゆる戦術に勝るのは友情」という言葉をね、
倉敷:あぁ。素晴らしい。
金子:子供達、小学生、中学生にこう書くんですね。で、私どもがサインをくださいと申し上げると
   「サッカーは世界の言葉」って。
倉敷:はぁ〜、へぇ。。。(感銘を受けている様子)
金子:倉敷さんがおっしゃったように、68年〜70年代の頃にサッカーを知りそめた頃というのは
   世界の人口がだいたい38億ぐらいです。で、いま65億に。地理Bじゃないですけどね(笑)
   もう64億数千万でしょ。で、1年にだいたい1億人ぐらいずつ増えているそうですよ。
   ですからアフリカ大陸、それからインドですね、アジアの一部で人口増えてるんですが、
   ただ、やはり言葉の範囲がどんどんどんどん、おっしゃったように広がっていると思うんですよ。
倉敷:言葉の範囲が。はい。
金子:いまおっしゃった外来語、ポルトガル語を多く含むのがいいのか、それともスペイン語を
   多く含むのがいいのか、英語を多く含むのがいいのかっていうのは、日本の視聴者に対して
   ぜんぜん違う文化を接点としてフィードする場合に何をしたらいいかっていうのは
   また新たな世界ですねぇ。あなたが設定していらっしゃるのはね。
倉敷:そうですねぇ。
   まぁ、どこの国に行っても、サッカーのスタンダードな実況ってのは何だろう?
   いつも考えるんですが。んー、、、僕がいちばんお叱りをうけるのは
   「君は選手の名前を追っているだけだね」って言われることが多いんですね。
金子:いや、それはすごい貴重なんですよ。
倉敷:でも、それをあまり心良く思わない方も中にはいらっしゃるというのが現状だと思うのですが。
金子:あぁ、そうなんですか。
倉敷:はい。で、それは僕は海外の中継を耳に聴くこと、目の当たりにすることが多い中で、
   僕にとっては、それはスタンダードなことなんですね。どこの国に行ってもそうだ、と。
   だから、日本で海外にいらっしゃった方が中継を見て、選手の名前だけを追っていてくれれば
   それが比較的ネイティブに近ければ、ネイティブとは言わない、ネイティブに少しでも近ければ、
   それはその国のサッカーを、その国で見ても楽しめるものなんじゃないのかな、と僕は思うんですよ。
金子:あぁ、なるほど。
倉敷:選手の名を追うことで喜ばれることもあります
金子:それ、ものすごく大事ですよ。
倉敷:はい。洗濯をしながら、あなたの中継は聴ける、という風に(笑)
金子:あはは(笑)
倉敷:言われたことがあって、それは嬉しかったですね。アイロンをかけながらTVつけていても、と。
金子:私も大変に放送を楽しませていただいているひとりですよ。
倉敷:恐縮です。
金子:いや、ほんとに。
   私が多少理解できる言語の中では、ドイツのコメンテーターというのは名前がほとんど中心ですよね。
倉敷:そうですね、えぇ。
金子:これはブンデスリーガはビックリするくらいですね。昔から。ドイツ流の原点かもしれないですね。
   だから日本の場合には、限られた画面の中で、全部ピッチを見渡せることができない中で、
   そのひとつのブロックだけ括り撮られた中がフィードされるわけじゃないですか。
   そうすると、その中でわかるっていうのを、僕いつも感心しているんですよ。
倉敷:いえいえいえ。
金子:フレームインしてくる人が何故わかるんだろ。やっぱり目と感性が鋭いんだ。
倉敷:いや、僕はそうとは思いませんが、ただ、あの、自分で選手の名前を追うっていうことは
   その試合のリズムがわかりたいっていうことがひとつあるんですね。
   パスをまわすリズムっていうのが、その試合の、その時間のリズムだと思っているんですね。
   そうすると、このパスをまわすっていうと、パスにはやっぱり規則性がありますから、
   誰から誰に来るのがこのチームのやり方なんだというのがわかれば、この前に来るパスは
   逆算すれば彼から出ているはずだ、あるいはこのポジションから出ているはずだ。
   逆サイドにいなければこうなっていて、で、追う選手を間違えたとしたら
   何で間違えたんだろうということを考えるんですね。
金子:フース・ヒディングですね。
倉敷:いえいえ、そんな恐れ多いことを。
金子:いやいやいや。
倉敷:そうすると、そこにいたはずの選手がいないのはサイドチェンジをしていたのか、
   あるいはオーバーラップしていたのか、あるいは誰かのマークで引きずり出されていたのか、
   いくつかの可能性がある。あるいは勘違い。似たような選手だから単に僕は見間違えた。
   最近、不利だな、嫌だなと思うのは
金子:何?(笑)
倉敷:TVの画面、大きいじゃないですか。
金子:大きいですねぇ。
倉敷:しかもハイビジョンじゃないですか。
金子:見やすいですねぇ。
倉敷:僕らがやってる画面て、こんなじゃないですか(手で大きさを現す)不利ですよねぇ。
金子:ちょっと大きすぎるでしょ、もっと小さいでしょ。
倉敷:このぐらいですかね?(笑)お顔ぐらいのね、これで僕たちやってるわけですから不利ですよね。
   イマジネーションと知識を総動員しないと、もう、ねぇ、
   視聴者のみなさんは素晴らしい画面で、くつろいで、僕たちはストイックな、ねぇ(笑)
金子:ほんとに。あの、視聴者のみなさん、原点からの告白なんですよ。そうですよね。
倉敷:はい。
金子:ですから、ご家庭でご覧の方は、ほんとに大きな画面でね。
   自分等も電気店の展示ルームで見ていて、いや、いいなぁと思いますよね。
倉敷:金子さん、白黒の時代からの中継っていうのは・・・
金子:そうですよ。ジョージ・ベストが向こう側のタッチライン際でかすんでるんですよ。
倉敷:これはねぇ(ポンとひざを叩く)難しい! 白黒の中継ってとても難しいですね。
   いやいやいや。僕なんか、だから、中継してると、1チームの中にドレッドヘアがひとりいて、
   黒人が長い髪のとスキンヘッドがひとりいて、右手ケガしてるやつがひとりいて、
   というように特徴がバラバラだと嬉しくてしょうがないですもん。
金子:そうですよ。でも瞬間的には覚えきれないですよね。
倉敷:そうですね。だから記号化して覚えるしかありませんね。あだ名をつけてしまって、
   あ、この選手はこうだって覚えてしまう。
金子:あぁ、工夫していらっしゃるんだ。
倉敷:はい。
金子:やっぱり、最高の特長、最大の特長と言ってもいいくらいに、倉敷さんは丁寧に選手を追うんですよ。
倉敷:いえいえいえ。もう間違いも多いんで、お恥ずかしい限りです。
金子:いやいや。それはね、素晴らしいことですよ。
   で、今回、ワールドカップは日本戦をご担当になりますね。
倉敷:そうです。1次リーグを担当させていただきます。
金子:あとでまた八塚さんや西岡さんとご一緒に、ワールドカップの中継についてお話を聞かせてください。
倉敷:ぜひ、よろしくお願いいたします。ありがとうございました。


「蹴球源流4」座談会より抜粋

世界サッカーの行方
21世紀に入ってサッカーはスポーツの領域から産業の領域になってきた。サッカーの世界地図も変わった。
倉敷:もうボーダーレスな時代になりましたね。
   かつてヨーロッパに、多くの選手が南米から移籍するようになったっていうのは、
   80年代のワールドカップ、テレ・サンターナの時代を経てのことだと僕は思っているんですが、
   それまでの南米というのはどうしても乱暴な、あるいは大声で相手をののしりながらというような
   ラフなイメージがあったんですが、品行方正な「美しく、ファールをしないで勝ちなさい」といった
   テレ・サンターナの、82年、86年のワールドカップを経て、南米に門戸が開かれた。
   南米のプレーヤーの多くは、ヨーロッパのパスをとり、たくさんの素晴らしい選手が今度は
   ヨーロッパのサッカーで南米のサッカーを支えてくれて、そして90年代の後半ぐらいから
   今度はアフリカの力。どんな素晴らしいチームでも、たとえばチェルシーでもバルセローナでも
   そうですが中心になってる選手がいて、またその選手を支えているのはアフリカの選手たち。
   特に中盤に素晴らしい選手がアフリカは多いですよね。

南米の子供達には、すでにサッカーでヨーロッパに行くという考えが出来上がっている。
国で何かしようではなく、ヨーロッパに行くためにというのを小学生・中学生の段階で準備している。
一方、ヨーロッパのビッグクラブは南米やアフリカに養成所を持っている。青田買いならぬ、
若いうちにある程度の教養を加えて、ワールドクラスのプレーヤーに育て上げる。もはや産業だ。
だが、これを支えているのは、サポーターひとり一人。これを忘れてしまうと違うところに行ってしまう。
選手の年俸も、一時期に比べたら落ち着いて来たとはいえ20億〜30億が動く世界。
子供から見たら確かに夢のような世界かもしれないが、上限なき世界というのは産業的に見たら、
何かが破綻せざるを得ない危うい部分がある。エルドラードではありえないということを、
我々は問題意識として持って、TVを見てくださる人と認識を共有していないとずれてしまうだろう。

100億もらって嬉しいだろうか? 南米に詳しい倉敷さん、どうですか?と話を向けられて
倉敷:そうですね、お腹はいっぱいになりますね。いろんな面で。
   自分たちはストリートサッカーからはじめてクラブと契約し、クラブもステップアップして
   大きくなって大金を手に入れた。次に欲しいのは名誉でしょね。
   クラブで優勝したい、ワールドカップで優勝したい、バロンドールがとりたい、
   世界最優秀選手になりたい。欲望はたぶん、そういう方向に向かって行くと思いますけど、
   その中で選手も考えるのは「ファンから愛されたい」という気持ちがいちばん強い。
   そのためにはどうしたらいいんだろうということを考えて行く。
   ファンから愛されることがまず先になくてはいけないのかもしれないですが、
   いまは先にお金が動いてしまう。10代の、または10代に満たない選手と契約してしまう
   状態になってしまっている。常にお金、お金ってなるけど、
   健全な経営を怠った場合のフロントに対して誰が怒るのか。マスコミなのか、ファンなのか。
   僕はサポーターの力だと思います。メディアは喚起するしかできない。
   
イングランドなどを見ると、もはやサポーターが何かを言えるような状況を越えてしまった。
マンチェスターユナイテッドもサポーターは反対したのだが、クラブも株式会社だから
外国資本が入って来ることに否定はできない。それは1試合の持つ単価が高くなっているため。
あまりにも試合数が多すぎて、試合をするためにお金を稼がなくてはいけない、
選手にも給料を払わないといけない。最近感じるのは、1試合1試合のゲームパフォーマンスが
必ずしも高くない。監督としては年間60〜70試合をこなすためには、
捨てゲームと言っては失礼かもしれないが、主力選手を休ませなきゃいけない試合も
増えて来るし、チャンピオンズリーグも必ずしもベストチームが優勝しなくなってしまった。
これはサッカーファンを増やす意味とは逆行しているんじゃないか、という気がする。
TVマネーとホームスタジアムのキャパシティの拡大で、もうユナイテッドは元には戻らない。
もはや、あの熱狂は感じられなくなるだろう。実際、いまも以前のような一体感がない。

倉敷:文化として失われていくのは哀しいですね。一体感を失って行くことによって。
   みんなで歌を歌う、その歌を歌うというのも誰が教えるわけではないと思うんですよね。
   そのタイミングでこの選手を応援する歌を歌おうと、素敵なクラブチームには歌がある。
   選手を応援する歌を歌おう、劣勢のときにはこの歌を歌おうとか、いろんな歌があって
   それが聴こえてくるのがスタジアムの美しい喧噪だと僕は思うんですよね。
   そういった文化が、あとからファンになった人たちも共有できるならいいけど、
   あとから入った人たちには混じることができないような、
   お金がそれを遮断してしまうようなことって寂しいような気がするんですけどね。

南米は経済的に疲弊している地域もある。ブラジルも世界経済の中ではよくない。
ブラジルの国内リーグがしぼんで来た。アフリカも心配だが南米がいちばん心配な気がする。
倉敷:毎回CBFはあの手この手でレギュレーションを変えたりとかしている。
   入場者数だけで言えば、そうでもない。ブラジルが奥深いなぁと思うのは
   その年にいい選手が出るか出ないかということが極端に入場者に反映される傾向がある。
   クラブのアイドルが出たということで、何よりも自分の愛しているクラブが
   ライバルを倒すかもしれない、というのを親子3代4代で見たいという文化です。
   いまはヨーロッパに出ている選手も、いずれは帰りますね。ブラジルの統計だけを見ると、
   出た人間もいるけれども、帰って来た人間も同じぐらいいるんですね。

選手から見たら、一方ではクラブチームから高年俸をもらう一方で、
サッカーには、ワールドカップで名誉の方の「お金じゃないんだ、国のためだ」という2本柱がある。
これは他の競技にはありえない素晴らしいシステムだと思う。選手の負担はたいへんだが、
国の名誉のために戦えるという、戻るところがあるという両輪は、考えてみれば素晴らしい。

日本代表への思い
グループリーグでは成績のことは別にして、いい試合を見たい。
向こうをオッと驚かせるようなプレーが見たい。もちろん成績が付随すればいちばんいいが。
1試合でも多く見たいということでは、当然グループリーグを突破してほしいが。

日本戦のご担当ですよね? どういう心情で臨みますか?と聞かれて
倉敷:えー、んー、「身の丈にあった中継を、日本代表としたい」と思っています。
   つまり過剰に褒めない。ワールドクラスの中で、僕たちの日本代表はどういうハートで、
   どのくらいの技術で戦っているのかということを、特にスカイパーフェクトTVを中心に
   ご覧になっている方は世界のサッカーを見ているわけですから、
   世界のレベルの中で日本の実力はどうなのか、フィルターをかけないで正直に
   ただ、コラソンとしては日本ですから、がんばってほしい、戦ってほしい。
   ここはもう一歩先へ行ってほしいという中継をしようと思っています。

実況するんであって絶叫しちゃダメですよね。実況する中で日本チームを思っていると、
いい方向へ向かうんじゃないですか?という金子さんの言葉に、
倉敷:念を送ります

グループの中では、ブラジルが抜けている。次にクロアチア。オーストラリアと日本が並ぶ。
ただ、サッカーというスポーツは必ずしも強いチームが勝つ競技ではない。
ラグビーというのはパワースポーツですから最も番狂わせが少ないと言われるが、
サッカーは必ずしもベストゲーム、ベストパフォーマンスでなくてもつけ入る隙はある。
初出場のときの日本代表はアルゼンチンには歯が立たなかったが、それなりの手応えは得て、
かっこ悪くない負け方だったと。2戦目のクロアチアは勝てるような気がしながらやった、
それだけ自分たちがよかったらしい。けれども最後にシュケルのゴールで負けた。
彼らは最後は3位まで行ったが、大会の中での経験やゲームの中での試合運びであったりとか、
それが国のサッカーの経験とか伝統だと思う。今度は何回かW杯を経験している選手もいる。
彼らが90分間の中で、攻めるところ、守るところ、ちょっと落ち着くところ、
激しく行くところなど、相手との駆け引きの中でどうコントロールするか、
それがチームとしての強さだと思う。それができるかどうかを表現もしたいし、楽しみたい。

今度の日本代表は前回よりも力があるんじゃないか、と金子さん。
ヒディング率いるオーストラリアにもつけ入る隙はある。韓国と違ってオーストラリアは
人種の棲み分けがある国。韓国とはメンタリティが違う。ひとつになれるのかな?
倉敷:どこに勝ちに行くか、ですよね? さっき98年のワールドカップの話がありましたね。
   ジャマイカには勝てるとみんな思っていた。でも勝てなかった。
   なぜ勝てなかったかと言うと、日本代表が1戦目2戦目で消耗したからだと思います。
   3戦目のジャマイカ戦だけをピークに考えていて、そこにピーキングを持って来ていたら、
   勝ってたと思います。でも、1戦目も2戦目も一生懸命やっちゃった。
   手応えはあったけどチームは疲弊していたと思います。
   今回は経験者が監督とミーティングして、もちろん監督ジーコが決めることですが、
   ピーキングを1戦目、2戦目に持って来るしかないと思います。
   でも、クロアチア強い、強すぎる(苦笑)いちばん最初の皮算用としては、
   ヒディングも初戦ですよね、情報が少ないうちに、日本は初戦に引き分けてしまえば
   勝ち点1取れて、オーストラリアも納得するだろう。で、クロアチアは
   ブラジルとガチンコ勝負して消耗してくれたら、そこにつけ込めると思った。
   だけど、クロアチアねー、体力もありますね。ただ、98年じゃないけど
   今度も気温が上がりそうな会場なので、すごい熱い日がいいですね。

対オーストラリア戦について。
つなぐことに関しては日本代表の方ができると思うが、体つきが違う。
フィジカル勝負になってしまうと、中村俊輔がボールを持っていても身体ごといかれるから、
それを上手く回避するようにボールをつなげばいいが。
中村はセルティックであれだけやれているが・・・という金子さんの言葉に、
個々のレベルだけ言うと、スコットランドリーグよりもオーストラリア代表選手の方が
やっぱりレベルが上ですね、と西岡さん。
倉敷:戦術として、やっぱり短期決戦ですから、
   相手のエースを潰すっていうのがワールドカップの戦い方ですよね。
金子:嫌だねぇ(苦笑)
倉敷:当然、中村選手はいちばんマークされますよ。

中村はマークされる、中田にも来るだろう。そういう間隙を縫って福西あたりどうか。
FWで言えば、柳沢、高原のような裏をとるとか、スピード勝負に関しては
オーストラリアの最終ラインの選手たちはさほど速くない。ただ、高さ、強さはある。
逆に、いかにビドゥーカを止めるかというのが相当に大変な仕事になる。
中澤ひとりでは、たぶん取りに行っても取れないと思う。
ビドゥーカは足もとが上手くなったし、一時は調子を落としていたが最近また調子をあげて来た。
だが、プレミア勢はケガもあり調子はいまいちではないか。
やっぱりピークを持って来るのはオーストラリア。引き分けでも苦しい。勝たないといけない。
倉敷:でも、オーストラリアとガチンコ勝負してしまったら、
   フィジカルのいちばん強いチームですから、ここで大きく消耗することもある。
だが、そこで当たらないインテリジェンスは日本代表にはある。
オーストラリアに対しては勝ちにこだわってほしい。おそらくクロアチアは難しい。
1戦目のもうひとつのカードはクロアチアvsブラジル。
クロアチアがブラジルに負けたら、日本戦は目の色を変えて来る。おもしろいけど恐い。
倉敷:ブラジルはワールドカップの初戦で負けたことないチームですからね。

日本代表チームへの期待
金子:で、結論。日本代表。ベスト16?
西岡:正直、難しいと思いますよ。難しい中でも、これもフットボールですから、
   3戦の内容で、まったく内容のない試合、変なパフォーマンスであれば
   批難されると思いますが、何かつかむことはできるはずだと思うんですよね。
   2002年は上手く行きました。今回も決勝トーナメント進出を狙ってほしいですが、
   紙一重だとは思うんですけども、正直難しいと僕は思っています。
   やはりブラジル、クロアチアは力が上ですから、
   そこで日本の経験で必ずしも強くなくても彼らを負かすゲームコントロールができれば
   それはすごく評価していいと思うんですね。どういう内容であっても。
倉敷:短期決戦のワールドカップにおける監督に僕がいちばん望むものは、
   運を持っているかどうかということ。
   フィリップ・トルシエは運を持っている監督だった。ジーコはどうか。
   僕は運を持っている人だと思います。その運に期待してギリギリ突破
八塚:グループリーグで1戦目が重要って誰もが言うでしょ。
   まさにその通りだと思うんですけども、1戦目のなおかつ前半ですよね。
金子:これはまた絞って来た!(笑)
八塚:私は、あの45分をどういう風にしのぐかだと(笑)
   早々に失点なんてなったら、うわっと、もう胸が締め付けられますけども。
倉敷:確かに、、、
八塚:もし45分が、ほんとにいい流れで入れたならば、ありかな、と。
   もう45分にかかってるような気がしないでもないですね。
金子:これはおもしろいですね。オーストラリア戦の45分。うーん・・・
八塚:両方緊張してるでしょうし、
   いっぱいいっぱいのプレーを見せてくれると思うんですよね。
金子:私は、みなさんのおっしゃったことを全部まとめて申し上げますが、
   運がよくて、落ち着いて戦って、先取点を取れれば、けっこう行くかなぁと。
   ベスト16ぐらい。ただ、基本的には一喜一憂しないで行きたいな、と。
   それから、すごく重要なことは3バックでも4バックでも、
   どっちでもいいやとは言いませんが、やはり徹底した戦術的な統一、
   それをもって戦うことですよね。集中して戦ってほしいと思いますね。
倉敷:戦い方にサプライズがほしいですね、僕は。

ドイツ大会への抱負
西岡:実況に関しては、こうして私たちクローズアップしていただいて嬉しい限りなんですが、
   実況者というのは現場で起こっていることを正しく伝えること。
   それから横にはスペシャリストがいるわけですから、解説の方にタイミングよく、
   いいコメントを喋っていただく。そのアシスタントでいいと思うんですね、私は。
   で、勝手ながら、ふだん見ている金子さんも八塚さんも倉敷さんも
   嫌みなく、サウンドとして耳に入って来る実況だから評価されているんじゃないかなと、
   勝手に私は見ているんですが。出過ぎることなく、嫌みなく、
   かつ現場の空気を楽しんでいること。それが声になってマイクに乗れば、
   それでいいんじゃないかなと思うんですね。
   特に、この舞台で何を伝えたいかというのは、私はいまは持ってませんし、
   現場に行ってみて、ですね。
金子:産地直送ですね(笑)それでは日本戦担当の倉敷さん。
倉敷:アナウンサーなのか、コメンテーターなのか。おそらく大先輩の金子さんも
   長いことたぶんお考えになったことではないのかな、と勝手に想像しているんですが。
   日本でアナウンサーという言葉を聞くと、私的なことは言わないというイメージが
   おそらくあると思うんですね。本来は。対してコメンテーターというのは、
   それに対しての感想を勇気を持って述べるという部分があると思うんですね。
   で、僕は、日本戦に関してはコメンテーターでいようかな、と思っています。
   たとえばブラジルの実況が、ロナウドがゴールに向かって走り出した、
   そのとき「自分を信じろ、ロナウド」っていう実況をした。
   僕もやってみたいな、と思ったんですね。前回の2002年のときも、
   そういう実況はどうなんだろう、と、セルジオ越後さんに伺ったことがあったんですが、
   「それは倉敷、当たり前だよ」って言われました。自分の国の選手を
   実況者が伝えるのであれば、みんながそう思っているんだと考えるんであれば、
   そういうコメントするのが当たり前なんじゃないのかな、と言われまして、
金子:プレーヤーの中に入るのね?
倉敷:はい。そこまでシンクロするためには、きちんと調べて、きちんと追ってという
   努力をしなければ許されないひと言だとは思うんですよ。
   だけど、そのひと言が口にできるくらいに努力しようと思いますし。
金子:あなたの感性なら、そんなに努力したりつくらなくても出て来るでしょ。
倉敷:いえいえ、とんでもないです、本当に。落ちこぼれの人生を続けて来ましたので
   常に僕は資格があるのか、とか考えているんですが。
金子:すごい楽しみにしてますよ(笑)
倉敷:等身大で頑張ります
金子:はい。八塚さんはどうでしょう? 鉄人。
八塚:(笑)僕は、決勝ラウンドから、金子さんとご一緒にファイナルまでですが、
   グループリーグが終わってますんで、まだ国もわかりませんし、
   出て来るチームの状態もわかりません。だから、とにかく今から何をってのは
   ないんですけども、じっくり自分の目で見て、じっくり観察したことを
   上手く活かせたらなぁとは思いますね。あと現地ならではの空気っていうのを
   僕はいつもやっぱり大事にしているんですよ。これはみなさんも大事にしてると
   思うんですけれども、なるべくグループリーグからぐーっとファイナルに向けて
   気持ち全体があがっている様子をね、興奮するんでなく、自分なりに
   肌で感じたものを伝えられればなぁ〜と思いますね。
   いよいよ佳境が近づいて来ているんだっていう、あの感じをね。
金子:最後に、私の親友だったスポーツアナウンサーが、もう亡くなったんですが、
   よく言っていたひと言がありましてね、「アナウンサーは戦う隠し味だよ」って。
倉敷:ほぅ。。。(思わず漏らす感嘆の声)
金子:これはね、今もってね、かなり深いなと思ってる。いろんなスパイスが入って来ても、
   スポーツ実況の根本に(かかわる)。。。たとえば我々の場合はサッカーがある。
   しかも世界基準のサッカーがあって、それをどう包丁でさばいて、
   正確に、感性を発揮して伝えていくか。
   その場合のね、わさびなのか胡椒なのかはわかりませんがね、
   「それは金子、戦う隠し味だよ」って言ったんですよ。だからね、
   お料理が美味しくなるような味付けを、ぜひ、私も頑張りますので、出しましょう。