トートの狂おしい初恋

トートというのは黄泉の帝王@またの名を「死」で、要するに人ならざるものなんすね。人知を超えたところに超然としてあるはずのトート閣下が、こともあろうに人間であるエリザベートに恋をした。さて、どうなる?という物語。ハイ、そうなんですねー、これは道ならざる恋の物語なんですよー。みなさんご存知でしょうけど。
ま、それだけで、おもしろそうなドラマになりそうな要素がシッカリとあるんですが、この宝塚宙組版の「エリザベート」のおもしろいところは、姿月あさとさんのトート閣下の解釈の仕方・描き方にあるような気がしました。と言っても、雪組、星組、東宝版等の他のバージョンは見ていないので比較はできませんから、単純に宙組版(しかもビデオ)を見ただけの感想ですが。。。

上で、おもしろそうなドラマになりそうな要素がシッカリとある、と書きましたが、一方では、それが必ずや破綻を生じさせるようになってるというのが、また興味深いところでもあります。
と言うのは、最初に狂言回し役のルキーニも言ってますが、

「死が人を愛する。じゃぁ、人が死を愛するなんてことはあるだろうか?
だが、そうでないと、ふたりは結ばれない。」

この中にすべてが集約されてる気がします。要するに、矛盾だらけ(笑)
ヒトならざるトートが人間であるエリザベートを愛してしまった。仮に、エリザベートがトートを愛したとして、ふたりは結ばれるのだろうか? どこで? この世で? そりゃぁ無理ってもんでしょ。エリザベートが死の世界へ行くしかない。ふたりが結ばれるためには、エリザベートの死が絶対条件になるわけです。
だったら最初にエリザベートに出会ったときに、そのまま連れ去ってしまえばよかった。なのに、トート閣下は、こう考えてしまった。

「生きたお前に愛されたいんだ。」

・・・・・・。あーーー、そりゃ無茶ってもんですぜ、トート閣下。死を司る黄泉の帝王が、世界のあり方の土台を根底から覆すようなこと言っちゃいけませんってば。古今東西、死神に魅入られる話はありそうだけど、死神は連れ去るのみと相場が決まってます。その死神が「生きたお前に愛されたいんだ」などと人の愛を求めたらどーなるのか?

「すべての不幸をここにはじめよう。」

と、エリザベートとフランツとの結婚式で高らかに歌い上げますけど、トート閣下、あなたの不幸が、その無茶からはじまったってこってすよぉ〜。わかってますかぁ?
って、わからないよなぁ。。。だって恋は盲目だもんね。

ということで、盲目のまま突き進むトート閣下。これが可愛くなっちゃうぐらいにウブなんすよ〜。ともすると、ほんまに黄泉の帝王なのかいな? ってなぐらい若々しいとゆーか青いところが感じられたりしたんですが、でも、それで正解なのかもなぁ〜って気がしました。だって、初恋ですよ、初恋!  これまで恋なんぞしたことのなかった者が突然の狂おしいまでの恋に落ちちゃったわけだから、どーすんべーーー!?ってなもんでしょ? 自分でも持て余す、おのれの気持ち。しかも相手は他の男の腕の中・・・ムラムラと沸き起こる嫉妬心。そのすべてがトート閣下にとっちゃ、はじめての感情でしょー。

「予定が狂うのはオレじゃない、ハプスブルグ家だっ!」

とか言ってリキんでみるんだけども、結局のところ、制御できない感情の渦に呑み込まれて、予定が狂いに狂っちゃったのは実はトート閣下であらせられた、、、ってな感じではねーでしょーか。。。
姿月あさとさんの解釈の仕方・描き方がおもしろかったというのは、黄泉の帝王としての位取り(くらいどり)よりも恋に落ちた男としての感情を優先させてるのかな?と見えたからなんですね。この辺のバランスの取り方は役者さんによって微妙に違うでしょうねぇ。。。そうした役者さんの演じ方の差異を楽しむというのも、また観劇のおもしろさですよね。

んでもって姿月さんですが、
ナイフ(とゆーよりも斧かナタですが・笑)のようなナイーヴさを感じさせる、少年のようなトートはおもしろいですし、好きですね。ビデオの引きの画面だと、彼はいっつも不機嫌で、プンプン怒ってるみたいに見えますけども(おそらくメイクのせいってのもあるんでしょうが)、そりゃー怒りたくもなりますわね、本来の有りようではない自分がいちばん腹立たしいはずだから。それでも、どうしようもない衝動に突き動かされてしまうのが恋ってもので。。。あら、可愛い(笑)

自分でも腹立たしくなるくらいの熱い感情に突き動かされての姿月トートの求愛行動は、そりゃもー激しく不器用です。嫉妬にかられてエリザベートとフランツとの結婚披露宴に出向き、

「最後のダンスはオレのもの〜」

と半ばちくそー!気味に宣戦布告したりして、、、あーた、恋する相手を脅してどーするよ?!って感じなんですがねぇ。。。
だったら、いっそのことひと思いに、って、わっちなんかは思ったりするんだけど、そこはさすがにトート閣下、黄泉の帝王だけあってプライドはエヴェレストよりはるかに高いから、エリザベートの方からなびいてくんなきゃヤなんだわね。
求めるのは、ただひとつ、彼女の愛だっ! 
そのために繰り出すあの手この手。。。はじめのうちは誘惑しようとすんだけど、それでなびかないとなったら、いぢめる、いぢめる、苦境に落とす。
好きだからいぢめるってさー、ガキじゃねーんだから、、、と思ったりもするけど、少年トート閣下のせっぱ詰まった恋心がよ〜くわかるので、うんうん、いーのよ、おねえさん、許しちゃうわ!ってな感じなのであります(ヲイヲイ・笑)

んで、いぢめ抜いた結果、息子のルドルフに死なれて罪の意識にさいなまれたエリザベートが、わたしを連れてってくれとトートの腕に飛び込んで来るんだけど、待ちに待った死の接吻の寸前で「まだ、わたしを愛してはいない」と突き放し、揚げ句に、

「死は逃げ場ではない!」

・・・って、あーた・・・。逃げ込みたくなるように仕向けたのは誰さ?! だいいち、元来、矛盾はないのか?!って気もするけど。。。ま、いーか(ぽりぽり)。
ここに至って、やっと、エリザベートの瞳にトートの姿が映ってないことがわかっちまったんだろーねぇ、、、なんちゅー可哀想なトート閣下・・・だから最初から無茶だったんだってば。。。
あぁ。どーにも切ないね、このトート閣下の初恋は。それだけに乙女心をドキュンなんだけども(誰が乙女だよ?・笑)

えーーーっと、最後にはエリザベートが暗殺されて、ふたりはようやく結ばれることになるんですが、万感の思いを胸にエリザベートを迎えるトート閣下の表情を見ると、うぅ、、、苦労したけど、よかったねぃ、、、と見ているこっちの胸が詰まります。
でもね、でも、ここでのエリザベートの満面の笑みには、ちょっと
ハテナマークが点滅するの。強引に考えれば、死に至って、はじめてトートの愛を覚ったってことなのかしらん・・・?と思えますが、は〜、やっと死ぬことができて清々したわ、うれしー!にも見えちゃったりして。。。
だとしたら、エリザベートの愛を手に入れられたと感激すんのはトート閣下の勘違いもいいとこで、、、ん? そうすっと、トートは
あの世でもずっと片思いなわけぇ・・・?
はっ! そうか。
オープニングの煉獄のシーンは、時間軸では、いちばん最後だったっけね。。。
するってーと、冒頭の

「ただひとつの過ちは皇后への愛だ〜」

ってのは、、、あっちゃぁ・・・もしかして
おのれの無茶を覚った後悔の念

うぅ、、、トート閣下ってば・・・(涙)



・・・と、ここまで書いてきて、読み返してみたら、ありっ? なんか「エリザベート」が喜劇のようにも感じられてしまいますねぇ。。。そんなつもりは毛頭ないんですが・・・何たって何十回となく繰り返し繰り返しビデオ見ましたもん。そこまで繰り返し見たのって、これまでの人生の中ではじめての作品ですから、ものすげーーー好きなんですけどね。大大大好きなヤリ・リトマネンのアヤックス時代のビデオですら、これほどには見返しちゃいないもの。わっちの表現力のなさってことで。ですから、エリザふぁんの方、怒んないでくださいましね。ぺこり。

あーーーっと、書き忘れちゃいけないわ。
姿月あさとさんの歌がメチャクチャいいです。
特に好きなのは「最後のダンス」「ミルク」のシャウト、「闇が広がる」の途中のデス声。ロックオペラと言っても通じる鳥肌ものの歌声でした。
あ、革命家たちに出会って「行け、ウィーンへ」と歌う場面の「行け」の声と、お医者様に化けて出てきてエリザベートを追い詰め「死ねばいい!」と言う声も大好きだっ! 実は、わっちゃ声フェチだったりするんですねぃ(笑)ふっふっふ。

と、かように、わっち好みの素晴らしい姿月トートなんですが、いくつかダメ出し(えらそ〜)もあります。
まず、トートがエリザベートに惚れ込む瞬間にゴクリと唾を呑み込む場面。これはビデオだからよくわかっても、舞台の、それも遠目からじゃほとんどわからないと思うので、からだ全体での何らかの表現方法が必要。ここで、トートがエリザベートに惚れたな、と一発でわからないと、あとの執拗なまでの執着は何やねん?ってことになっちゃうので、ものすごーく重要なり。
それから、姿月トートがときどき自分の髪をさわるんですが、これ、何か意味ありますかね? 「最後のダンス」の場で、
エリザベートの髪をなでてからクイッとつかむところはゾクッとしましたが、自分の髪だと「ナルちゃん?」と思えちゃうのですね。実はトート閣下はナルちゃんであるのかもしれないが・・・つーか、ほとんどそーかもね〜(笑)。するってぇと綿密なる性格分析のうえになされてる演出なのかも、、、と思いつつ、ただ姿月トートの場合、手持ちぶさたなんだろうか・・・とも見えちゃったので(わっちだけか?)、中途半端な演出ならしないほうがいいんじゃないかな〜なんて思いました。

簡単に他の役についての感想も。
シシィ:花總さんは一幕目最後の
高貴な立ち姿がスンバらしい
    大粒の涙こぼしての熱演も。
フランツ:和央さん、いーですねぃ。
     若い頃から老年まで、
よく演じ分けてると思いました。
ルドルフ:これは断然おいしい役。
     朝海さんの
線の細さ、華奢な印象がピッタリな気がしました。
ゾフィー:「顔は洗ったの!」ってとこが大好きじゃーーーっ(笑)
     出雲さんて
ものすごーく歌がうま〜〜〜い!

この「エリザベート」は本当に大好きな作品で、繰り返し見ているので、ビデオテープが早くもヨレヨレざんすのぉ〜。うれしいことにDVDで発売になるそうなので、それも買うつもりでございます(笑)


2002/09/06



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