やのね
矢の根

【見どころ】
古風な荒事の、のんびりとも見えるおおらかさ、かな。
バックの富士山といい、左右の紅梅白梅といい、寿狂言らしいおめでたい舞台。
なんで、あんまり構えないで、気楽に見ることをおすすめするです。
自分のからだよりも大きな矢の根を磨く主人公の五郎の姿は、まるで五月人形みたい。
眠りから覚めてからは「柱巻の見得」などの荒事芸のを見せます。
最後に、馬に乗って、ムチがわりに大根(笑)を振り上げての見得ってのが
これまた実におおらかでよいざんすぅ。

【あらすじ】
曽我兄弟の弟の五郎が武人のたしなみとして矢の根を磨いていると、
大薩摩文太夫が年始の挨拶にきて、お年玉として扇子と宝船の絵を置いていった。
やがて眠くなった五郎は、めでたい初夢でも見ようと、
宝船の絵を枕に大の字になって寝る。ところが、夢枕にあらわれたのは兄の十郎
工藤の館に捕えられている、と言うではないか。びっくりして目覚めた五郎。
ちょうどそこへやってきたのは初荷の大根を馬に背負わせた馬士
これ幸いと、五郎は馬をひったくり、兄救出へと向かうのだった。

【うんちく】
享保十四年(1729年)、二代目團十郎が演じたのが最初だと言われている。
江戸歌舞伎では、正月狂言に曽我兄弟を題材とした演目を出すという慣習があって、
この演目もそうした中から生まれたという。
歌舞伎十八番の中では最も上演時間が短い演目である。