とぎたつのうたれ
研辰の討たれ【見どころ】
これ、仇討ものなんです。だけど、喜劇なの。それも、ともするとドタバタ。
卑怯者で憶病者の、ぜんぜん潔くない男が主人公ってゆー珍しい作品なわけ。
命の惜しい男が、なりふり構わず逃げ回るっていう場面は笑えるけど、
どこかもの悲しいっていうか・・・妙な後味の残る作品でする。
言葉も分かりやすい新歌舞伎なので、まー構えずに、ご覧くだされ。
【あらすじ】
太平の世の粟津場内。森山辰次は研屋上がりの侍。
殿様や家老の刀を研いだのが縁で、町人から侍に取り立てられたのだが、
おべっかばかりがうまく、奥方に可愛がられているのをいいことに
告げ口までする始末で、まわりの武士たちの鼻つまみ者だった。
ついに家老の平井市郎右衛門の怒りを買い、お役御免を言い渡された。
そこで辰次、どうせなら平井を殺してから武士をやめようと決意し(ヲイヲイ)、
雨上がりの地面を掘り、そこへ平井を落とそうと待ち受けるが、
誤って自分が穴に落ちてしまう(苦笑)。ところが「助けてくれぇ!」と叫んで、
駆けつけた平井を、なんと下からブスリ!とだまし討ち(あっら〜・・・)。
いくら太平の世とはいえ、仇討をしなくては家の名誉が回復できない。
平井の長男九市郎と次男の才次郎は、逃げた辰次を探す旅に出る。
その辰次は、甲府の旅籠に身を潜めていた。そこへ九市郎が到着する。
見つかっては命がない。辰次は部屋を替えたり、そそくさと勘定を払って
逃げ出そうとするが、才次郎が来るのを見て、おおあわてで二階に駆け戻る。
等々ドタバタのあげく、辰次は何とか、命からがら逃げ出すことに成功した。
それから一年余り。四国は善通寺大師堂に兄弟はやって来た。
ふたりが、もしかしたら死ぬまで仇に巡り合えぬかもしれないと悲しんでいると、
なんと、向こうから辰次がやって来るではないか! 今度こそは!
兄弟が意を決して「父の仇、勝負いたせ!」と叫べば、
辰次も「親の仇!」(何を言いだすやら、この男。笑)と叫びながら逃げ回る。
しかし、結局、当て身をくわされた辰次はノビてしまう。
本当の仇はどっちだ?!(そりゃそーだぁ。笑)とうるさい見物の群衆に、
兄弟はこれまでのいきさつを説明したうえで、辰次に活を入れ、
「潔く勝負しろ」と迫る。しかし、辰次は、無理やり刀を持たされても、
それを放りだしては、また座り込むなど往生際が悪い。
あげくに「武芸を知らぬ者を斬って自慢になるか」と言ったり、
「髪なり指なりを斬って命ばかりは許してくれ」と懇願する始末で、
そのうち無責任な群衆の中には「逃げろ」と騒ぎだす者まで出てきた。
ここにいたって兄弟は「犬を斬る刀は持たぬ」とその場を去る。
やった、やった、命拾いした。と安心した辰次を、
兄弟は少し離れた木陰で待ち受け、ついに本望を遂げるのだった。
(あら、だまし討ちじゃ〜ん? う〜ん・・・。以上、敵討っていったい?!なお話でした)
【うんちく】
大正十四年(1925年)の初演。木村錦花の原作、平田兼二郎の脚色。一幕物。
もともとは文政十年(1827年)に実際に起きたらしい敵討ちを題材にした
「敵討高砂松」とかいう上方生まれの狂言があったそうで、
それを元に木村錦花が物語を書き、それを平田兼二郎が劇化したものなんだって。
で、主人公の研辰は2代目の猿之助(市川猿翁)の当たり役だったそうで、
続編もつくられて上演されたらしいでする。