しんさらやしきつきのあまがさ
新皿屋舗月雨暈

【別の名前】
    さかなやそうごろう
通称は 魚屋宗五郎

【見どころ】
やっぱり、宗五郎酒を呑んで乱れていくくだりが見どころでしょう。
酒を断っていたのに、妹を殺された事情を聞いて、「呑まずにゃいられねぇ」と
湯呑みにつがせた最初の一杯を息もつかずに呑み、二杯、三杯、
しだいに酔いがまわって、そのうち酒樽を引ったくって呑み、
家人の止めも聞かず、とうとう二升樽もの酒を呑み干して暴れるんですね。
それも、ただの酒乱じゃないところが、役者の腹芸の見せどころ
妾奉公に妹を出した支度金で一家の借金を払ったいきさつがあるだけに、
妹が手討ちにあって死んだのは、妹を売った自分が悪いんだ、という
宗五郎のやり場のない悲しみや悔しさが酔態の中で描かれるという場面でやんす。

【あらすじ】
「芝片門魚屋内」の場
魚屋を営む宗五郎の家では、女房のおはまや店の若い者が打ち沈んでいる。
というのも、宗五郎の妹お蔦殺されたからだ。
お蔦は旗本の磯部様の目に留まり、見染められ、妾奉公にあがっていたが、
突然、不義を理由に手討ちにあったというのだ。
お悔やみに来る人も皆、誰もが何かの間違いではないかと口々に言う。
やがて、寺に行っていた宗五郎が帰ってくる。
父親の太兵衛はお屋敷へ乗り込むと息巻くが、殿様からいただいた支度金で
一家の借金が返せたことを考えると、宗五郎としては父親をなだめるしかない。
そんな夫の胸のうちを思いやって、おはまは好物の酒でも飲んだら、とすすめる。
が、禁酒を誓っている宗五郎は、じっと我慢するばかり。
そんなところへ、お蔦が可愛がっていた召使いのおなぎが弔問にやってきた。
おなぎを取り巻いて手討ちのワケを聞きだすと、実は悪人の罠にはまったと言う。
磯部家の用人の息子岩上典蔵は、お蔦を手込めにしようとしたが失敗。
悲鳴を聞きつけて駆けつけた家老の弟浦戸紋三郎に罪をなすりつけ、不義呼ばわり。
短慮な殿様は事情も確かめもせず、お蔦を非道の拷問にかけたうえ手討ちにし、
古い井戸の中に斬り落としてしまったと。真相を知って、皆、憤りに打ち震えた。
宗五郎もしらふじゃいられないと、ついに禁酒の誓いを破ってしまう。
一杯が二杯、二杯が三杯になり、周囲の者が心配して止めるのも聞かずに、
とうとう樽を抱え込んで呑み干してしまった。
こうなると、もう抑えがきかない。宗五郎は泥酔状態でよろめきながらも、
一同を突き倒し、磯部の屋敷を目指して一目散に走って行くのだった。

「磯部屋敷玄関」の場
磯部の屋敷に暴れ込んだ宗五郎は、玄関先で恨みの数々をまくし立て
「殿にあわせろ!」と息巻くが、典蔵によって縛られてしまった。
夫を気づかって後から追ってきたおはまが酒の上のことだからと許しを乞うが、
宗五郎はなおも暴れて典蔵を蹴る。かっとなった典蔵が刀に手をかけたとき、
家老の浦戸十左衛門が止めに入り、宗五郎の縄目を解かせた。
その浦戸に向かって、宗五郎は酔って暴れ込まずにいられなかった心中を明かす。
浦戸は「悪いようにはしない」からと穏やかに言って宗五郎を得心させる。
が、やがて宗五郎は酔いがまわって、いつしか眠り込んでしまう。

「磯部屋敷庭先」の場
連れてこられた庭先でぐっすり寝込んでいた宗五郎だったが、やがて目が覚めた。
側に付き添っていたおはまから前後不覚の所業を聞かされ、バツが悪くて
浦戸にも顔向けできないほど、しおれる。そこへ、殿の出座の知らせ。
手討ちになるかと覚悟を決めていると、磯部は宗五郎の前に手をつき詫びた。
弔問金も下さり、父の太兵衛には二人扶持を賜るとも言う。
典蔵の成敗も約束してくれたことから、宗五郎は溜飲を下げるのであった。

【うんちく】
明治十六年(1883年)初演。河竹黙阿弥作の世話物
この芝居、外題を見ても怪談の「播州皿屋敷」が下敷きになってるのが
わかりますが、五代目菊五郎が「酒乱の役を世話物でやってみたい」と言ったことから
書かれたものらしいんですね、実は。
で、原作は御家騒動を取り入れた三幕九場で、宗五郎と殺される妹のお蔦を
一人二役で見せたらしいのですが、今は御家騒動のくだりは省かれて、
宗五郎の酔態のくだりの三場だけの上演がほとんどでする。