けぬき
毛抜

【見どころ】
そうだなぁ、おおらかなナンセンスとでもいうんでしょうかね〜。
でっかい毛抜が逆立って踊るのも、でっかい磁石を持った(のはずが、抱えているのは
実は
羅針盤なんだな。苦笑)忍者が降ってくるのも、ばかばかしくも実におかしい。
こうゆー芝居は生真面目に見てはいかんと思うぞ(笑)
姫の髪が逆立つ謎を解くというスト−リ−は、さながら推理劇で、
探偵役とも言える主人公の弾正は、接待に出た腰元だけでなく若衆にも
抱きついたりする(お−、両刀使い。笑)好色漢だったりする。
なのに、頭が良く、腕も立つという人物でもあって、
おっとりした愛嬌ぶりも見ものでやんす。で、その弾正、毛抜が踊るところで、
下座音楽にあわせて一風変わった見得を次々とする
忍者を突き落とす前に、ぐっと天井を見上げて決まる見得
“元禄見得”という名前がついているそうで、見どころだそうな。
あ、そうだ。つくりものの毛抜が踊るのは、もちろん黒衣差金でやんす。

【あらすじ】
小野小町から三代目にあたる小野春道の館。
執権でありながら御家転覆を企む八剣玄蕃と息子の数馬
それをこころよく思わない忠義の家老秦民部秀太郎の兄弟が対立し、
今にも斬り合いになろうかという時、朝廷よりの勅使。
うち続く日照りから救うために、小町が歌った雨乞いの名歌の短冊を差し出せ、
という命令だ。ところが、その御家の重宝が紛失していた。春道は、
嫡子の春風と、重宝の守り役でもある民部に、今日中に捜し出せと命じる。
そんなところへ、小野家の姫錦の前と婚約している文屋豊秀の家臣粂寺弾正
主のつかいでやってきた。姫の病気を理由に、あまりに婚儀が遅れているので、
様子を見にきたのだ。いやがる姫を無理やり弾正の前へと連れ出す玄蕃。
姫は、なんと、髪の毛が逆立つという、世にも奇妙な病気だった。
だから離縁するが身のためなどと言う玄蕃に、春道への取り次ぎを頼む弾正。
接待に出た秀太郎や腰元の巻絹にもちょっかいを出すなどしながら、
ひとり待っていると、なんと毛抜がひとりでに立って踊り出したではないか!
銀煙管は踊らないが、脇差しは踊るのを見て、弾正はあれこれと考えを巡らせる。
と、そこへ、小原万兵衛を名乗る百姓が、難題をふっかけにやって来た。
それを頓智をはたらかせ、見事にさばいたのは弾正。実は、この怪しい者こそが、
重宝の短冊を盗んだ犯人だったのだ。かくして重宝も無事に戻り
御家安泰と喜ぶ春道に、弾正は「ついでに、姫の病気も直してみせましょう」と
申し出た。姫の髪から櫛を抜くと、たちまち髪の逆立ちがおさまった。
驚く一同に、「病の根を絶ってみせよう」と槍で天井を突くと、
大きな磁石を抱えた忍びの者が落ちてきた。その忍者を刺し殺す玄蕃。
すべて自分の画策したことだから、悪事の露呈を恐れての口封じ。
それも承知の弾正は玄蕃をも討ち果たし、意気揚々と帰って行くのだった。

【うんちく】
寛保二年(1742年)初演。
「雷神不動北山桜(なるかみふどうきたやまざくら)」という外題で上演された、
五段にわたる時代物狂言のうちの一部分(三段目)が、
後に一幕ものとして独立し、現在のカタチで残ったものなんだそうな。
同様に「雷神不動北山桜」から分離独立した演目には、
四段目の「鳴神」、五段目大切の「不動」(ともに歌舞伎十八番)がある。
七代目市川団十郎によって歌舞伎十八番に制定された後、
しばらく上演が途絶えていたのを、明治四十二年(1909年)に復活上演され、
以来、人気演目になっているということだ。