いわしうりこいのひきあみ
鰯売恋曳網

【見どころ】
とにかく、おもろいです。おおらかで可笑しい喜劇。笑えます。
特に、猿源氏愛嬌がいちばんの見どころかな。
魚尽くしの合戦物語とか、素性がばれそうになって和歌でごまかすところとか、
うんちくなどはさらさら知らなくてもい〜んです、きっと。
素直に、おなかをよじって大笑いしてください。

【あらすじ】
今は家業を息子に譲った老人、海老名なむあみだぶつ(変テコな名前。笑)
息子がちゃんと商売をしているか心配で様子を見に来た。
そこへ聞こえてきたのが、息子猿源氏の、魂が抜けたような情けない鰯売りの声。
これでは鰯が腐るとカツを入れる父親に、猿源氏は
蛍火という女に一目惚れして以来、気もそぞろで商いに身が入らないと打ち明ける。
大名豪商しか相手にしない遊女では、会いたくてもおいそれとは会えない。
思案したあげく、上洛の噂のある大名に化けて会いに行くことに。
堅物の猿源氏と違って廓通いもした父親のなむあみだぶつの手引きで、
大名に化けた猿源氏は蛍火のいる店に乗り込むことができた。
合戦の話が聞きたいという求めにも、鯛VS平目と、魚尽くしでやってのける。
酒を酌み交わすうち、酔いが回った猿源氏は蛍火の膝枕で寝入ってしまう。
気を利かせて皆が席を外すと、猿源氏は寝言で鰯売りの掛け声
殿様とは思えぬ寝言に揺り起こしてたずねる蛍火に、必死でごまかす猿源氏。
それではやはり殿様か。蛍火は、喜ぶどころかがっかりして泣きだしてしまった。
蛍火は実は紀伊の国の姫であったが、十年前に聞いた鰯売りの声に恋をして
城を抜け出しあとを追ったあげく道に迷い、人買いにかどわかされて今ここにいるが、
鰯売りこそ我が夫と心に決め、日夜観音さまに祈っていたのだと身の上話。
それを聞いて素性を明かす猿源氏。蛍火は夢ではないかと大喜び。
しかし二百両という金の工面をしなければ晴れて一緒には暮らせない。
その時、蛍火の探索を命じられていたという男があらわれる。
男は行方不明になっていた姫を無事に城へ連れ戻すために来たのだが、
蛍火に命じられるまま身請け金を亭主に渡すことに。
晴れて自由になった蛍火は、城へは戻らず、猿源氏の女房になると宣言する。
やぁ、めでたやな、のお話でした。

【うんちく】
昭和二十九年(1954年)の初演。三島由紀夫作の歌舞伎狂言。
原典はお伽草子の「猿源氏草紙」だそうだが、原典にはない創作を加えて
元禄歌舞伎風の健康的な明るさを狙って書いたものだとか。
初演時には、猿源氏を中村勘三郎が、蛍火を中村歌右衛門が演じたが、
今は中村勘九郎と坂東玉三郎に引き継がれて好評をとっている。
なお、三島由紀夫は全部で七作もの歌舞伎狂言を残しているそうだ。
中でも最も上演回数が多いのがこの狂言らしい。

ところで、猿源氏が寝言で口走る鰯売りの言葉ですが、
「伊勢の国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯こぅえい」と聞こえます。
鰯売りなのに「鰯こえ〜(怖い)」とはこれいかに、と、わっちも疑問に思いやした。
これ、実は「鰯よ来い!」という意味だそうな(なんでそう言うかは不明)
そう威勢よく声を張り上げながら、昔は鰯を売り歩いていたそうでありんす。
にしても、声に恋して家出たぁ、姫さまもやるね(笑)