いれずみちょうはん
刺青奇偶

【見どころ】
「奇偶」と書いて「ちょうはん」と読ませる、この芝居。
博奕好きな夫をいさめて、女房が夫の腕にサイコロの刺青を彫るってとこからきた
タイトルみたいなんだけど、最後の最後に命をはった大勝負をするのさ、夫が。
それも死んでいく恋女房のために。っつー夫婦の絆を描いた人情劇だから、
もー、泣ける、泣ける。しこたま泣ける。ハンカチは必須よん。


【あらすじ】
下総、行徳の船場。月明かりを浴びて若い女がぼんやりたたずんでいる。
そこへ半太郎が来て、生まれ故郷を懐かしがって江戸の空を眺めていると、
土地の博徒の熊介が因縁をつけ切りかかり、争ってザブンと海に落ちてしまった。
それに続いて、またもやザブーンと水の音。今の音は何だ?!
いぶかった半太郎がすくいあげたのは例の若い女だった。名をお仲という。
捨て鉢になっているところを勇気づけ、財布まで出す半太郎に、
お仲はあっけにとられる。女の体目当ての男しか知らない人生を歩んできたから
半太郎の気持ちが信じられず、恩は体で返すとばかりにすがりつく。
すると「見損なうな」と突き放して、半太郎は行ってしまう。
男のやさしさにはじめて触れたお仲は、半太郎のあとを追いかけていく。
半太郎が家に帰ると、熊介が先回りして待ちかまえていた。
口論の末に熊介に斬りつけ、仕損じてしまったからには、ここにはいられない。
と、そこへお仲がやってきて、旅に出るならついてくと言い出し、
行きがかり上、ふたりで手に手をとっての逃避行となる。

それから二年の月日が流れた。半太郎とお仲は夫婦となって暮らしている。
半太郎のバクチ癖は治らず、破れ障子のみすばらしい所帯で、
お仲は病の床に伏していたが、それでも夫の誠に包まれて満足していた。
しかし、ただひとつ、自分が死んだあとの夫の身が、お仲は気がかりでならない。
「死んでいく女房の後生一生のお願いを聞いて」と言って、
半太郎の腕にサイコロの絵を刺青する。その刺青を見るたびに、
「博奕はいけない」と死んだ女房が言ってたなぁと思い出してくれ、と。
お仲の言葉に、半太郎は涙ながらに「やめる」と誓い、
「やめるから元気になってくれ!」と願う。(もう、この時点で涙ボロボロなのさー)
だが、半太郎は再び賭場に出向き、因縁をつけた結果、半殺しの目にあってしまう。
せめて人並みな所帯道具のある家で、女房を死なせてやりたかったんだ」と
追ってきた親分の政五郎に切々と訴える半太郎。その必死の心情に、
政五郎は「勝負しよう」と申し出る。サイは振られ、結果は、半太郎の勝ちだった。
半太郎は政五郎からもらった財布を手に、恋女房のお仲の元へと帰っていく。
(ってとこで終わるんだけど、たぶん、その頃はお仲さん死んでるんだろうなぁ・・・って、
なんか分かるわけよ。・・・わーん・・・かわいそー!!! 泣けるぜ)

【うんちく】
明治7年(1874年)、六代目菊五郎で初演。長谷川伸による作で新歌舞伎