へいけがに
平家蟹

【見どころ】
とにかく暗いです(苦笑)歌舞伎たぁ思えないほど、全編通して、めちゃ暗い。
でも、それが強烈な印象を残します(ともすると悪い印象になるかも?が残念でやんすが)
ざわざわと舞台にはい出してくる平家蟹は、道具方さんの苦心のたまもの。

【あらすじ】
平家滅亡から二ヶ月。壇之浦で生き残った官女たちがうら寂れた暮らしをしていた。
その中のひとり、玉蟲は気位が高く、いまだに源氏を激しく呪っている
しかし、妹の玉琴は生きるために春を売り、それで出会った男と恋仲になっていた。
その男というのが、平家の残党詮議をしている那須与一の弟と知って、
「縁を切るから出ていけ」と烈火のごとく怒る玉蟲。玉琴は打ちしおれていたが、
与五郎からの迎えがくると、いそいそと逢いに出かけていった。
ひとりになった玉蟲が「平家の方々が見えるころじゃ」とつぶやくと、
どこからともなく平家蟹がはい出してきた。その平家蟹に向かい語りかける玉蟲。
「源氏の血を引く輩は根絶やしにしてみせましょうぞ」と不気味に笑う。
やがて、与五郎が玉琴を伴ってやってきた。
下野国に戻ることになったので、ぜひ玉琴を嫁として伴いたい、
ついては姉の玉蟲もいっしょに来てほしいと願い出る。
真剣なふたりの様子に、ふたりの仲を許し、祝いの盃をさせる玉蟲。
が、その酒というのが、実は平家蟹の肉を浸して源氏調伏を祈願した呪いの毒酒
そのせいで、与五郎も玉琴もからだの自由がきかなくなってしまった。
屋島の合戦のおりに、自分がかざした扇をみごとに射たのが那須与一で、
それが平家滅亡の凶兆でもあった。その恨みの相手の弟を、
生きて帰すわけがないだろう、と不敵に笑う玉蟲は、凄まじい怨念の塊
もはやこれまで、と与五郎は玉琴の胸を刺し、自らも自害して果てた。
玉蟲は、やがて一匹の平家蟹に導かれ、海の中へと入っていく。

【うんちく】
明治四十五年、初演。作者は「半七捕物帳」が有名な岡本綺堂。
西海で滅亡した平家の呪いか、怒りの形相を甲羅に刻んだかのように見える平家蟹。
その伝説を下敷きにした作品。
かつて歌右衛門さんが玉蟲を演じて独特の舞台をつくりあげたという話だが、
そりゃぁ凄かったかも・・・。