ばんちょうさらやしき
番町皿屋敷

【見どころ】
「皿屋敷」といえば「一枚、二枚・・・・うらめしや」ってゆー
有名な怪談話を想像するかもね。でも、これ、違うの。怪談話じゃない。
愛する男を信じたいのに信じきれなかった女の哀れと
惚れた女に自分のことを信じてもらえなかった男の悲しみのドラマ
設定が江戸時代なだけで、現代劇としても通用する心理劇なんですよね。
だから、いわゆる歌舞伎を期待して行くと肩透かしをくらうかも。でも、面白いですよ。

【あらすじ】
「白柄組」に属する旗本奴青山播磨が供をつれ、赤坂山王神社に来たところ、
敵対する町奴の幡随院長兵衛の子分たちに喧嘩を売られた。
播磨が受けて立とうとしたとき、播磨の伯母の真弓が止めに入った。
女に割って入られては、双方とも引かざるをえない。
真弓は播磨の行動をいさめ、妻をめとれば落ち着くだろうと縁談をすすめるが、
播磨にはその気はさらさらない。というのも、心に決めた恋人がいたからだ。
その恋人というのは、青山家に仕える腰元のお菊だった。
そのお菊、愛する播磨に縁談話が持ち上がったのを知り、実は気が気ではない。
何やら思い詰め、青山家に先祖代々伝わる家宝の皿の一枚を取りだすと、
わざと割ってしまう。一枚でも割ったら手打ちと言い聞かされてきた皿を、である。
家宝の皿が割れたと知っても、播磨は「たかが皿一枚のこと」と寛大で、
「余人は知らず、そちを手打ちにできると思うか」と言い、
さらには、ふたりの仲を打ち明けて共に暮らそうとまで言ってくれた。
その言葉を聞いて、お菊の心は晴れ、幸せの絶頂に包まれる。
しかし、お菊がわざと皿を割った事実が発覚する。播磨が仔細をたずねると、
皿が大事か自分が大事か、播磨の心を確かめるために割ったと言うではないか。
それを聞いた播磨は激怒した。お菊の心の疑いは晴れようとも
最愛の女に疑われた自分の無念は晴れぬ、と、お菊に無念の刃を振り下ろした。
お菊の死骸は庭の井戸に捨てられ、恋を失った播磨は
町奴との喧嘩に心のやり場を求めるように駆け出して行くのだった。

【うんちく】
大正5年(1916年)初演。「半七捕物帳」で有名な岡本綺堂の作。
このお芝居、旗本奴と町奴の喧嘩が盛り込まれていますが、
「奴」というのは、そもそも身分の低い武家奉公人のことを指すのですが、
なぜか「奴」さんたちはツッパリが多かったようで、人目を驚かすような派手な
服装もするなどして「傾き(かぶき)者」と呼ばれてたみたいです。
そうした「奴」を旗本の子息たちが真似たのが「旗本奴」で、
町人が真似たのが「町奴」なんだそうな。
「旗本奴」の代表格は「白柄組」という不良グループを結成していた水野十郎左衛門。
(この芝居の主人公、青山播磨は「白柄組」に属している設定になってまする)
対する「町奴」の大将は幡随院長兵衛。旗本奴の横暴に対抗して
庶民を守ったことから、“義侠の徒”と呼ばれたそうです。
で、この両者を扱った芝居もありまするが、それは、いずれまたの機会に。