おんなころしあぶらのぢごく
女殺油地獄


【見どころ】
そりゃもうタイトルどおりの油の地獄、油にまみれて滑って転んで、
逃げまどうお吉与兵衛が殺害する殺し場がやはりいちばんの見どころでしょう。
あと、キレやすい与兵衛の性格描写も難しそうで、見ものかな。
ふてぶてしいかと思えば心細げだったり、涙もろいとこもあったりと複雑。
お吉に対しても親切な年上の女の人という以上の感情を抱いていたのかもしんない。
以前からなのか、尋常でない状況になってつい、なのかよく分からないけど、
殺す直前に「いっそ不義になってくだされ」とか言い出すんだよ、確か。
だけど、はねつけられて暴走しちゃう。この辺り、一連の心の動き、微妙なり。
与兵衛をどう解釈して演じるかで、ぜんぜん印象が違うかもなぁ・・・。
役者さんとしてはすごくやりがいのある役ではないか、と思う。

【あらすじ】
与兵衛は油商河内屋の次男坊で札付きの不良息子
義父の徳兵衛が番頭上がりで遠慮がちなのをいいことに悪さばかりしていた。
なじみの遊女をめぐっての喧嘩騒ぎで、あわや手討ちにされそうになっても
ちっとも懲りない。それどころか妹に仮病までつかわせ、
家の相続をもくろむんだが失敗し、家を追いだされてしまう
こんなどうしようもないヤツでも我が子なんだね。
両親は、与兵衛が来たら渡してくれと、
同業で懇意にしている豊島屋のお吉の元に金を届けるのさ。
それを、たまたま目にした与兵衛。両親の愛情を知って今さらながら涙ぐむ。
けど、彼が義父の判を無断で使って借りた金の返済期限が迫っていた。
お吉が差し出した金ではとうてい足りない。
いちおー事情を話し、金を融通してくれと頼むわけだが、
主人の留守にそんな大金は貸せないとお吉に断られて、つい逆上
油樽を倒し、油だらけになりながら、逃げるお吉を殺害し、
金を奪うとふるえる足で逃げていくのだった。

【うんちく】
近松門左衛門が人形浄瑠璃のために書き下ろした作品。初演は享保六年(1721年)。
実際に起こった事件を題材にした傑作だが、初演の頃の評判はよくなくて、
ずっとお蔵入りになっていたらしい。
それを明治四十二年(1909年)に歌舞伎で上演し大当たり。
文楽でも復活上演されるようになったという。
なお、殺し場のつるつる滑る油は石鹸水を使っているらしい。