ホトカプラの高速化について考える  2006.01.05



・ はじめに
 
アイソレート(絶縁)とくればホトカプラとなるのですが、その動作スピードは意外?と遅くて、RS232C などの通信回線のアイソレートだと「普通に」使ったのでは 4800bps がやっと…という状態です。もちろんスピードが速いホトカプラは沢山あるのですが、それらは2次側に「電源」を必要とします。

ここでは電源を必要としない「普通のホトカプラ」の高速化について考えてみます。うまくすれば信号線の電力だけで高速動作が可能な用途もありそうです。例えば RS232C の絶縁 では、電源無し(信号線の電力のみ)で 38400bps 程度まではいけそうです。

尚、回路定数はフォトカプラの特性に合わせてチューニングする必要があるなど…量産に耐えるか?という面では辛い部分があります。ご注意ください。

・ ホトカプラの動作(基本回路)
  標準回路
まず、基本的なホトカプラ回路の動作について調べてみます。
ここでテストするホトカプラの 基本回路 は右の通りです。

動作波形はシュミレータの出力では無く、手元の在庫から適当に抜き出したものを実際に動作させてオシロで撮ったものです。
  ホトカプラのサンプルとして、 SHARP の PC817 を 4 ヶ(サンプル A,B,C,D )、TOSHIBA の TLP521 を 3 ヶ(サンプル E,F,G )用意しました。(サンプル数がバラバラ…私の性格が表われていたりします…笑)

サンプルの動作波形では CTR 、スピード共に TLP521 の方が PC817 より優っていますが、これは一般的な傾向なのか? それとも、たまたま私の手持ち在庫品がこういう特性なのか? それは不明です。

チャネル1(黄色)はホトカプラ一次側の駆動タイミングで、 L が電流 ON 、 H が電流 OFF です。チャネル2(青色)は出力電圧波形です。(波形をクリックすれば拡大表示します)

 ホトカプラ駆動電流 1mA 時の動作波形  25uS/div, ch1:5V, ch2:1V
       

 ホトカプラ駆動電流 2mA 時の動作波形  25uS/div, ch1:5V, ch2:1V
       

 ホトカプラ駆動電流 4mA 時の動作波形  25uS/div, ch1:5V, ch2:1V
   

以上はサンプル毎の比較でしたが、次は同一サンプルに対する一次側駆動電流の比較です。 (1) 1mA, (2) 1.5mA, (3) 2mA, (4) 4mA, (5) 8mA で比較してみます。PC817 のサンプルは A 、TLP521 のサンプルは E です。( 1mA の波形が上と少し異なりますが、原因は不明です)

 ホトカプラ駆動電流 1 〜 8mA 時の動作波形  25uS/div, ch1:5V, ch2:1V
       

これらの波形をご覧いただけば、おおよその傾向はつかんでいただけると思います。PC817 の場合、このテスト回路で安定的な動作を望むには最低でも 4mA 程度の電流は必要と思われます。信号のディレーが H → L と L → H では大きく異なる事もわかります。

シリアル通信のビット幅は、38400bps の場合で約 26μSec ですから上の図だと約 1Div で、全く歯が立たない事がわかります。

・ ホトカプラの動作(非飽和動作 1 )
 
次はホトカプラの動作スピードを速くする方法を調べます。

通常、トランジスタをスイッチング動作で使う場合はベース電流を充分に流して、コレクタ−エミッタ間の(残留)電圧が 0.1V 程度まで充分に下がる(飽和)状態で利用します。ホトカプラの場合は一次側の LED の入力電流を充分流してやるわけです。

しかし、大量にベースへ流れ込んだ電流の「副作用」で、ベース電流が OFF になってもしばらくはコレクタ電流を流し続ける…という現象が現れます。先に調べた「基本回路」でホトカプラの一次側駆動電流(トランジスタのベース電流)を増やすと、トランジスタが OFF ( L → H )するタイミングがどんどん遅くなっていくのがソレです。

これを避けるためにはベース電流を少なくすればいいわけですが、そうすると「コレクタ−エミッタ間」の(残留)電圧が高くなってしまいます(非飽和動作になる)。先に調べた「基本回路」で、 PC817 サンプル A の場合、1mA では出力が 3V 程度までしか下がっていないのがソレです。この方法、スピードは速くなるのですが、出力電圧の問題( L レベルが充分に下がらない)を解決する回路が必要になります。
ベース接地受け
その解決策としてホトカプラの出力を、トランジスタ( 2SC1815Y )のベース接地回路で受けてみます。

右の図がその回路です。

今回、V+ は +5V 、V- は -5V で、RL は 4.7KΩとして調べてみました。

時間軸が 5μS/div になっています! (先の「標準回路」では 25μS/div )
 
 ホトカプラ駆動電流 1mA 時の動作波形  5uS/div, ch1:5V, ch2:1V
       

 ホトカプラ駆動電流 2mA 時の動作波形  5uS/div, ch1:5V, ch2:1V
       

信号のディレーがかなり短くなっているのが解ります。
ホトカプラ OFF 時の L → H では1桁速くなっています。これなら 38400bps でも使えそうです。
スピードアップC
もう少し「欲?」を出して、スピードアップ・コンデンサの有無でどうなるのか?調べててみます。

PC817 のサンプルは D 、TLP521 のサンプルは F で、RC は 1KΩ です。
   ホトカプラ駆動電流 1mA 時の動作波形  5uS/div, ch1:5V, ch2:1V
       

ホトカプラ ON 時( H → L )の信号ディレーがかなり改善されています。ホンの少しですが、OFF 時( L → H )も改善されています。これは、OFF 時に短時間ですが「ホトカプラの入力 LED へ逆電圧がかかる」ため、LED の駆動電流が一気にカットされるためと想像できます。(波形を見ると RC の 1KΩ は少し小さすぎるようで、2.2KΩ〜3.3KΩでも良さそうです)

チューニング次第では 2〜3μS 以下のディレーにするのも難しくはなさそうです。
ただ、信号のディレー特性は個々のホトカプラでけっこう変わります(当然ながらホトカプラにも「個性」があるわけです:笑)。Tool を作る時に「選別」ができればベストです。

駆動電流 OFF 時にホトカプラの入力 LED へかかる逆電圧ですが、その最大定格は -5V 〜 -6V 程度です。実際に RS232C で使用する場合、一次側への逆電圧防止用のダイオードを入れないと定格オーバーになるケースが多そうです。でも、そのほとんどは「アバランシェ降伏」こそ発生しても壊れる事は無いだろう?と考えられます。エンジニアが使う Tool としてなら、まっ、大丈夫だろう…と勝手に思っています(笑)。

最後に・・・
動作原理上、出力の L レベルは -0.6V 付近の値となります(ゼロボルトではありません!)ので、ロジック IC で受けるときは注意して下さい。普通、これで IC が壊れる事は無いと思いますが、心配ならダイオードで下駄をはかす…などの対策をお願いします。

・ ホトカプラの動作(非飽和動作 2 )
 
上で調べた「非飽和動作」では正負の両電源が必要でしたが、正の電源しかない場合( +5V しか無い…とか)を考えてみます。
ベース接地受け
ホトカプラの出力トランジスタを非飽和で使うには「もう一つの電源」を考えるのが簡単なので、こういう回路でテストしてみました。

ベース接地トランジスタのベースへ +1.2V 付近の「擬似電源」を接続してあります。

時間軸は 5μS/div で、 RB:470Ω、RL:4.7KΩ での動作は以下の通りです。

 ホトカプラ駆動電流 1mA 時の動作波形  5uS/div, ch1:5V, ch2:1V
       

 ホトカプラ駆動電流 2mA 時の動作波形  5uS/div, ch1:5V, ch2:1V
       

前の ±5V 電源の回路に比べると、ホトカプラの駆動電流にはシビアになるものの、少しチューニングすれば何とか 5μS 程度のディレーで収まりそうです。
スピードアップC
この状態でスピードアップ・コンデンサの有無も調べててみます。

PC817 のサンプルは C 、TLP521 のサンプルは F で、RC は 1KΩ です。
   ホトカプラ駆動電流 1mA 時の動作波形  5uS/div, ch1:5V, ch2:1V
       

と、+5V 電源だけでも何とか 3μS 程度のディレーまでは追い込めそうです。
ポイントは、「ホトカプラの一次側駆動電流を必要充分な値に抑える」事でしょうか。

最後に・・・
動作原理上、出力の L レベルは、約 +0.6V より下へは下がりません!。
ロジック IC で受ける場合、入力の L レベル範囲を満たしているか?確認して下さい。
尚、ベース接地の後をエミッタフォロワで受けてやれば、ゼロボルト近くまで出力を下げることは可能です。( H レベルは 5V → 4.4V となります。 そして…また部品が増えます…)

・ ホトカプラの「劣化」について  …余談です…  2006.02.04
 
最近は全くもって話題にもなりませんが・・・・・ホトカプラなどの「光モノ素子」は時間とともに発光特性が劣化するという問題があります。
この問題、とっくにメーカのデータ Book などから消えてしまったようで、サイトにも無いようです。実際に問題になるケースはほとんど無い?という事なのでしょう。まぁエンジニアの Tool なんて使用時間が知れてますから、全く問題無いでしょうが、信頼性を求められる部分では気をつけたほうがいいでしょう。

例えば、金額表示に 7 セグメント LED を使っている(最近は減りましたが…)駅の自動券売機とかは 24 時間通電していますので、常時「ゼロ」が点灯している一番右の桁だけ(劣化して)微妙に暗い・・・という程度ならまぁ許容範囲(笑)だと思いますが、信号経路に使ったホトカプラが劣化して誤動作したのでは困ります。

確か、古い(大昔!の)T社のデータ Book には、経時変化の例が載っていた記憶があるのですが…、探しても見つかりませんでした。あやふやな記憶ですが、確か一次側の駆動電流として 20mA を連続で流すと 3 〜 5 年 ? で CTR (電流伝達比)が 80% 以下になるというようなモノだったような気がします。で、その劣化を見込んで充分に(更に加えて!)一次電流を流すように!という「注意」がありました。

S社の古い(これも大昔!の)データ Book には、とある型式のホトカプラに 50mA を連続で流したら 10000 時間で CTR が 85% になる…という試験データ(の例)が載っていました。まぁ 50mA はチトやり過ぎの感がありますが、 10000 時間を日に直せば 400 日余り…、一年ちょいということです。

普通のホトカプラは 15 〜 20 mA の一次側駆動電流を想定して作られているようで、メーカでもそのあたりを推奨していますし、CTR もそのあたりで一番高くなっています。しかし、劣化は駆動電流にほぼ比例するハズですので、可能なら駆動電流を抑えたほうが信頼性はあがりそうです。 (シーケンサ (PLC) などでは 5 〜 7mA 程度で動作しているようです)

そういう意味では「常時、一次側の駆動電流が流れる」というのはマズイわけですが、逆にすると「壊れていない」事の検出要素が膨れてしまいます。なかなか思うようにはいかないモノです(笑)。

とっ、まぁ普通の用途では問題にさえならない「重箱の隅」の話でした。


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