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001 新暦壁を擦り擦りローリング 平岡 仁期
002 水葬の渦すぐ消ゆる春寒し
003 手に捕ればシベリアの蝶翅うすし
004 水葬す今日の春天すきとおり
005 航跡となりゆく渦の夜光虫
006 航長し来る日来る日の雲の峰
007 機関室暑し四時間もの言わず
008 機関長より来しメモを汗に読む
009 この船に乗船二度目扇風機
010 船暑し印度の匂いする煙草
011 靴の上に汗を落として機関守る
012 当直を終へたる汗のシャツ洗ふ
013 裸火夫昼寝の毛布足に巻き
014 船暑しどこへ行きてもペンキの香
015 機関室暑し鉄の扉押して入る
016 汗の火夫油の匂い撒いて過ぐ
017 女医船に乗組む日傘等も持ち
018 月と星と雲と波あり航暑し
019 藤椅子に愉しき船のローリング
020 機関室暑し一息して入る
021 船室のペンキ匂ひて航薄暑
022 台風の仮泊港の灯に遠く
023 台風のわが家氣遣ひ船にあり
024 台風に仮泊す日本船ばかり
025 音たてて流れる霧に仮泊せる
026 霧笛吹き航く海峡に谺して
027 わが船を停めて霧笛を確かむる
028 いつも別れのことば短し冬銀河
029 見ゆるもの紛れなく船鰯雲
030 徐に航く船つつみ霧深む
031 A崎の海の落葉を分けて航く
032 泡たちて北緯五十度冬の海
033 晩涼の船より読めるネオンの字
034 冬航や機関士海を見ぬ一日
035 冬凪いで機関の調子取り戻す
036 冬海を航くばかりなる誕生日
037 モスクワへ行くという貨車雪の波止
038 泡立ちて北緯五十度冬の海
039 恐ろしき海霧の千島に沿うて航く
040 港出て十日が十日冬の時化
041 冬波の白さ陸を忘れさす
042 いつも別れのことば冬銀河
043 霧笛吹き航く海峡に谺して
044 徐に航く船つつみ霧深む
045 樺太の霧につつまれ碇泊す
046 霧の中灯して碼頭検問所
047 君僕という言葉炉辺楽し
048 春寒き水温六度水葬す
049 抱かせやる錘り冷ゆるや水葬す
050 炬燵しつらへて下船のわれを待つ
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