「今、こんな曲やってるの。」 ある放課後、恭子ちゃんが音楽室のピアノで弾いてくれたのは、
よく磨かれたグランドピアノをさらに輝かせる夕日のようにキラキラと美しいものでした。
恭子ちゃんは同じお教室に通う1学年上の、色白で美人で、とびっきりピアノの上手な女の子でした。
「シューベルトの即興曲っていうの」
ソッコウコク? なんだ、そりゃ?
少ししたらピアノの先生が言いました。「今度の発表会、シューベルトの即興曲にしましょう。」
ヤッター、あの曲だ。恭子ちゃんが弾いてくれたあの曲だ。
家に帰って譜読みをすると‥ それは全然違う曲でした。ソッコウコクと即興曲は違う曲なんだな。
私は5年生でした。
恭子ちゃんの即興曲と私が発表会で弾いた即興曲と同じ楽譜に入っていたことは、
3年前にピアノを再開して、初めて知ったことです。さっそく楽譜を買ってみました。
いつか恭子ちゃんの曲「即興曲 Op.90-4」を習ってみよう。難しそうだから、もうちょっと経ってから‥。
ピアノのお稽古に通ううちに、とても不安になってきたことがありました。
私は5年生のとき、「けいこの即興曲、Op.90-2」をどういう風に弾いたんだろう?
速く弾いたことは覚えている。先生の書き込みで楽譜が読めなくなったことも覚えている。
いったい何を習ったんだろう? 何を理解したんだろう?
そして先生に伝えました。「昔、何を習ったのか教えてください。」
ふとよぎった想い。子供の頃お世話になった先生に連絡をとってみようかしら‥。 ううん、だめ、まだまだ。(笑)