PCBやDDTなどの化学物質はいままで発ガン性や急性毒性という点から問題にされてきました。しかし近年そのほかに内分泌系を攪乱する環境ホルモンとしての側面をも合わせ持っていることが明らかになってきました。生殖、発生過程においても影響を及ぼす環境ホルモンは、固体単位の問題から子孫、種全体に関わってくる点から、より深刻と言わざるを得ません。特に食物連鎖の上位に位置する動物ほど強い影響を受け、絶滅の危機に瀕している種も多いようです。当然、その地域の生態系は崩れ、循環型地球においては地球全体の生態系にも影響を及ぼしかねません。
現在の地球において生存する動物は選ばれた種であり、何らかの役目を担っています。人類の都合で絶滅させても良いわけがありません。自分には関係ないといって無関心でいられるでしょうか。そのことが今問われているのです。
まさに、文明とは、地球を食いつぶし、環境を破壊し、種を滅ぼすものとも言えましょう。

 

内分泌系とホルモンについて

内分泌系とは甲状腺、卵巣、精巣などのホルモン産生臓器、そのホルモン産生をコントロールする下垂体、下垂体をコントロールする脳の視床下部などでネットワークを形成し血中のホルモン濃度やその周期性などを保持し調節する。 

ホルモンは生物の発生過程での組織の分化、成長、生殖機能の発達、恒常性などを調節する重要な役割を果たし、それぞれの種類に応じて異なった器官、組織に作用し、それぞれ特徴的な働きをしている。内分泌腺で合成されたホルモンは貯蔵され、必要な時や場面で血中に放出され目的臓器に到達し、細胞にあるレセプター(受容体)を認識し、それと結合し活性化する。その後DNAに働きかけ機能タンパクの生成や細胞分裂の調整を指示する信号を発生させる。また、各内分泌腺はフィードバック機構によって一定の安定した状態に調整されている。例えば、視床下部から分泌された副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)は脳下垂体に作用して副腎皮質ホルモン(ACTH)の分泌を促進する。ACTHは副腎皮質に作用して糖質コルチコイドの分泌を促進する。糖質コルチコイドは視床下部、脳下垂体に作用してCRH、ACTHの分泌を抑制する。この抑制作用を負のフィードバックという。負のフィードバックによって血中の糖質コルチコイド濃度は適正レベルに保たれている。

簡単にいえば、ホルモンとは生体反応を直接行う物質ではなく、複雑な生体システムの維持、調節に深く関わっている物質です。環境の変化に対して、生体の状態変化を最小に抑えるためのシステムでもあり、また、環境変化に対応するために生体の状態を変化させるという働きをも担っている。

内分泌系、神経系、免疫系はそれぞれホルモン、神経伝達物質、サイトカインを情報伝達分子として用いている。
人はストレスにさらされると中枢神経系が視床下部にその情報を伝える。視床下部で神経系の情報は内分泌系の情報に変換される。
免疫系はホルモンに対応するレセプターを持っており、ホルモンの影響を直接的に受ける。免疫細胞はホルモンによって調節を受けるだけでなく自らもホルモンを産出する。
このように内分泌系は神経系や免疫系とネットワークをなし、密接な関係にあり、環境ホルモンにより内分泌系が攪乱されれば神経系や免疫系も影響を受けます

 

環境ホルモン「内分泌攪乱化学物質(EDCs)」

定義1

生体の恒常性・生殖発生あるいは行動に関与する種々の生体性ホルモンの合成、分泌、体内輸送、受容体結合そしてそのホルモン作用そのもの、あるいはそのクリアランスなどの諸過程を阻害する性質を持つ外来性の物質(米国大統領府科学技術委員会、環境保護局 EPA)

定義2

内分泌系に変化を与え、無処置の生物もしくはその後世代に、障害性の健康影響を与える外来性物質もしくはその混合物(世界保健機構・化学物質安全性計画 WHO/IPCS)


内分泌系のホルモンは受精卵から胎児へと発達・成長を遂げる発生過程における器官の形態形成や機能形成過程あるいは生後の成長や性的成熟過程において重要な役割を果たしており、環境ホルモン はこれらの過程を阻害する。さらに、胎児の発育過程においては、特定の時期に限って特定の器官がホルモンに対して感受性が高まっていることなどが知られており、このような時期に微量の環境ホルモンが作用した場合の障害性も懸念される。
 EDCs の問題点で最も重要な点の一つは、このような世代を越えた影響に関してであり、母親の体内に入った EDCs が経胎盤あるいは母乳を通して胎児や乳児に入っていくことが問題となる。環境ホルモンの障害としては乳ガン、子宮内膜症、精巣腫瘍など数多くの疾患があげられているが、その中でも最も憂慮すべき点は一部の野生生物 に見られるような“種の保存”を脅かすような生殖機能に対する影響である。実際、ヒトの精子数がこの数十年間に減少しているとの指摘があり、この指摘が事実なのかどうか、事実ならばこれは EDCs が原因で起こっているのかなどを巡り世界的な議論が起こり調査研究が開始されている

 

免疫系

免疫系細胞はすべて、骨髄にある造血幹細胞に由来し、他の血液細胞と共にマクロファージ、リンパ球(T細胞、B細胞など)、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)などが分化し、T細胞はさらにキラー、ヘルパーなどに分かれてゆく。そして、それぞれは異なった機能を持ち、絶妙のコミュニケーションのもとに、個体内の自己同一性を保つ免疫システムをつくり上げている。例えば、マクロファージが異物を細胞内に取込んで消化し、異物の断片を放出すると、T細胞は抗原提示細胞の表面に提示された異物情報をキャッチし活性化され、インターロイキンなどの作用因子を出して、他のT細胞やB細胞、さらに炎症に関与するさまざまな細胞に働きかける。細胞たちは情報を受け取ると、例えばB細胞が抗体を大量に合成するプラズマ細胞に分化してゆくように、いろいろな機能をもった細胞に分化する。このように、人間の免疫細胞群でできあがっている。
しかし、その中心となる細胞は、マクロファージなどの食細胞系、ガン細胞など自分の細胞の異変を見つけて攻撃するNK細胞系、そして多彩な抗体をつくりだすリンパ球系細胞の三つのクループである。
マクロファージの特徴は自分の細胞、同種の細胞、近縁種の健康な細胞以外のすべての粒子状の物体を、無差別に攻撃することである。つまりマクロファージは異物がもっている特殊な情報をキャッチして攻撃するのではなく、認識できないすべての物体に攻撃をしかけるという原則的な特徴をもっている。それでは、マクロファージは何を認識するのか、「たぶん種の特異性ではないか」種の特異性とは、同じ種だというサインである。自分と同じ種の細胞を認識する能力を根本的にもっているのである。
NK細胞は、ガン細胞のように突然変異を起こした細胞やウイルス感染した細胞を破壊する。また、未熟な細胞を攻撃して、発育・成長を調整する細胞でもある。NK細胞の認識対象はマクロファージより狭く、より専門的機能をもった免疫細胞である。NK細胞は何を認識しているのか。「自己特異性だろう
マクロファージは種特異性を認識し、NK細胞は自己特異性を認識し、不完全な自己の細胞を攻撃する。この二つの免疫細胞によって個はより厳密に個性を守れるようになってくる。
一つのリンパ球細胞およびそのクローンは一種類の分子しか認識しない。リンパ球は、免疫応答がマクロファージやNK細胞に比べて遅いが、その最大の特徴は記憶が形成され、再度同じウイルスなどの異物が侵入してくると初回より、早く強力に対応することである。動物はリンパ球をもって初めて、「二度同じ病気にかかりにくい。二度目は軽くすむ」ようになったのである。

2004年4月11日

 続く

参考資料
内分泌攪乱科学物質問題への環境庁の対応方針について【環境庁)
環境ホルモン入門(立花隆)