DNAマーカーによる新品種開発
 

 茨城県谷和原村の水田に今月、インド型イネ「インディカ」の早生の血が入った「コシヒカリ」が植えられた。やがて、普通より8ー10日早く穂を出す。
 ゲノムを収める12本の染色体のごく一部だけがインド型イネからもたらされており、そこに、早生の遺伝子が含まれる。夏が短い地域でも栽培可能とおもわれます。
この系統は、コシヒカリとインド型イネとの間の「子」をコシヒカリに掛け合わせ、その子孫をまたコシヒカリに掛けて・・・・と繰り返して生み出された。
従来なら、各世代で子供をたくさん育てて出穂時期や形態などを調査し、早生で、他の点はできるだけコシヒカリに似た子を選んで次の交配をするという作業を繰り返した。世代ごとに、広い耕地と膨大な作業が必要で、優良品種の育成は10−20年がかりだった。これらの壁を破るため、今回、農業生物資源研究所の矢野昌裕チーム長らが取組んだのが「DNAマーカー育種」だ。
 イネゲノムの解読が進んだことで、品種や個体によるDNAの塩基配列の微妙な差異がわかってきた。塩基の種類や、特定配列の繰り返し回数などの違いだ。
確定できた遺伝子の配列そのものも含め、これらは膨大なDNA配列中の貴重な目印(マーカー)になる。
矢野さんらは、モミが実るたび、発芽させて、出穂期を待つことなく葉のDNAを解析。早生遺伝子を持ち、他のマーカーはできるだけ多くコシヒカリ、という株だけを育てて、次のモミを取った。
早生で「コシヒカリ度」が確実に高い子を的確に選び、時間や作業、必要な栽培規模の面でも効率的に選抜を重ねてきたのだ。
 DNAマーカー育種による新品種候補は、ほかにも、現れ始めた。
西日本中心に栽培される「ヒノヒカリ」は第3染色体に野生イネの遺伝子を取込んで、害虫のトビイロウンカに強くなった。
宮城県の有力品種「まなむすめ」は、新らしい「いもち病抵抗遺伝子」を第2染色体に追加した。手がけた同県古川農業試験場の永野邦明・上席主任研究員は、「マーカー育種なら遺伝子の有無が直接わかり、病原菌や害虫を使った試験はほとんど不要。減農薬栽培に向いた品種が早くできる」と利点を説く。
コシヒカリの粘りの強さを生む遺伝子が第2染色体にあると突き止めた福井県農業試験場の富田桂主任研究員は、「他の品種に入れて、食味の良い品種を一気に増やせるかも」
 有用遺伝子を作物に直接導入する「遺伝子組換え」には消費者の抵抗が強いだけに、伝統的な交配による品種づくりを効率化するDNAマーカー育種に期待がかかる。

2003/5/24 朝日新聞