ディープ・インパクト探査計画は、地球に近づく彗星の核に衝突体(インパクター)を衝突させ、表面にできるクレーターや彗星内部の物質を観測するというアメリカ航空宇宙局(NASA)の彗星探査計画です。

  ディープ・インパクト探査がターゲットとしているのは、1867年にフランスのテンペルによって発見されたテンペル彗星(約14キロメートル×4.6キロメートル)という彗星核です。この彗星は、太陽の周りを周期5.5年で公転しています。彗星は氷を含む天体ですから、何度も太陽にあぶられると、その表面が焼け、氷のような成分がどんどん蒸発しますが、氷以外に融けにくい岩石や塵などは表面に残され、殻となっているのです。これまでの彗星探査でも、核の表面はかなりの部分が不揮発性の蒸発しない物質で覆われているということが明らかになっています。ハレー彗星の核の表面も、反射率がわずか4%と、まるで炭のように真っ黒で、ガスや塵が吹き出しているのは、核の割れ目のような部分だけでした。

  しかし、この表面の殻が、いったいどのような物質で、どの程度の固さか、厚さなのかは、よくわかっていません。そこで、今回のディープ・インパクト探査によって、この表面の殻をやぶってみて、その構造や成分を明らかにすると共に、衝突クレーターの形成などの謎を解き明かします。また、将来起こるかも知れない天体衝突の回避方法についての重要な資料を得ることができるかも知れません。6500万年前に起こった恐竜の絶滅はテンペル彗星と同程度の大きさの彗星が地球に衝突した為だといわれています。

観測を行うフライバイ機(母機)(高さ2.3m幅3.2m奥行き1.2m)と、時速37000kmで彗星の核に撃ち込む銅製の円筒形の インパクター(衝突機)(径1m重量360kg)で構成された探査船が2005年1月12日にアメリカ・フロリダ州ケープ・カナベラル空軍基地から打ち上げられた。インパクターが銅でできているのは、衝突後に蒸発しても、彗星の物質との区別を可能にするためです。

地球から約1億3000万キロメートル離れたテンペル1彗星に到着した探査機ディープインパクトは7月3日午前2時7分、テンペル1彗星から約88万キロメートルの距離から、フライバイ機に搭載されたインパクターが発射された。

衝突2時間前からインパクターは地球からの指示は受けられません。
この計画では、ただ彗星に衝突させれば良いと言う訳ではなく、自らの判断で突入コースを選び、観測しやすい太陽に照らされた明るい場所に突入しなければなりません。その為インパクターには人口知能が搭載されました。
衝突90分前1回目の軌道修正、35分前2回目の軌道修正、そして12分前最後の軌道修正を行い、発射から約24時間後目標のテンペル1彗星の中心核に時速3万7000キロメートル(秒速10.2キロメートル)で激突した。

インパクターは衝突3秒前まで彗星表面の鮮明な写真を撮り続け、フライバイ機は中心核から500キロメートルまで接近し、約14分間人工物体による史上初の天体ショーを搭載カメラにより撮影された。
 この衝突により、テンペル1彗星の中心核には直径約100メートル、深さ約5メートルのクレーターが形成されると共に、内部の物質が高く噴き上がった

 NASAの高層研究航空機が高度2万メートルで採集した宇宙からのコズミックダストの中には生命の材料ともいえる有機物がふくまれています。この有機物はどこから来るのでしょう。

ハワイのケック望遠鏡を使い紫外線の波長でもってテンペル1彗星を観測中、衝突前には有機物はまったく検出されませんでした。しかし衝突後の観測ではエタン、メタン、エタノールなどの有機物が大量に検出されました。と言うことは、彗星の内部には大量の有機物が存在することになります。
北海道大学低温科学研究所の実験によると
実験室で氷点下263度10兆分の1気圧という宇宙空間と同じ低温真空の環境を作り出します。この環境で宇宙空間にある1酸化炭素と水の混ざった氷を作ります。ここに、宇宙空間でもっともありふれた水素を原子の状態で導きいれ、光を当てます。しばらくすると、氷の表面で1酸化炭素が次々と水素原子と結合しホルムアルデヒドが生まれてきます。さらに反応が進むと最終的にメタノールになります。宇宙空間で有機物が生み出されるのです。

彗星が撒き散らす有機物が地球生命の発生を早めた可能性が高いといわれています。

 
 参考資料 NASA NHK NAOJ