滋賀報知新聞 平成19年6月30日(月)の記事
         

愛する人を奪われた被害者遺族が講演
学生たちの心を動かす =聖泉大学で=

◆東近江・竜王町◆

 約三年前に息子を交通事故で亡くした竜王町橋本の田中博司・とし子さん夫妻がこのほど、彦根市肥田町にある聖泉大学を訪れ、臨床心理学やカウンセリングを学んでいる学生たちに被害者遺族の心情を伝えた。

 田中さんが講演したのは、同大学人間学部人間心理学科・國松典子講師のゼミで、学生が被害者遺族から直接話しを聞くのは初めてだという。  國松ゼミ四回生十一人を前に、田中さんは長男・幹弘さん(当時23歳)が友人の居眠り運転で命を落とした事故概要から語り始めた。「私より先に息子が亡くなることを想定していなかったので信じられなかった。一番ショックだったのが、冷たくなった息子を抱きかかえ帰ったこと。今でもその感触は忘れられない」と一生いえることのない心の傷を明かした。

 「犠牲者を生かして初めて、世の中は何かが新しく良くなっていくもの」と悲劇が起こってからでしか変わらない現実にも触れ、自らの生き方を見つめ直すきっかけにと、十一月に近江八幡市で開く“生命のメッセージ展”へのボランティアスタッフとしての参加を呼び掛けた。

 その後、高橋啓子教授によるカウンセリング授業で、二回生約六十人に対して、滋賀県警本部犯罪被害者対策室・中村準一氏が、心のケアにも取り組む被害者支援の現状を体験談を交えて語った。

 また、「交通事故が単なる事故だという認識は一昔前のこと。今は大きな犯罪である」と指摘し、被害者やその遺族の視点に立った支援策と被害者・加害者を出さない社会構築の必要性を説いた。

 最後に、横断歩道で前方不注視のダンプカーに息子・大知くん(当時9歳)をひかれた野谷容子さんが「支援に必要なことは想像力だと思う。想像力を持つには、知ることが大切。まずは話しを聞いてほしい」と訴え、生命のメッセージ展への来場も求めた。

 講演を聞いた人間学部人間心理学科・津田由紀子さん(22歳)は「残された人の人生までも変わってしまうことを改めて実感した。心理学を学ぶ者として、何かできることがあれば協力していきたい」と、被害者遺族の訴えに心を動かされていた。

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