毎日新聞 平成19年5月26日(土)の記事
         

現場から記者リポート:生命のメッセージ展 無言の叫び、聴いて /滋賀

 ◇事件・事故犠牲者、生の証し 11月に近江八幡で−−県内4年ぶり
 理不尽に生命を奪われた被害者の無言のメッセージを感じて−−。事件・事故の犠牲者の生きた証しとして、遺品や写真などを張った等身大の人型パネルを展示する「生命のメッセージ展in滋賀07」が11月、近江八幡市で開かれる。同展は01年から全国各地で開かれており、滋賀展は4年前の大津市に続いて2回目。県内の遺族や有志で作る滋賀展実行委は今月20日にホームページを開設し、PRしている。代表の田中博司さん(56)=竜王町橋本=も04年に長男幹弘さん(当時23歳)を交通事故で亡くしており、「多くの人に来てもらい、命の大切さを今一度考えるきっかけになれば」と話している。【近藤希実】

 ◆始まりは母の思い
 同展は、飲酒運転の車に一人息子を奪われた母親の強い思いから始まった。00年4月9日、早稲田大に入学したばかりの鈴木零(れい)さん(当時19歳)=神奈川県=が歩いていた際、泥酔した男が運転する時速100キロの車にはねられ、亡くなった。5年前に夫に先立たれ、支え合って生きてきた息子まで奪われた母共子(きょうこ)さん(57)は、加害者に最長でも懲役5年の業務上過失致死傷罪しか適用されないことに、がく然とした。軽すぎる刑への憤りと無念さから交通事故の厳罰化を求めて声を上げ、2年間で約37万人の署名を集めて、国会を動かし、最長で懲役20年の「危険運転致死傷罪」の新設にこぎ着けた。

 造形作家でもある共子さんは「被害者の生まれない社会を」と、被害者や遺族の思いを人型パネルで表現する同展を企画。01年3月、東京駅八重洲口で第1回を開いた。「無言のメッセンジャーとなって、命の尊さを全国に伝えてほしい」と、パネルの足元に置く遺品の靴は、今まで全国40カ所を巡った。7月14日には第41回展が大阪・南港のATC(アジア太平洋トレードセンター)で開かれ、滋賀展は42回目になる予定だ。

 ◆未来を生きる
 「大切な人に再会できたようだった」。田中さんは、05年3月に津市であった第27回展を初めて見て感動したという。会社員だった幹弘さんは04年9月、旧五個荘町(現東近江市)で、友人の居眠り運転により、助手席で犠牲になった。「幹弘を“生かしてやりたい”、生きたという事実を忘れてほしくない」。そんな思いから、2カ月後から、妻とし子さん(51)と各地の同展に出展してきた。

 今回の滋賀展は11月16〜18日、近江八幡市鷹飼町の男女共同参画センターで開く。田中さんの呼びかけに応じた遺族や旧友ら約20人が今年2月末に実行委を結成。毎月、話し合いを重ね、「内々のイベントで終わらないように」と、ヒット曲「千の風になって」などのコンサートや講演などを企画する。鈴木さんをモデルに今年3月に公開された映画「0からの風」(塩屋俊監督)の県内上映も目指している。

 今回のサブテーマは「今そして未来を生きる」。癒えない悲しみを抱えて生きる遺族にとって、同展は心のケアになる。田中さんは「今生きている人が未来をどう生きるか。多くの人に見てもらい、何かを感じてもらえれば、“幹”は切られたけれど、“枝”は伸びる」と語る。

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 実行委は搬費経費や会場費などをねん出するため、50万円を目標に個人や団体から協賛金を募っている。ボランティア・スタッフも募集中。詳細は同展ホームページ( http://www.eonet.ne.jp/~inochim2007/)か実行委(0748ー58ー0373)。
 

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