毎日新聞 平成19年10月27日(土)の記事
         

映画:「0からの風」県内初上映に400人
監督も「事故の抑止力に」訴え /滋賀


◇無免許泥酔暴走車に息子奪われ 悪質運転厳罰化へ母の闘い描く

 泥酔運転の暴走車にはねられ息子を奪われた母親が、悪質運転の厳罰化を求めて闘った実話に基づく映画「0からの風」の上映会がこのほど、県立男女共同参画センター(近江八幡市鷹飼町)であり、塩屋俊監督が舞台あいさつを行った。一般公開は県内で初めてで、計3回の上映に約400人が来場した。塩屋監督は観客を前に、「(この映画を)見た人の日常生活のなかで、事故の抑止力となってくれれば」と作品への思いを語った。【近藤希実】

 映画のモデルとなったのは、造形作家、鈴木共子さん=神奈川県=の活動。鈴木さんの長男零さん(当時19歳)は早稲田大に入学したばかりの00年4月、無免許の上、泥酔した男が運転する時速100キロの暴走車にはねられ、死亡した。5年前に病で夫を亡くした鈴木さんにとって、生きがいだった零さんの突然の死。しかも、当時悪質運転の加害者に科されるのは最長で懲役5年の業務上過失致死罪だけだと知った。軽すぎる刑に憤った鈴木さんは全国で署名を集め、最高刑懲役20年の「危険運転致死傷罪」新設にこぎ着けた。

 映画のなかで、鈴木さん役の女優、田中好子さんが、事故で死亡した息子の遺体と安置室で対面し、「零くんじゃありません!」と泣き叫ぶシーンには、会場からすすり泣く声が漏れた。自らの長男も交通事故で亡くした、実行委の田中博司さん(57)=竜王町=は「遺族にとって、この映画はリアルすぎてつらい。でも、だからこそ事故を防ぐために、多くの人に見てほしい」と話していた。

 映画は公開半年を経て、すでに全国で約3万人を動員した。舞台あいさつで、塩屋監督は自身も何十回と上映会場に足を運んだことを明かし、「この映画は作って終わりじゃない。唯一の愛する対象を奪われた遺族の思いを受けとめるのは重いが、映画で表現し継続的に上映することで、事故の抑止力になってくれれば」と語った。

 映画は来春、大津市でのアンコール上映が予定されている。



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