滋賀報知新聞 平成18年12月2日(土)の記事
         

心に染みる母の思い
来春完成の映画「0からの風」
“生命(いのち)のメッセージ展” =発案者の 鈴木さんがモデル=


 ◆東近江・竜王町◆
 心の奥底に語り掛け、我が身に染みる母の思い―。“生命のメッセージ展”の発案者である鈴木共子さん(57)=神奈川県座間市=をモデルとした映画「0(ゼロ)からの風」。十月下旬から関西を中心にロケを行い、今月十二日に撮影を終えた。来年十一月十六、十七、十八日に、交通事故で長男を亡くした竜王町橋本の田中博司・とし子さん夫妻が中心となって「生命のメッセージ展in滋賀」が滋賀県立男女共同参画センターで開催されることから、被害者家族の心の叫びを静かに伝える映画を取材した。          (櫻井順子)

●夢を引き継ぐ母
 映画「0からの風」のモデルとなった鈴木さんは、六年前の春、早稲田大学に入学し希望に満ちあふれていた一人息子・零さん(当時19歳)の命を、飲酒・無免許の悪質ドライバーの暴走車に奪われた。

 三度目の事故にもかかわらず、加害者には「業務上過失致死傷罪」(当時の最高刑期は五年)しか適用されない現状。あまりにも軽すぎる刑にこみあげる怒りと無念さを抱え、鈴木さんは同じ思いを抱く仲間と約二年間街頭に立った。

 悪質な交通犯罪の厳罰化を求めて約三十七万人の署名を集め、国をも突き動かし、新設されたのが「危険運転致死傷罪」(最高刑期二十年)。

 造形作家でもある鈴木さんは、命を絶たれた犠牲者たちが等身大パネルのメッセンジャーとなってよみがえる移動形式の展示会「生命のメッセージ展」を企画し、命の重みを訴える活動もスタート。息子の人生を代わりに生きようと、零さんの参考書などで猛勉強し、三度目の挑戦で早稲田大学にも見事合格、来春には卒業を迎える。

●塩屋監督が映画化
 俳優で映画監督の塩屋俊さんは、鈴木さんの入学を伝えるニュース映像を見て、六年にわたる闘いの映画化を熱望し、入学と同時に取材を続けてきた。

 今回の作品は、鈴木さんのエピソードを盛り込みながら、一人の女性が生きていくこともままならない絶望のふち、ゼロから出発し、必死に前を向き夢を追って歩き出す姿をフィクションで描く。

 作品テーマは親子・家族の絆や母性愛の深遠さ。上映を通じて被害者家族の心の救済を図るとともに、繰り返される悪質な交通事故の抑止・撲滅も訴える。

 エグゼクティブプロデューサーの土屋哲男さんは、「被害者家族の気持ちは一〇〇%伝わらないかもしれないが、映画館に集まった者同士が映像を通して疑似体験することで、被害者家族の痛みを共有できるのではないか」と語り、被害者にスポットを当てた映画の必要性を強調する。

 また、社会の中から生まれる犯罪は社会の中で解決すべきであるという“修復的司法”の考えに触れ、刑罰を科すことで解決したとみなすのではなく、被害者・加害者・地域社会が三位一体となって事件・事故と向き合い、解決方法を見い出していく重要性を説く。

●命の重み伝える
 鈴木さん役を演じる女優の田中好子さんは、今月五日に兵庫県佐用郡佐用町で行われた撮影現場で、鈴木さんと対面し「気持ちが入ると涙が止まらなくなり、悔しくて悲しい思いでいっぱいになる」と大粒の涙を流し、命の大切さを伝えていきたいと声を振り絞った。

 映画「0からの風」は、来年三月に早稲田大学構内(東京)と大阪国際会議場(大阪)で完成披露試写会が開かれる予定で、各都道府県の市民ホールや企業の施設などを中心に二年間にわたる全国巡回上映を計画している。

 さらに、映画制作費は、企画に賛同した企業・団体・個人の寄付金で賄われており、上映による純益金はすべて「生命のメッセージ展」の運営に寄付される。

 詳しい情報は、「0からの風」公式ウェブサイトhttp://www.zero-karano-kaze.com/"で。


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