映画の感想
歴史作品編
「リンカーン」
(2012アメリカ、スティーブン・スピルバーグ監督)
地味な展開が約150分間延々と続く作品だと事前に聞いていたのだけど、観てみると実際にその通りだった(笑)。
同監督の『アミスタッド』と同じような感じかな。
前
年のゲティスバーグの戦いに勝利した北軍が南北戦争の優位をほぼ確立し、リンカーンが大統領に再選された1864年から幕が開ける。「リンカーン」と銘打
たれているけど、妻や息子との交流が一部描かれる以外、リンカーンはあまり表に出ることはなく、彼の生涯も描かれる事はない。
作品の大半を占めるのは、奴隷解放を企図した「合衆国憲法修正第13条」の議決を巡る下院での政治劇である。
派手なシーンは一切なく、3分の2以上の議決を取る為に行われる密約や買収工作などの場面がひたすら続くので、正直かなり退屈で、『アミスタッド』を観た時も半分以上寝ていた管理人は今回も眠気と格闘するのに必死であった。
スピルバーグの訴えたい事は分かるんだけど・・・地味すぎて万人受けする内容ではないなぁと感じた次第。(平成25年4月28日鑑賞)
「ロビン・フッド」
(2010米英合作、リドリー・スコット監督)
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リドリー・スコットが母国の伝説上の義賊、ロビン・フッドを取り上げた歴史作品。
主演は、同監督作品ではお馴染のラッセル・クロウ。なので、この映画に登場するロビン・フッドは「寡黙で熱い男」なのだ。リチャード獅子心王や、その弟である”欠地王”ジョン、イギリスと敵対するフランスの賢王フィリップ2世といった歴史上の人物を登場させ、ロビン・フッドの活躍と絡めて描いている。
なので、ロビンは義賊というよりはフランス軍及びその傀儡と戦う戦闘指揮官であり、フィリップ2世は背後で糸を引く黒幕的な描写である。
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ストーリーは割と単純な勧善懲悪であり、深みはない。
その一方で、”映像の魔術師”リドリー・スコットの手による12世紀イングランドの描写は素晴らしいの一言。
本当にこの人は、近未来の架空世界から古代ローマ、大阪の街〜ソマリアまで、何を撮らせても全て様になるところが凄いと思う(自分は、この監督の作品だけは必ずブルーレイで視聴するようにしている)。
この映画も、そういう意味では「映像美や雰囲気を堪能する」類の作品だろう(平成24年4月3日)。
「キング・アーサー」
(2004アメリカ、アントワーン・フークワ監督)
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「パールハーバー」で悪名を轟かせてしまったジェリー・ブラッカイマー製作作品。
タイトル通りアーサー王伝説を主題にした映画。
普通アーサー王伝説といえば、「聖剣エクスカリバー」「聖杯伝説」「トリスタンとイゾルデの恋物語」などといったファンタジックな内容を連想するが、この
作品ではそういったものは徹底して排除され、リアルな歴史物としてのアーサー王の物語となっているのである。
当然、超常的な要素は全く出てこない(例えば、魔術師マーリンは単なる部族の長老として描かれている)。 |
アーサー自身も「リーダーシップに秀でたローマ軍の一部隊長」的な扱いなのだが、ま、こういうのもこれはこれでありなのかなと思う。
映画自体はそれなりよく出来ていて、ハリウッドお得意の戦闘シーンは流石に迫力があり(ただ、ラストのサクソン族との最終決戦の場面は「グラディエー
ター」の影響受けすぎ)、普通に面白い作品ではあった(グウィネヴィア王妃役のキーラ・ナイトレイを貧乳などと言ってはいけない)。
強いて言うなら、アーサーの円卓の騎士たちが一体誰が誰なのかさっぱりわからず、個々のエピソードも出てこない点は勿体無いなあと思うのだが。
「エクスカリバー」
(1981アメリカ、ジョン・ブアマン監督)
こちらは上とは打って変わって、ファンタジックな正統派アーサー伝説を描いた作品。
自分はレンタルビデオで借りて見たのであるが、まず最初の30分程を見た感想・・・・「うわっ、なんかこの手のよくある低予算B級SF・ファンタジー映画臭が全開やな」。
随分と昔の作品だけに現在のCG作品と比べるのは酷としても、全体的にチープな印象は拭えません。特に攻城シーンは寂しすぎますね。
しかし、全編を通して流れる幻想的な雰囲気や、こだわりのある映像(プレート・アーマーの光沢が実に綺麗!)、ワーグナーのBGM等々、見ているうちに次第に引き込まれていき、この作品が現在でもカルト的人気を保っているという理由が分かるような気がした。
特に、聖杯探索シーンでの、木から吊るされた騎士達の死骸が映るところ。自分はこの場面が最も印象的であった。
「パッション」
(2004米伊、メル・ギブソン監督)
「マッド・マックス」「ブレイブハート」主演のメル・ギブソンが監督となり、イエス・キリストの処刑を描いた作品。
公開時には、海外で上映中に気絶者やショック死した人が出たとか色々と話題を呼んだ。ちなみにタイトルの「パッション」は(キリストの)受難という意味だそうな。
この映画、まあ色んな意味で確かに凄い。
随分と話題になった暴力描写(キリストへの拷問シーン)もそうなのだが、そもそもエンターテインメント性というものが一切ない!でも宗教がかった作品なの
かというとそれも違うし・・・まあ言うなれば「キリストの最後の12時間を描いた歴史ドラマ」みたいなものだろうか。
問題となったのは、キリストへの拷問シーンがあまりにも痛々しくて(鞭が肉を裂く描写等)、しかもそれが延々と(本当にエンドレスな位に延々と)描写される箇所だろう。
「お前が神の子なら自分で自分を救ってみろ」と薄ら笑いを浮かべながら、作り物だと分かっていても思わず目を背けたくなるような酷い拷問を繰り返す処刑執行人。
「北斗の拳」の世界であれば、タイミングよくケンシロウが現れてこういうザコは一撃の元に成敗されるのであるが、この作品では勿論そうはならない。
誰も助けに来ず、奇蹟も起きず、キリストは苦悶に顔を歪めながら無抵抗で拷問を受け続け、やがて死を迎える。
メル・ギブソンはキリストの受難を観客に印象付ける為、あえてこのシーンをくどい位に時間を掛けて描いたのだろうか?しかし、それにしても救いようの無い展開だ・・・・。
自分としては、スターウォーズの皇帝のようなフード姿で現れる「サタン」をサブリミナル的に登場させる手法が気に入った(このサタンも細面の青白い顔で何とも言えない迫力がある。特に奇形の赤ん坊を抱いて現れるところは凄かった!)。
かなり癖の強い、毀誉褒貶の激しい作品ではあるが、自分は見事にツボにはまった。
万人に勧められる内容ではないが、名作であることは確かだと思う。
「マスター・アンド・コマンダー」
(2003アメリカ、ピーター・ウィアー監督)
ラッセル・クロウ主演の、19世紀の英仏の海戦もの。
海戦と言っても、太平洋上での1対1のもので、最初から最後までイギリス軍艦「サプライズ」号内の限定された視点からのみ描かれる。
艦内の描写はやたらとリアルで、士官=貴族、水兵=大半は強制徴募された下町の貧民、という当時のイギリス海軍の実情がよく描かれており、その他細かな部
分まで当時を忠実に再現していて、本国に多数存在するこの手の帆船ものが好きな方々の間でも割合好評だったそうな。
で、肝心のストーリーなのですが・・・・すいません、私は映画館で心地よい眠りに落ちてしまいました。いや、別に何が悪いというわけではないのですが、どうも眠気を誘う映画なんですよねえ(ガラパゴス諸島で野生動物と戯れる場面とか)。
ディテールに凝った作品であることは確かなので、「地味な名作」として語り継がれていくのかもしれない・・・。
「ヤマトタケル」
(1994日本、大河原孝夫監督)
ゴジラシリーズのスタッフが製作した、日本神話をSF風にアレンジした作品なのだが・・・いや、これは凄い(笑)。
全編に渡って脱力感溢れる特撮シーンのオンパレード。
キングギドラの首の数が増えただけのヤマタノオロチとか(そもそも、これを退治したのはヤマトタケルじゃなくて、スサノオノミコトなのだが・・・)、藤岡弘の演じる釜ヶ崎の浮浪者のような熊襲とか・・・色々と突っ込みどころが満載。
一番笑えたのは終盤に登場してヤマタノオロチと格闘を演じる巨大ロボット(この時のチープなBGMがまた素晴らしい)。
しかし、東宝もよくこんなアホ映画を大真面目に作りましたね・・・。
「源義経」
(1991日本、山下耕作監督)
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これは映画ではなく、ユニオン映画の年末時代劇スペシャルのうちの一作として放送されたTVドラマ。
自分はこのシリーズの大ファンであり、主要作品はビデオテープに録画した物を未だ保管しており、それ以外の撮り損ねた作品は、折に触れてこのようにDVDで購入している。さて、このシリーズの魅力というのは「奇を衒う事のない正統派の歴史ドラマ」「豪華なキャスティング(視聴者に媚びた起用ではなく、演技力重視の起用)」、そして何よりも「故・杉山義法氏の脚本」であろう。
杉山氏の手になる文語調の台詞回しは、その一言一言に重みがあり、そうでありながら臭くもないし浮きあがってもおらず、作品世界と実にマッチしているのである。
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この作品は、全9作となった同シリーズの7作目。
義経役に野村宏伸、弁慶役に里見浩太郎を起用し、五条大橋での邂逅から一ノ谷〜屋島〜壇ノ浦に至る平氏追討〜頼朝との対立から平泉への逃避行〜衣川での最後までを描いている。
端折るべき処は端折りつつも(例えば、木曽義仲はナレーションの中でしか登場しない等)、義経を巡る主要なエピソードはほぼ網羅している(勧進帳-安宅の
関の場面も登場し、特別出演の高橋英樹が富樫泰家を演じており、里見・弁慶との掛け合いは見物である)。
梶原景時は、本田博太郎氏が剛直に演じている。が、よくある講談物のように「讒言を持って義経を陥れる悪意のある人物」的な描写ではなく、任務(=鎌倉)に忠実な武将・能吏として自分の目には映る。
義経と頼朝との対立についても、杉山氏はあえて「誰が悪い」的な描き方はしていない。
司馬遼太郎が書いたように「義経には政治の才が致命的に欠落しており」、老獪な後白河法皇によって翻弄されたという見方もできよう。
(いずれにせよ、義経の犯した「無断任官」という行為は、頼朝が目指した「恩賞分与権の独占による、鎌倉政権の御家人に対する支配権確立」の方針を根底から覆すものであって、いかなる理由があるにせよ絶対に認めることができない背信だったのである)。
なお、本シリーズお馴染みの堀内孝雄氏が歌う、主題歌「恋文」。
これは静御前の心中を詠んだ歌詞であると推測されるのだが、安田成美の演じる静御前が生まれたばかりの男の子を頼朝の命によって海に投げ捨てられるシーンで流れる箇所は見る者の涙を誘う・・・・。
切なさだけが
もしも恋なら
涙でこの世を 海にしたい
綺麗ごとの そんな幼さを
愛と呼んでは いけないですか
あなたの心の半分に わたしを宿してくれるなら
たとえ逢わずとも たとえ離れても
一人静の花になれる
なんとも悲しい歌である・・・。
「鶴姫伝奇―興亡瀬戸内水軍―」
(1993日本、小澤啓一監督)
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ユニオン映画の年末時代劇スペシャルの第9作にして、最終作となった作品。 室町時代末期の瀬戸内海を舞台に、半ば伝説上の人物でもある大三島の鶴姫を中心に、瀬戸内海の水軍衆や海賊衆の興亡を描いた作品。
従来の年末時代劇スペシャルと比べて放送時間が短縮されて一部一括放映となり、後に発売されたDVDも全1枚となっている。
主役の鶴姫を演じるのは後藤久美子。
この鶴姫であるが、彼女の物と伝わる鎧(我が国で現存する唯一の女性用鎧)が残されており、それが重要文化財として指定されている事は事実である。
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しかし、大三島に拠って当時瀬戸内の最大勢力であった大内水軍を撃退した等の伝説が果たして事実であるかどうかは不明な点も多く、「鎧が生んだ姫武将幻想」に過ぎないとの指摘もある。
逆に言うと、それだけ自由に料理する余地の多い題材でもある訳で、その点は外れの無い杉山脚本、短いながらも上手くまとまった内容となっている(隆大介がニヒルに演じる陶晴賢は悪役の魅力に満ち、中康治と萩原流行がその部下として配置され、鶴姫の部下役でダンプ松本が登場して大槌で敵兵を叩き伏せまくるといった完全に大映ドラマ化したような部分も多いが、それはそれで面白い)。
従来のメジャーなテーマとは一線を画した「瀬戸内水軍」を扱った歴史ドラマというのは大いに価値があると思うし、自分は大変気に入っている。
しかし、歴史好きならともかく、そうではない一般の視聴者が、大内水軍だの陶晴賢だの村上武吉だのと聞き慣れない固有名詞を並べ立てられても、一体何の事やら分からないのではないだろうか?
いくら主役に後藤久美子を起用したところで、その点は如何ともし難かったようで、この作品を最後に年末時代劇スペシャルが作られることはなかったのであった・・・。
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