交通科学博物館 訪問記

平成23年7月2日
(大阪市港区) 

大阪市港区、環状線弁天町駅に隣接して建つ「交通科学博物館」(→残念ながらその後閉館となりました) 。
ここは公立博物館ではなく、JR西日本が所有し、管轄の財団法人が運営する民間博物館です。
その名の通り、列車・飛行機・船・自動車等に関する展示物が置かれているのですが(メインは鉄道)、今回、航空機のエンジンを見物する為、休日を利用して訪れました。

 


知人を助手席に乗せ、愛車を駆って大阪市内へ。
1皿100円均一の回転寿司で昼食をとった後、正午過ぎに到着。
この近辺は人口密集地ではなく、休日の昼間は道行く人はまばらで、車だけが走り回っているような印象を受けました。
駅前のコインパーキングに車を止め、いざ博物館へ。

館内には、様々な汽車・列車の類やそれに関係した展示物があります。
自分は鉄道関係の素養がないので、「ふ〜ん」という感じで順番に見て回っただけなのですが、好きな方には堪らないんだろうなぁ、と思いました。

休日という事もあり、家族連れが多かったです。



これが今回の主要目標である、第二次大戦時におけるドイツ空軍のメッサーシュミットMe163のロケットエンジン「HWK109-509(A-1)」です(レプリカではなく実物)。

ヴェルナー・フォン・ブラウンが開発した液体燃料ロケットを、(「ワルター機関」の開発者として有名な)ヘルムート・ヴァルターがロケットエンジンとして実用化したものです。
Me163の開発には空気力学・流体力学研究者として高名なアレクサンダー・リピッシュ博士も関わり、実験では時速1.000q超の驚異的な速度を記録しました。

当時の日本もこのエンジンには着目しており、遣独潜水艦「伊29」に搭載して本国へ持ち帰るべく企図したのですが、同潜は昭南島(シンガポール)出航後、帰国を前に消息を絶ちました。
しかし、昭南島で技術者と設計図の一部を下ろした為、一部の複写文書を内地に持ち込む事が出来、その不完全な資料を元に空技廠(海軍航空技術廠)と三菱が紆余曲折を経ながらも国産ロケットエンジンの実用化に成功します。
これがロケット戦闘機「秋水」と、それに搭載された「特呂2号」です(試験飛行中に終戦を迎え、実戦投入はされず)。


こちらがMe163コメート(コメット「彗星」の意味)の解説パネル。
燃料は「メタノール」と簡潔に記載されていますが、実際にはC液(メタノール+水酸化ヒドラジン)とT液(過酸化水素+オキシキノリン)の混合燃料で、こ のうちのT液は、僅かな衝撃で爆発し、一定量以上を浴びると人体が溶解するという極めて危険な代物でした。

こ のMe163は400機以上が生産されて実戦投入されましたが、エンジン稼働時間の極端な短さ(実質5分)や爆発の危険性、さらにはあまりに高速の為敵機 との相対速度が大きすぎて射撃のタイミングがまともに取れない等、様々な問題が露呈し、期待された実戦結果を残すことはできませんでした。
「技術的に見るべき所は多いが、兵器としては失敗作」であるとの評価が一般的で、いわばロケット戦闘機という存在自体が、レシプロ機→ジェット機という過渡期の間に咲いた徒花であったと言えましょう。


しかしながら、第二次大戦中に大きく進歩したロケット技術は、戦後も米ソを中心に研究・開発が進められ、やがてアポロ計画に代表される宇宙開発へと繋がっていくことになるのでした。

こちらが、1946年に有人機として世界で初めて音速の壁を超えた、ベルX-1のロケットエンジン「XLR-11」の実物。

こちらがその解説パネル。

ベルX-1は完全な実験機(「X」は試作機に付けられる記号)であった為、実用化を前提とせずに、単純に流体力学的合理性のみを追求して設計された、解説文にも書かれているとおりの「弾丸のような機体」です。

テストパイロットの”チャック”イェーガー大尉が搭乗し、右の写真のように母機のB-29から空中発進して、人類史上初めて音の壁を超えたのでした。

 


有名な、国産2.000馬力エンジンの「誉」も展示されています。
右側のパネルには、同発動機を搭載した陸軍4式戦闘機「疾風」の写真。

この「誉」は、零戦や隼等に搭載された14気筒1.000馬力の「栄」を18気筒化したもので、1.000馬力サイズでありながら出力を倍増させた中島飛行機の傑作エンジンです。

写真の「疾風」や、別の頁で紹介した「紫電改」を始め、大戦後半の主要機に搭載されました。


「誉」について語られる際の定型句――それは、「エンジンの性能自体は優れていたが、当時の日本の国力では扱いが困難で、低オクタン燃料では真価を発揮させることが出来なかった」というもの。

この解説パネルにも同じ意味の事が書かれています。

 


館内には他にも様々な展示物があり、興味は尽きません。

こちらはワットの蒸気機関を再現したもの。
写真では制止しているように見えますが、実際にはピストン運動を繰り返しています。


大好きな「紫電改」の模型が展示されていたので写してみました。

こんな感じの、実に素晴らしい展示内容の博物館でした。
強いて言えば、(大体この手の施設はどこでもそうなのですが)休日という事で家族連れが多い→館内を走り回ったり、大声を上げたりする子供が多かったのが少し残念(「子供叱るな、来た道だもの。年寄り笑うな、行く道だもの」とは言いますが・・・・)。

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