本の感想 歴史小説編
珍妃の井戸
浅田次郎著・講談社文庫
2005年4月1日初版 定価629円+税
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列強諸国に蹂躙され荒廃した清朝最末期の北京。その混乱のさなか、紫禁城の奥深くでひとりの妃が無残に命を奪われた。皇帝の寵愛を一身に受けた美しい妃は、何故、誰に殺されたのか?
犯人探しに乗り出した日英独露の高官が知った、あまりにも切ない真相とは――。『蒼穹の昴』に続く感動の中国宮廷ロマン(背表紙より)。
清朝末期を描いた『蒼穹の昴』の続編的作品。
管理人がハードカバー上下巻の『蒼穹』を読んだのはかれこれ約15年前。当時『鉄道員』等の大衆小説で売出し中の浅田氏が突如として発表した歴史小説だったのだが、「これは凄いな、この人こんな小説も書けるのか」と瞠目させられたものである(その後NHKで実写ドラマ化もされたとの事だが、そちらは未見)。
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義和団事件の混乱の中、光緒帝の妃である珍妃が紫禁城内の井戸で殺された史実を元に、英露独日の四人の貴族が目撃者から証言を聞いて回り、その犯人探しをするというミステリー小説的な内容となっている。
各章はそれら目撃者の独白形式で語られるのであるが、これが芥川龍之介の『藪の中』そのままに皆が皆、独白形式で違う内容の事を述べていく。
そして終章では、西太后のカウンタークーデターである戊戌の政変によって幽閉中の光緒帝の証言が語られ、「○○が実は犯人だった」形式のどんでん返しなのかと思いきや、結局真相は良く分からないままに終わるという、その点においても『藪の中』的な結末となる。
そういった点で、歴史ミステリーとしては不完全ではあるけれども、清朝末期を描いた歴史小説としてはそれなりに面白く読めた。(平成25年6月15日読了)
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