− 魅惑のキキROOM −

十年一昔 


小学生の頃は何ら興味を抱いていなかった「オーディオ」というものに開眼させてくれたのは4つ年上の僕の兄でした。当時どっぷりとオーディオ(…というよりむしろ兄は生録派でした)に夢中で、オープンデンスケを肩に、大きなヘッドホンを耳に、手にはワンポイントステレオマイクを持って方々を走り回っては街や森、山や川の音を録り歩き、集めた様々な音(祭、蝉時雨、川のせせらぎ、雷鳴など)を自慢のオーディオシステムで鑑賞するのが兄の楽しみでした。僕自身、兄が録って来た祭の音を聴かせてもらった時に感じた臨場感たっぷり故の衝撃は今もはっきりと覚えています。そんな兄も、いえ、そんな兄だからこそオーディオのシステムアップには意欲的で、機器類をグレードアップする度にそれまで使っていた機器を下取りに出したり学校の友人に安く譲ったりしていたのですが、引き取り手の無い機器は有難いことに無償で僕の手元へとやって来る仕組みになっていました。

中学2年の春。それまで「音楽鑑賞」と言えば、ラジカセでエアチェックしたFMの音楽番組や兄のオーディオシステムでレコードから録音させてもらったカセットテープをやはりラジカセで聞くだけ。別段、僕もそれ以上の事を望んでいませんでしたし、十分満足もしていました。ところがその春、兄は大幅なシステムアップを決意したようで、全く乗り気でない僕を連れて大阪日本橋へと向かいました。場所は19年の年月を経た現在もオ−ディオ&ヴィジュアル一筋の某有名専門店。オーディオマニアの兄とは言え、当時まだ弱冠18才の青年。1人では不安だったのかもしれません。それとも「兄の勇姿を目に焼き付けておけ!」といったところだったのでしょうか(笑)。いずれにしても今年で33才を迎えた僕でさえ1人で入店するには相当の覚悟と勇気が必要なくらいのお店です。

スタジオモニターJBL4311WX-A
●ユニット[T]LE25x1[S]LE5-2x1[W]2212x1●周波数特性:45〜15,000Hz●耐入力:40W(連続)●出力音圧レベル:91dB/W/m●寸法:360(W)x600(H)x300(D)cm●重量:19kg●価格:\390,000(ペア/1977年)

店内は大量のオ−ディオ機器が醸し出す独特の雰囲気と匂い(香り?)が充満しており、僕がそんな威圧感に耐えながらプラプラと色んな機器を眺め歩いている間、兄は1人の店員と熱心に商談をしていました。そして約2時間後、兄がおもむろに財布の中から出した聖徳太子様は30枚近く!!数週間前まではオーラトーンのスピーカー(印象が薄かったので型番は失念)が陣取っていた>我が家の8畳間リスニングルームに、その日から「JBL−4311WXA」がズッシリと腰を下ろし、「サンスイ AUD−707F extra」と共にすっかり「顔」となってしまいました。生まれて初めて見る3ウェイバスレフのカッコ良さと、石膏で固めたようなカッチンコッチンの真っ白なウーファーにも衝撃を受けましたが、初めて聴く30cmウーファーの刻む、まさに空気を揺らすという言葉にふさわしい、身体にズズズと響く低音にえらく感動したものです。

次から次へとLPレコードを乗せ替えては聴き惚れ、グレードアップされた音に感動する兄はオーディオのことなんて全く知らない僕を相手に「この4311シリーズっていうのはスタジオモニターっていうてプロが使うスピーカーやねん。しかもWXのAっていう型番はマグネットがアルニコ仕様の最後の型番で、これから出るWXBっていうやつだと磁力の弱いフェライトマグネットが使われるようになる。つまりメチャクチャ希少価値が高いってことや!」と、14才の僕には明らかに高尚過ぎる話を何度も何度も熱く語っていたのを良く憶えています。

パワーアンプSE-C01
●実効出力42W+42W (streo/8Ω),80W (mono/8Ω)●全高調波歪率0.02%●出力帯域幅5Hz〜40kHz●SN比110dB●電源・消費電力AC100V(50/60Hz)・90W●外形寸法・重量297(w)x49(H)x250(D)mm・3.5kg●標準価格\65,000

プリアンプSU-C01
●入力セレクタ:phonoMC, phonoMM, tuner, aux, tape out/in●電源・消費電力AC100V(50/60Hz)・8W●外形寸法・重量297(w)x49(H)x241(D)mm・3.0kg ●標準価格\50,000

当然の流れとして、それまで使っていたオーラトーンのスピーカーは兄の学友に無事下取りに出され現金化されたのですが、売っても二足三文にしかならなくて譲るには勿体無い…いわゆる「微妙品」は僕の元へとやってきました。それが当時のテレビCMでも一躍有名になったテクニクスのコンサイスコンポの一部であるセパレートアンプ(SE-C01&SU-C01)とブックシェルフスピーカー「CS−X3」でした。たかだか10cm程度のコーンウーファーとドームツイーターの2ウェイ密閉型でしたが、そのサイズからは想像も出来ないズッシリとした重量(ホントに重い。1本で4キロ弱)と、そこから奏でられる想像を遥かに超えたスケール感の有る音は、僕をすっかり魅了してしまいました。中学2年生…14歳のオーディオ素人の入門者が、コンサイスコンポとはいえ「セパレートアンプ」を手にした、というのも今から考えれば凄い事なんですが、当時の僕はその贅沢さには全く気づいていませんでした。時はYMO全盛の時代。テクノポップスが僕の勉強部屋を席巻していました。

ブックシェルフスピーカー PIONEER CS-X3
●ユニット[T] 2.5cmドーム×1[W] 10cmコーン×1●インピーダンス6.3Ω●出力音圧レベル80.5dB/W(m)●許容入力50W(Max)●周波数特性50〜20,000Hz●クロスオーバー3.800Hz●寸法W118×H188×D112mm●重量3.6kg●標準価格\18,000(1本)

← このサイズに似合わない鳴りっぷりと音像の豊かさがAVバカを1人この世に生み出しました(笑)→

それから7年後。僕は大学進学で上京しており、就職を1年後に控えて大学生活最後の年を迎えていました。3年間を8mmフィルムでの自主制作映画の制作に情熱を捧げ、100本近いコダック8mmフィルムは当然としてもミキサーやマイク、映写機の修理などにも随分浪費し、さらに高校2年生の頃から始めていたパソコン通信でも某フォーラムでよせばいいのにSIGオペを務めたりしたものですからパソコンショップとNTTには相当お金を献上しました。そんな経済的悪状況下でのマンション1人暮らし。大掛かりなオーディオシステムは必要無いだろうとばかりに、東京生活の間に買ったオーディオ関連機器といえば、当時、無性にフォルムが気に入っていたパイオニアのバーチカルツインスピーカー「S−99TX」…ではなく(笑)コレの末っ子機「S−11TX」のみに留まり、他にはこれといって大したシステムアップすることなく実に貧相なオーディオ生活に甘んじていたのです。もちろんオーディオに対して全く興味が無くなってしまっていたというわけではなく、たまにパソコン関連機器を買う為に秋葉原へ赴いた時には必ずAV機器専門店に立ち寄り、決して手の届くことのない憧れの夢のスピーカーたちを試聴したものです。JBL−4350の密度が高くて厚みのある、それでいてクリアで迫力ある音。パラゴンの織り成す壮大でスケ−ル感あふれる音。そして究極のワンウェイ、タンノイのエジンバラが優しく奏でるヴォーカルの温かく心の底まで染み入る包容力のある音…。嗚呼、本当に一生手に入れられないであろう夢のスピーカーたち。夢から醒めて部屋にたたずめば現実感あふれるミニチュアシステムなのでした。

そんなある日、久しぶりに兄からのTELが。当時、名古屋で働いていた兄はドルビーサラウンド・プロロジックにハマり、当時はまだ高価な機種ばかりでとても手が出ない存在だった液晶プロジェクターまで購入し、80インチ超のホームシアターを完成させたなどとほざく、もとい、のたまうではありませんか!当時ドルビーサラウンド・プロロジックなどというテクノロジ−はもちろんのこと、ホームシアターについても一体どういったものなのか良く理解していなかった僕は早速その数日後、新幹線で名古屋へ見物に赴いたのでした。8畳間に構築されたその壮大なホームシアター…自慢のスピーカー4311は田舎に残してきているので小さな2ウェイ・ブックシェルフスピーカーを7本使ったシステム。そうです。兄が購入した初めてのAVアンプは、生意気にも(笑)ヤマハAVX−2000DSPだったのです。それらが創り出す音場は十分すぎるほどの臨場感を感じさせてくれ、シャープ液晶プロジェクターXV−H1が投影するド迫力の大画面を見事に演出。LD「これがドルビーサラウンド・プロロジックだ!」に続いてLD「ビリージョエルinレニングラード」を全て鑑賞し終え、「目から鱗が落ちる思い」というのはこういう事を言うんだなとしみじみ思いました。

バーチカルツインスピーカー PIONEER S-11TX
●ユニット[T]2cmドーム型+W.F.ダイレクターx1[W]14cmコーン×2●インピーダンス 6Ω●再生周波数帯域50Hz〜40000Hz●出力音圧レベル89dB/W/m●最大入力(EIAJ) 100W●寸法204×376×265mm●重量 6.5kg●価格\53,000(ペア)

「プロジェクターは高いから、まぁ、まだ先のこととして、お前も手頃なAVアンプ買ってドルサラだけでもヤッてみたら?レンタルビデオ見るのがメッチャ楽しくなるぞ。あっ、そうそう、まだプロロジックに対応してないAVアンプも同じ売場に売ってるから間違うなよ。"ドルビーサラウンド・プロロジック対応"っていうて、センタースピーカー出力が付いたヤツやからな」と専門用語を連発する兄を背に東京へ舞い戻った放心状態の僕は、何軒もの書店をハシゴして、もう何年も読んでいなかったAV関連雑誌を片っ端から買い漁り、熟読三昧の数日間を送りました。ただの「ドルビーサラウンド」と「ドルビーサラウンド・プロロジック」の違いと良さを理解し、それに必要なシステム、そして既に発売されている機種の中で射程距離内(予算内)にあるAVアンプの選定などを1週間程度で済まし、いざ秋葉原へ!!

ブックシェルフスピーカー BOSE101VM
●ユニット[F]11.5cm×1●再生周波数帯域70Hz〜17kHz●インピーダンス6Ω●許容入力 45W rms(IEC268-5)、150W rms(peak)●感度86dB/w/m SPL●寸法232×154×152mm●重量2.3kg●価格\43,700(ペア)

兄の言うとおり、液プロなんて夢また夢の世界の一物。大学3年の時に買った21型TVが僕のホ−ムシアターのスクリーンとなります。スピーカーは先述のS−11TXと、田舎から持って来てスピーカーBとして活躍し続けていたCS−X3を流用するとして、あと必要なのはセンタースピーカーとデュアルセンター出力対応のAVアンプの2つ。当時、完全防磁型で人間の声の周波数帯域である100hz近辺の音の再現性に優れていて、発売以来ずっと気になっていたスピーカー。それはBOSEの101VM以外に有りませんでした。僕はそれをTVの上下に設置する

「縦デュアルセンター」を構築すると既に心に決めていたので、必然的にAVアンプはそれに対応していなくてはならなかったのです。そして買ったのはケンウッドKA−V7500でした。あらかじめ用意されている音場プログラムが多く、モノラル音声ですら強引に無理矢理なまでの広がりを付加してしまう「SIMULATED」モードが感動的で、そして何よりコストパフォーマンスの良さが決定的な要因でした。

いやぁー観ました。もともと映画好きでしたからそれまでにも相当数の映画をレンタルビデオで借りて観てきましたが、生まれ変わった映画鑑賞システムを堪能すべく、SF、アドベンチャー、スペクタクルといった前後左右の移動感が感じられやすい作品をA級B級問わず観たおしました。そして1年が経過して無事就職を果たし、職場がソレ系だったこともあり、販売ノルマの1つとしてLDプレイヤーを購入。更に重低音を補強すべくヤマハYST−50も導入し、ホームシアターへと傾ける情熱は加熱するばかり。当時から愛読していたAV−REVIEW誌に創設された読者のペ−ジ「WANTED」に投稿すればAVシステムが掲載されてたり、パソコン通信フォーラムでAV論議を交わせば某AV雑誌に取り上げられ、フォーラム丸ごとの誌面紹介…のみならず、ナント増刊号付録のLDにまでその内容が収録されるという快挙!オーディオヴィジュアル界が華やぎ、次々とAV関連誌が創刊される本当にいい時代でした…。

そして更に数年が過ぎ、僕はやがて必ずくる「強制召還(帰郷)の日」に備え、買い物をするには最高の条件が揃っている東京に住んでいる間にと、貯金の殆ど全てを叩いてシステムのグレードアップに全力を傾けていました。AVアンプは、結局やっぱりヤマハのAVX−2000DSPに、メインスピーカーは軽やかで反応が抜群に良い

ONKYO D-77FX
●ユニット[W]27cmコーンx1[S]16cmコーンx1[T]ホーンx1●再生周波数帯域25Hz〜32000Hz●最大入力200W(EIAJ)●インピーダンス6Ω●出力音圧レベル91dB/W/m●クロスオーバー周波数120Hz、2000Hz●寸法360×680×351●重量28kg●価格\6,2000(1本)

ダイアトーンにも随分傾きましたが、どうしてもあの固い音色が自分の好む曲には合わず、オンキョーのD−77FXを選択。必然的流れとしてセンターとリアはメインと同じオンキョーのバイオクロスコーンを採用したD−303で揃え、フロントエフェクトにもオンキョーのD−70と、まさにオンキョーづくしで最高につながりの良い音場を構築していたのでした。そう、「音」に関してはこの時点で、もう自分に実現可能なレベルでの最高域に達していたと言えます。

その後、社会人とは斯くも貧乏になってしまうものなのかという厳しい現実をひしひしと感じつつ、学生時代の時ほど時間的にも経済的にも余裕が無くなってしまった僕は、あれだけたくさん刊行されていたAV関連誌が1つ、また1つと姿を消し始めた時期と呼応するように、徐々に各種AV関連メディアから遠ざかって行きました。それから10年間もの年月続くことになる、僕にとっての「AV鎖国」時代の始まりです。

家業を手伝うことになって勤めていた会社を急遽退職。やはりやってきた帰郷の日。学生時代から4年間付き合ってきた彼女も連れ帰って結婚!!小さな会社とはいえ、加工から販売、企画・人事・販促の仕事にも携わり、家内も当然のことながら共働きとなり、日々が実に多忙で目まぐるしく、新婚旅行や子作りどころではない7年が過ぎてゆき、帰郷して以来ずっと本家に間借りするような形だった僕たち夫婦が、ようやく住まいを本家と別にしたのが今から約2年半前のことでした。

僕達より1年早く名古屋から帰郷して家業を継いでいた兄のホームシアターはすっかり様変わりをしており、さすがは兄貴、フィールドからして違います。20畳の防音リスニングルーム。腰が砕けてしまいました。更に天吊りされたソニーの3管式プロジェクター、キクチの120インチ・ビーズスクリ−ン、メインスピーカーはダイアトーンのDS−3000!!とどめを刺してくれたのはヤマハのSW、なんとYST−1000を前後に2台置くという贅沢さ。それよりも何よりも我が目を疑ったのはアノ憧れのJBL−4311WXAが「リアスピーカー」などという屈辱的位置に置かれていたことでした。兄が言うには「そりゃあ俺も不本意だけど、リアも大事だしDS−3000と釣り合いがとれるのはこのクラスのスピーカーじゃないとなぁ」とのこと。(…いや、いっそのこと全部ダイアトーンで揃えて僕にソレちょうだい!!)

さすがにその心の声は届きませんでしたが(笑)それでも僕たち夫婦の引っ越し祝にと、物置の肥しになりかけていたシャープの液プロ「XV−H1」と純正の天吊り式80インチスクリーン、そしてあのサンスイのプリメインアンプ「AU−D707Fextra」を譲ってもらえたことは僕にとってめちゃめちゃ嬉しいことでした。家内の批難を浴びつつ新居の2階の一室をオーディオ&ヴィジュアル&コンピュ−タ−の部屋として占拠し、「XV−H1」を中心に据えることで迫力ある映画鑑賞が可能になったのです!!最初はフクれていた家内も、大好きな「ER」や「X-File」、「ミレニアム」等の海外TVドラマも大画面で見られるとあって、なんとか一件落着。

ここで1つ大事な事を言わねばなりません。この、仕事漬けの数年と引越しの際のゴタゴタしている間は勿論、それまでの約10年間、僕はもちろん、オーディオマニアを誇っていた兄ですらもAV雑誌というAV雑誌を全く読んでいないのです。つまり、最新情報どころか、その10年の間に何が起こり、AV界にどれほどの革命的変遷が有ったかなんて全く知らなかったのです。実に恐ろしい事です・・・(笑)。

ことの起こり 〜 覚醒の始まり 〜 は一昨年のことでした。ひょんなことから我が社の若手社員のスピーカー選び(最近それなににイイ音を作り出すシステムコンポを安直に購入する若者達を憂い、常々「シスコンなんて子供の遊びだ!オーディオの本当の魅力は単品の組み合わせにある。自分だけのオーディオシステムの構築こそ至上の楽しみ方なのだ!!」と力説していたので、それに触発されて相談にくる若手男性社員は少なくありませんでした)に付き合わされることになり、和歌山県最大の都市・和歌山市に点在する数少ない大型家電店をハシゴしている内に、僕の心の奥底で永く眠っていたホームシアター熱がゴオォォォォォ!!と再燃してしまったわけです。なぜなら、お店で目にするAV機器の規格というか方式が、どれも見たことも聞いたこともない名前になってしまっていて、あの10年前、最先端だった「ドルビ−サラウンド・プロロジック」は、もはや過去の遺物と化しており、僕のシステム程度の能力のプロセッサーなら3万円弱で買えるようにまでなっていて、自称AVファンとしてのプライドをズタズタに引き裂かれてしまったからなんです。許せない…。

それからというもの、書店に通ってはAV雑誌を片っ端から買い漁り、十余年ぶりの熟読三昧の日々。数週間で大体の変遷を理解することができました…が、いや…しかし…こうも変わるもんなんですねぇ…。おおまかに理解できたのは、今、最新の録音再生方式は大別して3方式あるという事。「ドルビーデジタルサラウンド5.1ch」と「dts」と「THX」の3方式( 実はこの文章を書いているうちにも「ドルデジ5.1EX」だの「ドルデジ6.1」だのと新方式は次々と発表され、dts対応アンプなら4万円弱で購入できるようになってしまい、少々混乱しています)。実質、売れ筋のAVアンプに搭載されているのは割高な「THX」以外の2者。いずれの方式においてもデジタル音声が基本なので光出力のあるDVDプレイヤー(就職して間もなく購入したLDプレイヤーは10年前のモデルなので当然AC−3出力などある筈がありません)とデジタル対応のAVアンプが必須という事。

15年前からのもう1つの趣味である「パソコン」の記録媒体としても約5ギガバイトもの記憶容量を誇るDVD−RAMよりもスピードで勝る640M対応のMOを選んでいた僕です。ましてやAV方面のDVDなんて「録再出来るようになってからで十分(…なんて書いているうちに、もうDVD録再デッキまで発売されてしまいましたね…)」と思っていた僕でしたが、この「覚醒」の前に立ちはだかる壁など何もありませんでした(笑)。とは言え、金銭的障壁は断崖絶壁のように高く、それはもう高く粗反り立っていたので、AV機器購入の際の座右の銘としてきた「姉妹機あるなら姉を買え」は悉く守ることが出来ませんでした。

幸い、最も金食い虫の液晶プロジェクターはXV−H1が旧式ながらも明るくシャ−プな映像を映し出してくれていたので、現状でとりあえず必須の機器はドルデジ5.1+dts対応のAVアンプとDVDプレイヤーの2つ。前者はすぐに決まりました。もともとヤマハのAVX−2000DSPを使っていましたから7スピーカーを無駄にしたくなかったので、当時一世風靡していたヤマハ「DSP-A1」!…の妹機である「A2」に決定。

DVDプレイヤーは当時まだようやく8万円台を切る商品が出始めた頃だったので随分悩みましたが、結局パイオニアのこれまた中核モデルの廉価版DV−S5に決定。A−2のデジタル入力端子の多さに感動した僕はどの端子をも無駄にしたくはなくて、それまで本来の能力を発揮できていなかったDATやLDのデジタル音声出力、死んだも同然だったSt.GIGAチューナーのデジタル音声出力などを片っ端から繋ぎまくり、そのデジタルならではの「ノイズレスな音」、そしてその音を完璧に録再するDATの凄さにも改めて敬意を表しました。と、ここで1つ問題が生じたのです。その当時DATはあくまでもDATであり、僕が普段使用している録再媒体はMDになっていました(車通勤には重宝します)。そのMDの製作場所は1階のリビング…そう、そこには初めて買ったAVアンプ、ケンウッドKA−V7500を中心とするシステムを構築しており、ここに、旧式ながらも繊細で艶やかな音を再生するCDプレイヤー「デンオンDCD-1650GL」も設置していましたし、現役を退いたパソコン上からi−linkで、まるでVAIOのようにMD編集操作がヴィジュアル的にマウスだけで出来るMD録再デッキをそれに繋げて使用していたのです。僕としては、CDプレイヤー単体で13万円もしたデンオンのCDプレイヤーを是非とも2階のシステムに加えたかったのですが、そうすると、家内でも簡単に扱えていたCDtoMDダビングが出来なくなってしまう…。1階のシステム用にもう1台安価なCDプレイヤーを買おうか、とも考えましたが家内が珍しく折角使いこなせるようになっていたシステムを替えてしまうのは忍びなく、結局、不本意ながらもDVDプレイヤー、DS−S5をCDプレイヤー兼用として利用することにし、2階システム用MD録再デッキにはDS−S5との相性を考えて「パイオニアMJ−D7」を購入しました。今から考えれば、2階のそのホ−ムシアタ−ル−ムにはバリバリ現役のパソコンが有るわけで、「再生機と録音機は同一メーカーに統一すべし」などといった相性論よりもi−linkが使えるソニーのMDデッキにして使い勝手を優先しておけば良かった…とチョッピリ後悔しています。

どんどん拡充していくそんな僕のホームシアターに、ある日悲劇が起こりました。液プロXV−H1が突然モノクロ映像になり、モノクロのままならまだ使い道はありますが(あるか?)、青くなったり赤くなったり、緑になったり虹色になったりと、まるでなにかのα波を高めるヒーリング映像のような色彩を放ち始めたのです。修理の見積は非現実的でかなりキツい…。輝度は落ちるものの当時販売されて間もなかった衝撃的低価格液プロ、シャープの「コビジョン」の方が画素数も多くて格子フィルターの恩恵か、字幕に関してはXV−H1よりも明らかに読み易く、10年間の年月はこんな所にも技術革新の花を咲かせていたのです。たかだか10万円弱のおもちゃみたいな液プロが10年前の超人気機種「3板式液晶9万画素」の映像を超える(輝度は除く)なんて…。XV−H1の故障と最新液プロ事情を知ってしまったそのショックは、とうとう僕を新規液プロ購入へと踏み切らせる原動力となってしまいました。最初のうちはコビジョンも視野に入れて考えていましたが、今さら画素数がほぼ倍というだけで輝度は各段に落ちてしまう単焦点機を買うのはお金の無駄使い、と思い直し、とは言え、無い袖は振れず、ソニーの小型携帯液プロ30万画素に焦点を当てて検討を始め、インタ−ネット上での情報収集をしているうちに分かってきたことは「ソニーは暗い」という評価が実に多いということ。それもそのはず、画素数で遥かに劣るシャープのコビジョンが採用しているメタルハライドランプよりもワット数が劣るランプで30万画素を投射するわけですから当然といえば当然のことでしょう。廉価版ハードの開発をする時に「そこはダメだろう」という部分でもグレードダウンするソニーのいつもの悪いクセです。とあるホームページに書かれていた「字幕の読みやすさは各段に良く、画面の緻密さもこの価格なら大満足のレベル。しかしホームシアタールームの壁に当たったスクリ−ンからの反射光でスクリーン映像が見づらくなるこの暗さには遮光カーテン使用は当然のこと、暗幕の導入など相当の配慮が必要」との評価によって僕の心の中にあった購買欲は失われていきました。数ヶ月後に判ったことですが、そのソニーの液プロは生産終了になり、代わりに登場した後釜の新製品はVGAに対応したやや法人向けのもの。僕にとっては高価なだけで何の魅力も感じないものでした。八方塞状態におかれた僕が選択した道、それは当時、AV関連各誌で最高の評価を総ナメにし、その後一息ついた頃の高級液プロ(今では中級クラスでしょうか)、シャープのXV−Z5000へと一気に照準を上方修正する道でした。安くなったとは言え30万円前後。確実にクレジットカードのお世話にならなければならない世界です。まだ、インタレースとかプログレッシブといったものが遥か未来のことのように考えられていた頃でしたからインターネット上での評価も上々。何よりも発売されて1年近く過ぎようとしているのに「売ります」とか「下取り交換」といった場所に名前が挙がっていなかったのが大きい。

さて、30万円クラスの液プロとなると、当然こんな田舎で現物を見ることは不可能なわけで、地元の電気屋さんにもホームシアタ−のコーナーは有りますが、スクリーンにあたる部分は殆どが大型ワイドTVで代用されています。必然的に大阪日本橋への旅へと家内と2人で向かうことに。家内同行というのは、やはり家内にも納得してもらった上でないと30万円などという買物を勝手にしたら、後々なにがどんな形で響いてくるか分かったもんじゃないと思ったからです(笑)。あらかじめインターネットで調べておいた格安のお店には、情報が古かったのかリアプロしか売っておらず、もう1つチェックしておいた、とあるソレ系専門のフロアを最上階に持つ赤い看板のお店へと向かいました。3階にはもう既にその店のコンセプトが解かり過ぎる程のアンプやスピーカーなどの単品群。タンノイのエジンバラやJBL4350なんて目にしたのは東京に住んでいた時以来、実に8年ぶりのことで思わず涙で目が滲みました。買えるわけ無いんですが当然試聴です。アキュフェ−ズのセパーレートアンプや英国製の超高級CDプレーヤー、スピーカーのセレクターなどを勝手に触って試聴していても何らアタックをかけて来ない店員は「真の販売士魂」を心得ているようで、実に素晴らしいひとときを過ごすことが出来ました。特に家内は東京時代から、エジンバラの包み込むような温かい音が好きでしたから、その音を堪能できた家内にとっても非常に精神的にイイ状態で最上階の「今日の本題」へと向かうことが出来たように思います。

そこには数台のリアプロの展示エリアと、8万画素〜30万画素級の小型プロジェクターだけを比較視聴できる8畳間ぐらいの部屋があり、最深部には暗幕で閉ざされた漆黒の異世界が広がっていました。ソニーや三菱の三管式や50万円超クラスの液プロが天吊りされており、市場で競合している機種を組み合わせてその違いを1つのスクリーンで観比べられるよう合計5つのスクリーンに各々割り当てられており、嗚呼、もうタマラン状態(笑)。観る前からその光景だけですっかり感動してしまいました。ソ−スは1箇所かららしく、どの画面にも「スターシップトゥルーパーズ」が映し出されていました。僕の目的機種はもちろん先述のとおりシャープのXV−Z5000なんですが、折角こんなパラダイスに来ているのにサッサと買って帰る手は有りません。三管式は別物として、50万〜100万円クラスの液プロの映し出す映像を見て痛切に感じたのは、やはり液プロも価格と性能は比例しているなぁ…ということ、そして色んな機械をかませれば液プロでも三管式と何ら変わりない映像を投射できるということにも衝撃を覚えました。スクリーンもイーストンやキクチ、スチュワート等と色々あるわけですが、マットしか使ったことのない僕にとってビーズの見せる明度補完能力はインチキみたいに凄かったですし、当時流行していたグレービーズによる暗部の解像度UPというのも「なるほど」と思わせてくれるレベルにあり、いつかは…!と一人心の中で決心する僕でした。

さて、目的のXV−Z5000の対抗馬としてスクリーンを共有していたのは、型番は失念してしまいましたが実売40万円弱、ソニーがその1年半くらい前に出した液プロだったのですが、これがまたスゴかった!旧式で実売40万円弱ですから発売当初の価格は60万円クラスのものです。もう軽自動車並み。上級機種であるにも関わらず相も変わらず輝度が低目なのは少々不満を感じずにはいられませんでしたが、キクチのビーズスクリーンに映し出されている映像の、しっとり緻密でシアターライクなことといったら…。画素数も残念ながらXV−Z5000が太刀打ちできる相手ではありませんでした。ここでグラグラッ!と心が大きく揺らぐのですが、グッと堪えに堪えて、漸くXV−Z5000の試観を始めることに。まずビックリしたのがそのとんでもない明るさでした。もちろんノーマルモードとシアターモードの2種類ある明るさ設定の中のノーマルモードの方なのですが、ここまで明るいと少々の明かりを照らした部屋でも十分に鑑賞に耐えられる…そう感じるレベルでした。シアターモードにしても対抗馬のソニーよりもまだ若干明るく、おぉ!これが「目の付け所がシャープでしょ」なんだなぁ、なんて古いコピ−を思い出してしまいました。その他にも扇風機のリモコンと間違いそうなぐらい小さくて簡素なリモコンなのに、それで出来る単純明解な各種操作は実に細かい調整域までフォローしており、その中でもやはり、据え置きでも天吊りでもリアプロとしても使えるようにポン!ポン!とソレ用の画面に反転する機能と、レンズ縦シフト機能や上下暗部カット機能などがあることで、スクリ−ンに投射される映像をシネスコに合わせ、非常に快適な首の角度で映画を堪能できる点にはすっかり魅了され、頭の中には先程の「目の付け所が…」というコピ−がもうぐるぐるぐるぐる…それはもう大変なくらい回っていました。心配していた画素数の少なさ(とは言っても、それまで観ていたXV−H1は9万画素の映像ですからそれに比べれば遥かに緻密で美しく、字幕もわざわざここで解説する必要がない程の見やすさなのです)によるスクリーンの粒々感は殆ど感じられず、これなら8割がたXV−Z5000で決まりだな、と心に思い描きました。僕はいつも何かを比較検討して購入する場合、8割方までは自分が決めておいて、あとの2割はもうひとつの決定要因に委ね、その2割の内容が僕の8割を凌駕するようであれば再検討するという形をとります。その選択基準の2割を占める、もうひとつの決定要因とは…。

僕が大学卒業後、まず就職したのは某グループの基幹会社である某大手スーパーマーケットの家電売場でした。スーパーマーケットとはいえ、8階建ての、いわゆる業界でGMSと呼ばれる大型スーパー。家電売場もさすがに単品は置いていませんでしたがちょっとした家電専門店なみの広さを誇っていました。そこで学んだ家電店員の座右の銘「家電販売士たるもの、全ての商品の商品知識は当然として、セールストークの際にウリとなる長所ばかりではなく、短所も知り尽くして初めて本当の接客が出来るのである」は、家電店に限らず色んなシチュエーションで生きる言葉なので一字一句忘れることなく、今の会社でも、またプライベートの買い物でも色んなシーンで大切に使っています。そうです。あれこれ注文の多い僕たち夫婦(正確には僕が殆ど)をずっと接客してくれたその赤い看板のお店のフロア長に先述のソニーの液プロとXV−Z5000の「短所」を一AVマニアとして簡潔に解説してもらうことにしたのです。普段あまりこういう事を尋ねられ慣れていないのか、さすがのフロア長も最初は少し戸惑っていたものの、徐々に、そして波に乗ると延々と語り始めました。彼の話によると、ソニーの液プロの最大の欠点、それは僕が感じていた画面の暗さだけではなく、冷却ファンの「騒音」とも表現できるレベルの大きな音でした。なるほど確かに、十数台ものプロジェクターが駆動していたその部屋では感じられなかった冷却ファンの音は、他の全てのプロジェクターをOFFにしてもらって初めて判りました。それは静かな映画作品であれば鑑賞時に気になってしょうがない程の、まさに「騒音」だったのです。次にXV−Z5000の欠点は、その当時、その時点でのテクノロジーには十分耐えうる装備を有しているものの、翌年にも本格化してくることが明白であった高密度映像への未対応(D端子が無い)ということでした。コンポ−ネント入出力端子も1系統と少ない点についても不安を漏らしていました。ちなみにソニーがめろめろだった冷却ファンの騒音は、シャープの場合ノーマルモードでは輝度が上がるため若干大きくなるものの、それでもソニーよりは遥かに静かで、シアターモードにすると殆ど聞こえないレベルにまで静音設計されていました。そしてヤワな作りの付属品ではあるものの、冷却ファンによって排気される熱風の放射方向を変えられるというアイテムの存在にも開発者の熱意と気遣いが感じられ、思わず笑みを漏らしてしまいました。というわけで、残り2割の決定要因は僕の下していた決定要因8割を打ち崩すことなく、軍配はシャープのXV−Z5000にあがりました。

プライスカードに書かれた価格は34万8800円。AV専門誌上の広告欄にある通販専門店の誌面価格は29万8800円でした。念のために予め大阪日本橋の裏通りにある限りなく箱屋的類の店の価格も調査しておいたところ、税込み30万円。さぁ!僕の大好きな価格交渉です。元・家電店員だった経験から、店のタイプによる大体の卸値や掛け率、最低値入り率も想像がつきますし、ふっかけてきたら何を言おうか?と、いくつもの引き出しを用意しての商談ですから、家電店員側にとってこれほどイヤな客はいないでしょう。

「いくらになりますか?」と訊いて、値札を手差しして「これが限界です」などと言う店員はさすがに大阪日本橋には居ません。電卓をカチャカチャと鳴らしてまず提示してきた価格は33万円。あえてここでは割愛しますが、約15分ほど色んな引き出しからネタを引っぱり出して商談し、最終的に出た価格は税抜き30万円。「これで勘弁して下さい」との言葉に、元・家電店員としての情が湧き、通販専門店の価格まで引き下げるには至りませんでした。実際のところ、画素落ちやその他不良発生時を考えると、数千円を渋って箱屋や通販専門店を選ぶより、その店の支店が僕の住まいのすぐ近くにある、というのも妥協するに値する大きな要因でした。実はその地元にある支店の店長と僕とは色んな意味で近しい関係だったので、それまでにも何かと最終価格の決定の際に世話になっているのですが、驚いたことに、その大阪日本橋の最上階フロア長との商談の中で判明したのが、彼は入社当時、その和歌山内陸部の現支店長がまだ日本橋勤務だった頃の後輩社員にあたり、色々と世話になったということでした。このとっておきの情報は僕の引き出しに早速取り入れられたということは言うまでもありません(笑)。

僕は仕事の関係上、配送してもらうと1回目で受け取れない場合が殆どなので(某宅配業者の「時間帯お届け」は田舎では殆ど機能していません)買った物は極力「お持ち帰り」です。それは東京暮らし時代からもずっと同じで、秋葉原で買ったパソコンやモニターを小田急町田駅徒歩20分のマンションまで持ち帰るのは生き地獄のような体験でした。今回も勿論「お持ち帰り」です。和歌山県北部の内陸から電車に乗って液プロを買いに来た(普通、大阪日本橋へ「お持ち帰り」で家電品を買い物に行く人は車で行きます)やけに業界ズレしている男とその妻、という様相がフロア長にとってよっぽど印象的だったらしく、僕が求める前に名刺を差し出し、最近のAV談義に花を咲かせながらXV−Z5000の梱包を始めました。その際に初めて判明した箱の大きさ。はっきり感じた動揺は一切顔に出しませんでしたが、デカいことデカいこと…。スペック表で確認済みだった重量自体は普段仕事で持ち運びしている商品より軽いので苦にならないはずだったのですが…シャープも何もあんなデッカい箱に入れなくても…。持ち上げる時に手の当たる周辺の部分には十分過ぎる程クッションを絡ませてくれましたが、手提げした場合、物理的な問題が有り、持ち上げて歩くとアメリカンクラッカーのように箱の角が「ガンッ!ガンッ!ガンッ!」とリズミカルに足の太もも外側へぶつかってくるのです。ほとんどが電車の乗り継ぎなので実際にそれほど歩くわけではないのですが、今まで持ち帰ってきたどんな商品よりもキツく、足を赤黒く腫れあがらせ、全身に変な汗を滲まさせる史上最悪の実に思い出深い商品となりました。

帰る間際、同じフロアーの8万画素〜30万画素級の小型プロジェクターだけを比較視聴できる部屋を見て「あ、これはこれで見比べてみたいな」という衝動に駆られ、家内に意志表示をしてみましたが、家内の目は明らかに「とっとと帰ろう!」と物語っていました。荷物が荷物なので、他店に立ち寄ることは不可能に近く、日本橋を楽しむならこの店内だけになります。「せっかく日本橋くんだりまで来たのにぃ〜…もう?」と目で訴えた僕でしたが、呆れ顔を通り越しつつある家内の心理を敏感に察知した僕はとっととタクシーで天王寺へと向かいました。駅の発券機前でXV−Z5000の箱をテ−ブル代わりにしてブランチ代わりのハンバーガーを立ち食いしながら待ち時間を過ごし、さすがに普通電車では迷惑を掛けるので特急くろしおに乗って和歌山へ。

TV:HITACHI W28-G1/PROJECTOR:SHARP XV-Z5000/SCREEN:SHARP XU-HG80C/MONITOR:SONY KV-9AD2/VCR1:TOSHIBA A-SB99/VCR2:SONY SLD-DC1/DVD:PIONEER DV-S5/LD:PIONEER CLD-737/MD:PIONEER MJ-D7/DAT:SONY MDP-690/CS TUNER:SONY DST-MS9/FM&AM TUNER:KENWOOD KT-6040/AUDIO DECODER:St.GIGA ST-6164/AV Amp.:YAMAHA DSP-A2/Premain Amp.:SANSUI AU-D707F extra/SPEAKER:MAIN;ONKYO D-77FX x 2/CENTER;ONKYO D-303 x 1/REAR;ONKYO D-303 x 2/REAR sub;ONKYO D-40 x 2/FRONT;ONKYO D-70 x 2/SW:FRONT;YAMAHA YST-90 x 1/REAR;YAMAHA YST-50 x 1

とうとう我が家のホームシアターが蘇る!しかも遥かにグレードアップをして!!もともと寝室用に設計された部屋をAVCルームにしてしまったのでリスニングポジションがちょうどクローゼットの前にあたり、そこに鑑賞用の椅子(安物のパイプ椅子)を置いてあったものですから「衣服の出し入れをするのにひと苦労する」と前々から家内の不満は有ったのですが、せっかく機器がグレードアップしたのに「パイプ椅子」もグレードアップして「肘掛付きシングル回転座椅子」にしない手はないだろうと持ちかけ、更に来客時用の「肘掛なしシングル回転座椅子」も2つ追加したものですからもう大変。後方にあたる鑑賞者(2名)が前方の鑑賞者(2名)の頭部が邪魔で画面全体が見られない状況を打破するにはコンクリートブロック3個分高くしなくてはならず、実際にブロック12個を用意してセットし、事実上、後方の座椅子の位置は変更不可能になってしまいました。当然このままではクローゼットの簡便な利用を訴えていた家内が許すはずがありません。アコーディオンカーテンの様に前後に折れ曲がって開くようになっていたクローゼットの引き戸(4枚組)のうちの2枚を分解して取り外し、残り2枚を折れ曲がらない引き戸に改造することで、XV−Z5000の最高の置き場所も確保でき、衣服も好きな時に出し入れ出来る仕様に改造成功しました。これには家内も随分と驚いて感動しきり。僕の事を惚れなおしていた様です(想像)。

というわけでXV−Z5000はリスニングポジションの後方から「天吊り状の据え置き投射」という形を採り、80インチは勿論、将来は120インチも可能という、8畳間でコンピュータ関連一式を背にして前に1m強迫り出したスクリ−ンという環境では限界を超えた理想的な設置が出来たのには自分でも感動しました。少しでも「早く画を見たい」という気持ちはハチ切れんばかりに膨らんでいたのですが、その前にどうしても解決しておかなければならないことがありました。前述のとおり、我が家のスピーカーはメインにオンキョーのD−77FX、センターとリアには、メインと同じオンキョーのD−303を使用しています。艶やかな中高音域と口径以上に迫力ある乾いた低音、反応の早い音の出は、ピュアオーディオでもAVでもイイ鳴りをしてくれる素晴らしいスピーカーです。しかし、御存知の方も多いと思いますが、これらのシリーズはツイーターに同社上級機を意識したホーンタイプを採用している変わり種なので、リスニングポジションを10cmズラすだけで聴こえる高域の音はガラリと変わってしまうのです。ヌケのいい艶やかな中高音を手にした代償はあまりにも強い指向性の為に生じるリスニングポジションの一点化でした。又、専用スタンドを使用してリアに設置しているD−303もまた、指向性の問題から十分な移動感を感じることが出来ず、壁に向けたり上向けに寝かしたりと色々やってみましたが満足のいくサラウンド感は得られずにいたのです。そこで僕の執った行動は、全ホーンツイーターの中央部にビー玉を取り付けて高音を乱反射させるという、オンキョーの開発者が見たら泣いてしまいそうな荒療治と、さらにリアスピーカーはスタンドを使わず、天井から斜め下向きに設置し「突っ張り棒」で補強するというものでした。して、その結果は…なんと大成功!D−77FXとD−303の中高音のヌケは鈍くなることなく、それでいて、どのポジションに座ってもほぼ同じ音色で聴こえる様になりました。ただ、リアスピーカーの位置を高くしたことで背筋がゾクリとするようなサラウンド感は無くなり、例えるなら、ドルデジ5.1対応の映画館で感じるような、やや宙に浮いたような広いサラウンド感になってしまったので、すぐ後方を左から右へ移動する筈の女性のハイヒールの靴音も、後方約3m放れた場所の2m上空を歩いているように聞こえる感じになりました。しかし!それでも、鑑賞者4人が4人とも、同じように5.1ch+2chならではのサラウンド感を感じられるようになったことの方が僕には感動的で、本当のホームシアター(多人数で観られる家庭映画館)にまた1歩近づけたな、と実感しました。もうこの時点でお判りの通り、我がXV−Z5000が初めて映し出した映像は、dts音場チェックDVD「dtsExperience」です(笑)。さらに後日談として、この数ヶ月後、やはりクリアな背面移動感を得るためにオンキョーバイオクロススコーンシリーズの再廉価機種D-40を2本購入。リア(サブ)としてリスニングポジションのニアに設置し、思い描いていた音にグッと近づけることに成功しました。

これで後は元を取るべく映画を見たおすのみ!!朝7時出、夜9時帰宅、週休1日という決して好条件ではないのですが、1ヶ月で最低8本は映画を観ようと家内と決め(もともと家内と知り合ったのは大学の映画研究会ですから家内も映画は大好きなんです)、週2回のホームシアターパラダイスの日々を送り始めた矢先のこと、約10年にわたって常に僕のAVシステムのVCR1として活躍し続けてくれたビクター「HRS−9800」と、何度も修理に出しては復活を遂げてきたVCR2のビクター「HRS−3000」がほぼ同時に息を引き取ってしまうという悲しい出来事があったり、イタリアサッカーリーグ・セリエAの中田君を観る為だけに専用チューナーを購入して入会したWOWOWが、翌年には放映権をスカパーに奪われてしまうという不甲斐ない事態になり、僕にとってはWOWOWが意味の無いものになったのですからとっとと解約すればいいものを、たまに「おっ?」と思わせる映画やライヴをオンエアするものですから躊躇してしまい、今も尚毎月3000円(月契約)払い続けつつ、でもセリエAで活躍する中田君は絶対観たかったですし、あの名波君までセリエAに参入したこともあり(名波君ならコンスタントに使えば必ず結果は出すのにベネチアはフロントの体質が悪くて彼は不運ですね)、とうとうスカパーにまで入会してしまいました。購入したチューナーはソニー「DST−MS9」。セットで売っていたソニーのD−VHSビデオデッキはスペック的には不満だらけのモノだったのですが(なんでソニーはいつも廉化商品に対してこんな酷い妥協をするんだろう?)、ソニー同士i−linkで繋げば、たちまち録画予約やその他すべての操作がヴィジュアル的に行なえ、「DST−MS9」との連携も当然のことながら利便性が飛躍的に伸び、非常にグラフィカル・ユーザー・インターフェース性に長けて近未来的だったということ、そして他社製のD−VHSビデオデッキがまだまだ高価で手が出なかったということもありソニー「SLD−DC1」を購入。地上波録再がVHS(せめてS−VHSでしょ?!ソニーのここが解からない)ということで、これをホームシアターのVCR2とし、VCR1には「忠実な再現性へのこだわり」という明確なコンセプトがあった「HRS−9800」の後継にと悩みに悩んだ末、VCR1として働ける十分な資質を持ちつつ台所事情を圧迫しない東芝「A−SB99」を購入。これでもう僕のクレジット利用金額もシャレにならないほど膨れ上がってしまい芥川龍之介の『ぼんやりした不安』じゃありませんが、何とも表現し難い不安感というか焦燥感に似たものを感じるようになり、会社の後輩の付き合いで立ち寄った家電店での落雷の様な衝撃で始まった僕の10余年ぶりのAV機器グレードアップ計画は実に2年間に及び、とりあえずここで打ち止めと相成り、大団円(?)を迎えるに至りました。

正直なところ、こっそりではありますが、今はBSデジタル放送に興味深々で、週1回の休みには必ず家電店に立ち寄り、D3端子が2つ以上ついた720pぐらいまでは映せるフラットワイド画面32〜34型TVでスピーカーなどの余計な部分(僕はテレビをチューナー付モニターとしか考えていないのでスピーカーは余計なんです)を贅沢に作ったり出っ張らせたりしていないタイプ(今なら東芝のFACE)を見物がてらにイジクりまわしに行く日々を送っています。というのも、最近1階リビングのAVシステムのモニターであるソニーの初代キララバッソ「KV−29ST1」の赤の滲みがヒドく(まだ買って9年なのに…)、原色の赤は勿論のこと、赤みがかった人物の顔までもが画面に映る度に鑑賞に耐えないレベルで水平方向に滲むのです。ですから「火急」ではありませんができれば「早々」に前述のようなTVの購入を検討している次第です。しかしBSデジタルチューナー自体の価格がまだまだ高価なので、内蔵TVも当然のごとく極めて高価で、とても手を出せるレベルではないというのが僕の家庭の経済的崩壊を免れられている唯一の理由かつ最後の砦。もう少し価格が落ち着いて、BSデジタル放送ならではの色んな機能が余すことなく満載された製品が出てくるまで「待ち」の姿勢で臨み、観察と情報収集だけは怠りなく続行し、今はPlayStation2の美しい映像を映すことでキララ・バッソの天寿を全うさせてやりたいと思っています。

2000年8月21日

■それから10年後の2010年8月、再びホームシアター大改造に着手!
 詳細はブログを御覧ください↓

 ホームシアタールーム復活【前編】


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