Primera 考
P10 Primera 名車として語り継がれそうである。何が良かったのか簡易にまとめてみよう。
基本的に下記4項目が特徴と出来る。

  1. パッケージ
  2. 動力性能
  3. ハンドリング
  4. デザイン

1.パッケージ 

 比較的背が高く、大人四人乗れて後部座席も圧迫感がない。オーバーハングも比較的短くOPEL VectraやPeugeot405,VW Ventoと近いパッケージである。当時日本国内限定のペッタンコセダン(カリーナED, コロナEXIV, カローラセレス・マリノ)の様に後部座席に座ると頭がガラスに触れるという事はなかった。そして馬鹿でかい大容量トランクが魅力的であった。
 私が所有していた5ドアでは後部荷室容量は更に拡大していたが、全体のデザインが砲弾様でありとってつけた感じではなかった。
とま、きっちりと乗れるセダンを出したって事になる。
 なお、ブルーバードが既に発売されていたがカリーナED(爆発的売れ行きだった)に似せたため骨格不良となっていた。また、名前が古さを感じさせていたのも事実である。コロナ、ブルーバード、オッサンセダン。
 広さで気を吐いていたアコード(3ナンバー)、プリメーラ的アスコット/ラファーガがあったが、前者はちょいと鈍重。後者はFRにすべきだったかも。一方ハイテクギャラン、4WDレガシィはまだ主流ではない。なお乗り心地を別にするとコロナって物凄く広く家族向けタウンユースには最高だったと思う。

2.動力性能

 S13シルビア(NA)に搭載されていたSR20DEをほんの少し高回転側にしたエンジン。 150ps 19.0kgm 180km/h巡航可能。
 トラクションに優れたマルチリンクフロントサスのおかげでぐいぐいと曲がりながら加速する。ただし、後サスは接地性を上げるためバネレートが高く、案外テールハッピー。詳細は次節に。

 しかし2000ccNA 150psというエンジンは「実用エンジン」であり欧州基準では十分な性能である。しかしVTECに代表されるHONDAが190psを叩き出し、三菱、SUBARUがターボで200psを超えるようになると非力なエンジンという烙印を押されてしまう。

 実のところエンジンは高回転型よりもトルク発生型と呼ばれるタイプが扱いやすい。エンジンのトルクは排気量で確定されるので、最大トルク発生回転数が低いほどエンジンは扱いやすい。逆に高出力型エンジンは最大トルク発生回転数が高いので廻さないとトルクが出ない。常に高回転を維持しないと下ではスカスカなのである。いわゆるハイカムを組むとこういうエンジン特性になる。まるでターボラグのように回転を落とすとトルク不足になる。VTECなどの可変バルブタイミング機構を組み込むとこの辺は改善されるのだが…。

 ところがこういう機構を組み込むと初期特性の維持が困難であることは容易に推察される。日本国内限定ならそれでよいが、オイルもガソリンもどんなもんをつぎ込むか判らない国々に輸出するにはリスクが高すぎる。

3.ハンドリング

 硬い脚の代表である。コーナーでノーズが食い込む様は当時の国産セダンの追随を許さない。当然高速道路でのレーンチェンジも安定感があり、スパスパっとレーンチェンジできたモノだ。しかしリアサスが硬いため(逆子が元に戻るとか云われた)跳ねやすいのかテールハッピーになりやすい。実際半スピンモードに何回か陥った(しかも低速で)。

 当時欧州基準の脚と云われたのは事実。Ford Mondeo, Opel Vectra, Peugeot 406他がP10をハンドリングマシンのベンチマークとしたのは事実である。ハンドリングの素晴らしさと引き替えに持っている不安定な部分(ボディの剛性不足からくるもの)をそぎ落として(つまりボディ剛性を上げた)完成された。残念ながらP11はそこまで到達できなかったと云われているがこれは国産セダンパワー競争に負けた感もある。2000cc NAで150psと控え目(だけど実際は十分速い)のためホンダやその他の後塵を拝した。故にスポーツセダンと言われなくなってしまった。この辺は動力性能の欄に詳しい。

 さて、Xacarによると「P10は硬い脚のため駄目でブルーバードU11がストロークのある脚で良い(2002.1月号)」としているが言い過ぎと思う。良く読むと「剛性の低いボディに硬い脚でロールさせないP10と剛性の低いボディにストロークする脚のU11」の比較。どっちがバランスされているのかは当時の雑誌コメントを見るまでもない。P10でのコーナリングをU11で追随するのは無理。P10を追うと盛大なロールと強烈な揺り返しが発生する。これを防ぐためには硬いバネとダンパーが必要になる(P10の設定)。これが90年代当初の足回りの考え方。実際ドイツ車の代表であるゴルフもサーキットのコーナーで3輪走行するのが普通だったし、VentoやJettaも結構硬い脚だった。当然、U11ならびにU11のライバルであったコロナ(輸出名カリーナ)がハンドリングマシンとして認識されていない理由は簡単で、柔なボディに柔な脚じゃなんにももならないって事。これじゃコーナーで踏めないし、強烈なロールとその揺り返しが酷く高速コーナリングなんて不可能であった。

 Xacarの硬い脚撲滅は同じ考えであるが、最新の高剛性ボディに組まれたストロークする脚と10年前の妥協の産物を同列に論じてはならない。当時のサスペンション取付位置、ボディ剛性、を基にハンドリングマシンを構築するとP10にしかならなかったのだ。現在のボディは剛性が向上し、サスペンションはストロークする柔らかいバネを与えられ、ダンパーはストロークすることで減衰力を確保するようになった。ついにここまで来たのである。

 P10のあとP11そしてP12と進んだ結果現在のP12はしなやかな脚を手にしている。しかしこのしなやかな脚は余り認められていない。なぜならスポーツセダンにP12が当てはめられていないからである。しかし乗り心地の良さとしなやかな粘る脚を持つ現行型P12はガチガチのランエボよりもバランスは良いと思う。

 10年前のボディに硬い脚は一つのバランス取りの結果であったことを忘れずにいたい。

4.デザイン

 プレーンな面構成は今でも美しい。キャビンフォワードの広い乗用空間、でかいトランクとそれによって得られるハイデッキ化による全体的なウェッジシェイプ。当時の欧州車の基準をほぼ満たしている。そしてシートの秀逸さを忘れてはならない。一発でリクライニングしないので文句が出ていたがあのシートは扱いやすかった。

 デザインはパッケージ項に書いたとおり、ペッタンコセダンの見た目重視とは異なり欧州基準であった。最近の欧州セダンがダンダン不真面目になっていっている(アルファ156など微妙に不良)なか、まじめに作っていって欲しいものだ。