あぁ、僕は。
僕は。
胸が痛くてたまらない。
何処も彼処も痛くてたまらない。
こんなに、痛くて死にそうなのに。
こんなに、苦しいのに。
どうして生きてるんだろう、僕は。
あのときのように。
あのときの、ように。
君がいた物語
〜優しい竜の殺し方 2〜
いつの間に戻ってきたのか、解らなかった。
虚圏から、尸魂界へ。
もう、二度と、来たくはなかった場所に再び、迎え入れられて。
モノクロからカラーに移った世界に。
視線を、移して、みた。
虚圏よりは薄い、けれど霊子に満ちた世界に広がる、紅い霊絡。
辺りを行き交う、黒い死覇装。
けれどその中には……あの、鮮やかな紅も…印象的な、オレンジも、ない。
嫌になるほど大きな、重い、優しい……霊圧も。
何も、何も……残ってない。
ほんの数時間前までいたのに…其処に、いたのに。
気配も何も……霊圧の名残すら、何も、なかった。
まるで彼が、最初から、生まれてこなかった、ように。
存在すべてが、抹消された、世界。
“…………くだらない”
あんなに憎んだ存在たちが闊歩している世界なのに、興味が失せた。
殺してやりたい奴もいるのに、どうでもよくなった。
いつもどおりそこにある、平穏。
守られた、秩序。
彼がいて歪んでいた風景すべてが、元通り。
手に集束できる霊子も、元通りだろう。
すべてが、綺麗に収まった、世界。
現世も、重霊地であった空座町の乱れも、治まったことだろう。
すべて、すべて、元通り。
いいことじゃないか。
元に、戻るってことは。
これで自分も、穏やかに暮らせるって…ものだ。
彼に………巻き込まれずに、済むじゃないか。
そう、思い込もうと、したとき。
「………下らんな、この場所は」
冷え切った声音。
もともと感情はこもっていなかったが、それ以上に冷徹な低い声が、響く。
「……逃げたがった気持ちが、今更ながら…判った」
「………」
「…私には、関係のないことだがな」
「…………」
珍しく、意見が合ったと、感じた。
この場所は、くだらない。
人が死して、魂魄が向かう場所とはいえ…虚が魂葬されて向かう場所とは、いえ。
そこでも人の生き死にはあり、上下関係はあり、人間世界でのくだらない柵も、また、続いてある。
いっそのこと、滅却された方が楽なのではないかと、感じる。
結局、死んでも変わらないと言うことが、判っただけだった。
いや…本当は、変わらないほうが、いいのだ。
このまま、当たり前にあるほうが、いいのだ。
けれど。
自分たちの、在り方を拒絶されたものにとっては。
この上もなく疎ましく、くだらないものだと、感じるだけなのだ。
「とにかく……報告をしに行かなきゃいけないようだよ……不本意だけどね」
黒の中、白は目立つ。
周りが黒い死覇装で埋め尽くされる精霊廷に、自分たちの存在は異端で。
興味本位で近づいてくるものはいないものの、遠目で見て、ひそひそと話すのを、気配で感じる。
「…それこそ下らん。そのくらいの霊圧も読めないようでは…この世界の上の人間も御終いだな」
切って捨てる言葉に少々眉を顰めるも…とりあえず、行かなきゃと雨竜が振り返れば、竜弦は歩みを止める。
「…お前が行け」
「…は?」
「私は現世に戻る。戻ってやらなければならないことが、たくさんあるのでな」
「ちょ、それは僕も…」
「私はもともと関係のない人間だったはずだ。それを巻き込まれてここまで連れて来られて…迷惑だ。
それに、此処と現世とは時間が違う…そろそろ戻らないと、拙いんでな」
「ちょ…」
「…お前一人くらい、なんとでもなる。せいぜい、その顔を何とかしてから、戻ってくるんだな」
「!!」
「………此処より現世のほうが、辛いぞ」
静かに言い、竜弦は背を向ける。
迷いなく向かう先には………緊急で張られた穿界門がある。
案内の黒揚羽がいないが…きっと飛廉脚で突破するだろうと予想が付く。
「まったく……相変わらず、自分勝手な奴だ…」
けれど自分も似たようなことをしてきただけに…何も言えない。
「……気が、進まないけど……向かうしか、ないか」
一人ごちて、雨竜はまた、前に向かった。
彼と…彼らとともに、この世界に来たのは、いつのことだったろうか。
遠い記憶のように思えて、けれどそんなに遠くない記憶に、笑う。
ほんの、一、二年前、なのに。
「……僕も、早く戻らなきゃな」
勉強が、遅れるよ。
空回る言動が、口をついた。
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