(こんな身体見て欲情するのは君くらいだよ)
求めすぎる自分に、そう言って笑った。

柔らかくなった笑顔と、共に。

(満身創痍だし…お互い)
胸と腹の傷に触れながら、言う。
そういえば、この傷のとき、見ていたのは、ルキアと石田だけだった。

(雨が降っていたから、はっきりとは見えなかったけど……)
、が広がるのは、何となく、感じ取れた。

小さく、言う。

雨に流されて、広がっていく、鮮血。
いくら色の黒いアスファルトでも……あれだけの量で、わからないはずがない。

(でも……微弱でも、霊圧は、感じたから)

 大丈夫だと、思ったよ。

少し、止まって、言った。

 本当は、そう信じたかったのかも、知れないけど。

(…………)
(君の馬鹿な霊力の高さと体力と生命力には感心するね、まったく)
そういって、額に口付けてくる。

その合間…掌を、石田の腹に沿わせる。

(…お前は)
(あー……まだ、新しいからね、その傷)
そんな顔、するなよ…と、頭を、抱き寄せられる。
(ちゃんと、井上さんに治してもらったから…大丈夫)
じゃないと食べられないよ、と、髪を掻きやる。

外からは解らなくても…位置は、解る。
労わるように触れると、くすぐったいよと、笑う。

(…労わってくれるなら、もう勘弁してほしいんだけど?)
(…冗談)
(……まったく)
呆れるよ…と言い出しかねない口唇を、自分の口唇で塞いだ。

あの辺りは、本当はよく、覚えていない。
唯、一つ、一つ…小さくなっていく霊圧に、祈るような思いを、持っていたことしか。
後は……飲み込まれない、ように。

 あいつに。

石田は何も言わない。
何も、何も。

尸魂界でのこともそうだ。
言わないから…聞かないし、聞けない。
聞くなと、その眼で、訴えてくるから。

何も、言えなくなるのだ。


(もう、大事はないと思うけど)
腹に手を沿わせながら、その上に口唇を沿わせていくと、小さな声が漏れた。
(…なんでもかんでも、首を突っ込むなよ)
(……好きで、突っ込んでんじゃねぇし、巻き込まれてんじゃねぇ)
怒った…とばかりに、紅く尖ったところに歯を立てれば、甘い声が落ちた。

それからまた程なく、絡み合うように抱き合って、何度か忘れるほど、放ちあって。
もう駄目だ、と、気絶するように堕ちるのを見届けて、止めた。



「…ごめん」

 ごめん。

いろんなものに塗れながらも、綺麗な顔は、穏やかな笑みを浮かべて。
自分の腕の中にある。

「ごめん……石田」

あまりにもあまりすぎて、名を呼ぶ資格すら、ないように思えた。
いや…そのほうが、良いという気すら。

「…………」

噛み締めるように、腕の中の温度を感じる。
部屋の景色、空気。
自分を包み、存在させる、世界。


「ッ……痛…」

パチッと言う音が弾けて、とっさに石田の肌から手を避ける。

「………こんな影響が、出んのか…」

酷く冷静な声が、出た。

知識としては曖昧でも、体感すれば、意味が解る。
…肉体と魂魄の歪が、現れだしていることが。

「…俺………人間じゃ、なくなんのか…?」

 オマエの力は全てを壊すで
 仲間も未来もおまえ自身も
 ぜんぶ巻き込んでコナゴナにのォ 

平子に、突きつけられた言葉だ。

『仮面の軍勢』を一度発症したものは、二度と、元には戻れない、と。

纏う霊気も、人間や死神とは違い…虚に近いものになる。
相反するものが、この身には、あるわけで。

“…それに”

(それから、こいつは警告だ。
本当にオレの力を支配したけりゃ、次にオレが現れるまで…)

崩れていく姿を、思い出す。

(せいぜい死なねぇよう、気をつけな!!!)

不安定な『力』の均衡にあった、俺と、俺の中にある虚。
何とか抑えて戦いに向かったものの……死に掛けたことも、少なくない。

「………まだ……我慢、しろよ……」

暴れたくてのた打ち回っているのが、解る。
『本能』のまま戦う相手だから…戦いに、飢えているのだとも。

「……俺が、王、なんだからよ」

ぎゅっと…震える掌で、拳を握った。


今の自分の霊圧はもう、虚に近いだろう。
井上を助けに行ったとき…井上の前で、仮面を表したとき。
……恐れるように、見ていた気が、したから。

「…やっぱ、わかるモンなんだよな…」

感覚が、鋭いものは。
感知を、しやすいものは。

「なぁ……ほんとはお前も気づいてんだろ…?」

 石田。

汗に濡れた髪に、触れる。

「…………」

風呂に入れなければ。
このままでは気持ち悪いだろうし……行為の跡を残しておくのも、忍びない。
何より。

「…………」

自分の中の虚としての何かが、人間である石田に影響を及ぼさないとも限らない。


「……もしかしたら、触れなく、なるかもな」

 こんなふうに。

酷く苦いものが、胸中を占める。
そうならないためにも、何とか……諌めて、押さえ込まなければ。


「………護って、みせるさ」

すべて。
自分から、何もかも。



導き出される答えは、ある意味、決まっていたのだから。


それが酷く、相手を傷つけるものだと、しても。