『…もしもし』
「おう、結構早かったな…掛けてくんの」
『……鳥頭の君のことだから、早くしないと忘れると思ったからだよ』
「あいっかわらずだな、おめー」
『電話代も馬鹿にならなくてね。なるべく早く終わらせたいだけなんだ』
「……んなこというなよ」
『……まったく』
電話越しで聞く声。
抑揚のないいつもの声だけれど…声だけの情報で読み取ろうと、全てが鋭敏に働く。
「今、大丈夫なのか?」
『…大丈夫だから、電話してるんだけど?』
「いや、電話代……」
『……とりあえず、安めのプランで組んであるから…いけるんじゃないかな』
考え込むような声が、聞こえる。
教室でいろんな音に混じっても聞こえる、声。
それが今、独り占めできていることに、安心する。
『キミのほうこそ、携帯代が馬鹿にならないんじゃないのか?』
「俺はもっぱらメールだかんなぁ」
『…悪かったね、メールも出来ない、家電話で』
「ンなこと言ってねーだろが」
やっと、電話番号を教えてもらった。
付き合い出してやっと、最初の一歩だ。
最近はプライバシー保護だとかで、クラス名簿も回らない。
ので連絡網で回すとしても、知るのは前後だけ。ホントに近しいものの番号しか知らなかった。
まぁ携帯で事が足りるが、やはり…好きな奴の番号ぐらい、知りたいもんだ。
それを、相手から聞きたいもんだ。
そんな意地もあって…かなりの遠回りになった。
早くに知ればもう少し、うまく立ち回れたかもしれないが、自分においては無理だ、と思った。
聞いたが最後、結局は同じだったろうと、思ったから。
そんなことはいいとして、電話が終わった後、意気揚々と一護は携帯に雨竜の電話番号を登録した。
なかなか名前では呼べないが、気分だけでもと、雨竜、と。
そして変換させると…一度目に愛しいその名が上がって、なんだよ〜俺、そんなに石田の名前、
打ってんのかよ〜と思ったが…そんなことは滅多にない。ありえない。
感づいてるであろう水色にも、あいつのことは打ったことはない。一番呼びたい相手は、携帯すら持っていない。
なのにこの変換。
「なんだ、俺の携帯が悪いのか?」
そう感じてもう一度打ってみても…出るのは『雨竜』。
辞書登録もしていない。
「ありきたりな名前なのか?雨竜って」
でも見渡すところ…一護が知るのは石田雨竜だけである。
「…わっかんねーなぁ…」
登録した名前を見て呟く。
まぁ、自分の携帯だけでなく、他の機種も、そうなっているとしよう。
『うりゅう』と言う文字を変換させたら、最初にあの『雨竜』が出てくると。
そうしたら……どれだけの携帯に、あの名は刻まれているのだろうか。
どれだけの人間が…あの名を、目にするのだろうか。
「………」
『雨竜』という名を持つ人間がどれほどいるかはわからない。
けれど名字の『瓜生』を出すときでも、それは最初に出てくる。人の前に現れる。
それが……一護には堪らなく不愉快だった。
それは、我が儘でしかないのだが。
自分以外のところに現れる雨竜。
文字だけでも、文字であっても誰にも見せたくないと思う辺り、かなり重傷である。
水色あたりがみたら「ホント独占欲強いよね」と呆れるだろう。
雨竜はもっと、冷たい目で見るかもしれない。
でも…ナサケないが…嫌なのだ。
「ムリはわかってっけどな…」
携帯の文字変換すら憎んでしまいそうな自分は、心底、雨竜に惚れているのだと、実感するのだった。
「…まったく」
電話を切った後、雨竜は溜息をつく。
携帯は便利かもしれないが…経済状況を思えば、必要ない。
それに、めったに電話も掛かることがないだけに、家電話すら必要でないと思っているのに。
「………登録しちゃってるあたり、駄目だなぁ…」
一番最初は…申し訳程度に、実家の番号。
めったに掛かることはない、番号。
次は…病院。
家にいなければこちらにという、状況だから。
その次が……黒崎の、家電。
ちょっとした怪我なら、治療してやるからという、押し付けの元、知った番号。
それから。
今日渡された、携帯番号。
名前を入れてやるのはなんだか癪なので…当て字で『15』にした。
「………………」
どんな顔をして、この電話を取って。
どんな顔をして、会話をして。
どんな顔をして、この電話を、切ったのだろうか。
「……顔見たほうが、早いんじゃないのか?」
耳に残る声は、酷く甘く。
鼓動を早くさせた。
END