つまらないこと けれど 感じたこと
これ、と、手渡されたもの。小さな紙切れ。
「ナニ、これ」
顔を上げてみれば、相手の顔は赤くなっていて。
…自分も釣られるかのように赤くなったように思える。
「ナニって…連絡先」
ぶっきらぼうな声が帰る。教室の片隅、ただのクラスメイトの何気ないやり取り。
でもそれは……端から見たらで。
真実なんて、本人達にしか解らない。
初めての、共有。
…付き合い出して初めての。
「家の電話は知ってるだろーけど…携帯は、まだだったから」
遅すぎんだけどよ。
ボソリという言葉に、照れが滲んでるように感じて、思わず笑った。
「…ナニ笑ってんだ」
「…いや」
ガシガシとオレンジの髪をまぜっ返して、むすっとしている。
「いきなりなんだろうって思ったから…しかも、眉間に皺寄せて」
「眉間の皺はかんけーねーよ」
「…あと」
「あ?」
「教室でそんなことするなんて思わなかったから」
そう言って雨竜はブリッジを上げる。
「…別に、普通だろ?」
「普通、かな…」
「…普通だろ」
話が長くなると感じたのか、一護は空いている前の席に座った。
友達間でのやり取りなら、普通だ。
まぁ、クラスメイトというのもあるけれど、接点のない自分たちの間でそういうことが行われるのは…他の人間から見れば、普通に見えないだろう。
けれどそれを、普通という。
それがどーしたんだよ、といいそうな顔が、雨竜を見る。
「まぁ、普通としておこう」
その紙切れを丁寧にしまって、雨竜は静かに言う。
「でも」
「あぁ?」
まだ何を言うか…と言う顔を、一護はする。
…なんだ、案外解りやすいじゃないか…と雨竜は胸中に思いながら、小さく言う。
「……顔を赤らめてすることじゃ、ないよ、ね…」
言いながらも、自分も顔を赤らめていたことは、棚に上げる。
「……かも、な」
言いそうなことを想定していたのか、歯切れの悪い返事が一護の口から放たれる。
「…でも、しょーがねーだろ………こんなの、初めてなんだからよ」
むやみやたらに啓吾みてーに番号渡したりしねーから、と、拗ねたような口調に、雨竜は目を丸くする。
「べ、別に、慣れてほしいってワケじゃ…」
「…物事にいちいち、顔色変えんなってことだろ?」
「……それはそうだけど」
でも、そうじゃないキミは、キミじゃないような気もする。
胸中に一つ、雨竜は呟く。
「顔色変えんなって…気づく奴のほうが少ないと思うけどな」
「まぁ…よほど見てないと…気づかないかもだろうね」
後は、霊圧を読めるか読めないか。
「…それこそよっぽど読めねーよ…探査能力なしだっておもいっきし目の前の奴に言われたしな」
「それは……今の話とは別問題だろう?」
「へーへー……って、え…」
拗ねた様子だった一護が、また、顔を赤くした。
“まぁ…よほど見てないと…気づかないかもだろうね”
先ほどの言葉が脳裏を過ぎったか…かけられた言葉の意味に気づいたのか…だーッと、喚きたいのを隠す様に、口元に手をやった。
「黒崎?」
言った本人は、きょとんとその様子を見る。
まぁ、本人としては…本当のことだから何もないという感じだが。
「え、いや、その……」
「何また赤くなってんだよ、キミは……ホント」
見てて飽きない。
呆れた口調でありつつも、眼鏡の奥の瞳が、和む。
「…そっくり、返す」
その表情に心拍数を上げられつつ、赤くなったまま、一護は返す。
……解りにくいけど、来るときは来る、直球だ…と、あぐねながら。
嫌味が多いが、ほんのちょっと見え隠れする本音に似たものが…酷く甘いのだ。
「返してほしくないね」
弾くような言葉にも、前に感じた棘は少ない。
「かわいくねー…」
「誰に対しての言葉だ、それは」
一護の呟きに、雨竜の眼が細く眇められる。
それも、いつものことで。
「じゃぁ、僕も、電話番号を教えなきゃ駄目かな」
そう返ってきたときは、心臓が止まるかと思った。
「へ? なんでだ?」
「何でって……君が番号を教えてくれたからだろう?」
僕も返さないと駄目なんじゃないのか? と、当たり前のように言ってくる雨竜に、そうか? と、呆けた声を一護は返した。
「あ、そー言えば…」
「呆れた」
じゃぁ…と、書き出そうとする頃にチャイムが鳴り出して…それは、出来なくなった。
「んじゃ、電話くれ」
「は?」
自分の席に戻る前に、一護は雨竜に告げる。
「それで、登録すっから」
「へ、あ、あぁ…」
次の休み時間に聞けばいいんじゃないのか…と思いつつも、了承の意味で、とりあえず、雨竜は頷いた。
「約束な」
そういって笑う…一護の顔に。
どきりとしたのは、内緒だ。
その傍ら。
「うわー…青春しちゃってる、一護」
「…ウム」
「こうやって見ると、一護って解りやすかったのねー…」
「でもそれは対石田君に限ってだと思うよ、たつきちゃん」
「…ってーか……織姫、あんた、一護のこと、好きじゃなかった?」
「うん、好き。でも、石田君と一緒にいるときが一番好きなの」
「………複雑な愛だねー、井上さん」
「…あんたが言うと、怖いわ、小島…」
「…たわけ」
ツッコミが、教室の片隅で、行われていた。
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