………ヤリたい盛りなのは認めよう。だって、若ーんだモンよ。
あぁ、正直に言ってやらぁ、やりたい。
抱きたい、抱きしめたい。
めちゃくちゃにして、啼かせて善がらせて………融かしてしまいたい。

自分でもこんな、貪欲っつーか、すけべっつーか……知らなかった。

 あいつしか、見えなくなるなんて。

そういう、性欲っつーか、色事的なこととは無縁に見えるから余計…
魅せられるというか、そそられるっつーか……ようは、溺れてるっつーか。

知らなかったら知らないままでよかったけど、知っちまってるから余計、タチが悪い。

帰ってへこんだのは、言うまでもない。


ただ、そういうの抜きでも……好きだから。
近くで、見てたくて。

台風接近にかこつけて、転がり込んだ。


「…………」

雨と共に来る憂鬱は、まだ、心にある。
力を手にしても…何を持ってしても、変えられない過去である限り、消えることはない。
それをやっとうまく消化できるようになったのは……目の前の相手のおかげだと、感じる。

もしかしたら、憐憫の、傷の舐め合いになるのかも、知れない。
けれど、その傷を持ちつつも…立ち上がる、姿だから。

いとおしくて、ならない。

「………」

静かなのはいいことだが……馬鹿なことも、思う。

いつか、いつか…この相手が何処かに行ってしまったら…自分は、どうなるのだろうか、と。
名にある竜のように…何処か遠くへ、昇っていってしまうのでは、ないかと。

「………」

雨の竜。
静かに漆黒の瞳に湖面を湛える、艶やかな竜。

“…何考えてんだか”
ファンタジーの読みすぎか…と、遊子に暇つぶしに借りた本に、笑う。

(だって、これ、すごい奇麗な竜でしょう?)
挿絵を見せられて、あぁー、お前、絵で買ったなぁーと返せば、そうじゃないよと、
図星を衝かれたように、頬を膨らませていた。

滅び行く、竜の一族。

竜にまつわる話は数あれど…それは悲しい物語が多いように思える。
それゆえに、愛されるのかも、しれないが。

“あー…またこんなこと言ってっと、ロマンティスト、って、笑われる…”

(シェイクスピアが好きって辺り…なんか、ロマンティストだね、君って)

四大悲劇あたりを指されて言われてるのかもしれないが…
そうかもしれない。

“………頼むから”

空が黒くなって…どんよりとして。
重いものが、だんだん、胸に、落ちてくる。

“………連れて行かないでくれ”

 雨と共に、連れて行かないでくれ。

“………あいつを”

 雨の竜の名を、持つものを。


思ったら…泣きそうになった。


馬鹿なことを思って空を見上げていたら…そろそろ片付きそうで。
うんうんと、頷くように布を見ては、奇麗に糸を慣らしていた。

“手芸してっときは、ほんと、楽しそうだよなぁ…”

 おまけに可愛いし。

口に出したが最後、蹴りを食らうようなことを思う。
一年経っても、変わらないところに…ふと、笑ってしまう。
もう一年、まだ、一年。


「っ……!」

細い指先が、糸をこより、玉結びをして、すっと伸ばす。
そしてそこに…柔らかい口唇を、近づけて。
白い歯を立てて、糸を、切った。

柔らかな色彩の糸と…紅く見える、口唇の対比が…なんだか、淫靡で。

…咽喉が、鳴った。



……触れたい。

糸が触れた、その口唇に。

 触れたい。

布を滑る、その白い指先に。

 触れたい。

そこに存在する、相手すべてに。



リミットが近づいているのは、解っていた。
きっと、そろそろ、言い出すと。

でも…追い返さないでくれ。

「黒崎」

お前が、欲しいんだ。




抱きしめて、キスをする。
それだけで…落ち着いてくる。

存在を確かめるような、何か…

あぁ………ぜんぜん…触れて、ねぇからだ。

死神で触れても…やっぱり、温度が伝わりにくいから、あんまり、いい顔しない。
それを知ってから、よほどでない限り…死神姿では触れないようにしてるけど。

そりゃ…伴ってるほうが、俺もいい。

感じることが、できる。


バスの時間…なんて、無粋なことを言ってくる。
台風のときに帰らせることはねぇだろう? それとも、やっぱり、帰らせるのか? 
と返せば、腕の中の身体が動いた。

呆れた声が返る。
呆れてくれてもいい、でも、離せない。

冗談じゃ、ねぇ。

らしくねぇといえばねぇ、でも、らしいといえば、らしい。

どんななっても、俺は俺でしかない。


繰り返すキスの合間、髪を掻き乱される。
あの白い指が、触れている。

あの口唇が…触れている。

すべてに…触れている。

幸せすぎて、時々、痛い。


指先で、あの紅い口唇を撫でる。
壊したらやばいから、眼鏡も取る。

その奥から現れる……湖面を湛えた、漆黒の瞳。

静かに静かに慣らされていくような…激しく、揺さぶられるような。

口を尖らせての反抗に笑えば、腕を抓られる。

あー、煽るな。

めちゃくちゃに、するぞ。


押し倒した先、不思議そうな、けれど、濡れた瞳で見つめて来る。

そこにキスすれば、ぴくっと、肩を揺らす。

キスになれて、背に腕を回してきたとき…ビクッと指が弾かれたように跳ねて。
そのあと…耳から、頬から…すべてが、鮮やかに色づいていった。


発情して、馬鹿みたいだ…なんて、言ったけど。


好きな奴に欲情しないなんて、ありえない、と。
深く口付けて、答えにした。