『こもりうた』
五月某日。
他の方々がやってきたという「羊でおやすみ」と言うものが、自分のところにやってきた。
今までに14枚も出ていて、今回はそれの15枚目。
自分が演じる前にも、先輩方や俳優さんが演じていたりとバラエティに飛んだ作品だ。
眠れない人のために羊を数える、と言う単純なことだけど、
自分は眠れなかったことがないので、よく判らない企画だった。
ぱっと寝て、ぱっと起きる。
寝覚めが悪いわけでもなく、寝つきが悪いわけでもない。
まぁ、寝る前にお茶を飲む、ということはするけれど、他には何もない。
だから、どうしてそんなものが? と感じるが、それは置いておいて、
そういうCDがあって、それがシリーズとして続いているわけだ。
二人組で、それぞれタイプの違う役を演じ、羊を数えていく。
羊を数えるだけでなく、合間に台詞も入ったりするので、まぁ、ファンサービスの一環なのかもしれない。
先輩方と演るのもいいけど、歴然とした差が出そうで怖い。
でも、合わせづらい人が来るのも、否めない。
相手は自分では決められないから。
オーディションやその他もろもろで決められるのだから、自分はなんとも出来ないか。
こちらでお待ちください、と通され、数分後、ノックの音が響く。
こんなもんなのかーと、置いてあった企画書を見ながら、どうぞと返す。
その開いたドアから、現れた姿は。
「す、杉山くん?」
「あれ、森田さん」
見知った姿が入ってきて、一気に俺は、気が抜けた。
大抵事前にキャストは知らされるのだが、連絡の行き違いがあって(本来あっちゃ駄目だけど)
今日の顔合わせで、知ることになったのだ。
いや、企画書に名前は記されていたけれど、それを見る前に相手が来たので、知るはずもなく。
どうぞこちらにお掛けください、と案内されて、はいと答えて、隣に静かに座る相手。
同じ作品で3年ないし、4年目に入ろうとする相手だし、気心も知れているから心底安心して。
思わず笑ってしまう。
まぁ、また、予習につき合わされるかもと、危惧はしたけど。
「こんにちは、杉山くん。最近どーお?」
「こんにちは、森田さん。最近…って、こないだご飯一緒に食べたじゃないですか」
某アニメのいわゆる、現世メンバー。
一護、雨竜、織姫、茶渡は、アフレコのあと、必ずご飯を食べに行くメンバーである。
誰かが事前に調べた店だとか、即興で探してヒットだったりした店だとか、いろいろ食べ歩いている。
現場に出る、出ないの差も激しいが(苦笑)基本、このメンバーでご飯に行く。
たまに六番隊副隊長や十一番隊三席、五席、その他もろもろの隊長、副隊長とで出かけることもあるが、
これが主軸だ。
しかし最近、現世メンバーは出ることがないので、個別が多かったが…
イトケンこと、伊藤健太郎君以外とつるむのは、実は、杉山くんが多い。
ゲーム仲間というのもあるし、多分…この業界で、年齢的には中堅でも、
まだ若手である位置が、似ているからかもしれない。
上に姉がいるのも似ているというのもあって、人から見たら驚かれるけれど仲がいい。
キャラが違いすぎるのもあって、信じられなさそうだけど。
ま、とりあえず、仲がいいってことで。
でも、松岡さんからは、微妙な微笑を浮かべて、見られてる…気がする。
…イベントでの発言といい、ラジオのネタといい。
……勘付いてる…? と、思うこと、しばしば。
それは、俺が勝手に感じるもので、そもそも人に言えるものでも、ない。
そう、言えるものじゃない。
俺と、隣に座る相手が、そういう関係、って言うことは。
3月にあった彼女のラジオのことで特別何かを思ったわけでもなく、
ずいぶん前から…そうだなぁ、やっぱ、一緒に仕事やってからだと思う。
それまでは本当に、知らない相手だったから。
いつもの仕事はもちろん、イベントや、ラジオで話したり、ゲームの話をしたり。
演技の話をしたり、くだらない話をしたりと、そういうふうに重ねあっていった中で、成り立ったものだと、思っている。
本当に、本当に真面目で、時々、その真面目さ加減が凄すぎてからかってしまうけれど、
そういうところがとても素敵だと思う。
そういうのがあって、今、この関係が成り立ち、続いているわけだけど。
最近、現場が一緒にならないので、こうやって隣り合って座るのは久しぶりだ。
いつもの定位置のごとく、隣にいることに安心する。
一緒に仕事するのが久しぶりなだけで、俺は、時々……入り浸っては、いるけど。
「こないだごはん食べたっつったって、四日前でしょー?」
「まぁ、そうですけど……」
それも、杉山くんの作ったオムライス、だったりするけど。
(でも、そのときは何にも言わなかったなぁ…)
けれど彼は、確実だということしか口にしない。
いくら気心の知れた相手にであっても、不確定な情報を伝えるということはしない。
だからこそ、この状況なのだが。
俺を前にして、一瞬入り口で固まって。
促されるままに、隣に座った。
その様子が戸惑って見えたから、いつもどおり、当たり前に「どーお?」なんて、聞いてみた。
どーおも何も、こないだ逢いました。四日前です。
お邪魔して、オムライス、作ってもらって、二人で食べました。
えー、いちゃいちゃしてました。
ついでに啼かせました(オイ)
声優だから、声は命、咽喉は命、だけど、やっぱ声、聞きたいから。
“ちょ、もぉ…止めて、くださいって…”
……と、イケナイコトが脳裏を占めそうになったので頭を振ると、隣でえ? え? と言う反応をする。
…こーゆーとこが、好きだなぁーと、思う。
今日は打ち合わせだけでなんでもないけど、確か明後日、歌を歌う…と言っていたのを思い出した。
まぁ、咽喉は大丈夫そうだし(とりあえず、自制はした(当たり前))
様子からしても、大丈夫だと思う。
後は本人の、気力というか、なんと言うか、ノリだと思う。
ま、歌なんてのは、ニュアンスだって、ベテランが言っていたのもあるし(古い話だが)
気になるなら、カラオケに付き合ってもいい。
そうやって。
二人でいられる時間が、作れればいい、なんて、思う。
「最近、仕事も被らないし、俺、寂しーんだよねー」
「ちょ、何言ってるんですか、森田さんっ」
からかうように返せば、やっぱり、あせった様な、照れたような表情で、俺を見てくる。
変わらない、それを。
とてもとても、愛しく思う。
そうやってじゃれあってる合間に、関係者が来て、空気は静かになって。
真剣な、仕事の顔になる。
この作品のコンセプト。
いかに、聞いている人を、眠くさせるか。
ホント、眠れないってのが俺はわかんないけど、杉山くんは、どうやら判るようで。
うん、そうですねー、皆さん、癒されたいんでしょうか、なんて、真面目に応える。
そういう意味の、眠れない、なら。
俺は、あんまりない。
まぁ、最強? の安眠枕が、そばにいるからってのもあるけれど。
「森田さんはどうなんですか?」
いつものように聞いてくる。
首を傾げる様な、覗き込むような、イベントでも、ラジオでも見た表情。
そんなので、癒されたりする俺って、お手軽かも。
「俺? 俺は、寝れないってこと、ないからなぁ」
「森田さん、睡眠時間短いですもんねー」
「コロンブスかよ、ってくらいね。でも、案外寝てるもんだよ?」
「そうかなぁ……」
「へ…?」
「……いえ、なにも」
ふと、何かを思い出したかのように、杉山くんが、珍しく話を遮った。
(あー…何思い出してるんだろ、僕は)
なんとか平静に努めようと、意識を遠くへやろうとするが、やはり。
“俺、寂しーんだよねー”
だから、あんなふうに、甘えてきたのだとは、思うけど。
“ねー、抱きしめててよ、頭撫でてよ”
子供体温で擦り寄ってきて、ぬいぐるみを抱えるように、抱きしめてくる。
(あー…ずれてる、ずれてるぞ、オレ)
いや、僕でも変わんないけど…と、自分の中で葛藤しつつ、CDのコンセプトに考えを切り替える。
(眠れないこと、も、そりゃ、あるけど)
いろいろ考えたりとか、仕事の反省をしたりとか(それはもう、いつものこと)
思い詰めていると、眠れなくなって。
横になっても無理だから、眠くなるまで、起きてるけど。
前は、そうだったけど。
「ッ……」
「杉山くん?」
ぞわっとくるようなものに背を震わせると、気づいたのか、森田さんが声を掛けてきた。
「…いえ、何でも」
「そ? なんか、ヘンじゃない?」
起きてる〜? の声に、起きてますと、返す。
誰かの暖かい体温が、そばにあって。
それに包まれてれば、眠くならないかなって、思ったら。
とんでもないこと、思い出した。
(うー、振ったのは、自分だけど)
四日前。
そう、四日前。
ゲームの続きをって、アフレコ後に森田さんと一緒に帰った。
ご飯を食べるのも忘れてやっていたら、食べに行くには遅い時間で。
どうしようかと思ったら、ご飯や卵がそろそろやばいから、と。
まるで雨竜が言いそうな、思いそうなことを言って、オムライスを作って出したのだった。
まぁ、久しぶりに二人で……ってのも、あったけど。
その後は、まぁ、…ごにょごにょ…あって。
おはようも、おやすみも、言い合った、けど。
そんな相手と、まさか。
(別件で後日、仕事するなんて、誰が思うかーっ)
雨竜張りのツッコミを自分に入れつつ、あぁ、でも、知らなかったし、と、己を鼓舞する。
向こうも入ってきた自分を見ては驚いていたけど…後は、いつもどおり。
順応性の高い、仕事っぷりだ。
(何で、こんなこと、すんなりできちゃうんだろ…)
ラジオで「誤魔化すのがうまいだけ」なんて、言っていたけど。
それも、空気が読めないとできないと思う。
自分は…自分に一杯一杯で。
やっと慣れて来ただろう今ですら、戸惑うのに。
(それに)
こんなことを思い出したりしても、きっと…うまく、誤魔化せるんだろうな。
ふうッと溜息をつけば、ちらりとこちらを見てくる。
「杉山くん?」
「は、はいっ!」
「話聞いてる?」
「え、あ……」
「ま、俺が聞いてるからいいけど。ボーっとしてたら駄目だよ?」
俺に怒られるなんて、らしくねーじゃん、と、笑う。
「す、すみません…」
「ま、大体は聞いてるしね。後はこっちでやりやすいようにして、アフレコしてから聞いてまた、向こうが指示を出してくるって」
今日はそこまでだって、と、森田が言うのに、向こうが立ち上がり、こちらもあわてて立ち上がる。
「では、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
両者、礼をし合い、その場は、解散となった。
「ホント、すみませんでした…」
「へ、何が?」
「さっき…」
打ち合わせが終わって、森田と杉山は帰路に付く。
これから僕、事務所行くんですと言う杉山に、じゃあ、俺も途中まで行くわ、駅は一緒だしと、森田も付いてきた。
「あー、かなり、ボーっとしてたな」
そんなに俺がいたの驚いた? と森田が返せば、えぇ、と、遠慮がちに杉山は返す。
「森田さん、あんまりこういうのに出ないから…考え付きませんでした」
考え付きませんでした、というのに、杉山の真面目さが透けて見える。
「あはは、面白そうだったら、気になったら、するよ」
何なんだ、いったい…という内容だとは思ったが、相手が相手だ。
これは、ありがたいのではないかと、思う。
(まーさか、神様のおかげ、とか)
そりゃ、最近の、杉山くん日照りには、泣いていたが。
社会人の恋愛がうまくいかないのと同じように、業界人のそれも、なかなかうまくいくとは思えないが。
こんなふうに噛みあうときもあるのなら、それは、頑張ってきた、我慢してきた自分へのご褒美かもしれないと、バカなことを思う。
「じゃぁ、また、水あげる訳だ?」
「最近は、誰かがあげてるみたいで…大丈夫ですよ」
「そーかそーか、うちは、大丈夫だけど」
「ははは」
そうこうしているうちに、分かれ道。
あちら側に事務所、こちら側に、駅。
「じゃぁ」
「はい」
そこで、分かれる。
背を向けて、杉山が行こうとした腕を、森田が引く。
「杉山くん」
「はい?」
気づいて杉山が振り返ると、ちょっと、いいづまったような顔を、森田がする。
考えあぐねているか、言葉になりにくいのか、一護のように眉間に皺を寄せている。
「森田さん?」
「……その」
打ち合わせのため、家、行っていい?
囁かれる言葉に、杉山は一瞬止まる。
そして反復して、ちょっと考えるように遠くを見てから……
「……いいですよ」
そういって、ふわりと笑う。
「あんがと」
「…その代わり」
「へ?」
「……なしで、お願いします」
「…え?」
きょとんと返す森田に、はっと杉山は我に返る。
「なんでもないですっ、気にしないでください。じゃぁ、僕、行きますからっ」
「へ、あ、あぁ………」
パタパタパタ……という音が似合いそうな足裁きで去る杉山の背を、森田は見つめた。
「…下心、読まれちゃったかな…」
ナニ、はしないけど、いちゃいちゃしたい、なんて。
「予習は、いつものことだし」
歌の録りもあるしで、なかなかにハードスケジュールだが。
「それを潜りぬけて逢うのが、恋愛の醍醐味でしょ」
それは、いつの時代、年代、性別も問わない、セオリー。
「あ、初めて『おかえり』って、言えるなぁ…」
笑っている自分が、わかる。
あぁ、大事な、大切な人間のいる、幸せなことか。
「…寄り道しないで、かーえろっと」
浮き足立つ足は、バカみたいにステップを踏んでいた。
「…あー…バカだ、僕」
わざわざ今、言わなくても。
事務所入り口付近で、息をつきながら、杉山はごちる。
思い出したことがことだから、余計にそう感じただけで。
でも、それでも、あの声は…
「あーっ、もう! 仕事仕事……」
そう思いつつ、ドアを開ける。
想像する。
部屋に戻ったら、森田が、当たり前のようにいることを。
あの声で『おかえり』って、言ってくれるのだろうか。
「……無事に、僕、羊を数えられるのかなぁ…」
溜息をついて、杉山はエレベーターのボタンを押した。
「…おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「…おやすみ」
「おやすみ」
部屋に、声が響く。
防音ではないので、なるべく小さく。
時間も時間だしと、潜めて。
けれど、柔らかく。
誰かの上に、耳に、柔らかく、心地よく、伝わるように。
何度か練習をして、こんな調子かとあわせては見るものの、いまいち納得が行かない。
実際、繰り返し繰り返し、ぶつぶつと、杉山は口元を押さえて呟いている。
時計は午前0時10分前を指す。
こんな時間まで仕事をすることもあるので別に眠くもならないが、練習していることがことだ。
眠くなってもらわないと困る。
しかし、やればやるほど…杉山は納得がいかないようで。
あーでもない、こうでもないと、数え方から、言い方から、逐一、森田に聞く。
「杉山くんさぁ…」
「はい…」
「そんなに気合入れて…疲れない?」
「え?」
台本をいったんそばに置き、森田は杉山を見る。
じっと見てくるそれに、瞬きで杉山は返す。
「これってさ、聞いてる人に、リラックスしてもらうモンでしょ?
伝えてる俺らが緊張というか、張った声出してたらさ…聞いてるほうも、疲れんじゃないの?」
「………」
「もっと、気ぃ抜いたら? いつもどおり」
「…いつも…どおり?」
「そ、いつもどおり」
のんびりほんわか、マイペースな、杉山くんで。
「ま、そりゃキャラ決まってるけどね…そこまで考えなくてもいいんじゃない?」
「でも……」
「大丈夫、だいじょーぶ、何とかなるって」
「なんとかって……」
それができたら、苦労しない。
杉山のその気持ちが出ていたのか、ふと、眉を上げて森田が見てきた。
「じゃぁ、相手を作ろう」
「相手?」
「そ、相手。どうしても眠らせなくてはならない相手。
でも、それは手ごわくて、なかなか寝てくれない。どうやって寝てもらおう?
じゃぁ、羊を数えてみよう。途中でどうかなと様子を見るけど、敵はなかなかにしぶとくて、寝てくれない。
そんなふうに、数えてみるんだよ」
「へー……」
「へーって……演じるのは杉山くんだよ? そんな他人行儀じゃ駄目じゃない」
「感心してたんです」
「そぉ? 杉山くんのやるキャラじゃ、そんな感じじゃない?
どっちかってーと、ホン見てたら、雨竜っぽいし」
「だから、違い出さなきゃって、思って……」
「いーっていーって、こういう企画CDってのは、半分、遊びも入ってんだから」
「そうですけど」
じーッと、まるで脳に写しこむように台本を見る杉山に、あーホント、真面目だと、森田は視線を逸らした。
「そんなこと考えてたら、また、寝られなくなるよ?」
「ッ、大丈夫です。明日は、歌の練習をしなきゃならないんで、休めませんから」
「そういうんじゃなくて。あーもう、今日はここまで、ここまで」
「森田さん?!」
さっと杉山の手から台本をとり、自分のと重ねて、ぽいっと、森田はベッドサイドに放る。
「んながちがちじゃ、寝られないって。ほら、そっち、詰めて」
「え、え、あの…」
「わーってるって。でもいいから。ほら、詰めて」
「はい…」
ベッドサイドの明かりを、オレンジ色になるまで落とす。
オレンジという色彩は、眠りを誘う色らしい。
寝る30分前につけていると、自然と眠れるそうだ。
「さ、目を閉じて、目を閉じてー」
「も、森田さん」
「今から羊を数えるから。ほら、目ぇ閉じる」
手のひらで蓋をされ、目の前に漆黒が広がったのを杉山は感じる。
「羊が、一匹、羊が、二匹、羊が、三匹……」
柔らかいトーンが、耳朶を擽る。
髪を優しく撫でられる。
「羊が、四十五匹、羊が、四十六匹…」
「…森田さん」
「んー?」
最初でこそは逃げようとしていた手が、するりと落ちて、布団の中に納まる。
返るのは、少し、眠そうな、声。
「…こう、やって……甥っ子さんや姪っ子さん、寝かせてあげて…るんですか……?」
甘えたような声に、森田は笑みを深くする。
「んー、たまにね。でも、また…違うもんだな…」
自分でも、感じる。
多分、甥っ子や姪っ子には、こんな声で、羊を数えてなんて、やらないだろう。
そう思うほど……自分でも酷く、優しい声だ。
「ち、がい………ます、か……?」
「うん……違う」
守るように、労わるように、癒すように。
声で与えられるだろう、癒しを。
思いをこめて、相手に、伝える。
「多分、これは…杉山くんしか、聞けないだろうな……」
「…僕、だけ…ですか…?」
「……うん」
こんな、こんな、深い思いをこめて。
誰かに、伝える。
そんな誰かは、特別、としか言いようは、ないから。
「…なら」
「…ん?」
「今度、は……僕が、数えて上げます、ね……」
伝わる温度が暖かく、あぁ、眠るんだなぁ…と思うと…安心する。
自分の声で、温度で、癒されて、くれたのかなぁと。
「……おやすみ、なさい……」
「………おやすみ」
抱きしめた身体は、まだ寒い五月の肌に、とても暖かかった。
「で、こういうキャラなんだ?」
「どうも、そうみたいです。向こうの人のイメージでは、こんな感じでって」
「ふーん」
「森田さんは? どうでした?」
「俺? 俺は………」
「森田さん?」
「………ヤラシイって、言われた」
「は?」
後日、済んだアフレコのどうこうを話し合っていると、そんな感じだった。
歌はというと、とりあえず、楽しく歌ってみましたと、笑ったので。
それでいーじゃんと、こちらもつられて笑った。
END