誰か、言い出した。

「誕生日会、しよう」と。

それまでに何度か集まりはあったけれど、皆して集まることはなかった。
撮影の状況も読めず、初期のCG処理の状況から言って、撮影が詰まっていた。
けれどそれも三ヶ月も経てば、何となく要領は掴めて。
CG処理が必要な現場には映像処理班も待機するようになり、デジタルカメラで撮られた映像は、
その場で一端は簡単に処理され、動向を見られるようなった。
そこでの齟齬を見やって、ちょくちょくとその場の撮影の変更をし、随時、新しく更新していく。
そのようになってから、多少は余裕と、長すぎた待機時間も、少し、短縮された。

結局は天候や状況設定などで押されて、スムーズに行くことはないが、
初期のを思えば、格段に全体のレベルは上がった。
これが1クールのドラマなら、それだけで終わりだが、一年クールはこれからだ。
これに甘んじず、おのおの、技術を磨いていこうと、クランクインから四ヶ月、
三月初旬に、気合入れ会、と言う名の歓迎会があった。

ここで、新たなメンバーとして、改めて、石田雨竜こと、如月雨竜のお披露目となった。

もう撮影は<滅却師篇>には入っていたので、今更観が漂うが、
新たな節目としては、ちょうどいい。
結束も固まり、これからも頑張りましょうと、その日はお開きになった。

が、その現場に居られなかったのも、数人居り。
それには啓吾も入っていた。
その啓吾が開口一番、言ったのかと思えば、言い出したのは珍しく。

「んー、こういうの、キャストでまたするのもいいんじゃない?」

年上女性スタッフに好かれていた、ある意味、お前はいいんじゃねーの? と言う、水色だった。




Destination
 
〜ドコマデ コノママ〜




「心外だねー、一護、そう思ってたんだ?」
そういってちらりと見る視線に、あ、口滑ったかなぁ…と、一護は遠くを見た。

同じ年のクラスメイト、とは言っても、相手は自分より年上だ。
重んじて、気をつけて付き合ってはいるけど…気心が知れた頃だったので、ちょっとしたことから、口が滑ることが多くなった。

「いんじゃねーの、真実だし。お前がんなこと言うほうがオレはびっくりしたよ、水色」
フォローを入れるように、啓吾が横から茶々と入れる。
そういう啓吾も一護よりは年上なのだが、脳みそは殆ど同じレベルらしい(笑)

「…みょーなとこで、兄貴ぶるね、啓吾は」
普段、一護にいなされてるから、ここぞとばかりに…と笑う水色に、そんなんじゃねーよ! と、図星を付かれたように啓吾はどもる。
「ち、違うからなっ、いっちごーッ」
「わ、わかったから……って言うか、判りましたから。落ち着いてください、浅野さん」
「敬語はいやぁぁぁっぁ」
時折一護が我に帰って、敬語を使うのも啓吾は嫌らしく(なんかシャレみたいだな)
年上なのにそのまま、一護は劇中と同じように、啓吾とは付き合っていた。

「でも、ホント、俺もびっくりしたんだけど…また、どうして?」
腕にしがみついて離そうとしない啓吾を振りやって、改めて一護は水色に振り向く。
「え? だって、楽しそうじゃない?」
「た、楽しそう…って…」
「美少女アイドルの朽木さんと、グラビアアイドルの井上さんが一緒に並んでるだけでも楽しいのに、
美人な石田君が入ったらどんだけいいか、見てみたいと思わない?」
華やかになるだろうし、あの三人の素ってものがボク、見たいんだよねーと、にこやかにさらっと言う。
「ルキアと井上と、石田…ねぇ……」
前者はまぁ、なんとなく判る気もするが…後者がよく、判らない。

 何で女二人のところに、石田も入るんだろ。

「思うって言うか、何つーか……なんでそこに石田も入るんだ?」
しかも美人て形容詞は何だ、美人は、と一護が返せば、そのままだよと、当たり前に水色は言う。
「あ、それとも一護は、石田君のこと、石田君としてしか、見たことないの?」
「はぁ?」
石田は石田だろ…と思いながらも、まぁ、素は…知ってるけれど。

ああ見えて結構のんびりで、チョイ抜けていて。
危なっかしい…というのは知っているが…現場では結構、誤魔化し通せている。
本番に強いのか…と、こちらが驚くほど。

「一護?」
「んー、水色の言ってる事は今いちよくわかんねーけど。
石田は石田だとしか、認識してねーな……綺麗とか美人とかそんなの、思ったことねぇ」
「へー……」
「…なんだよ、その顔」
「別に」
そういうと、するりと立ち上がり、水色はそばを離れる。

「石田君は石田君、か……一護らしい」
「はぁ?」
ますますもって判らない…と、返せば、石田が何だよぉー、オレに構えよーと、相変わらず後ろからぐしゃぐしゃと啓吾が髪をいじってくる。
「あーうぜぇ!! 蹴倒すぞ!!」
「うわー、一護が怖いよぉ、水色ぉー」
「浅野さんがそんなにべたべたするからでしょう?」
「敬語はいやぁぁぁぁ」
泣きついてくる啓吾を足蹴にして、一護はまた、水色に向き直る。

「とにかく、計画しよう。面白そうだから」
そういって、何処からともなく水色はスケジュール帳を取り出す。
「はぁ?」
「朽木さんの誕生日は終わっちゃったから…不本意だけど、啓吾と、あ、チャドの誕生日が四月にあるよね…それにあわせようか?」
「いや、別にかまわねーけど…ルキアは、20時までが限界だぜ?
それが一分でも過ぎッと、白哉から嫌になるほど、電話かメールが入っから」
「あ…相変わらず白哉さん、そんな調子なんだ…?」
「下手したら、一緒に来るぞ?」
「……それも、楽しいかもね」
美人が増えるだけだし〜と、歌うように言う水色に、一護は頭を抱えた。

(そ、そうだった、こいつって……)

男女問わず、面食いだった……と今更ながら、思い至った。
これが、劇中との違いだと、付き合って知れたのは、つい最近だ。
年上にも強いが、全般的に強い。社交性が、自分とは雲泥の差だ。

「た、誕生日って、オレ?!」
遅れて反応したのは、先ほどまで一護に蹴られていた啓吾だった。
嬉しそうに目を輝かせ、一護と水色を交互に見やる。
「…ほら、こういうふうに、楽しみにしてるみたいだから」

 やってあげようよ。

そういって、水色はぽんと、一護の肩を叩いた。


 早いけど、三月下旬のこの日がいいかな。
 あ、その辺り、俺とルキアと石田、ナイトシーンで、夜、駄目だ。
 あ、そう。
 じゃぁ、第一回放送後の土曜日辺り?
 そんくらいかな。
 
その辺りなら、桜も咲いてそうだしという言葉に、えー何々ーと、遅れて入ってきた、
爛れる百合(オイ)をやっている本匠千鶴が声を掛けてきた。
「あ、本匠さんも参加する? 国枝さんとかにも連絡してほしいんだけど」
「え、なになに、宴会? アタシ、そー言うの大好きv え、織姫に、何、朽木さんも?
あー、美人の石田君もだーvvv」
どうやら、審美眼は水色に似ているらしく。
嬉々とした声を上げ、メンバー表に、千鶴は嬉しそうに書き込む。
「オイ、あいつらのスケジュール……」
「把握してるから、この時期だって言ったんだよ。まだまだ甘いなぁ、一護は」
くすりと笑うその姿は、年相応の強かさを見せて。
あぁ、大人ってずりーぃなー…と、胸中に呟いた。

「つーか、本匠も、石田は美人の部類なんだ…?」
女にも『美人』と言われている石田に、何となく違和感を抱きつつも、当たり前じゃないーと、千鶴は嫣然と笑う。
「あの演技、あの姿を見てしまったら、もう、美人としか言えないわ…
後、色気ね。纏う空気の色さえ変えちゃうんだから、ホント…」
うっとり…と、虚空を見る千鶴に、あぁ、そうか…としか、一護は返せなかった。

自分の知っている、石田は。
ズレてて、おっとりのんびりで。
熱出てても、何にも言わない、意地っ張りで。
俺が気づかなかったらどうしてたんだと思うほどの、芝居バカだ。

(よく、あの熱であんなこと、できたよなぁ……)

慣れない仮想敵に対峙して、駆けずり回ったり、飛んだり、俺と、背中合わせでアクションやったり。

(あれ、まだ制服だったから動けたんだろうな……あの滅却師衣装じゃ、動けなかったろ)

“く、黒崎くんっ”
“え、あ、上田さん?”
どうしたんですかと返せば、雨竜、大丈夫? なんて聞いてきた。

“大丈夫? なんで…見てのとおり、あいつ、アクション、嬉々としてやってますけど…”
ちょっと、熱っぽいかなーと、背中合わせたとき、思ったんですけど、の声に、上田が、肩を落としたのを覚えている。
“あー…遅かった…”
“遅かった?”
“熱出て、逆ハイになっちゃってる”
“えぇーっ”
“動いてるから、熱っぽく見えるのもその所為だって思えるけど、違うんだよ…”
“…ってことは”
 
 あの、触れたときに感じた温度は。

“あーもう……黙ってっちゃうんだから”
“…判りました”
“え?”
“何とか、フォローしときます。もし、倒れたら不味いんで…なるべくテイク出さずに、やります”
“黒崎くん?”
“いまんとこ…バレてなさそうなんで。このまま、やっちまいます”
“うぇぇっ?!”
“殆ど俺との絡みなんで…CG部分だし…何とか、できるかな、と”
“黒崎くん”
“まぁ、聡い人は気づいてそうですが…やらせてるんで。言っても、聞かないだろうと思います。
石田は”

結局、巻くように撮影は進んで。
その場では石田は倒れずに済んだけれど、控え室に向かう廊下でしゃがみ込んでいたのをおんぶして控え室に連れ帰ったのは、自分だ。


ここ最近の関わりや、それ以前のちょっとした関わりで。
石田雨竜が、結構頑固なのは、感じ出していた。

(あん時だってなぁ……)

ぶっ通しの芝居で疲れてるだろうに、休みもせず、俺の勉強に付き合ってくれた。

“なぁ、休んだほうがいいんじゃねーの?”
“何言ってんだか。君だってアクションの練習とか、学校行ってるのに、これくらいで休んでどうするんだよ”

一度だけは本当に倒れそうだったので……寝かしつけて、帰ったことは、あったけど。
案の定、次の日、悪かった、と言いつつも、今度は気をつけるからなんて笑う。

そんな、がむしゃら、とも言える姿を見てるから。
美人、なんて、思わないのか…? なんて、思う。

まぁ、役柄的に、敵対しているし、親しくするなとは言われてるし。
そういう意味では、そういうふうな感じを受け取るほうが難しいかもしれない。

というか。
そんな『美人』なんて一言で、終わるようなやつじゃないのは、確かだ。

 一言でなんて、言えるか。

それが、正直、思い、感じたことだった。


「じゃぁ、一護は朽木さんと石田君に連絡よろしく!」
「は?」
いつの間にか、さくさくと話は進んでいたようで。
事後承諾とばかりに話を振られて、一護は素っ頓狂な声を上げた。

「大体この二人に合う確率高いのは一護でしょ? 責任持って、伝えること」
よろしくーと、手を振る水色に、ぽかーんと、何も言えないまま、一護は口を開いた。






あっという間に日は過ぎて。
気が付けば、放送日は近づいてきていて、ついでにその誕生日会も近づいていた。

ルキアに連絡すれば「夕方の食事会には参加できるぞ」と、帰ってきた。
その後、兄さまと録画した本編をシアターで見るので、20時以降は席を外すと、嬉しそうにスケジュール帳を繰ってくれた。

…金持ちって言うか、アーティストっていうのは、よくわかんねぇ。
テレビで流されるのと変わりないのに、音が違うといって、特別に誂えた地下のシアターで二人で見るらしい。
…まぁ、十中八九、白哉の趣味なんだろうが…わからいでもない。
大画面で見たいというか、音がいい方がいいというのも、わかる。
それほど…レベル高く、頑張った代物だから。

石田に連絡は…用事があったので、前日に逢うことになっていた。


「へー、で、プレゼントは決まったの?」
「取りあえずは。チャドは、欲しがってた洋楽のCDで、啓吾は、まぁ、彼女と一緒にってことで、揃いのなんか」
「らしいね」
それらを持ち込んで、包装紙と一緒に、机の上に置く。
購入した店で包装してもらってもよかったが、それじゃぁ面白くないと言い出したのは、目の前の雨竜だ。

“何処で買ってきたのかバレるでしょ?
そういうのは、知られないほうがいいから…包装ぐらい、してあげるよ”
そういったのを、音頭をとる水色や他のメンバーに話し、了解を取って、それじゃぁと、俺が受け取ってここに来た。

「つーか、石田、裁縫だけじゃなく、そういうのも出来たんだ?」
「これ? あぁ、妹がね。バイトでやるのを特訓して手伝ってたら、いつの間にか」
「…それで、これか」
「いかに早く、綺麗にするかだからね。店の信用もあるから、下手なことはできないからって」
付き合ってやってたら、こんなことに…と、目の前で綺麗に、CDが包まれていく。
その後、割れ物が入った箱を丁寧に静かに、けれど、早く包む。
その周りを綺麗にリボンが掛けられていく。
完成した姿は、店で渡されるのと殆ど変わらない、綺麗なものだった。

「結構…器用だな、石田って」
サンキュと受け取って、包装が崩れないようにまた、元の袋に一護は戻す。
それを入れる袋、包装紙ともどもそろいの色で、選んだのはもちろん雨竜だ。
「そう? やってみたことが多いのかな…仕事なくて困ってたときは、スーパーの惣菜屋さんでバイトしてたし」
「惣菜屋?」
「うん。揚げ物やったり、お寿司作ったり…」
失敗した奴は食べちゃったりね、と笑うのに、へーと、その白い手を、一護は見る。

「俺、家の手伝いってーか、おっさんの店の手伝いしかしたことねーし」
「あぁ、一心さんの?」
「まぁな。つっても、レジ打ちと、データ打つぐらいだけど」
「仕事しながら、学校行って、よくそんなことできたねー」
「データ打ちは、ただの文書作成だったし。あれも様式決まってたから、なんもなかった。
レジも、バーコード読むだけだし、苦労ってのは…」
「いまどきの子の仕事だよねー」
「いまどきって……そう変わんねーだろ?」
あ、と、時計を見て、一護は声を上げる。
それに合わせて、あぁ、そうだそうだ…と、雨竜は立ち上がる。

「机の上、片付けて。お茶出すよ」
「後でいいって。そろそろ、始まる」
「え、あ……うん」
腕を引かれて、歩き出そうとした雨竜は、そのまままた、座ってしまう。

金曜日、18時。
新たな試みとして始まった、ドラマが、始まる。

冒頭、プロローグから、始まり。
一護の「振り下ろされた、刃に似ている」と言う声の、後。
OPが、始まった。




EDを見て、次回予告を見た後。
横を見れば、ほうっとした様子で、雨竜が画面を見ていた。

「……試写会でも、見たけど」
やっぱり、公共の電波に乗ると違うよね……と、心もち上げていた音量を、雨竜は下げた。
「…どうよ?」
「…なかなか」
誇らしげに聞く一護に、雨竜は、微笑んだ。

「明日会う、みんなの意見が楽しみだなぁ…」
「てか、見れてんのかな、あいつら」
「リアルタイムでは見られなくても、録画はしてるだろ?」
普通の社会人では見られない時間帯だが、録画率で伸びてくれたいいなと思うしだいだ。

「そうだね」
終わったことだし、夕飯の準備するかな…と、立ち上がる雨竜に、じゃぁ俺、失礼するわと一護が返せば、食べて行ったら? なんて返される。
「え?」
「一人分作るも、二人分作るも、変わらないし。
まぁ、明日ご馳走食べるから、ホント、残り物だけど」
「…別に、石田がいいってなら、いいけど…」
「ずいぶん殊勝だなぁ…勉強してたときは、ブーブー言ってたくせにさ」
「あんときは! 頭使うと、腹減らねぇ?」
「まぁね」
炒めるだけですぐできるから、テーブル拭いておいてくれるかなぁと、布巾を渡され、
あぁ、と、一護はテーブルを拭く。
奥から、香ばしい匂いが、音を立てて漂っている。

「生姜焼き?」
「正解。豚が安かったんだ。でも二パック買うともっと安かったからそうしたけど…早まったって思ったな」
そんなに食べられないだろと、買ってから気づいたけど、君が来るのがわかって、纏めたんだと、返してくる。
「冷凍してもいいけど、やっぱり、味は落ちるからね。来る前につけといて…いい感じになってる」
「へー……」
「怪我の功名?」
フライパンから、油の弾ける音。
その合間、かちゃかちゃとなるのは、茶碗や皿を出しているからなのか。
友達を呼ぶこともあるから…と、いくつかの食器があるのを、一護は知っている。
「なんか、手伝おうか?」
「え? そうだな……ご飯、混ぜてくれるかな」
さっき、止まったとこだと思う…と、しゃもじを指され、それをとり、一護はご飯をかき混ぜる。
「あー……腹減った」
「もうすぐできるよ」
味噌汁も温まったしね…と、鍋を開ける。
そばには、キャベツの盛られた皿。
合間、ちょこちょこと、残り物なのか、おひたしがあった。
「これとこれ、持ってけばいいのか?」
「うん、お願いできるかな」
「いいよ」
用意してあったお盆にそれらを載せ、一護はテーブルに向かう。
テレビは、ニュースに変わり、相変わらずな世情を、日常に流す。

「おまたせ」
そういって、湯気の上がった皿が、目の前に静かに置かれた。
「おー、うまそー!」
「それほどでもないよ」
「あ、俺、箸出すの忘れてた」
「はいはい、取ってくるから、ちょっと待ってて」
「うー……」
ハイ、と言って、箸を持ってきた雨竜の手には、箸以外に二つ、缶があった。
「石田、それ」
心待ちにしていた夕飯を目の前にして、一護は缶に視線を奪われた。
「ああ、これ?」
笑う顔に、はい、と渡される。
「…いーのかよ?」
「とりあえず、保護者代わりの年上が、いるしね」

 飲んでもかまいません。

言うが早いか、一護はプルトップに指をかけた。

一護はまだ、未成年の18歳だ。
誕生日が来ても19になるだけで、まだ酒を口にすることは出来ない。
しかし、飲みたくなるのが、心情と言うもの。
他のメンバーと飲みに行ったとき、勧められるままに飲もうとしたら。

“未成年の飲酒は、駄目”

一緒に来ていた目の前の人間に、すっと、取り上げられたのだ。

昨今の未成年者の飲酒に、規制は掛かるものの、こういう席では当たり前になっている。
しかも業界が業界だけに、駄目と言われることは少ない。
けれど、目の前の人間は、真面目くさって、取り上げたグラスを、お茶のと変えた。

“あと二年我慢すれば、浴びるほど飲める。今は我慢”

そういって、自分もお茶を口にした。
他の人間が、いいだろうと進めたら、結構導火線の短い相手は、激昂した。

“そういうのが、これからの彼の未来を潰していくんです。
一つでも不安要素があるなら、やめておいたほうが賢明です”

そうきっぱりと、跳ね除けた。
事実、世間では問題になっていて。
週刊誌に取り上げられては、開かれた道を閉ざされたり、戻るのに時間が掛かったりする。
そういうのを思えば、今、ここで我慢しないでどうする、と言うのだ。

“君も、その辺は心得て置く様に”

石田張りの鋭い視線と共に、言い放たれたのを、覚えている。

ので、家で飲もうにも、怖くて飲めないでいたが。
お許し(?)を頂いたので、いいらしい。

「でも、なんでいいんだよ?」
開けたまではいいけれど、雨竜のほうを見ながら、一護は首をかしげた。
「んー、無事、放送日を迎えられたのと……」

 卒業祝いかな。

笑うのに、ちょっと、どきりとした。

「こんなに喜んでもらえるとは思わなかった…そんなにお酒、飲めないでいたの?」
「飲めないって言うか、飲まないって言うか……飲んだら最後、約束、破るみたいな気がして、やなんだよ」

あの時は何でだって、思ったけど。
実際周りを見回して、冷静になって見れば、雨竜の言い分は正しかった。
あんなことぐらい(ってワケじゃねーけど)で、自分の努力が無駄になるってのは
心底あほらしいと思ったし、何より、一緒に居た人間に迷惑も掛かるとわかったからだ。

そのことがあって以来、一護は酒の席には足を運んでいない。
飲むことはなくても、居るだけでも嫌疑は掛かるので、自立的にだ。

「なんてーか…石田には、隠してもバレそうな気がしたから。なら、最初からしなきゃいーんじゃねーかって」
もともと嗜むとかぐらいで、飲んだことは殆どない。
やめるのもあっさりで、なくても生きてられるよなというほどだ。

「僕、そんなに鋭そう?」
「鋭いっつーか、何つーかー……騙すのに、心が痛むっていうか…」
「なんだそれ」
うまく誤魔化せばいいじゃない、の声に、嘘、つきたくねーんだよと、一護は返す。

「嘘、つきたくねーんだ……」
「黒崎……」
「…っ、冷めるし。早く食おーぜ」
「え……あ、うん」
箸を手にして、一護が、箸を進め始める。
釣られて、雨竜も、箸を進めた。




「んじゃ、明日。忘れんなよ?」
「そっちこそ。明日、プレゼント忘れないように」
「はいはい」
ドアの前で、互いに向き合う。

「じゃ、また明日」
「また、明日」

ばたんと、ドアが、閉まる。



「…………」
「…………」

ふと、その場で、とどまってみるけれど。

「…片付けなきゃな」
「…帰るか」

ごちて、ドアに背を向けた。





“嘘、つきたくねーんだ”

「…何いってんだかな、俺……」

 嘘なんてうまくないのに、何故、今更。

「……じっと、見てくるから、さ」

 ちゃんと、言わなきゃなって。

「…なんだろな」

呟いて、一護は駆け出した。



“嘘、つきたくねーんだ”

「…嘘、つくとは、思ってないけど」

 嘘、付かれることも無いのに、何故。

「……びっくりして、凝視しちゃったよ…」

 ヘンに、思われただろうか。

「……あんな顔、初めて見た」

 …ドキッと、した。



心地いい、距離。
それは、いつまで………