静かな立ち姿、振る舞い。
気配すら感じさせなかった、白い、闇に浮かぶ、白い姿。
「仲間割れかい? みっともないな」
見られた!
咄嗟に自分の身体に戻りつつも、対処は遅れた。
「こんばんは。黒崎君、朽木さん」
“しかも…ルキアも一緒だ”
胸中で舌打ちする。
学校ではなんでもねぇように振舞っているが…こうまで決定的な場を押さえられたら…どうしようもねぇ。
そう思い見た相手の、白い衣装が妙に…浮いていて。
「…誰だ、おまえ?
ヘンなカッコしてんな。神父か?」
立ち上がり、相手から視線をそらさないように、返した。
「何で俺らの名前知って…」
ある意味、自分は有名だけどよ…と、胸中に呟けば、相手からは、思いもかけない言葉が返ってくる。
「黒崎君。君は、霊が見えるんだよね?」
問われたことを反復して理解したとき、呆気にとられたが、誤魔化すべきだと口が動いた。
「な…何言ってんだ!? そんなモン、見えるワケ…」
がなるように返すと、相手が、ふいっと視線を避け…虚空を見上げる。
「あっ」
小さな声だったけれど、酷く、響いて。
「新しい虚が来たね」
静かな声が、鼓動を留めさせたような、気がした。
Steppers High
pipipipipi・・・と、けたたましく伝令神機が音を上げる。
「!!」
「!!」
そして、漠然と感じる、気配。
「ほ…本当に来た! 指令だ!」
「ど…どっちだ!?」
ルキアが驚いた声をあげる。
俺も…びっくりした。
あわてて居場所を聞くも、なかなかデータは現れねぇ。
もたくさしている俺たちを尻目に、こちらを見る相手は…静かなモンで。
「あっちだよ」
その白い袖を伸ばし…細い指先で、方向を指す。
そして、顔だけをこちらに向け…冷たく蔑んだ視線で、俺を見る。
「その程度のこともわからないで…キミはそれでも死神か?」
視線と同じ、冷えた低い声。
その場に括り付けられたように動けなくて、汗が、流れた。
方向を示した右腕から…静かな音が、落ちた。
シャラン…と、聞こえそうな聞こえなさそうな、音。
それは一瞬、蒼い炎を上げ…もっと蒼白くなり…長く、伸びた。
右手に現れる、密度の高い、力の塊。
右手を軸に、そして左手が添えられるかと思えば…人差し指が何かを引っ掛け、引いた。
“…弓…!?”
見たこともない、蒼い閃光の…弓。
引き結ばれた矢の先は…先ほど指し示した方向。
ぶれないように片膝を付き、冷たい目線は、示した方向だけを見つめ。
「疾ッ!!」
舌打ちにも似た声と共に、強く弓は引かれ…放たれる。
キュゥァァァァァアアアアア…と、劈くような音が風を裂き、一直線に向かっていく……虚に。
そして。
虚を、打ち抜いた。
言葉も、出なかった。
見える先いた虚は……跡形もなく、消えていたから。
そこに残るは、静寂。
「…反応が…消えた……!」
ルキアのその言葉で、虚は消え、いなくなったのだと、知れた。
「な……なんなんだ、おまえ…!?」
背筋を冷たい汗が落ちる。
虚が、消えた。
それは解る。
でも、それはなんか、なんか…違う様相を、仄めかしているように、思えて。
何より、何より…相手の、先ほどの視線と……白い背が。
「…石田雨竜。滅却師」
静かな声。
その白い背が、静かにゆっくりと…こちらを向く。
そして、冷たい視線と共に、呟かれた、言葉は。
「僕は、死神を憎む」
さらりと靡いた黒髪から覗く黒い瞳は、殺気を帯びていた。
「ハーイ、カットぉー!」
カチンコが小さく響いた。
「一発OK! ご苦労様ぁー」
その音と共に、自分から力が抜けたのを、とても感じた。
がっくんといっていいのかわかんねーけど…膝から、力が抜けたように、その場に蹲ってしまった。
緊張してたのかもしれない。
そして見ていた姿は…白い残像を残して、向こうに消えた。
「だーぁー…死んだーぁっ」
そのまま道路に転がれば、上から呆れたようにルキアが見てきた。
その姿勢はちょっとやばいんでナイの? と、思いつつも…目を逸らし、伸びをする。
「何言ってる、一護。あんたはまだこれから別撮りがあんでしょが」
「がーそれ言うなっ、だー……」
家帰って寝てぇよぉーと、ごろごろすれば、一護くーん、まだ制服使うから脱いじゃってーと、
後ろから衣装さんの声がしてあわてて起き上がって叩いた。
よかった…まだ白いシャツも汚れていないし、グレーのパンツも大丈夫なようだ。
「にしても、寒みーよ…3月下旬で春だっつっても、花冷えするんだぜ?」
ぽいぽいっと制服のシャツを脱ぎ、衣装係に手渡す。
「風邪引くっつーの……あ、コートください、コート!」
一護は衣装を着替え、長袖のTシャツの上に、薄いハーフコートを羽織った。
シャツの中に着ていたTシャツは私物だが、結局は衣装扱いなので引き渡すしかない。
衣装さんいわく「若者のものは若者の目にしたものに限る」らしい。
衣装として探してくるものの、時々はしっくり来ないらしく、やっぱり、感性が違うのかなーと、ぼやいたりする。
まぁ、予算の都合もあるし、周りとの兼ね合いもあり…そんなに回せないので、
使えるものは私物で賄えという、心意気らしい。
自分としては、そのほうが楽ではある。
いちいち汚れに目くじらを立てないでいいからだ。
サイズが少ないチャドなんかは、余計喜んでいる。
それに、そんなに言うほど衣装のレパートリーもないわけだからかまわないし。
「昼間はあったかいけどよ、夜になったら冷えんじゃん?
世間は春だって言うけど、まだ半袖着るには早すぎんだよ〜」
いくら作品にあわせたシチュエーションとはいえ、3月に5、6月の時期のシーン撮影とは、ちょっと厳しい。
「なーにぼやいてんの。ってーか、あたしの前で完璧に着替えたな一護!」
思春期の女の子の前で、なんて醜態晒してくれてんのよ! と、頭をどつかれ、
誰が思春期の女の子だ、この二面性アイドルがッ! と、一護はルキアに食って掛かる。
「あーもー、目が腐る。ただでさえ汗臭いのに、余計汗が…」
「お前、その口縫うぞ?」
「ご冗談を。まぁ、劇中に感化されて、言葉遣いまで悪くなってますわねぇ〜」
「……『ごきげんよーぉぅ』なーんて言う奴に比べりゃ、まだまだマシです」
劇中そのままの状態に、回りのスタッフたちが笑う。
「まぁーたやってるよ、一護とルキアちゃん」
「あれがそのまま画面に出るから、ほんと、笑えるよね」
ほらほら、まだぼやく元気があるんだから、静かにしないと、ご近所に迷惑だよ、と、
スタッフが一護とルキアの頭を叩く。
「ッたー、って、坂本さん。うっさいのはね、こいつなの!」
「いーえ、言いだしっぺはあんたよ!」
ぎゃいぎゃいといいあってると。
「んー、坂本さんの言葉も、一理ありじゃない?」
横から、涼しい声がかけられた。
寒いときに涼しい声ってのはあんまり聞きたかねーけど…この声は、別だ。
「石田」
「お疲れ、黒崎くん、朽木さん」
「お疲れ」
「お疲れー」
先ほどまで敵対しあう…というシーンを撮っていた相手が、来た。
眼鏡がない分、柔らかい雰囲気を身に纏っているように思えた。
「石田は何だ、あたしと一護がうるさいと、言外に言うのか?」
「そうじゃなくて。元気がいいってことだよ」
ほんわりと返す姿は、劇中とは違い、とても柔らかい。
「普通寒かったら、縮こまっちゃわない?
それをそんなカッコで駆け回るあたり、ほんと、元気だなぁーって」
年寄りのようにほんわり言う姿に、一護もルキアも毒気を抜かれる。
「……啓吾みたいって言われてるのと、同意語に聞こえるのは何でだろう…」
「あれは、普段からうるさいからな…」
あのハイテンション馬鹿と一緒にされてると感じ、少し落ち込む。
「え? なんか僕、悪いこと言ったかな…?」
首を傾げる姿に、あー何も言わないほうが言い、と一護とルキアは目線を合わせる。
「まぁ12月の寒空の下の雨のシーンに比べりゃまだマシだけどな…」
「あーあれはねぇ…」
まだ作品に参加してなかった相手が、うんうんと頷く。
出演することは決まっていたが、現場の雰囲気を見てみたいからといって見学に来ていたときだったのだ。
「水ん中に飛び込むわけじゃねーから、ウエットスーツは着れねーし、
カイロ貼れねーし、死覇装は薄いし……凍るかと思ったぜ」
うんうんと、頷く二人を見て、雨竜は、そうだねと微笑む。
「あれは…大変だったと思う」
その極限を乗り越えてきたから、今、こんなに元気なんだね、といわれ、
なんか、話の論点ずれてんだけど…と、また、二人して肩を落とした。
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