風信子(ひやしんす)の春の俳句

        
花影や まつげほどにも 苗のゆれ

             
 (昨年の3月25日に宮崎に帰省した。桜の時期である。
                   空港から電車に乗る。もうすでに田植えが終わって
                   いる。超早場米の産地ならではの景色。小さな苗が
                   風にチロチロと靡いている。)
        

        まのびした 菜の花の奥に 水田

      日向夏 成り年は去年(こぞ)を安堵す

             
 (一昨年も同じ時期に帰省。実家を建てた時に植えた
                  日向夏蜜柑はたわわに実っていた。25年のあいだに下
                  枝も私の頭上になってしまい収穫が大変だ。  
                 
                  昔は庭の樹を自分で剪定した父は、今ではニトログ
                  リセリンが常備薬である。ちょっと動くと動悸が
                  するらしい。父は脚立の上に私を立たせて蜜柑を取
                  らせようとしたが、怖がりの私に上手くできようか。
                 
                 「そんな剪りかたじゃ、枝を痛めてしまうな」と父は
                  自分で脚立によじ登ってしまった。落ちたら、支えて
                  くれよ。というけれど、大柄な父を受けとめる自信は
                  ないのだ。)
                  
                    その年は、うまいぐあいに蜜柑の実の生り年ではなか
                  った。草取りをしながら、そのことに気がついて日向夏
                  蜜柑の木をみてホッとしていると、やっと肺炎がなおり
                  退院したばかりの父が言った。
                 「まだ甘くないけど、もって帰るかね」と・・・)

         

        
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