【秋空】
「燕青ー、落とすわよー」
「わー!ちょっと待って姫さん!」
気持ちのいい秋晴れの下で、秀麗と燕青は鮮やかに実った柿を取っていた。
だが下で籠を持つのは燕青で、着物を膝上までまくし上げて危なげに柿を枝から取っているのは秀麗だ。
普通逆だと燕青が言ったが、どうしても自分が取ると聞かなかった。
その日、柿を取りに行こうと言い出したのは秀麗だった。
家の中を整理していたら、たまたま懐かしい小さな枝切りばさみを見つけた。
それはよく母が使っていた物で、これで柿を落としていたのを思い出したのだ。
静蘭と邵可は夜勤で帰ってこないため、残っていた燕青に付き添いを頼んだ。
すると、『断ったら静蘭に殺されるからな』、と笑いながら、燕青は快く承諾してくれたのだ。
だが、いざ柿取りを始めると、燕青は秀麗の言葉に耳を疑った。
『じゃあ燕青は下で籠持っててね。頑張って大きいの取るから!』
袖と裾をまくし上げ、鼻歌混じりで木に向かっていく。その後姿が妙に凛々しく、しばらく燕青は見つめていた。だがハッと我に返り、秀麗の肩を掴んで引き留めた。
『危険だ!落ちたら俺が静蘭に殺される!』と必死で引きとめはしたものの、どうしても自分が登りたいのだと言う秀麗の目を見たら、燕青の腕からどうしてか力が抜けた。
登らないといけないの。そう言われたような気がした。
『・・・・仕方ねーな』
でも危ないと思ったら何が何でも引きずり降ろすからな。
心配してくれているのをひしひしと感じた秀麗は、満面の笑みで『ちゃんと受け取ってね』と言った。
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「燕青ー!落とさないでよー」
「姫さんもちゃんと落としてくれよー!」
柿の木はそれなりの高さがあり、秀麗が投げた柿は予想以上の放物線をえがいて燕青の後ろに落ちた。
熟れた柿がペチャッと音を立てて潰れる。
籠の中には結構な柿が入ってはいるが、地面にもいくつか悲惨な姿になった柿が散乱していた。
「なぁ姫さーん。そろそろ終わりにしようぜー。何か空も黒くなってきたしよー」
しばらくして、ずしりと重くなった籠を見た燕青が声を上げた。
昼過ぎはあんなに快晴だった空の半分は、今や西から流れてきたどす黒い雲に覆われている。
それは、このままだとすぐにでも降ってきそうな雲だった。
「そ、そうねー」と応えた秀麗の声は、心なしか少し震えていた。
だが時すでに遅く、ポツリ、と燕青の頬に何かが落ちた。あちゃー、と言った次には、雨粒はサアアアアと音を立てて地上に降り注いだ。
「ちょっとちょっとー、勘弁してよー」
「姫さん早く。でも気をつけろよ!滑るなよ!」
「うう〜、あんなに晴れてたのに〜」
「秋の空は気まぐれだからなー。ほら言うじゃん。女心と秋の空、だっけ?ん」
もうすぐ地面という所まで降りてきた秀麗に、燕青が両腕を広げた。受け止めてやるからと伸ばされた手は逞しく、だからこそ安心できる。
が、それに掴まろうと秀麗が片手を伸ばした瞬間、遠くから今一番聞きたくない音が聞こえてきた。
マズイ、と燕青が思ったが、それよりも早く秀麗は反応した。
ピクリと秀麗の体が震え、動きが止まる。それに合わせたかのように、どす黒い空が白く光り、つんざくような轟音が轟いた。
「いやあああああああああああ!!!」
「ひ、姫さん!!ぅぉわぁっ!!
必死で逃げるように飛びつかれ、燕青は支えきれずに尻餅をついた。籠からいくつか柿がこぼれ落ちる。
「やだああああ!燕青ー!燕青ー!!」
「大丈夫だから。俺がついてるから!とりあえず立って、歩けるか?」
脇下を掴み、持ち上げるように立たそうとしたが、秀麗は歩くどころか燕青にすがり付いた。
怖い、と。
だが空は、そんな事お構いなしで、益々雨足が激しくなり、二人の衣服は水を吸ってずっと重くなるばかりだ。
それに体温が奪われているのか、秀麗の唇が少しだけ薄紫色になっている。
このままでは拉致があかないと思った燕青は、躊躇うことなく秀麗の背と膝裏を持ち上げるように抱き寄せた。
「怖いいいぃぃ、えんせぇ!」
「大丈夫だって。怖くないように首にかじりついてろ!」
すぐ家に帰るから、と言い、腕の中の秀麗を案じつつ全速力で掛けた。秀麗は言われた通りに首に抱きついた。
すると、不思議と恐怖心が少しだけ消えたような気がする。
(あ、この匂い・・・お日様みたい)
そう思ったのもつかの間、無情にも、再び空が白く光り、轟音が木霊した。
同時に、燕青の耳元で秀麗の大絶叫が響いた。
耳の奥がキーンと痛んだが、今はそれどころではない。何よりも早く雷から逃げるように、二人は家へと向かった。
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街中を走っている途中、益々大きくなった雨に打たれた二人は、帰宅してみると、その衣服からは大量の雨水が搾り取れるほどずぶ濡れだった。
ひっくしゅ、と秀麗が小さくくしゃみをした。ガタガタと振るえ、頬も寒さと恐怖からか青白く見える。
「姫さん、とりあえず服着替えて暖かくしてろ。俺は出しっぱなしの洗濯物を取り込んでくるから」
抱き抱えていた秀麗を寝室に運ぶと、燕青はすぐに洗濯物を取り込み、家の灯りをつけに行こうとした。
だが、それは布を引っ張られる感覚に阻止される。
「・・・姫さん?」
「えんせぇ、行かないでえぇぇ」
その方向を見てみると、秀麗が服の袖を掴んだまま座り込んでいた。その視線が時々窓へと移るのは雷を意識しているからだろう。
座っている秀麗に潤んだ瞳で、そのうえ上目遣いでお願いされては、燕青の固い自制心もぐらぐらと揺らぐ。
(うーーーわーーー。姫さんそれはダメだって・・・・・・・可愛っ・・・・・・反則・・・・・)
ふぅ、と一呼吸し、燕青は秀麗の肩に手をやった。
緩みそうな頬を何とか保とうと、全神経を頬の筋肉に集中したため、内心の葛藤は秀麗に気付かれることは無かった。
仕方ない。洗濯物は、最悪明日晴れたら乾くだろうし、とにかく今は秀麗を落ち着かせるのが先決だ。
そう決めた燕青は、震える秀麗をそっと抱きしめ、背中をゆっくりと撫でた。
「・・・わかった。わかったから、服を着替えてくれ。そのままじゃ本当に風邪ひくぞ」
優しい声に安心したのか、秀麗はむくりと立ち上がり「わかった」と小さく呟いた。
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部屋に灯りをともし、秀麗のそばに寄り添えば、秀麗はキュッと服の裾を掴んだ。
雨足はやや弱ってはいるが、いまだに遠くの空からゴロゴロと鈍い音が聞こえた。
その小さな音にも反応し、秀麗の体がビクリと跳ねる。
「大丈夫か?」
「んーー、大丈夫」
「その格好、説得力皆無だぞ、姫さん」
「・・・・・・だって・・・」
二人は新しい服に着替えて寝台の上に座っていた。何故寝台かといえば、そこが秀麗にとって一番安心できる場所だからだ。
燕青が着替えて部屋に入ると、寝台の上で何やら白い物体がもぞもぞと動いていた。何かと思って近づけば、布団の中で秀麗が身を隠すように縮こまっていたのだ。
毎回、家に誰もいない時は、こうして嵐が去るのを待っていたという。
「暗闇でその格好してたらさー、お化けと間違えられるぞ。っつーか一瞬思ったしなー」
「う、うるさいわね。それより燕青」
「何?」
「あの、今日は、その・・・我が侭聞いてくれてありがとう」
言っている意味がわからず、燕青は「何が?」と聞き返した。
「だから、今日は・・・きゃあっ!!」
カッと空が白くなり、今日何度目かわからない雷鳴が轟いた。秀麗は裾だけでなく腕をも掴み、必死で燕青を逃がさまいとしている。
それでも会話を続けようとしているのは、何かをしていないと怖くて仕方ないのだろうと、燕青にも理解できた。
「き、きき、今日・・・は、私に柿を取らせてくれたでしょう?」
「あぁ、それか。まぁ、姫さんが無茶するのは今に始まった事じゃねーけど、落ちたら怪我じゃ済まないかもしれなかったからな。ちょっとヒヤヒヤしてた」
「静蘭と父様に怒られるものね」
「・・・・怒られるだけなら全然マシ」
この家は、秀麗を中心にして回っていると言っても過言ではない。あの二人の溺愛っぷりは、燕青が見ていても惚れ惚れするほどだ。
そんな秀麗が万が一怪我でもした日には・・・。
そこまで想像して、燕青は「はああぁぁぁ〜〜〜」と大きな溜息をついた。それ以上は想像するだけで背筋が凍る。
だがそれでも、あの時の秀麗からは何か必死さのようなものが感じられた。だから燕青も渋々了解したのだ。
「何か、どうしても登りたいって顔してたからさ」
「あ、出てた?・・・・昔ね、母さまがよくああして登ってたの。だから私も登って、母さまが見た景色を見れたらなぁって、思って・・・・・」
そしたら、こんな雨になっちゃうんだもん。
ぼそりと呟いた言葉には、どこか悲しみが隠れているようで、燕青はそっと秀麗の肩を抱き、引き寄せた。
「母さんが怒ってるとでも思ってんの?」
図星だったのか、抱いた肩が震えた。そしてうつむいたまま、「だって・・・」と小さくこぼした。
燕青が止めるのも聞かず、心配してくれているのもわかっていて、それでも登った。落ちたら大怪我をすることもわかっていた。
それでも、母さまが見た景色を見て、何かが変わるのではないかと期待した。
そんな身勝手な自分に、母さまが怒ったのだ、と。
「馬鹿だな姫さん。母さんは怒ってなんかねーよ」
「え?」
「多分さ、あのままだったら姫さん、もっと高い所まで登ってたろ?だから、怪我する前に母さんが助けに来てくれたんだと思うぜ」
「―――っ!」
頭を撫でながら、幼子に言い聞かせるように優しく紡がれる言葉は、とても心地良いものだった。
燕青は不思議だ。いつでも自分の欲しい言葉を言ってくれる。心が楽になる。
雨に嫌な思い出しかなく、落ち込みがちになる自分の考えに、迷わず“違う”と言ってくれる。
なっ?と無邪気に笑う顔は、秀麗が一番好きな燕青だった。
「そう・・・ね。ありが―――」
ありがとう、と言おうとした瞬間、今までで一番大きな雷が鳴った。それは大地を震えさせるほどの大きさで、心の臓にまで響く程だ。
燕青が咄嗟に秀麗の耳を押さえたが、目を大きく見開いた秀麗を見て、遅かったと内心舌打ちをした。
「ぃぃいいいやあああああああああああああ!!!!落ちたああああああ!!今の絶対落ちたああああああ!!」
「姫さん落ち着け!!大丈夫だから!」
「大丈夫じゃないわよ!これで堤防が決壊して川の水が流れ込んできてそしたら井戸が干乾びる心配なくなるわねよかったーーーー!!!!!」
もはや何を口走っているのかわからない秀麗は、腕を離して勢いよく燕青に抱きついてきた。
とにかく落ち着け、と、秀麗をなだめてはみるものの、それでも秀麗は腕の中で意味不明な事を叫び続ける。
洗濯物が台無しじゃないの!
最後に胡蝶姐さんに会いたいわー!!
あぁ!狸の置物が流れる!!
ついでにタンタンも流れちゃうわ!!
ってか何で物価が上がったの!!
そもそもなんでうちはこんなに貧乏なのよーーーーー!!!!!
最後の方は単なる愚痴になっていたが、それでも、秀麗の動揺はなかなか収まらず、何とかしようと燕青は抱きしめる腕に力を込めた。
しばらくギャーギャーと喚いたが、散々泣き喚いて気が済んだのか、ふと、秀麗の声が小さくなっていった。
「・・・・・・姫さん?」
恐る恐る声をかけると、小さく「ん、」と返ってきた返事に、燕青はどこかホッとした。
「あ、・・・・・・・ごめんなさい。変なこと口走っちゃった」
「いーよ。怖いもんは怖いんだから、仕方ねーって」
ポンポンと背中を叩きながら、もう怖くないからと優しく包み込むように抱きしめ直す。
ふわりと、心地良い匂いが秀麗にまとわりつく感覚。それは秀麗の緊張を解くには十分だった。
そう言えば以前にも、燕青はこんな雨の日に側にいてくれたことがあった。その時は静蘭も一緒だったが、何故こんなにも安心できるのか、分かった気がした。
「燕青って、お日様の匂いがするわ・・・。だから・・・雨の日でも・・安心・・・できるの・・・・・ね・・・・・・」
「へ?」
支えていた秀麗が一気に重くなり、不信に思った燕青は何度か呼びかけてみる。
だが、秀麗からの返事はこなかった。まさかと思い耳を澄ませば、小さな寝息が聞こえてきた。
「・・・・・姫さん、寝た?」
やはり返事は返ってこず、はあー、と溜息をついて横になった。
(泣き疲れたか。でもこの状態で寝るなんて、俺ってよっぽど信頼されれんのな。それとも)
単に警戒心が無いだけか。
それでも、こうして心を許してくれるのは嬉しかった。自然と頬が緩む。
自分の腕を枕代わりにして眠る少女の表情に不安は感じられない。そのことが何よりも嬉しかった。
燕青はすやすやと寝息を立てる秀麗に、「おやすみ」とだけ言って額にそっと唇を落とした。
今だけは、夜勤を命じた静蘭の上司に感謝だなと思った。
秀麗を起こさないように、そっと寝台を出ようとする。
が、ここでも衣服を引っ張られる感覚に、燕青はまさかと目を疑った。
秀麗が、燕青の服を掴んで離さないのだ。
(ちょっ!姫さん!?)
何とか指を外そうと試みるも、ガッチリ逃がさないように握り締められた指はそう簡単に外れなかった。
その上、「ん〜・・・」、と言いながら、燕青に擦り寄ってくる。
「・・・・・・ひめさーん?おーい?起きてんだろー??」
小さな声で、最後の望みを賭けて呼びかけるが、そんな燕青の望みは可愛らしい寝息で易々と壊されてしまった。
(マジかよ・・・)
信頼されるのは嬉しい。嬉しいが、これは単なる一人我慢大会だ。
俺も男だ。いつ何が起きてどうなるかわからない。かと言って、側を離れてまた雷が鳴ったら怖い思いをするのは秀麗だ。
悶々と答えを探すべく、どうすればいいのかしばらく考えた結果、一呼吸してから燕青も横になった。
また雷が鳴った時にそばにいてやろうと思ったのだ。
(我慢我慢。・・・そーだ、凛姫だと思えば我慢も・・・)
できると想像した燕青は、その後ろでにこやかに微笑む男を思い出して即刻首を振った。
ダメだ、これはこれで殺される。
「えん・・・せ・・・」
「え?」
起きたのかと思い、秀麗を覗き込むが、変わらず安心しきった表情で眠っている。
寝言だとわかり、燕青はそっと秀麗の頭を撫でた。すると、気持ちよさそうに擦り寄ってくるではないか。
これは反則だ、と燕青は苦笑したが、その温もりに自然と瞼が重くなってくるのを感じた。
(姫さん・・・暖けー・・・)
雨に打たれて冷え切っていたのは燕青も同じだった。秀麗の温もりは簡単に、燕青の身体も心も温める。
その心地良さに我慢できなくなった燕青は、腕の中の温もりを一度だけギュゥっと抱きしめると、秀麗と同じく、その重い瞼をそっと閉じた。
また雷が鳴っても、俺がちゃんと側にいるから、と。
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「まったく、殴らないと起きないとはどーゆー神経してるんだ、お前は」
不機嫌丸出しの声で責めるのは、夜勤から帰ってきた静蘭だった。ガツガツと朝食をかっ食らう燕青は、「だってよー」と食べながら話す。
すると、お行儀が悪いわよ、と秀麗に叱られ、何とか飲み込んで軽く謝った。
「だってさー・・・姫さん、離さねーんだもんよー」
「答えになっていないだろう。だったら寝ずに、一晩中お世話してろ、このコメツキバッタが」
ゴンッと拳で殴ると、燕青は涙目で「暴力ダメだぞー」と訴えた。
静蘭は、夕方からの雷雨で秀麗がまたもや雷に怯えているのではないかとずっと心配していた。そのため、そちらにばかり気を取られて、何度も叱られた。
そうして帰ってきたら、秀麗の横で何かでかい人間が一緒に寝ているではないか。
プチン――と、頭の何かが切れる音がした。
「・・・こんの・・・コメツキバッタが・・・」
「あ、静蘭、おかえりなさい」
「お、お嬢様!?」
驚いたのは静蘭だった。てっきり、まだ秀麗も眠っているものだとばかり思っていた。
どうして起きないのかと尋ねれば、困惑した表情であははと笑うだけだった。
まさかと思い、布団を引っぺがすと・・・。
「まぁ、何でかこうなってて・・・・・燕青起きないし・・・・・・あは、あはははは」
「ははははは。これは、面白い光景ですね」
笑っているのに笑っていない。むしろ笑いながら今までにないくらい怒っている。
秀麗の背筋に冷たい汗が流れた。怖い・・・。
布団を捲り現れたのは、秀麗を逃がさまいと両足で秀麗を挟んだまま寝ている燕青だった。
まるで小さな子が人形と寝るかのような体勢で、秀麗が押してもびくともしなかった。
それどころか、押せば押すほど抱きしめる腕の力が強まり、更に密着する状態になる。
「お嬢様、こいつ、引っぺがしてもよろしいですよね?」
まさかダメだなんて言いませんよね。ね?
そう言われたような気がした秀麗は、ただ黙ってコクコクと首を縦に振ることしかできなかった。
ドゴッ!!と、鈍い音が部屋中に響き、同時に燕青の悲鳴が木霊した。
「てかさー、今お前、朝殴った所と同じ所殴ったろー」
タンコブできてて痛いんだぞ!
相変わらず涙目で文句を言う燕青だが、静蘭は涼しい顔をしている。当たり前だろう、と思っているのが明白だった。
「しかし、お前があそこまでしないと起きないとはな。何だ?完全に寝ていたのか?」
今まで過酷な状況で生きてきた燕青は、いつ何に襲われても平気なように、眠っている間も必ずどこかは起きている。
そんな燕青が、殴られないと起きないというのが静蘭には信じられなかった。
「あー、そういやそうだな。だってさー、お前知ってる?」
「何をだ?」
「姫さんってさー、すっげー暖かいんだぜー」
ふふん、と自慢げに離す燕青に、静蘭の中でまたしても何かが弾けた。
ブチィッ―――!!!
「え、何か聞こえた?」
「・・・・静蘭、汚さないようにね」
「ははは。気のせいですよお嬢様。・・・では旦那様、お言葉に甘えて」
「え、何だ?何、この殺気・・・うおおっ!?」
静蘭は笑顔のまま襟首を掴み、茶碗を持ったままの燕青を引きずるようにして外へ出た。
それを見た秀麗は「ほんと、仲いいわねー」と言いながら二人を見、そんな秀麗を見た邵可は「この柿美味しいね」などと言っていた。
「さてと、昨日の洗濯物がそのままだから、今日こそ乾かさないとね」
そう言って外へ出た秀麗は、昨日の嵐が嘘のような空を見上げて「いい天気」と呟いた。
今日の空は、嵐の後の、雲ひとつ無い秋晴れだった。
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「trampa」のyouさんよりいただきました!!
なんと新刊(『暗き黄昏の宮』)チャットの時に盛り上がった「ザ★王道 燕秀で雷の夜」を忠実に、かつアレンジを加えて小説を書いて下さってるんです…!
今まで誰かやってそうで、しかし誰もやってなかった王道ネタがついにお目見えですよ。パイオニアですよ。
みんな、雷の夜はこの話を思い出してニマニマしましょう!一緒なら気持ち悪くない(`・ω・´)キリ!
youさん、ありがとうございました〜〜〜