050.半分こ。

 

 

 

「うーーん…」

和穂は大きくのびをすると、後ろにある大木へと寄りかかった。
若葉の間から、きらきらと陽光がこぼれてくる。近くを小川が流れているらしく、さらさらと言う水の音も聞こえる。
季節は春真っ盛り。そして今は、昼ご飯もかねた休憩の途中だった。

「ぽかぽかいい気持ち…一年中、春だったらいいのにね」

軽く目を瞑りながら、和穂は隣で茶をすする殷雷に声をかけた。
殷雷は湯飲みを断縁獄にしまいながら、意地の悪い表情を浮かべた。

「なんだ和穂、お前の頭の中は一年中春じゃないか」
「・・・・・怒るよ殷雷」
「褒めてやってるんじゃないか。あぁ、いつも能天気そうな和穂お嬢さんが、うらやましいですなぁ」
「殷雷!」

もう、本当に怒るよ!と和穂がすごんで見せるが、ちっとも怖くない。調子に乗った殷雷が、更に続ける。

「武器の宝貝は、気が休まるときが無いからなぁ。あぁ、春の日差しのような温もりが恋しいですなぁ」

ちらりと和穂のほうを見ると、本当に怒ったのかプイっと明後日の方を向いてしまっている。
少しやりすぎたか…とわずかに後悔するが、素直に謝れるわけも無い。仕方なく、殷雷も木の幹に身体を預け、眠る事にした。
さらさらと、梢のこすれる音を聞く事しばし。

突然、ぐらりと体が傾いた。
いや、傾くどころか一瞬後には、殷雷の身体は完全に引っ張り倒されていた。
もちろん、隣に座る和穂の腕によって。

『何しやがる!』と言う声をあげる前に、殷雷は自分のおかれている状況を分析し、息を呑んだ。
横転した視界。しかし、土の匂いや草いきれは感じない。代わりに感じる、柔らかいもの。温かい陽の匂い。
殷雷の頭は、いまや和穂のひざの上だった。

「なっ、なっ、なっ・・・・・・・!!!!!???」

呑んだ息の代わりに、言葉にならない声が口からもれた。我ながら、情けないくらい声が上ずっている。
慌てる殷雷とは反対に、和穂は『何を慌てて…』といった様子で、ふわりと笑った。

 

「あたたかさのおすそ分け」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

あくまで、当然のように。
純粋なこころでそう言われれば、殷雷は黙って手で顔を覆うしかなかった。
――もちろん、赤くなった顔を隠すために。

「ねぇ殷雷、今日はこのまま野宿しようか?」
「・・・・・馬鹿言ってんじゃねぇ」

 

 

 

なにも、なにも、いらなかった。

ただ君の傍に在ること。ただ君を護ること。

その現実だけが、このカラダをあたたかく照らしてくれるのだから