046.見つけた。
長く、細い雨が、音もなく窓を叩く。
朝から降り続けている春雨は、一向にやむ気配を見せない。
(…春が来るのは嬉しいけど、この時期の雨って苦手なのよね)
全てを洗い流すかのように豪雨となるわけでもなく、気持ちよくキリリと晴れるわけでもなく。
覗いた太陽に油断して出掛けてみれば、気まぐれな春の空はすぐに機嫌を悪くしてしまう。
ロゼットは小さなため息をつくと、視線を灰色の空から少し下げた。そこには一心不乱に窓の外を眺め続ける少年――クロノの姿があった。
(あんなに窓の外ばっかり見て、何が楽しいのかしら)
ロゼットも、試しに首をそらせて窓の外を見てみるが、別段変わったものはない。
ただ、苦手な春雨が空と大地を繋ぐばかり。
(…ま、クロノにも色々あるしね。とりあえずこの報告書を)
仕上げてしまおう、と、視線をクロノから外した瞬間。
ふと、窓ガラス越しに、クロノと目が合った。
パチリと視線が噛み合ったとたんに、クロノは弾けるように顔ごと明後日の方を向いた。
こちらから辛うじて見える耳は、ほんのり赤い気がする。
もしや…
(…私のこと、見てた?)
一度意識してしまうと、先ほどのクロノの瞳が頭から離れない。
赤く澄んだ、熱のこもった視線。自分の顔が熱くなっていくのが、ハッキリとわかる。
胸の奥からこみ上げてくる衝動に、思わず口元が緩んでしまうのをあわてて隠した。
「クロノ」
「…な、なに?」
「クロノ」
「?」
もう一度
もう一度
「クロノ」
その瞳で私を捕らえて。
「とびきり甘くね」